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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
55/72

その48 「厄介事」

明かりなど一切存在せぬ道を第十八神は淀みなく進む。

見えているというよりは体が覚えていると言ったほうが正しいくらいその足取りに迷いはない。

「随分早かったな」

突然彼女に声が掛かる。

彼女は一瞬視線を送る。

その先には壁に背を預けて男が立っていた。

「―――異常は?」

そう言うと彼女は止まること無く進み続ける。

問いかけておきながら返事に一切興味が無いと取れる仕草。

その態度に男は舌打ちする。

「ない、って言っても。お前に俺の言葉は大して意味ないんだろうな。お前の概念のうりょくで何でも解っちまうんだからよ」

「そんなことはないわよ。意味なら有るわ、私の労力が軽減されるからね」

男の嫌味も気にせず、彼女は止まること無く奥へと進んでいく。

誰が見ても彼女の目に男が写っていないのは確かだ。

だがそこへ――。

男は彼女の前に立ち、通行止めするように足を伸ばす。

仕方なく彼女は足を止めた。

「…………何のつもり?」

黒いベールの中から冷たい眼光が男を射抜く。

「悪いが話はまだ終わりじゃねぇ」

男はそれを涼しい顔で受け流す。

それどころか咎めるように目を細めた。

「他でもない第七神と第二神のことだ。俺が言いたい事、解ってるよな?」

「……………」

沈黙する第十八神に男は詰め寄る。

一歩詰めるごとに金属同士がぶつかり合う音が暗闇に響く。

「一週間後に彼奴等を排除するって言ったのはお前だよな? だがこの状況はどうだ。第二神は疎か第七神すら見逃しやがっただろ。これについてどう弁明するつもりなんだ?」

今にもぶつかりそうなほど男は顔を第十八神に近づける。

「―――それはあなたも同意見でここにいると考えていいかしら。『王国の門番』さん?」

第十八神の言葉で彼女の後ろから『王国の門番』と呼ばれたものが姿を現す。

「――――――」

沈黙を保ったまま意思を示す素振りすら見せないが、暗に肯定しているようだ。

「はぁ……。まず幾つか言わせてもらうけど、私の概念のうりょくは貴方達が思っているほど完璧じゃないの。当然失敗する目もあり得るって事理解してほしい」

息が掛かるほど近くに居た男から離れ、第十八神は二人を見渡せる位置に移動する。

「今回の場合だと第三神との勝負がそうね。私の想定より早く終わる事が理解わかってしまった以上、第七神を無力化するだけに留め、第三神の行動を阻害するのがベターだと判断しただけよ。第二神については今ここで話すことではないけど、そうね。―――――放っておけば今回のようにまた邪魔な者同士潰し合ってくれるから、かしらね」

これで満足?とでも言うように第十八神は掌を上に向ける。

だがそれを見て男の剣呑さは増していく。

「――それで、そんな言葉で俺達が納得すると? 何やら聞こえがいい言葉でペラ回してるみたいだが、要するにそれ、お前何もしてねぇよな。大体第三神の行動阻害するのに第二・第七生かすとか正気か? 俺達の目的にそれがどれだけのリスクになるか、わかって言ってる訳だよな?」

