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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
49/72

その42 「双子」

「――――ッ!!!」

架音が声なき声を上げる中でベイグウォードはただ冷静に放物線を描くパフェの首を眺めていた。

「てめェ、一体いつまで第二契約を使わないつもりなんだ。さっきの俺の技は今のてめェらじゃ第二契約を結ばなければ防げねぇことなんてわかってんだろうが」

首が切り下ろされたというのに、まるで当たり前のようにベイグウォードはパフェに話しかける。

その言葉に呼応したかどうかは不明だが、首の離れたパフェの胴体がドロっと溶けて、架音を取り囲んでいる漆黒に吸収される。

「なぁ、おい。こっちは本気になって徐々にギア上げていってんだ。さっきみてぇに付いてこれませんでしたじゃ詰まらねぇだろうがよぉ」

そう言うやいなや、ベイグウォードの神気がさらに強大になり大気を震わせる。

「それともアレか? あの時の人間ガキをぶっ殺さなきゃ殺る気にならないってか? まあもっとも、もう既に何もかも吹っ飛んでる頃かもしれねぇがな」

ベイグウォードは遠くに薄っすら見える大陸の方を向きながら嗤った。

                †

辺りに吹き荒れる土煙。

大地震でも起きたかのように地面がひび割れ、歪み。

近くにあった建物は軒並み倒壊している。

その背景の中心に隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターがぽっかり開いている。

そこに一人少女が佇む。

第三神ミュールヒルだ。

「………………………さっきの言葉。『ルールは守れ』やと?」

勝利の余韻を浸るわけでもなく無表情のまま何かをブツブツ呟いている。

周辺地域に人影などはなく、もっと言えば生き物がいた跡がない。

「…………消し飛んだはず……………いや、でも………」

ミュールヒルは目線を足元に向ける。

無残に削り取られた大地がそこにあるだけだ。

先程までいた華蓮の痕跡を辿ろうにもミュールヒルが一面破壊し尽くしたせいでそれも儘ならない。

もっともミュールヒル自身感知能力は低いのでたとえ残っていても辿れるかどうかは別だが。

「……………あの時………崩れたアレ……。偶然にしては……………」

辺りをきょろきょろと何かを探すように見渡すが、そんなものは残っているはずがない。

「チッ!! あ~、もうイライラするなぁ」

舌打ちとともに、ぴょんと跳ねると一気にビルのような高さまで上昇する。

そして辺りを俯瞰するように見下ろす。

マナや神気の感知能力は低いが肉体の能力自体は別だ。

遮る物がないのであれば地平の彼方まで見通すことも可能だ。

「………………」

ぐるりとあたりを見渡し、ある一点で視線が止まる。

そして口を三日月状にして笑った。

                †

全身の痛みと共に私は目が覚める。

いつの間にか見知らぬ地平に倒れ伏している。

どこだろうココは。

数秒考えて自分でこの場所に移動してきたことを思い出す。

そうだ、あのミュールヒルにやられる直前で予め用意した仕込みを、瓦礫を自ら壊すことで発動したのだった。

数日かけて用意したとっておきであり、これを用意できたから架音は戦うのを許してくれたのだ。

鬼ごっこと言う『追いかけっこ』を提案する以上、こういう仕掛けを用意するのは当然だ。

特定の場所へ瞬時に移動を可能にする空間転移魔術。

彼女は何か攻撃的なものを想定していたようだが、大して効果がないとわかっているものを用意するほど私は酔狂ではない。

大切なのは空間転移魔術コレがとっておきと認識されないことであり。

何度か攻撃をしてみせたのだって狙いを『倒す』或いは『留める』と認識させるためだ。

私はゆっくりと息を吐きながら腕に力を込める。

疲労は既に極限にまで達している。

ミュールヒルの言うとおり『神代御供・心魂相剋』は神を生贄に使う、外道も外道の禁じ手とされる術だ。

代償もさることながら、霊力の消費も非常に大きい。

本来は体力的にも倫理的にも先ほどの戦いのように何度も連用できる技じゃない。

使っておきながら今更言い訳する気はないが。

本音を言えば本当はこんな術なんて使いたくなかった。

本邸に眠る先祖代々が護って来た神器の数々。

それらにも当然魂はある。

それを銃弾のように消費していく禁呪。

撃つ度に聞こえるあの悲鳴は文字通り神達の断末魔だ。

私が如何に罪深い罰当たりな事をしているかは自覚している。

でも私には他に終焉神かのじょたちと戦うすべが見当たらなくて。

彼女等を見て見ぬふりする道なんて無くて。

握り拳を作りたいのに指の感覚がない。

起き上がらなくちゃ、立ち上がらなくちゃいけないのに体が動かない。

這いずってでも進もうとして、視界がだんだん狭くなってきていることに気付く。

瞼を開けておくこと自体叶わなくなってきているのだ。

多分こうして意識を覚醒させられた事自体奇跡に近いのだろう。

もう眠ってしまいたいという思いが胸中に膨れ上がる。

十分私は頑張った。

予め街を襲い壊すことによって出来る限り住民を避難させた。

そして『この場所』にまで来ることが出来た。

たとえ私がミュールヒルに此処で殺されたとしても計画に支障はそれ程無い。

だから………。

「…………………」

だから…………?

