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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
62/72

その55 「不知夜」

『ナハト』

架音がそう言うと左手から銃口が飛び出してくる。

狙うは無論第四神に他ならない。

『防げ』

第四神がそう言うと同時に。

架音の左手にある漆黒の銃口から黒い閃光が飛び出してくる。

弾道を読むことは疎か、反応することすら難しい超々速の閃光。

空には一瞬で黒い爪痕が刻まれる。

「―――――ッ」

第四神は黒い閃光に弾き飛ばされながらも盾にした槍のお陰でダメージはない。

そこに追撃するように次々と黒い閃光が発射される。

――1,2,345678910……。

埋め尽くさんばかりの幾重もの黒い軌跡が空に爪痕を残していく。

『浸蝕』と『無価値』

この両者の概念を併せ持つ銃弾をもろに喰らえば第四神とて無事ではいられないだろう。

一撃一撃が必殺の威力を誇っていると言っていい。

だが、第四神本体に命中することはただの一つもなかった。

彼の持つ槍がうねり、何処から攻撃が来ようとも事前に察知し防ぎきったのだ。

「…………これで終わりか?」

槍の表面を黒く染めながらも、第四神は余裕の表情で架音に問う。

「――――――――――」

対する架音は答えない。

心象領域を敵を抹殺するためだけにつぎ込んだのだ。

最早まともな思考能力すら残っているかも怪しい。

例え思考する能力が残っていようともまともな会話ができたとは毛ほども思えないが。

「…………疾うに正気ではないわけだ」

そんな架音を嘲笑うかのように第四神は心具を掲げようとする。

「――――ッ」

第四神の意思に反して、槍がぐにゃりと動く。

その意味を第四神が察した時にはもう既に遅かった。

「―――――――――」

第四神の頭上数十メートルの位置から斬撃が振り下ろされる。

間一髪間に合った槍がそれを防ぐ。

だが今回は先程のように無傷とはいかなかった。

槍の表面には大きな亀裂が刻まれ、余波で第四神の体も切り刻まれる。

「―――ぐっ!!」

第四神はそのまま地表を突き破り、地下深くに叩き落とされた。

観戦していた如月は今何が起こったのかを瞬時に理解した。

架音が初めに乱射した黒い閃光。

今も消えること無く大空に傷跡を残している。

架音はこれを使ったのだ。

あれは攻撃ではなく、架音にとってはただの道を作る行為でしか無かった。

第四神が話しかけているうちに架音は虚像を残し、黒い軌跡を通って第四神の頭上へ移動していたのだ。

「――――――」

そして架音の攻撃はまだ止まらない。

『日蝕牙―――』

左腕を大きく振りかぶるとそれに付随する極夜刀に辺りの影が集まってくる。

その量、パフェが第七神戦で見せた『晦冥』の軽く数十倍以上。

濃度と質はもはや比べるべくもない。

『―――奈落落し』

架音が左腕を振りきった瞬間。

架音の下、見渡す範囲全てが墨を落としたように黒く染まる。

圧倒的な量を持って漆黒に触れた瞬間、浸蝕され取り込まれる。

建物も木もアスファルトも地層も川も何もかも飲み込み、一つの巨大な漆黒の海へと形を変えた。

放置しておけば惑星を食いつくさんばかりの勢いで増える暴食の闇。

そんな深い海の最深部に第四神は放り込まれたのだ。

いくら終焉神であっても耐えきれるものではない。

