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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
56/72

その49 「死の宣告」

「―――ところでさっきの話は本当にどうにもならないのか?」

パフェには既にあれから起きたことを伝えてある。

その中でパフェが興味を示したのは当然第十八神の話だった。

そして第十八神が『予言する』と言った言葉を伝えた瞬間、目の色を変えた。

パフェが言うには第十八神の『予言』には意味があるらしいのだ。

「わからぬ。彼奴が何の意図を持って主様にその話をしたか解らぬ限り吾には判断がつかん」

パフェは臥せ気味に俺から目をそらす。

それはどこか後ろめたい感情があるというより。

どうして良いか解らないというような困惑の表情だった。

「じゃが、先にも言った通り彼奴の能力は『未来』に関する能力じゃ。彼奴が本気で言っておるのならそれは逃れられぬ『死の宣告』と変わらん」

「―――俺の概念で奴の能力を『無価値』にすれば逃れられるんじゃないか?」

ふと思いついたことを言ってみる。

自分で言うのも何だが、俺の『無価値』の概念は対象範囲内であるならば非常に強い能力だ。

この概念があればどんなに強い概念のうりょくであっても無効化、あるいは効果軽減することが出来る。

だが俺の言葉にパフェは否、っと首を振る。

「彼奴の能力は当然主様の能力を計算に入れおる。その上での『死の宣告』なのじゃ、あれは。あれを防ごうとするのであれば同じように未来に干渉する能力を持つしか無い」

「それじゃあやはり向こうが本気ならどうしようもないって事か」

「彼奴が本当に本気ならの。じゃが、妙な所がいくつかある」

「妙な所?」

「そうじゃ。主様の答えが解っておるはずなのに選択肢を選ばせるという行為を行っておる。また、主様から聞いた印象でしか無いが、主様との会話に何か期待していた風に感じられた。吾の知る第十八神はこんな無駄な行動を取るような女ではない」

「つまり別人の可能性があるってことか」

「まあそうじゃの、可能性はかなり低いが。―――――――或いは言葉に意味はなく警戒を促せる為に来たのかもしれん」

パフェが突然とんでも無い事を言い出す。

「どう言う事だ?」

「彼奴は無駄な行動は一切せん。一見無駄に見えてもその行動には必ず意味がある。じゃが、客観的に見ても先ほどの彼奴の行動と言動は無駄でしか無い。ならば別の思惑が有ると考えるべきじゃ」

「それが警戒、だと?」

「確証などありはせんがの、主様はどう思う? 彼奴が伝えてきた以上もし別の思惑が有り、吾らに何か伝えたいのであれば吾らはその答えに到れるはずなのじゃ」

パフェの言葉で俺はもう一度状況を整理する。

もし第十八神の言っていることが本当であった場合は俺達に打つ手はない。

その場で未来を捻じ曲げなければ俺は死んでしまうだろう。

もし第十八神の言っていることが嘘で何か別の意図があった場合。

それはかなりの確率で俺達に関することだろう。

だが俺はなにか釈然としない。

俺自身が全く第十八神のことを知らないせいなのだろうか。

別の意図が俺には全く思い浮かばなかった。

かと言ってパフェの言っている事があり得ないとも思えない。

本当に警戒を促すためだけに第十八神はあの場所に来たのだろうか?

