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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
42/72

その35 「会合」

第三神の神気と架音パフェの神気がぶつかり合い弾け飛ぶ。

両者共に必勝の結を思い描き、共に譲らない。

思いの力が、自身の心象が武器となる心具において揺るがない思いと言うモノはそのまま直結して力となる。

素の能力が幾ら桁違いのミュールヒルでも契約なしの状態で遠心型の概念心具の攻撃を受ければただでは済まない。

架音達もそれは同じで幾ら契約を結ぼうと彼らは本来傷の治りきっていない怪我人だ。

一撃で死ぬことこそないが、ただでは済まないダメージを負う。

詰まる所、この結末は相討ちでその次の行動を逸早く取った者が勝つ。

そういう結末ものであるとミュールヒルは考えていた。

その考えはある意味で正しく、事実この戦場で最も速く行動できる者がこの決闘を制した。

「――――今自分が何してんのか、解ってるか?」

写真でその風景を切り取ったかのように静止した中。

時がゆっくりと動き出すのを示すかのようにぽたりぽたりと血の滴が落下する。

「――――てめェこそ、自分が今何をしてたか解ってんのか? ぁ?」

地を薙ぎ払い、暴風を巻き起こす神鎚は架音達には届かず、荒れ狂う雷を模った様な異形の大剣に阻まれていた。

その逆側ではミュールヒルに届く数センチ手前の位置で架音の右腕が止まっている。

まさに激突するほんの僅かな間隙を狙い澄ましたかのように止めていた。

ちょうど両者の間に入る形で両者の攻撃を止めている長身の男。

架音にとっては三度目となる再会。

第七神ベイグウォードだ。

「「―――っ!」」

拮抗していた、と認識できたのは一瞬。

不発に終わった神気の奔流が出口へ流れ出るかの如く、ベイグウォードに三人とも中りを付けた。

狙ったかのような絶妙なタイミングでミュールヒル、パフェ、架音の三者が同時にベイグを攻撃する。

「おっと」

だが、ワープするかのようにベイグはその場から掻き消え、三人から少し離れた空中に出現する。

「ざまあねぇな、フレイズヴァール。加減に加減を重ねて敗北かよ。惨めなもんだな」

放たれる神気は既にシンの位階にいる架音達を威圧するのに十分なほどベイグの体から溢れ出ている。

過去に第三と第七を比較しどちらが厄介かと言えばパフェは第三と答えたが、決してそれはベイグウォードが劣るからそう答えた訳ではない。

防御に重きを置くパフェにとって相性が悪いのは第三となるだけで、今の華蓮や架音にとっては超速で移動が可能な第七神と言う存在は鬼門以外の何物でもない。

鋭く血と殺意に塗れた神気はミュールヒルとベクトルこそ違えど、遜色なく辺りを異界へと染め上げている。

彼もまた終焉を司る神の一柱なのだから。

「誰が敗北やっ!! うちがこの程度で負けるわけないやろうが、マジぶっ潰したろうか」

怒号と共にミュールヒルの神気がシンの位階まで瞬時に高まる。

それを見て架音達に緊張が走るが、対照的にベイグは侮蔑するような視線をミュールヒルに一瞬向ける。

そしてその視線をミュールヒルからそのやや後ろ側へと向けた。

「……てめェ、本気で後ろの奴の存在に気付いて無かったって言うつもりか?」

ベイグの言葉につられて架音達も視線を送ると、その先には懐刀程度の長さの剣を構えている華蓮がいた。

先程ミュールヒルを傷付けた術よりも更に精度が上がっている状態で再び同じ術が起動しており、今にも行使される手前で止まっていた。

「もうちょ~っと間に入るのが遅ければ撃ててたんだけどなぁ」

至極残念そうにしながら切っ先をミュールヒルから逸らさずに華蓮はベイグに皮肉めいた笑みを向ける。

あまりにも早い二撃目にミュールヒルの顔が一瞬素の表情になり、パフェは顔を歪めて笑う。

ソレの意味を理解したからだ。

先程の一撃は正しく彼女の全力の一撃。

ならば何故こんなにも速く華蓮が二撃目を用意出来たのか。

それは華蓮がミュールヒルと戦う気構えが架音達と根本的に覚悟が違っていた事が大きな要因だ。

華蓮は架音達が攻撃する隙をつくる為に術を使ったのではない。

一撃目はこの本命の二撃目を当てるための布石でしかなかったのだ。

狂気と言える思考だが華蓮は本当に一人でミュールヒルを戦闘不能へ追い込む気だったのだ。

成否については望み薄であったであろうが、それでもその気概は絶賛と言っても言い過ぎではないだろう。

二人の反応はそれを理解して起こった反応だ。

「―――ははっ、ほんまにおもろい奴やな。ええわ、今日のところはこれで退いたる」

華蓮を見て、大きく溜息を吐くとミュールヒルはもう戦闘の意思が無い事を示すかのように心具を消した。

「一週間待つという約束はどうするきじゃ。反故かや?」

架音に纏わり付く様に揺蕩いながらパフェがミュールヒルに問いかける。

「勿論継続する。お前らにもう一度うちと闘う気があるならな」

言うべき事は言ったとでも言うように二神は背を向け何処かへ消えようとする。

「そこの長身のお兄さん、少し質問していいかな?」

「ぁ?」

そんな二人に華蓮が声を掛け呼びとめる。

「お兄さんがあの局面で止めたって事は、あの私の術はミューちゃんにそれなりのダメージを与えられたって考えてもいいかな? 『敗北』って言葉を使う位だし」

「あ”っ?! 誰が敗ぼ…………ぐえぇぇっ」

華蓮の言葉にミュールヒルが噛みつこうとするが、ベイグが瞬時にミュールヒルの頭を押さえ、物理的に口を閉じさせられる。