「………これは流石に」

たとえ第四神であろうと無事では居られないだろう。

如月はそう思い目を細める。

――――ドクンッ。

如月のその考えを否定するかのように世界が鼓動する。

惑星そのものが振動するかのように、大地は震え、大気は吹き荒れる。

漆黒の海の奥底から現状の架音と同クラスの神気とマナが放出され始める。

入れたものを離さない不出の海からマナの気泡が弾ける。

「概念心具第二契約『Ⅱndセカンド-KARMA-』」

瞬間、漆黒の海が爆発し、辺りに飛び散り漆黒の雨を降らせる。

「―――――なるほど、少しは神として出来るようだな。だが、まだまだ」

暴食の闇を弾き落とし、大したダメージを感じさせず第四神が漆黒の海から出てくる。

その身はまるで全身鎧の様に灰色のコートを纏っている。

カルマの位階の架音の攻撃を、同じ位階の心具を出すだけで凌ぎ切ったのだ。

言うまでもなく架音にとって厄介な心具ぶそうであることが解る。

対する架音は変わらず、ただ只管極大の殺気を第四神にぶつけ続ける。

両者ともに己が負けることは疎か、敵に圧される事すら考えてない。

あるのは敵を殺すことのみ。

『日蝕牙―――――月染ノ太刀・不知夜』

這い出てきた第四神に挨拶代わりに架音は技を出す。

挨拶と言っても全力で殺しに行く極死の技だが。

先ほどと同じように周辺の漆黒が架音に収束していく。

だが先ほどの範囲攻撃とは違い、極夜刀の刀身に漆黒が吸い込まれるように収束されていっている。

そして刀身と変わらないレベルで圧縮された漆黒が第四神目掛け放たれる。

放たれた斬撃は空間をも『浸蝕』し、切断していく。

範囲こそ狭いが、密度と威力が先ほどと比べ、桁違いに違う。

それが飛んできて尚、第四神は顔色一つ変えなかった。

『受け流せ』

第四神がそう命ずると、コートが形を変え翼のような形状になる。

「―――――ッ!!!!!!!!」

位相がズレそうな衝撃とともに、第四神の翼と形を変えたコートの一部が切り取られた。

斬撃はそれだけでは飽きたらず、その背後にある山々を真っ二つに斬り裂き、漆黒に染める。

だがそれだけだった。

威力は対惑星レベルだが、肝心の第四神に殆どダメージが入っていない。

「………」

攻守交代と言わんばかりに今度は第四神が動き出す。

『抉り貫け』

第四神の命令とともにコートのベルトに繋がっていた槍が架音目掛け飛んでいく。

威力、速度共に先ほどの架音の一撃に比べれば見劣りするが。

それでもつい数日前の架音とパフェなら防御も叶わず、一撃でKOされていたであろう攻撃。

架音は避ける素振りをするどころか、真っ向から受け止めようと右腕を伸ばした。

「――――――」

今の架音の体は全身概念心具に覆われているが、その中でも右腕だけは特に特別だ。

それは元々あった第一契約の覚醒系統の心具に、上位互換の系統である第二契約の神化系統の心具を重ねているせいだ。

パフェは架音との説明の時、あえて省いたが。

概念心具はシンカルマで同じ性質の心具系統を習得した場合、その性質が何倍にも強化される。

多彩な複合系統にならない代わりに一芸に特化するのだ。

――もっとも、今の架音はパフェの系統も使えるので一芸だけ、と言う訳ではないが。

「―――ッッッ!!!!!」

迫り来る槍と架音の右腕が接触する。

その瞬間、空間を震わす衝撃派が街全てを襲う。

それにより架音の右腕は肉が飛び散り、血は霧散する。