閉じかけた瞼がゆっくり開いていく。

だから後は架音に総て任せようとでも言うつもりだったのだろうか。

今も私達のために命を削って戦ってくれている彼に全て押し付けて?

恥知らずにも程がある。

勝てないから、疲れるから、眠たいから、痛いから、無駄だから。

どれもこれも自己逃避のための甘言でしかない。

無駄だと誰が決めた、勝てないと誰が決めた。

動かないと思っていた指に力が篭る。

少しずつ。

だが、確実に前へ私は手を伸ばす。

まだ、何も終わってなどいない。

架音が戦い続ける限り私も諦める訳にはいかない。

私たちは魂を分けた双子なのだから。

――例えどれほど状況が絶望的であろうとも。

風切り音とともに体中泥まみれの私の前に影が舞い降りる。

亀のような歩みだがそれでも私は腕を動かすのを止めない。

奇跡など信じない。

運命など信じない。

私は私として最後まで精一杯生きたいから。

「…………………終わりや。一発で楽にしたる」

死刑宣告を聞きながらも私は前へ進み続けた。

                †

「――やれやれ、せっかちな奴じゃ。こちらにも色々と都合があるというのに」

切り捨てられた生首がぐるりと回転すると、デフォルメされたパフェの姿になる。

「ぁ? なんだ、その姿。ふざけてんのかてめェ」

童話の妖精のように小さくなったパフェにベイグウォードは目を細める。

「巫山戯ておるかどうかはその身で確かめるといい」

パフェがぱん、と両手を合わせると同時に一箇所に固まっていた漆黒が膨張する。

棒立ちのベイグウォードを前に辺りを埋め尽くさんばかりにみるみる大きくなる。

「………………………はっ、虚仮威しが」

呆れた表情でベイグウォードはそれを一瞥する。

そして次の瞬間、目にも留まらぬ速度で心具から斬撃が放たれ、漆黒は真っ二つに切り裂かれる。

ベイグウォードの予想通り漆黒は風船のように呆気無く弾け飛ぶ。

「―――そいつはどうだろうなッ!!」

真っ二つに裂かれた漆黒の中から漆黒の衣を纏った架音が飛び出してくる。

かなりの距離までベイグウォードに放置されて膨張し続けていた漆黒が、弾け飛ぶことによりその距離は既に眼前。

それと同時にパフェは切り裂かれた漆黒で二人を取り囲むように包む。

今の架音はパフェと完全に融合した戦闘ジェノサイド形態だ。

第九神の時のようにパフェの力に引っ張られて結んだ中途半端な契約ではなく。

パフェ、架音共にそれぞれが第一契約を結んだ状態で融合した完全な形態だ。

先程の不意打ちより神気・威力・強度共に遥かに上。

加えてパフェの攻撃とは違い架音の右腕の攻撃はベイグウォードでも反応するのにワンテンポ遅れる。

これが現状架音たちが第一契約シン状態で出来る最高の攻撃。

―――だと言うのに。

「悪くねェ、悪くはねぇが。まだまだ追い付いちゃいねえなぁ」

相打ちすら許されず、超速の一刀のもとに切り捨てられる。

「―――――がっ!!!」

多少ましになったとはいえ、速度というアドバンテージでベイグウォードに勝てる道理はない。

能力的には近くなってきているとはいえ、相対絶対速と言う概念ルールがベイグウォードに対する攻撃を絶望的にさせている。

呆気無く切り捨てられた架音の体が崩れ落ちていく。

「主様っ!!」

パフェが叫ぶ。

と、次の瞬間、架音の体がパフェの漆黒のようにドロっと溶け始める。

「――ッ?! 偽物か」

溶けた漆黒が剣山のように次々とベイグウォードへ向かい伸びていく。

だが、どれ程速い奇襲であろうともパフェの概念では意味は無い。

後ろに若干後退をしつつ、神速の剣が漆黒の剣山を全て切り裂く。

それと同時にベイグウォードの背後の漆黒から、ほぼゼロ距離で黒い何かが飛び出してくる。

「――――チッ!!!!」

本来であれば即座に加速するはずのベイグウォードがまたもやワンテンポ気付くのに遅れが出る。

言わずもがな架音の概念こうげきだ。

ベイグウォードの動作がワンテンポ遅れているといっても他の終焉神クラスから考えれば病的に速い反応速度。

それに加え、ベイグウォードの概念が発揮すれば一瞬でトップギアに乗る。

架音たちがベイグウォードに攻撃を当てるとするならこの短いワンテンポの間に攻撃を当てるしかない。

先程までの架音たちの一連の流れ。

架音が纏うように漆黒を寄せていたのも。

架音の動きをパフェが止めたように見せたのも。

戦闘ジェノサイド形態になるために敢えて囮となり二刀目を受けたのも。

全てはこの為であり、この時こそ勝負の時。

「――ッ!!!!!!!!!!!!!」

一足一刀の速度に比べれば遥かに遅いが、それでも両者刹那の合間。

無限に引き伸ばされる時の中でどちらが先に攻撃出来るか。

閃光のような交差に決着が訪れる。

勝者は………。

カチンと言う音と共にベイグウォードに迫った概念こうげきは真っ二つに切り裂かれた。

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