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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
54/72

その47 「地平の彼方」

架音逹からやや離れた海上。

第三神がふらふらと飛翔している。

体は傷だらけでボロボロになっており、激戦だったことを伺わせる。

「――――あ~、楽しかったわ。久しぶりに遠慮なしで戦えたからなぁ」

そんな様になっていても第三神はご機嫌な様子で、独り言つ。

「ベイグとパフェがもうちょい粘ってくれたらもっと戦えてんけどな。――――まあ、あれ以上はうちもこんなとこであんましたくないし丁度いいちゃ丁度いいけど」

伸びをしながらミュールヒルは上空を向く。

そこへ―――。

「あら、第六神からよく逃げられたわね。やっぱり少し勘が鈍っているんじゃないのかしらね、アイツ。――――はいこれ、あなたの荷物」

突然出現した第十八神がミュールヒルに向かって何かを放り投げる。

ミュールヒルは突然現れた来訪者を一目見ると、旧知であるように『あぁ、お前か』と言う顔をした。

「………あんた、幾ら何でもうち舐めすぎやろ。流石にあの第六神が相手とはいえ建物護りながらのアイツから逃げられへんほうがおかしい。――――ってコレ」

受け取ったものを見て、ミュールヒルは意外そうな顔をする。

「何や殺さんかったんか」

ミュールヒルは襤褸切れのようになったベイグウォードを摘み上げる。

「……お仲間が生きていたというのに随分な反応ね」

「はっ、相変わらず胡散臭いことばっか言いようなぁ。『お仲間』? 寒気がするわ」

嫌悪感を微塵も隠さずミュールヒルは体を震わせる。

第十八神は言わずもがな、当然ミュールヒルもベイグウォードの治癒にとりかかったりはしない。

両者とも死に掛けの第七神など眼中にない様で、本当に物として受け渡ししただけである。

「―――で、第六神やようわからん奴と組んであんた何考えてるんや? 大体こんなんしたらコイツ黙ってへんで」

ミュールヒルは邪魔な粗大ごみでも見るかのように溜息を吐きながらベイグウォードを見る。

「当分はさしもの第七神でもまともに動けないでしょ。私の目的はその前に終わるし問題ないわ」

第十八神の言うとおりベイグウォードの体は黒く染まり、パフェと架音に干渉されきっている。

これでもまだ生きているだけ驚嘆ものだろう。

過去に『混沌の闇』が語ったように如何に終焉神を殺すのが難しいか物語っている。

もっとも、それを見る二柱の視線は限りなくどうでもいいものを見る目だが。

「へぇ~、目的ねぇ。何や面白そうな話やな。うちにも教えてくれへん?」

「――――断ると、言ったら?」

「力尽くでも――」

一瞬で二人の間に目に見えない空間の歪みが発生する。

神気と神気のぶつかり合いが大気を暴風へと変える。

最早大地、いや地球は彼女たちの戦闘のせいで嘗て無いほど疲弊しているというのに、一向に頓着はしない。

戦闘後だろうが、帰還途中だろうがお構いなし。

彼女たち終焉神という生き物は殺したくなれば相手を殺し、邪魔になれば世界を壊す。

そういう気質の生き物なのだ。

言論というものは彼女たちの戦いを彩らせるスパイスでしか無い。

「って言いたいとこやけど。今はやめとくわ、荷物もあるしな」

ミュールヒルは肩を竦め、緊迫した状況を解く。

「…………そう、じゃあ荷物も届けたことだし私はもう帰るわね」

第十八神もそれ以上殺り合う気はないらしく、ミュールヒルの横を通り過ぎようとする。

「――――もし、うちがあの建物壊すって言ったらどうする?」

真横にいる第十八神にミュールヒルはそんな言葉をかける。

それにより淀みなく進めていた第十八神の歩が止まる。

時の止まった風景のように互いに停滞する。

暫しの沈黙を経て第十八神は口を開く。

「………どうぞお好きに? 私と第六神を同時に相手する事になるだけよ」

結局何でもなかったかのようにそう言うと第十八神は再び歩を進め始めた。

「チッ、相変わらず喰えん女や」