「――――――ッ」

だがそれを上回る力で架音は握りしめ、槍を止めた。

第四神の攻撃を極夜刀も使わず、片手で受け止めたのだ。

今の架音本体がどれほど強化されたレベルなのか、窺い知れる。

混沌の闇アザトースとパフェを体に取り込んだとしても明らかに異常なレベルだ。

架音に握られた箇所から槍にメキメキとヒビが入り、漆黒に染まっていく。

「オオオォォオオオッッ―――――!!!!」

人間時の声とは似ても似つかぬ声で架音は咆哮する。

その咆哮に反映するように概念干渉の速度が増し、槍が黒く染め上がっていく。

架音の右腕から血が涙のように零れ落ちた。

「やはり神とは碌でも無い存在だ。貴様のような化け物は、特にな」

第四神は槍を戻すでもなく、架音の元へ高速で接近すると貫手を繰り出す。

その際コートは第四神の意思に反映するかのように右腕を覆い、ドリルのような形状に変わる。

だが、その貫手が届く前に架音の背中の翅によって攻撃は阻まれる。

「―――無駄だ」

第四神は構わず右腕を繰り出す。

ただの突きでしかない攻撃だが翅の大半を弾き飛ばし、架音の右肩の肉をゴッソリ削ぎとった。

「――――――」

それと同時に架音の左腕の極夜刀が第四神の首目掛け振るわれる。

『防げ』

甲高い不協和音とともに第四神のコートの首筋に切り傷が入る。

「だが、それだけだ。対するお前はどうだ?」

首に纏わり付く漆黒を払いながら第四神は架音を見る。

右肩の肉は刳れ、片翅はもぎ取られ、右手は骨が見えている。

攻撃能力は架音の方が高いが、第四神は防御能力が圧倒的なのだ。

架音の攻撃による第四神のダメージよりも第四神の攻撃による架音のダメージのほうが大きい以上、この成り行きは当然。

このままいけば架音はそう遠くなくダメージ負けするだろう。

―――このままでいけば。

「――――――――――ク」

架音はそんな状況で口を歪ませ嗤う。

何を言っているんだコイツ、とでも言うように。

その嗤いを裏付けるかのように架音は右手を二三度握りしめ離す。

たったそれだけの動作の間に片翅が、右肩が、右手が再生した。

――超速再生。

厳密には再生ではなくパフェのように復元しているだけだが、それでも元となるマナと心具の量が絶大である以上再生能力と見て問題ないレベルだった。

二人のパフェと融合した今、架音は漆黒の肉体すら手に入れていたのだ。

それを見ても第四神は淡々と心具ぶそうに命令を下す。

『金剛化』

ヒラヒラと第四神の動きに合わせて揺れていたコートが、鋼のように静止する。

本物の鎧のようにより強固に、より重々しく。

「「――――――ッ!!!!」」

両者同時に拳と拳がぶつかり合う。

そこから始まるのは両者ノーガードで至近距離の殴り合い。

片や極限まで防御を上げた装甲に身を包み攻撃し続ける。

片や防御という概念を知らないように再生しながら攻撃に攻撃を重ね続ける。

血が飛び肉が飛びマナが飛び神気が飛び心具が裂けようが止まりはしない。

魂燃え尽きるまで、相手を滅殺するまで概念心具ぶきにマナをくべ続ける。

例えそれで何を失うことになろうとも、構わないというように。

降り注ぐ架音の血が、地に吸収されていくのを如月は黙って見つめていた。


                †


血の海に溺れていく。

どこまでも深く悲しい海。

泣いても泣いてもまだ足りないとでも言うように血の雨を降らせている。

これは、主様の心象世界?