「いや、俺は言葉以上のことは何も……」

俺はパフェから視線をそらし言葉を濁す。

「そうか、ならば別の可能性も十分あり得るか。じゃが、どちらにせよ警戒はするに越したことはない。何時何が起きてもいいように………?」

パフェは言葉の途中で俺達の進行方向とは微妙に違う方向を突然見た。

その表情は真剣そのもので、その表情だけでなにか厄介なことが起こっていると俺は察した。

「どうかしたのか?」

パフェの思考を邪魔しないよう、俺は恐る恐る尋ねる。

「何か嫌な予感がする。主様、お義姉様の元へ急げ、多少無茶をしても構わぬ」

俺と向き合うのを拒否するようにパフェは俺から視線を逸らす。

パフェの声音から改めてどうしようもない事態が始まり始めているのでは。

と言う、漠然とした予感が確信に変わっていく。

俺はまだ回復しきっていない体をフル稼働させると、全速力で駆け抜けた。


                †


架音達から遥か離れた陸地。

第七神を抱えながらミールヒルは飛び続ける。

第六神と戦った彼女にとってこの世界に対する興味はかなり薄れており。

目的の相手が居ないのであれば最早この世界にいる意味もないと彼女は考えていた。

それでも彼女が残り続けていたのは、第七神がこんな状態だからでもあるが。

もう一つに気なることが有ったからである。

「アイツ、やっぱどう考えても違和感があるなぁ」

ある人物を思い浮かべ、ミュールヒルは立ち止まる。

「それにしても結局第四神は見つからんか。やっぱこの世界には居らんのかな」

ミュールヒルが何気なくそう呟いた瞬間。

『世界』が、『言葉』を感じ取り。

『創造』される。

超々密度のマナを押し込め。

神々しくも一切を排撃する神気を纏わせ。

――――ありとあらゆる絶望を込めた者が。

今ここに降臨する―――。

「――――塵芥風情が、誰を探している」

その声が聞こえた瞬間、ミュールヒルは振り返る前に本能的に反応した。

「ッ!!!!!!」

ミュールヒルは第七神を遥か彼方へ投げ飛ばし、彼女自身も普通ではあり得ない程の跳躍でその場から後退する。

それでも追い迫るようにミュールヒル目掛けて一本の剣が眼前に迫る。

「概念心具第二契約ッ!!『Ⅱndセカンド-KARMA-』」

出現した神槌で迫り来る刃を破壊し、弾き返す。

神威の槌の力は凄まじく、振るった余波に巻き込まれ辺り一面が粉も残らず文字通り消滅した。

それと同時に何かに亀裂が走る。

それも一つではなく複数の、ここではない場所で一斉に亀裂が入った。

「やはりゴミだな」

弾き返された壊れた剣の柄を男は掴む。

ミュールヒルは顔を上げ、遥か視線の先の男を見る。

「第…四神。やっと見つけたで」

腹の底から声を絞るようにミュールヒルは第四神を睨みつける。

いやそんな生温いもんじゃない。

憎しみと怒りの炎を燃やし、今にも焼き尽くさんばかりの眼光だ。

「見つけた? 塵芥が焼却処分されに態々来てくれたと、そう言っているのか。随分殊勝な塵芥だな」

ミュールヒルの視線の先には。

灰色の髪をした若い男が立っていた。

見掛けの年齢は架音と左程変わらない位。

だが纏っている威圧感が違う。

どこまでも冷たく、暗く、徹底された神気。

戦闘狂の第三・第七とは明らかに違う。

戦うためではなく存在を消すために存在するもの。

「あんたを殺すためにうちはここ迄来た。今日こそその命取らせてもらう」

神槌を握りしめ、第四神目掛け、ミュールヒルは跳躍する。

ミュールヒルの周りの空間は歪み、ひび割れる程の神気が発生している。

だが迫り来る神槌を物ともせず第四神は佇む。

第九神を一撃のもとで葬りさった神威の一撃を何もせず受けて無事であるはずがないというのに。

「ゴミはゴミだったが、役に立たなかったわけでもない、か」

第四神がそう呟くと、ミュールヒルの神槌がひび割れ、崩れていく。

「なっ?! ぁ、かっ。ッ!!!!!!!」

そしてフィードバックによるダメージがミュールヒル襲う。

全身から血が吹き出、溢れんばかりの神気とマナが霧散する。