「褒め言葉と受け取るわ」

それ以上会話なく、両者はそこで別れた。

その地点に立ち止まったままのミュールヒルは再び上空を見上げ唸る。

「しかしまあ、予定狂ったな。弱ったパフェ等殺してもしゃあないし、荷物コレ抱えたまま第六神ら相手にするのもアレやし、ほんま面倒臭いことしてくれたわあの女」

ミュールヒルは腕を組み、誰に聴かせることもなく愚痴を吐き出す。

対照的に第十八神は笑みを顔に張り付かせながら、点になりつつ有るミュールヒルの方を振り返る。

「――『さようなら』ミュールヒル」

第十八神は薄く笑うと風とともに掻き消えた。

ここに第三神・第七神との戦いは一旦幕を閉じる。


                †


「ん? あれ、ここは………?」

輪廻華蓮は額に置かれている仄かに冷たいものがずり落ちたことにより目が覚める。

「ここは学校の保健室。まだ体は治りきっていないから動かないで」

心なしか顔色の悪い薬師寺柚美奈がずり落ちた濡れタオルを取り替える。

「そっか、じゃあ私は間に合ったんだね」

華蓮は横にある一振りの刀を視界に収めながら満足そうな声を出す。

「えぇ、架音くん達の思惑通りユートくんが出てくれたわ」

「そして私が意識を失った後、ユーミンが助けだしてくれたんだね、ホントありがとう」

華蓮はにへら、と笑い感謝の言葉を述べる。

だが、柚美奈はバツが悪そうに華蓮から視線を逸らした。

「お礼を言われる事じゃない。本当ならもっと早く助ける事が出来たのに」

俯いたまま柚美奈はギリッと唇を噛む。

「?」

「―――実は華蓮が学校前に出現した時から見ていたの。直ぐ助けに行こうと思ったけど、怖くて足が竦んで動けなかった。本当にごめんなさい」

懺悔するように柚美奈は小さな声で語る。

華蓮は言わなければ解らなかったのにホント不器用だね、と思いながら目を細める。

まるでその姿はなにか眩しい物を見るようだった。

「でも、それでも助けてくれたのは事実だよ。だから、ありがとう」

「………ごめんなさい。そして本当にありがとう、華蓮」

ポロポロ涙を零しながら柚美奈は泣きながら笑う。

華蓮はそれを慈愛に満ちた瞳で眺めながら微笑む。

保険室内には暫く啜り泣く声が響いた。


                †


「大丈夫? もう少し学校に残っててもよかったんだよ?」

柚美奈に背負われながら華蓮は声をかける。

「でもそうするとカノン君が帰って来た時私達の場所がわからないはず。私のことは心配しないで大丈夫。これでも普通の人より体力あるから」

荒廃した街を二人は進みながら会話する。

「そっか。ありがと」

「いいの、寧ろこれくらいしないと申し訳ない…から」

彼女たち以外人っ子一人見当たらない街で、二人は歩き続ける。

これを勝利と見るか痛み分けと見るか。

それはまた見方によるだろう。

しかし二人は生きている。

それだけでも架音にとっては何よりの出来事だろう。

「………ユーミンって」

「なに?」

暫く無言で進んでいた二人だが、華蓮が口を開ける。

普段の彼女ではないかのような内緒話をするトーンで。

「カーくんの事好きなの?」

「っ!? それは……」

突然の華蓮の言葉に柚美奈はどこか駆け足気味になる。

一瞬だけ顔色がほんのり赤くなったが、華蓮からは見えない。

「私は好き。私にお菓子を作ってくれるところとか、雨が降ったら傘を届けてくれるところとか、急な頼み事でもなんだかんだやってくれるところとか―――」

「それあなたただの便利屋扱いしていない?」

指折り数えて得意げにする華蓮。

それを見て柚美奈は呆れた表情を浮かべる。

「――――ユーミンはどうなのかな? カーくんと居ても嫌悪感は湧いてないでしょ?」

「うん、それは………そうだね」

華蓮は変わらず楽しそうな表情をしているが、対照的に柚美奈の顔に影が差す。

どこか後ろめたいことが有るように。

そんな柚美奈の様子を知ってか知らずか華蓮は変わらぬ調子で続ける。

「ならきっとカーくんの事好きだよ」

「随分極端だね。そんなに私にカノン君のこと好きでいて欲しいの? …………まあ、嫌いじゃないけど」