吾は目を覚ます。

海の中だというのにはっきりと主様の声が聞こえる。

今もこの心象世界の中心で叫んでいる。

憤怒と哀絶を入れ混じった感情を言葉に表すことが出来ずただ只管叫び続けている。

護ると誓ったものを奪った相手が憎くて。

かと言って壊れた宝物を手放すことが出来なくて。

愛情を憎しみに変えて戦っている。

人間のまま神となった主様。

今も深い悲しみと憎しみに苦しみ続けている。

「――今そちらに行くからの」

吾は自ら体を奥へ奥へと進めていく。

その最深部―――。

そこに主様は居た。

足元に夥しい数の宝物なきがらを散りばめて、蹲り泣いている。

「――来たか」

吾が主様に近づこうとするとぬっと影から女が出てくる。

そんな予感はしていた。

吾は足を止める。

「不思議な気分じゃの、わたしが創りだしたキャラクターと相見えることになるとは」

わたしわれに話しかけてくる。

「それは此方とて同じじゃ。じゃが、今はそれどころではない本題を話そう」

「本題も何も何の問題がある? 此奴はわたしらと共に終焉神として覚醒した。本人も戦うことを望んでおる、それで良いではないか」

わたしは愛おしそうに主様を撫でる。

まるで愛玩動物か何かを撫でるように。

われはその様に腹が立った。

「巫山戯るな、主様は戦うことなど望んではおらぬ。貴様にはこの悲痛な叫びが聞こえぬのか?」

「聞こえておる、じゃからその無念を晴らすためにこうして力を貸しておるんじゃ」

「この叫びは無念を晴らした所で止まりはせん。貴様は殺戮の神としてこのまま主様を使い潰す気かや?」

「使い潰すとは人聞きが悪い、本来終焉神とは神を殺す神じゃ。殺戮の神として支え続けて何の問題があろう?」

主様のこんな様を見ていても、『何も問題ない』と言うわたしわれは静な怒りが込み上げる。

吾らは共に同じであるのにどうして理解できない。

何故今の主様を見てそんな素振りが出来る。

われわたしを睨みつける。

「―――それは主様にこのまま壊れた心のまま居れ、と言うことか?」

わたしわれの質問には答えず、ふーっと息を吐いた。

わたしは此奴を気に入っておる。このまま此奴が死ぬまで添い遂げてもいいと思えるほどにの。―――情が湧いた、と言う奴じゃ」

「……………」

「じゃが、お前のソレはそんな物ではない。わたしでありながら本気で愛しておるのか、この男を?」

わたしの眼が裁判に掛けるようにわれの心の奥底まで射抜く。

それは暗に答えの次第によっては破棄ころすと言っているようだった。

だが、それがどうした。

「無論じゃ」

われは満月の首飾りを握りしめながら躊躇いなく言う。

自由の神として生まれたわれが自由に生きれないなど言語道断。

破棄されようとも自由に生きれぬよりマシじゃ。

われわたしは暫く睨み合う。

すると、ふっとわたしが視線を外す。

「……………良いじゃろう。お前の好きにするがいい。わたしは力を貸さんが邪魔もせん。この男の心を取り戻せるならば取り戻してみるがいい」

わたしはそう言うと闇に溶けて消えていった。

後には吾と主様が残される。

吾は主様を後ろから優しく抱きしめた。

「のう、主様。痛いのは解る、苦しいのも解る、悲しいのも、憎いのも、見捨てられないのも、縋り付け無いのも、全部全部解る」

吾は今も泣き止まない主様の頭をあやすように撫ぜる。

「怒りをぶつけるな、などと説教する気はない。憎いものは憎い、許せないものは許せない。それでよい」

「じゃがな、明日を生きようとしないのはどうしてじゃ? 第四神を倒せば主様はどうする気じゃ?」

血の涙を流し俯いているだけで主様は答えない。

「吾では、吾では主様の宝物になれぬのか? 吾のために生きてはくれぬのか? なあ、主様答えてくれ」

「………………」

血の涙を流したままだが主様の悲鳴が止まる。

「一人は飽いた、跡形すら残っておらん友人の亡骸を見るのも飽いた。一人残されるというのはつらい」

「じゃが、今の吾にとっては主様が傷付く方が、心が消えることのほうが何倍もつらい」

「なあ、主様。お願いじゃから自棄にならんでくれ、吾が居ることを忘れんでくれ」

吾の眼から涙が零れ落ち、主様の左腕を濡らす。

「………………っ」

主様はぼんやりと顔を上げる。

涙を流し続ける主様と初めて視線が合う。

「……………………」

主様は無言のままずっと両手で握りしめていた何かを開いて見せた。

そこには―――。

あの時二人で買った三日月の首飾りが握られていた。

「主様……」

吾はなんと言っていいのかわからぬ思いに身を苛まれた。

顔は熱くなるし、思考は上手く纏まらない。

あぁ、こんなに挙動不審になるのは初めてかもしれないと、頭の片隅で思う。

だが、その思いは直ぐに消えた。

「……………………」

主様は再び両手を閉じ俯く。

吾では主様を取り戻せないのではないだろうか。

一瞬、不安な言葉が頭を過る。

吾はすぐ頭を振る。

「必ず、必ず吾が取り戻してみせるぞ。主様を殺戮の魔神になど変えさせてなるものか」

吾はそう言うと、主様に抱きついたまま眼を閉じた。

世界には未だ血の雨が降り注いでいる。

主様の憤怒と憎悪と嘆きを糧に終わることのなく続く。

「――絶対にさせぬぞっ!!」

吾は誓いをたてるように主様の両手を強く手で包んだ。

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