「お前っ!! うちに、何をしたッ!!!」

「ゴミと塵芥をぶつけて纏めて掃除しようとしただけだ。消えたのはゴミだけだったが、まあ俺の手間も減った。『よく頑張ったな』と褒めてやろう」

そう言うと第四神はどこから取り出したのか、錨のような形の槍を構える。

『刺し貫き、殺せ』

第四神がそう命じるとまるで意思を持つかのように槍は動き、頭から首辺の縦のラインを。

――貫いた。

「――――ッ!!!!!!!!!」

声も無く抵抗もなく槍が血塗られる。

ミュールヒルの体が衝撃でビクビク痙攣する。

あげられるべき断末魔は声帯に風穴を開けられたことにより掻き消された。

整った顔立ちであった顔面は真っ二つに裂け、見るも無残な有り様へと変わっている。

明らかにこれで戦いの決着は付いている。

だが、槍はまだ血を求めるように生き物の様にぐにゃりと曲がり、二度三度四度とミュールヒルの体を貫いていく。

腕が飛び、足が飛び、腹に風穴を開け、念入りに殺すように何度も何度も刺し貫いていく。

その度にミュールヒルの体は壊れたマリオネットのように動き、肉片が飛び散る。

やがて満足したのか槍は主の手元へ戻る。

それと同時にミュールヒルの体は光子へと溶け、霧散した。

マナと魂が世界に還ったのだ。

「―――さて、あの塵芥も掃除しないとな」

第四神はゆっくりと第七神のいる方を向いた。

『刺し貫き、殺せ』

ミュールヒルを殺した同じ命令で遥か彼方に居る第七神めがけて槍が飛んで行く。

「次の塵芥は――――――あの方角か」

血塗れた槍を手元に戻しながら第四神は架音達が目指している先を見つめた。


                †


架音達が目指す先。

輪廻華蓮は今夜の晩ご飯を作っていた。

ホットラインは当然絶たれているので灯りは懐中電灯。

ガスコンロも使えないので用意してあったカセットコンロを使用。

ここは非常用に輪廻家が確保していた家なので防災グッツは色々とあるのだ。

華蓮はカセットコンロの火力を調整しながら、調味料を足していく。

生憎と食材が保存の効くものしか無いので手軽なものでしかないが、それでも食欲の沸き立つ美味しい匂いが辺りに漂ってくる。

テーブルには既に何品か置いてあり、架音達がいつ返って来てもいいように4人前あった。

「ふ~ん、ふ~ふん~♪ ――――――おりょ?!」

上機嫌に鼻歌を歌っていると結界内に誰か入った知らせが来る。

「ユ~ミン、カー君かもしれないし、ちょっと見てきて~」

声音は気楽そうだが、華蓮は素早く火を止めると天羽を手にする。

柚美奈は無言で頷くと慎重に玄関に向かう。

その瞬間――。

玄関が弾け飛んだ。


                †


「ぐっ!!」

突然の胸の痛みとともに俺は蹌踉めきそうになる。

「? どうした主様?」

パフェが不思議そうな顔で俺の前を浮遊し、俺を見てくる。

本気で走り始めた時から省エネのためパフェは妖精体になっている。

「いや、何でもない」

今はそれどころではないのでパフェに何でもないと返答する。

パフェも恐らく密かに気付いてはいるのだろうが、俺が問題無いといった以上聞き返せないでいるみたいだ。

この突然の胸の痛みは暫く前からで、一向に収まってはいない。

いや収まるどころかどんどん痛みが強くなってきている。

体を共有しているパフェがなんともないのでこれは俺だけに起因する何かだろう。

その何かが俺を駆り立てている。

早くあの街へ戻れと。

最早海上走行は終わり、今は陸地を駆け抜けている。

このスピードならあと数十分もあれば姉貴達の元へ辿り着けるはずだ。

木を薙ぎ倒し、大地を刳りながら俺は疾走する。


                †


「ユーミンを、何処へやったの?」

抜き身となった天羽を構えながら華蓮は侵入者に問う。

怪我自体は柚美奈によってほぼ完治してはいるが、華蓮の霊力はまだ回復しきってはいない。

だがそれでも敵が来れば戦うしか無い。

「―――お前がその剣の所有者か?」

