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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
46/72

その39 「絶対速」

上空から見下ろす形で第七神は架音パフェと対峙する。

「よぉ、元気にしてたか?」

先程までの攻撃が何でも無いかのような口調でベイグウォードは声を掛ける。

事実ベイグウォードにとって先程の行動は場所を移した、程度の意識でしか無い。

「お陰様での、ここ一週間は枕を高くして寝る事が出来たわ」

「ハッ! そりゃあよかった。こちとらつまんねぇネズミ探しをして態々時間空けてんだ。ちっとは強くなったところを見せてもらわねぇとなっ!!」

瞬時にベイグウォードの姿が掻き消え、架音達は再び蹴り飛ばされる。

「おらおらっ! どうした?! 早く本気ださねぇと第三神アイツが何もかもぶっ壊しちまうぜ?」

超高速で飛来しながら360度あらゆる角度からピンボールの様に架音達は空間を縦横無尽に跳ね飛ばされる。

蹴り飛ばし、追い越し、その先でまた蹴り飛ばす。

ただ単純にそれの繰り返しだ。

何が問題かと言えば、その工程を終えるまでの時間が破壊的なまでに短い事だ。

僅かに意識を離すだけで数百、数千と言う攻撃が加えられる。

幾ら二人の周りが球体で覆われているとはいえ、攻撃回数が桁違いなのだ。

凹み、削られ、欠け、貫通して少しずつ内部へダメージを届け始める。

「――――――――ッッッ!!!」

常時高速で動くベイグウォードに攻撃を喰らってからの反撃など意味は無く、動いている間は見えない以上攻撃前に狙撃など必中系の概念のうりょくなどを持っていない限り不可能。