「勘違いすんな、『コイツ』にとっての敗北であって、てめェらの勝利なんざ欠片もねぇよ。てめェらが幾ら追い詰めようがこいつが完全に本気になれば終りだ」

ま、それが勝利かと言われれば甚だ疑問だがな、とミュールヒルを嘲笑するかのようにベイグは付け加える。

「――――これでさっきの割り込みの非礼はチャラだ、満足したか人間」

「まだだよ、私の質問は『私の術がミューちゃんの心臓にあたる部分に当っていたらどの位ダメージを与えれていたか』お兄さんの忌憚ない意見を聞きたいな」

華蓮の質問を聞き、ベイグは一瞬剣呑そうに眼を細めるが、直ぐに面倒だ、と言わんばかりの顔に変わる。

「―――うぜぇ、調子に乗んじゃねぇよ。答えぐらいてめェの頭で考えろ」

「ま、それもそうだね」

華蓮の返事を聞いてか聞かずか、背を向けたベイグウォードとミュールヒルは瞬時にその場から掻き消えた。

                †

「―――――以上が第三神と第二神との決着の瑣末です」

暗く窓の無い一室で無機質な声で朗々と読み上げていた声が終わりを告げる。

まるで何かを祭る様な、それでいて過剰ともいえる装飾が部屋一体に血管の様に張り巡らされている。

深海の様な圧迫感さえ感じそうなその場所に二人、向き合ったりはせず同じ方向を向いて佇んでいる。

一人は霧の様なベールに包まれ、存在が今にも霞んでどこかに消えそうな人物。

一人は彫像の様に停止したまま個としてぶれ様が無いくらいに一切の揺らぎが無い人物。

対照的とも言える二人の構図。

一致している所と言えば生き物としての存在感が希薄と言った所だろうか。

それはさておき、前者が報告を受けていた側で後者が報告をしていた側と言う訳だ。

二人の在り方は報告が終わった今でもそれは同じで、深く思慮するかのように、或いは何かを待つかのようにただ沈黙を続けている。

「……………そう。それで?」

ふっと息を吐き、初めから沈黙を続けていたベールの人物がゆっくりと口を開く。

「―――――」

が、問いを投げられた方は機能が停止した機械の様に不動のまま反応を示さない。

「私に直接報告しに来て『それだけ』か、と聞いているの。私の言っている事が理解できない訳ではないでしょう。ねぇ王国の門番さん?」

名称か、称号か、あるいや何かの隠語か。

それに準ずるであろう名称で呼ばれたにも拘らず、聞き返されたソレは身動ぎ一つしない。

先程まで言葉を発していた事を踏まえても一種のオブジェと呼んでも過言ではない程だ。

その様を見てもベールの人物は気にした素振りは見せない。

慣れなのか諦めなのか。

或いはこの光景が正常なのか。

どちらとも判別できない中、深い闇と長い静寂が訪れる。

「「――――――――――」」

永遠に続くかと思われた沈黙を破ったのは王国の門番と呼ばれた方だった。

「――――――いつまで第三神と第七神、そして第二神を放置するつもりです。彼らを放置するのは私達の目的から外れていると思いますが」

相も変わらず無機質な声音ではあるが、何処か問い詰めるような色が混ざっている事にベール人物は内心笑みを浮かべた。

こんな珍しい事もあるものだ、と。

「それは私が私情で彼らを放置している、と言いたいの? ―――――彼らを一時放置する事はあなたを含めた私達の総意だったはずと、私は記憶しているのだけれど」

「はい、確かにその時は賛成しました。ですが、それは論点のすり替えです。あなたはその時何時まで放置するのか明確な期日を示さなかった。その答えを今ここで示して戴きたい」

「どうして? それは別に次の会合でもいいはずよ。今ここであなたと二人きりで話す話題ではないわ」

一方は刺す様に詰め、一方は切り捨てる様に突き放す。

第三神と第七神の様な直接的な神気のぶつかり合いこそないが、闘争の火種になりそうなものが燻っている。

彼等の関係を見るに、仲間と言うよりは同盟相手、と見る方が正しいのであろう。

そして此度の衝突が元より相容れないのか今回限りなのか不明だが、二人の間に言い様の無い溝があるのは確かだ。

「―――――私は…………あなたと同じ目的で此処に居るつもりです」

「えぇ、勿論よ。私達は此処を護るために選ばれたのだもの、違っているはずが無いわ、当然よね?」

「その目的を果たす為ならばあなたに捨て石にされようとも厭いはしません」

「見上げた忠心ね。神王が聞いたら泣いて喜ぶんじゃないかしら」

「――ですから、その目的を妨げると言うのであれば盤上諸共壊してでも排除するつもりです」

「まるで私が邪魔をするみたいな口振りに聞こえるわね」

「………私は――――あなたの選択を信じています」

互いに独り言を言い合っている様な、そんな違和感を覚える様な奇妙な会話が終わる。

王国の門番と呼ばれた者は先程の言葉を最後に徹頭徹尾彫像の様に一切の表情を変える事無く、相手に背を向け動き出す。

「一週間後」

無言で立ち去るその背中に向けてベールの人物は振り返る素振りを見せず独り言の様な声を大きさで呟く。

聞いてか聞かずか、相手は動きを止めずそのまま進んでいく。

「一週間後に彼らを排除するわ。そう、残りの二人にも伝えておいて」

「――了解しました」

振り向きも会釈もせず、承ったと言い捨てそのモノは消える。

初めから一切の視線を動かさなかったベールの人物がそこにあるナニカを見ながら独り言つ。

「一緒だといいわね、目的が」

そう言うと、薄い笑い声が暗い部屋の中を反響して消えていった。

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