フードをかぶった侵入者が口を開く。

「質問しているのは私、答えて欲しければ私の質問を先に答えて」

「フッ、玄関に居た小蝿なら払っただけだ」

「ッ!!」

侵入者の言葉とともに華蓮は天羽で薙ぎ払う。

刃から斬撃が放たれ侵入者を襲う。

―――だが。

侵入者に当たる直前で斬撃が跡形もなく消え失せた。

「さて、此方の質問に答えてもらおう。お前がその剣の所有者か」

「そうだ、と言ったら?」

華蓮がそう答えた瞬間。

棒状の何かが動く。

だがそれより先に華蓮が反応し、天羽を当てうまく自分から逸らした。

逸らした棒が壁を貫通し、辺りの物を吹き飛ばす。

「殺すってわけだね。でも私は簡単には殺させてあげないよ」

「面白い。その戯言が何処まで持つか、試させてもらおうか」

その声と同時に棒状の何かが生き物のようにうねり、華蓮へと襲いかかる。

壁や床を破壊し、蛇のように蛇行して攻撃が飛んでくる。

華蓮はそれを最小限の動きで見切り、避ける。

鞭のように撓り、二撃三撃と追撃を加えられるがそれも当然の如く避ける。

侵入者の攻撃は第三神と比べ明らかに攻撃速度も範囲も狭いのだ。

第三神の攻撃を避け続けることが出来た華蓮にとってこの程度の攻撃を避けるのは造作も無いことだった。

「ほぉ、少しは動けるようだな」

侵入者はそんな華蓮の動きを観察するように眺めていた。

「日々の鍛錬のお陰だよ」

呑気な声音だが、華蓮は相手にバレないよう脱出できる場所を探る。

第三神より遅いとはいえ、幾ら華蓮でもこんな狭い場所でやり合うのは避けたいと思うのは当然。

加えてもし柚美奈が軽傷で居るのであれば巻き込まないためにも離れる必要がある。

視線で行き先がバレないように華蓮は慎重に視線を巡らせる。

一番簡単なのは先ほど相手の攻撃で出来た大穴から出ること。

だがそこから逃げることは当然相手も警戒しているはず。

玄関は相手の背後にあるから意表をつく意味ではいいかもしれないが、リスクが非常に高い。

となると華蓮に選べるのは――。

「――ッ!!」

華蓮は相手の攻撃に合わせて、背後の窓を突き破り外へ飛び出す。

ガラスの破片が己に当たらぬように風で弾き飛ばし、駆け出す。

だが、軒先を超え数歩進んだ先で華蓮は立ち止まった。

華蓮が手で何もない空間に触れると弾かれる。

「……生かして返す気はさらさら無かったって事かな?」

華蓮達が作った結界の内側に沿わせるように新たな結界が出来上がっていたのだ。

侵入者に問いかけながら華蓮は天羽で結界を斬る。

が、キンと言う音共に弾かれるだけで傷一つついた様子はない。

「……………」

そんな華蓮目掛け、無言で侵入者は棒状のもので攻撃する。

華蓮は真横へ飛びそれを避ける。

―――しかし。

「――くっ」

生き物のように方向を変え、棒状のものが華蓮が飛んだ方向へと追いすがる。

華蓮はなんとか体を反らし避けようとするが、遅く。

肩を掠ってしまう。

「ッ!!」

流れ出る血を抑えながら華蓮は地面に転がる。

「どうした。先ほどの言葉は口だけか?」

滑るように侵入者は家から出てくる。

明らかに華蓮を嬲ろうとしているのが声から滲み出ている。

新たに作られた結界により華蓮に逃げ場は殆ど無い。

文字通り袋の鼠である。

華蓮は必死に頭を巡らして打開手段を探す。

結界に穴はないか。

術者を倒せるかどうか。

そもそも術者が目の前のコイツなのかどうか。

逃げ続けた先に希望はあるのか。

目まぐるしく動いていた華蓮の脳裏に魂を分けた家族の存在が浮かぶ。

「……………カー君」

華蓮は思わず声に出して架音の名前を呼んでしまう。

――ううん、それじゃあ駄目。

だが直ぐに首を振りそれをかき消す。

『助けが来る』なんてものを期待するよりどれだけ可能性が薄くても自分一人で何とかする方法を考えたほうが建設的だと考えたからだ。

なぜなら『助けが来る』と期待するのは最後でも出来るのだから。

初めから『助け』しか考えられないのは甘えでしか無い。

止血が済んだ肩から手を離し、華蓮は天羽を構える。