「当然よ。その上でベターな判断しているわけ」

第十八神が男へ当たり前だと返答する。

その返答によって場の空気は一気に凍りつき、いつ弾けてもおかしくない。

男がそれに反論する前に『王国の門番』と呼ばれたものが一歩足を踏み出す。

「――あなたにとって最良ベストな判断、の間違いでしょう。いつまで私達に虚偽をつき続けるつもりですか?」

「あら虚偽だなんて心外ね。私は貴方達をこんなにも信頼しているというのに………随分と嫌われたものね」

今まで沈黙を続けていた者から入った横槍に第十八神は残念そうな声音を出す。

「ハッ、心にも思ってねぇ事言ってんじゃねぇよ。嫌われるのすらお前の中じゃあ予定調和だろうが」

呆れと怒気を振り撒きながら男は第十八神に背を向ける。

これ以上の問答は埒が明かないと判断したようだ。

「――――兎も角お前が私情を挟むってんなら俺は俺で行動させてもらう。異存はないな?」

「どうぞご自由に。元々貴方達は私の手下でも部下でもないわけだし。ただひとつ忠告するなら」

決定的な亀裂のはずなのに第十八神は余裕を崩さず笑う。

それどころか彼らが何をしようとしているのか解るように忠告という言葉を口にする。

「第三神には手を出さないほうがいいわよ。無駄な労力を費やしたくないならね」

「―――――――――」

第十八神を残してふっと二人の気配が消える。

その代わり新たに一人、入れ替わるように出現する。

「帰って早々喧嘩か。まあお前のことだからそれすら予定通りなんだろうけど、仲間に対しては程々にしようぜ」

「…………ユート」

第十八神は初めから夢渡がそこに居たことを知っているかのように振り返った。

「それにしても随分苛立ってんな、アイツんとこで何かあったのか?」

「…………どうしてそう思うの?」

じろりと、問い詰めるような眼差しで第十八神は夢渡を見る。

「コレでも付き合い長いからな。そっちからすれば一瞬なんだろうけど」

「いいえ、そうでもないわ。私の中でもあなたとの付き合いはかなり長いほうよ」

第十八神の言葉に夢渡はそうか、と言い懐かしむような顔をする。

が、それも一瞬。

直ぐに元の表情に戻る。

「……これからどうするんだ? 意味もなくあいつらを自由行動にさせたわけじゃなんだろ?」

「そうね、あなたにだけは言っておくわ。――――――」

第十八神は第六神に近づき、そっと耳打ちした。

まるでそこに存在する誰かに決して聞かれぬように。

伝わる振動が世界に響かぬように。

「そう…か。残念だけど解った。だが俺は――」

「えぇ解っているわ。あなたはあなたで持てる総てを費やして頂戴。―――――私達の悲願成就の為に」

「おう。―――――総ては俺達の悲願成就の為に」

そう言うと二人は交差し、別々の道を歩んでいく。

何かの未来を指し示すかのように。


                †


自分の後方に水柱が上がっては消え、上がっては消えていく。

俺は今海上を走り続けている。

漆黒を足場にしているわけではなく、某爬虫類のように足が沈み込む前に足を抜くという力技で走っているだけだ。

「こっちで合ってるんだよな?」

未だ見えぬ陸を目指し俺は走る。

こんな時の為にと渡したわけではなかったが。

今、俺が姉貴に渡したバングルが俺達にとってのコンパスとなっていた。

あのバングルは予めパフェに頼み姉貴の位置を知れるようにしといてもらったのだ。

本来は姉貴の独断の特攻と作戦の成否を確かめるために渡したのだが、結果オーライと言えるだろう。

「大丈夫じゃ、そちらの方に確かにあの腕輪に仕込んだ心具を感知することが出来る。じゃから心配するな」

パフェは俺の胸板に頬ずりしながら答える。

どういう状況かというと、コアラのように俺の前に張り付いているわけだ。

眠っている間俺がずっと抱きしめていたことを知ると、感謝の気持とか言って俺に抱きついて離れなくなった。

情報を整理するために会話していただけの時はまだよかったのだが。

今は非常に走りにくい事この上ない。

とは言え自分で動けないほど疲労困憊?しているパフェを引き剥がすほど俺は鬼ではない。

だからこう提案した。

「離れろとは言わないが、後ろにおぶさってくれないか?」

「嫌じゃ」

そんな俺の言葉を『嫌だ』の一言で切って捨てられる。

俺は無性に足を滑らせて顔面から思いっ切り水中にヘッドスライディングしたくなった。

――流石にしないがな。

しても大した効果はなさそうだし。

いや、効果があればするわけでもないが。

「よく考えてみよ主様。二人っきりでイチャイチャ出来る機会なんぞ今しかないんじゃぞ。その絶好の機会に色々せんでどうする」

―――そんなもの何時だって出来る。

っと言いかけて俺は口を止める。

言質を取られていつでも仕掛けてこられては困る。

ただでさえコイツの妙な思いつきに振り回されているのだ。

これ以上厄介事が増えるのは勘弁したい。

取り敢えず諭す方向で会話していこう。

そう決め俺は口を開く。

「俺もお前も怪我人なんだから……落ち着っ!!」

言葉の途中でパフェに胸の傷跡をなぞられ鈍い痛みが走る。

肉体の傷自体は塞がってはいるが、それでもやはり心具の攻撃によるダメージなので中身へのダメージが大きい。

と言うかコイツ俺と会話する気あるのだろうか。

人の話を聞いていた気配が微塵もないぞ。

「おや痛かったかや? それはすまん事をした。お詫びに吾が嘗めてやろう」

「は? いや、そんなことしなくていっ~~~っ!!」

鎖骨の下を生暖かいものが蠢く。

思わず背筋がゾクッとする。

傷跡をなぞるように柔らかい物が何度も往復する。

まさか、コイツ本当に?!

急いで俺は首元に視線を送る。

「なっ、お前本当に嘗め……。~~~っ!!」

そこにはぴちゃぴちゃと音を立て、ミルクを飲む子猫のようにパフェが俺の傷跡を舐めていた。

いつの間にか服のボタンが外されており、開けた状態になっている。

俺と目が合うとニヤッと笑い、再び俺の傷跡を真っ赤な舌で舐め始める。

くすぐったいやら痛いやらで何がどうなっているのかよくわからない。

いや俺の思考がこの行動を理解したくない。

「吾の体を共有する主様じゃ。きっと吾が嘗めたほうが傷の治りも早い。―――――といいの」

「……願望なら今すぐ止めろ」

俺がそう言うと、渋々パフェは口を離した。

全く本当に何を考えているんだコイツは。

だいたい嘗めただけで傷が治るわけがない。

俺は自分の体の状態を確認する。

心なしか痛みが減っているような気がする。

――そんな馬鹿な。

いや、ない………はずだ。

ない………よな?

俺はだんだん自信が無くなってきた。

「ほら主様、軌道が逸れておる。このままじゃと在らぬ方向へ行くぞ」

「誰のせいだ」

俺はパフェを直接咎める気力はなく、そう呟くしか無かった。

「吾だけの所為ではなかろう、のぅ?」

「はぁ………」

ケタケタ笑っているパフェを尻目に、俺は溜息を吐きながら微妙に軌道修正した。


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