それこそ完全に時を止めれない限り、ベイグウォードに単一攻撃など当たりはしない。

詰まる所、架音達が取れる攻撃手段など二つしかないのだ。

即ちカウンターと範囲攻撃。

「――っ!!」

ベイグウォードが攻撃する瞬間、一瞬漆黒の球体が小さく撓むと球体の表面から針鼠の様に無数の剣山が突き出る。

完全にタイミングの合ったカウンター。

超速で移動できる能力を持つ者は、基本的にその速度は己を殺すスターターにも成りえる。

自身が速すぎるがゆえに、相手の攻撃がなまじっか速いと相乗効果で己に対する攻撃も桁違いの速度と威力になるのだ。

故にカウンターはこう言う能力を持つ者に対する最良の攻撃の一つと言える。

―――もっとも飽くまでこれは、その程度の能力を持つ者に対する話だが。

「ハッ!」

それを前にしても動じることなくベイグウォードは鼻で笑う。

こんなものかよ、と。

無数の刺がベイグウォードの体に突き刺さる直前の刹那すら遥かに満たない圧縮された時の中。

その圧縮された時の中でベイグウォードは更に脅威的な加速を始める。

迫りくる刺を横から叩き折り、攻撃できるスペースを抉じ開ける。

時の止まった世界とも言えるくらい鈍足化した世界で、慣性などの諸々の時の縛鎖を引き千切り球体に蹴りを叩きこむ。

「――――――――ぐっ!!!」

今までも桁違いだが、それを更に上回る速度で蹴り飛ばされた事により球体が大きく歪み、蹴られた周辺部位が大きく弾け飛ぶ。

これは蹴りの威力もさることながら、剣山を作る為に漆黒を割いた事により、壁の厚さが薄くなったことも一因している。

「相変わらずその概念のうりょくは反則じみておるのう。『相対絶対速度』じゃったか?」

パフェは生き物の様に球体の形を変え辺りに散らばった漆黒と、先程伸ばした刺を連結させて空中で静止する。

さながら何かの繭を連想させる光景。

「てめェら原初神共にだけはソレを言われたくねぇな。だいたい――――」

ベイグウォードはそこで言い切らずに口を閉ざす。

何かがおかしい、奇妙だ、と感じたからだ。

だが目の前のパフェとのやり取りに何もおかしな所は無い。

いつもと同じ何の違和感も湧かない会話だ。

ならば何がおかしいのか、ベイグウォードはパフェ達の居る球体付近を観察する。

「――――だいたい? が、どうかしたのかや?」

ベイグウォードの知る普段の彼女と全く様子の変わらないパフェに目を細める。

「―――てめェ。何を企んでやがる」

「何を企んでるじゃと? 何を言っておる。何の企みもせずに今の吾が貴様等に挑むと思っておるのか?」

「ハッ! そりゃあそうか。質問が悪かったな。―――――――だったら言い方を変えるぜ、あの人間クソガキはどうした?」

「―――――何処におると思う?」

顔も見せず愉快な声音でパフェはベイグウォードに質問で質問を返す。

「――ッ!」

即座にベイグウォードが導き出した答えはつい先ほどまでパフェ達がいた街。

己を無視して第三神と戦うつもりではないのか、と。

常人の思考からするとややずれた思考回路。

普通ならばまずは隠れて奇襲の可能性を疑う。

己を無視して街に向かうと言う考えはその次に浮かぶものだろう。

彼が即座にこの選択肢を選ぶのには理由がある。

ベイグウォードと言う男は如何に己が愉しめるか、と言う刹那的な快楽を見出す事を至上としている為。

架音が身を隠している、と言うまったくもって面白味のない選択など初めから除外されているのだ。

詰まる所ベイグウォードはパフェ達が自分に奇襲すると言う選択肢を取ると全く考えていない。

何故なら何処から奇襲しようがベイグウォードはそれより速く動けるからだ。

だからそんな容易く処理できるつまらない手を相手が取るなど考えもしないのだ。

慢心だろうと、愚鈍だろうと思われようが彼にはそれだけの概念のうりょくを持っている。

彼に攻撃する手段は先ほど述べた様に二つのみ。

遠心型のような常時干渉能力を持つカウンターか。

彼の逃げ場全てを埋め尽くす範囲攻撃のみ。

そんな事情もあってか、目の前にいるパフェを無視してベイグウォードは街の方角に振り向く。

その振り向く僅かな間隙に極少の隙が生まれる。

隙と言っても本来彼にとっては隙ですら無い。

例えこのタイミングで音速の数千倍の速度で攻撃しようとも彼はそれを更に超える速度に瞬時に達し、回避する事が出来る。

だからこそ、次の瞬間に起こった事はベイグウォードにとって驚天動地の出来事だった。

突然空中から伸びてきた腕に足を掴まれたのだ。

「ッ!!!!!!!!!!」

ベイグウォードは完全な反射行動で掴んだ腕を引き千切れるほどの速度で振り払おうとする。

足を掴まれるなど彼にとってさほどある経験ではない。

ましてや意識できずに足を掴まれるなど数えきれない戦闘数の中でも数えるほどしかないのだ。

だから反射的に掴まれた足で振り払おうとしてしまった。

それが更なる事態を招いた。

「なッ……にッ?!!!」

高速で動かしたはずの足はピクリとも動かず。

掴まれた箇所から白黒写真の様にどんどん染め上がっていく。

「――チッ」

ベイグウォードは瞬時にもう一方の足で、己の足を掴む腕を蹴り飛ばした。

それより一瞬早く足から手を離したおかげで腕は軽く弾かれる程度に留まる。

「――っ! 少し調子に乗り過ぎたな」

弾かれた腕をぶらぶらさせながら架音は闇の中から出てくる。

「じゃがまあ、コレで奴の片脚は封じた。上出来じゃろ」

満足気な声音で架音の足下からパフェが生えてくる。

「―――――――――――」

そんな彼らをベイグウォードは無表情で見つめる。

油断?

怠慢?

攻撃を喰らった事に対する責任の所在?