「そりゃあそうだよ。カーくんには幸せになって欲しいから。一人でもカーくんのこと好きな人が増えてくれればカーくんもきっと……」

華蓮は目を細め遠くを見るような目をする。

柚美奈はなにも反応せず暫く黙って歩き続ける。

足音だけが虚しく世界に響いて消えていく中、絞りだすような声で柚美奈は口を開く。

「……そんなにカノン君を好きな人が増えると、あのパフェって神様がヤキモチを焼くかもしれないけどね」

そう言って柚美奈はぎこちなく笑った。

華蓮もそれに呼応して笑い声を上げる。

「ん~、でもきっとパフェちゃんもわかってくれるよ。まだ話せないかもしれないけど、それでもいつかね」

「………………」

「いつかみんなが幸せになれたらいいな」

どこまでも澄んだ笑みで華蓮は手を天に向ける。

答えを求めるように。

或いは答えをかみに差し出すように。

その後二人は目的地につくまで無言で進んでいく。

暫くして――。

「あっ、あった。よかったぁ、壊されてなくて」

柚美奈の背中でうつらうつらしていた華蓮が何かを発見して声を上げた。

瓦礫の街並みに一つ、経年劣化以外の傷が見当たらない古い一軒家がぽつんと立っている。

「人払いの結界もまだ機能してるみたいだし、ここでよさそうだね」

「うん、後はカーくん達だけだね。今どうしてるんだろ、大丈夫かな」

華蓮は後ろを振り返り、遥か地平の彼方へ思いを馳せた。


                †


「こんなに綺麗な星空なんて久しぶりに見たな」

俺は波間に揺蕩いながら夜空を見上げる。

第十八神との会話の後、俺は意識を失った。

そして気がついたら波に流されて漂流していた。

もし俺が普通の人間のままだったら間違いなく死んでいただろう出来事だが。

生憎もう人間ですら無い。

「………はは」

思わず笑ってしまう。

人を辞めたことに最早何の感慨も浮かばない。

それはそうだ。

天を裂き、地を割る戦いの後なんだ。

あれを見た後では大抵のことは感動が薄くなってしまう。

それに俺が単体で第一契約を結べるようになり概念のことも理解し、ますます終焉神あいつらに近づいた事も無関係ではないだろう。

「―――っと」

ずり落ちそうになるパフェをしっかり抱きしめ直す。

あれから未だに気を失い続けているのだ。

影の繋がりから生きていることはわかるが、何時目覚めるか皆目検討もつかない。

それだけ第七神との戦いと、最後に受けた第十八神のダメージが大きかったということだろう。

今の俺に出来ることは極力体を動かさずに体力回復に務めることだけだった。

「第十八神か、一体アイツは何なんだろうな」

呟いてみても答えは出ない。

パフェなら何か知っているかもしれないが、今は気を失っている。

考えてみても仕方ないが、それでも第十八神と名乗ったあの女は気になった。

今も心の片隅に刺のようにアイツの言葉が刺さり続けている。

『あなたは必ず私に殺される』

あの言葉に深い怨嗟を感じた。

それこそ何百、何千年では済まないくらいのレベルのモノをだ。

俺は怨嗟の矛先よりも原因のほうが気になっていた。

一体何があればあそこまで深い激情を込めることが出来るのだろう。

そして俺はあの心具かんじょうを向けられた時、姉貴達を護りきれるのだろうか。

「……………」

俺は無言でパフェを右腕で強く抱きしめる。

――零れ落としはしない、零れ落ちたら二度と拾えないと知っているから。

どんな奴が相手であろうと負ける訳にはいかない。

決意を新たに俺は視線を海の果てへと向ける。

姉貴達の様子も心配だ。

いくつか保険はかけていたがどれも失敗している可能性だってある。

直ぐあの街へ戻りたいが、流されたせいで現在地がわからない以上闇雲に動いても体力の無駄になるので堅実に休息を摂り続けるしか無い。

「思った以上に歯がゆいな」

己の無力さを噛み締めながら天上の月を見上げる。

パフェとペアで買ったネックレスを握りしめながら俺はいつ迄も月を見つめ続けた。

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