「やれることがあるなら総てやる。例えそれらすべてが無駄でどうしようも無くなったとしても、私は信じている」

突然独り言じみたことを話し始めた華蓮に侵入者は止まる。

「―――だって魂を分けた家族だもん」

そう笑う華蓮に侵入者は初めてローブから手を出す。

そして華蓮へ向けて翳した。

「くだらん。――――もういい、消えろ」

掌に大量のマナが収束される。

放たれるまで1秒もないだろう。

こんな狭い場所で大量のマナが放出されればどうなるかなど考えるまでもない。

バックドラフト現象の如く結界内が爆発に包まれる。

それを前にして華蓮は既に動き始めていた。

「だから―――」

そのマナの収束を前に華蓮は前進する。

そのマナの発射口へと向かって。

華蓮がガラスの破片の様なものを取り出し、投げると同時に掌からマナが発射される。

『禁咒――――神代御供・心魂相剋!!』

その瞬間結界内辺り一面が爆発した。


                †


「あれかッ!!?」

視界の先の崩壊した民家から立ち上る煙に右腕が震える。

「概念心具第一契約『Ⅰstファースト-SIN-』」

俺は無意識のうちに第一契約を結ぶ。

黒い無機質な装甲が腕と融合し現出する。

「結界が張られておるぞ」

俺はパフェの声に答える形で右腕を結界に思いっ切り叩きつける。

右腕に触れた部分が黒く変色し、その部分から衝撃で崩壊する。

「――姉貴の反応は何処だ?!」

「10mほど先に反応がある」

パフェが瓦礫の山を指さす。

「―――よし」

俺は跳躍してその場に向かおうとすると横の瓦礫の中に別の人を発見する。

「先輩?!」

一瞬、姉貴が居る瓦礫の山に視線を戻すが、急遽方向転換する。

瓦礫を払いのけ、埋もれている先輩を慎重にそっと引っ張りだした。

そしてなるべく平らな場所に先輩を抱きかかえたまま寝転ばせる。

――大丈夫だ。

体中血だらけで深い怪我を負っているが息はある。

「か……のん、……君?」

先輩の瞳に光が灯る。

「もう大丈夫です。だから無理に喋らないでください」

俺は出来るだけ笑顔を心がけて先輩の耳に届くように大きな声でゆっくり話しかける。

だが、先輩は俺の声が聞こえていないかのように口を開く。

「華蓮……、の……方、行って。わた、しは………だい…、げほっ、大丈…夫、だ、から」

口から血を吐きながら先輩は俺の手を掴む。

「行っ、て。狙われ、た……のは、華蓮……うっ!!」

先輩は苦しそうに胸を抑える。

俺はその姿に心苦しくなる。

助けを求めるようにパフェを見る。

パフェは俺の視線に仕方が無いのとでも言うように頷く。

「行け主様。この小娘は吾が見ておく」

「悪い、頼む」

先輩を優しく寝かせると、パフェがその側に寄り付く。

俺は先ほどの瓦礫に移動した。

「姉貴!! 姉貴!! 無事なら返事をしてくれ!!」

俺はそう呼びかけながら瓦礫を慎重にどかしていく。

一度に全て払い除けるなど今の俺にとって造作も無いが、姉貴が埋まっているかもしれない以上無理はできない。

慎重に且つ素早く正確に手を動かす。

やがて―――。

「っ!!」

時間にしてみれば1分あるかと言うくらいだったが、俺には気が遠くなるほど長い一分間だった。

大きな瓦礫の下から横たわったまま埋もれている腕が見つかった。

その手首には俺が送った月をモチーフにしたバングルが光っていた。

俺は僅かな安堵とともに残りの瓦礫の撤去に取り掛かった。

姉貴の身体が何処にあるかわからないから殊更慎重に、そして更に早く瓦礫を撤去する。

「…………ん?」

ある程度姉貴の上にあった瓦礫を片付けた所で何かが転がり落ちる。

金属でも付いていたのか、不愉快な高音を響かせ落ちてくる。

そしてゴロゴロと転がり、俺の足元で止まった。

それは―――。

赤黒い液体を撒き散らせながら――。

見たこと有る月のデザインの――。

――バングルを嵌めた姉貴の腕だった。

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