――否。

彼はそんな事一切考えてはいない。

湧きでる感情はただ一つ。

「くっくっく。ハーッハッハッハッハッハッッ!!!!!!」

溢れんばかりの歓喜が抑えきれなくなった様に声として溢れ出す。

それは嘲笑だとか馬鹿にしたものではない。

寧ろ今この瞬間、間違いなくベイグウォードは架音達を讃えていた。

己に対する攻撃全てを。

「いいぜ、悪くねェ。あの時とは違いなかなかの概念シンだ」

怪訝そうな顔をする架音達をベイグウォードは上機嫌に見る。

「怒りや焦りも無く、確実に俺の力を削りに来たところを見ると、てめェらの目的は最初から俺だった訳だ。………違うか?」

「……………」

ベイグウォードの問いに二人とも沈黙を返す。

「ハッ、俺がその答えを聞けばてめェらを置いて街に向かうと思われているのは遺憾だが、まあそんな事はどうでもいい」

荒れ狂う雷を模った様な異形の大剣を右手に出現させる。

その瞬間、ベイグウォードから爆発するかの如く刃の様に鋭利な神気が辺り一帯を覆い尽くす勢いで放たれる。

「初めから俺を殺りに来ているてめェらにこれ以上の加減は失礼だよなぁ。こっからが本当の殺し合いと行こうじゃねぇか」

                †

「あ~、くそっ、腹立つなぁ!!」

第七神の到着からやや遅れ、第三神ミュールヒルが街に到着する。

その様は口調からも見掛けからも解る通り不機嫌で。

彼女の通ったルートの一切が跡形も無く消し飛ばされた痕跡を見ても解るだろう。

「ちっ、やっぱ此処から連れ出しよったか、ベイグの奴。おるんなら邪魔したろうかと思ったのに」

苛立ち紛れにミュールヒルは既に幾つか傷の入った民家を片手で叩き壊す。

本人にとっては軽くそこらの小石を蹴り飛ばした程度の意識だろうが。

彼女の拳の衝撃で周りの家々が吹き飛ぶ。

不幸中の幸いと言うべきか、辺りに人はおらず。

この街での人的被害は今のところ零だ。

「あ~、詰まらん」

大声で愚痴を呟きながら、ミュールヒルは街の中央辺りへ進行する。

「一思いにこの街壊したらカノンって子だけでも跳んでけぇへんやろか?」

「いやでもベイグから逃げ切るなんて無理やろうし、壊さんでとっとく方が得な気も……」

両目を瞑り、うんうん唸りながらミュールヒルは進んでいく。

目を瞑っていてもだいたいの方向は解っているようで壁にぶち当たる等と言う事はしない。

まあ、仮にぶち当たったところで障害物となり得ないのだから避ける必要など無いのだろうが。

そんな彼女だが、ぱたりと足を止める。

何か妙案を思いついた訳でもなく、思考に夢中になり過ぎて足を止めた訳でもない。

ただ単純に進行方向に己の見知った人物がいたから足を止めた訳だ。

「何してんのあんた? こんなとこにおると死ぬで」

クラスメイトに話しかけるような気安い口調でミュールヒルは目の前の人物に話しかける。

「ん~、ミューちゃんがこの街を壊そうとしなければ死なないと思うんだけど?」

対して華蓮は普段通りの暢気な口調で返答する。

しかしその姿は既に天羽を抜き、臨戦態勢の状態で佇んでいる。

「…………あんなぁ、あんたホンマに自分の状況解ってるか? うちがその気になればあんたの生殺与奪なんて自由自在やねんで?」

ミュールヒルは心底呆れた様に溜息を吐く。

今の彼女には一週間前の様に手加減をする理由など無い。

彼女の目的は架音達を自分が楽しめるステージまで上げる事であり、どれだけ才能があろうともハンデが無ければ戦いに成り得ない華蓮に期待することなど無いからだ。

そもそも手加減して華蓮を相手にした事にしても、架音達のやる気を出させるためあり、それによって死のうが死ぬまいが彼女にとってはどうでもよかったのだ。

「ん~、まあ、そうなんだろうけど。でもそうしちゃうとミューちゃん暇になるでしょ?」

「――――は?」

半ば興味を失っていた華蓮から驚愕の言葉を聞いた事によりミュールヒルは口を半開きにしたまま固まる。

それもそうだろう。

処刑するのも拷問するのも自由な相手に華蓮は『それが終わったら暇になるだろ』と言ったのだ。

とてもまともな精神構造の持ち主が言える言葉ではない。

唖然としたままのミュールヒルを尻目に華蓮は話を畳み掛ける。

「―――――だからさ、私とゲームしない?」

「ゲームゥ?」

「そ。ルールはミューちゃんが私を捕まえられたら勝ち。鬼ごっこと同じ簡単なゲームだよ。あっ、鬼ごっこって知ってるかな?」

華蓮は目を輝かせて腰に手を添えて人差し指を立て、如何にも説明する、というポーズを取る。

今に鬼ごっこの説明を始めそうになる華蓮を鬱陶しそうな顔でミュールヒルは手を振り遮る。

「そこらへんの常識は識ってるから。――――――――それにしても鬼ごっこねぇ、ソレをやるうちのメリットは?」

「ん~と、暇つぶしとこの前の勝負の決着……かな?」

その言葉を聞いた瞬間、ミュールヒルの目の色が変わる。

勿論その些細な変化を見逃す華蓮ではない。

「ミューちゃんもこの前の様な終わり方じゃあ、納得できないでしょ?」

相変わらずニコニコした表情で、ここぞとばかりに華蓮はミュールヒルを挑発する。

前回の闘いは第七神があそこで止めなければどうなっていたか。

第七神の言う様に十中八九、いやそれ以上の確率でミュールヒルが勝っただろう。

だが、条件付きとはいえ、僅かな確率で第三神が人間に負けていたかも知れないのだ。

その相手がこうして勝負を吹っかけて来て断れるだろうか。

「―――――――――ええわ、その勝負受けたる」

苦虫を噛んだような顔をしながらミュールヒルは承諾する。

「じゃあ、細かいルールの説明からしようかな」

人知れず華蓮は微笑むと、ミュールヒルに説明を始めた。

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