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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
36/72

その29 「不機嫌」

「――――報告。ターゲットである輪廻架音及び第二神の生存を確認。徒歩二十分以内の領域に輪廻架音のキョウダイを確認、ターゲット向かって接近中。二分以内にターゲットに接触すると推測する。ターゲットの捕獲、若しくは破壊の為の制限時間凡そ二分弱。破壊のみ遂行する場合、所要時間最長で五秒。捕獲する場合、所要時間最長で一分強。ただし上空の第七神、第三神に何らかの妨害にあう可能性約90%。二柱に気取られず目的を遂行するにはプラス五分必要となり、キョウダイに接触する必要あり」

カーテンが締め切られ、唯一の光源である部屋の中央に鎮座する巨大な機械のランプがフローリングの床を照らしていた。

声はその機械から漏れており、その場には他に人どころかそれ以外の物が一切置かれていない。

遥かな未来を連想させる巨大な機械と現代の寂れた洋室の組み合わせは、何とも言えぬアンバランスな光景を生みだしていた。

「――――了解。ミッションに変更箇所なし、引き続きミッションを継続します」

機械の中から再び抑揚のない声が聞こえる。

誰かと会話しているのか、それとも誰かの会話を聞いているのか。

或いはただの録音された音声を流しているだけなのか。

そんな錯覚に陥る程、その声には感情と言うべきものが籠められていなかった。

会話している相手の声が聞こえないのもその錯覚の一因となっている。

「―――――――」

短い沈黙の後、機械の駆動音が変わる。

どうやら会話が終わった様だ。

だが、変わったのはそれだけで、その機械以外は時の止まったままだ。

もし、先程の声の主が機械の中に入っているとしたら人間……いや、生物ではない。

機械と完全に一体化しているソレはきっと部品と呼ぶ方が相応しいだろう。

そう薄ら寒く感じる程、部屋の音は機械の駆動音のみが一定のリズムで響いていた。

その一定を保たれていたリズムが僅かな震えと共に狂う。

変化としては誤差以下の極小の変化。

それでもそのノイズは確かな音として世界に記録される。

「―――――――――馬鹿」

声の主が初めて感情めいた言葉を吐き出す。

他人に聞かせるどころか自分にすら聞こえているのか解らないほど小さな声。

後悔とも、侮蔑とも取れるその声は静かに闇の中へ溶けていった。

後には元の機械の駆動音のみが何時までもその部屋のBGMを奏で続けていた。

                †

『―――町に突如出来た深い穴は世間一般では黄泉へ続く穴ではないかと噂されておりますが、専門家の方はどう思われているのでしょうか?』

『恐らくは地殻変動による……』

あれだけ多くの被害が出たというのに、頓珍漢な解説を垂れ流している広告用モニターから無理やり意識を外す。

大騒ぎすると予想していた世間は、今までと殆ど変わらず。

いつもの日常を誰もが続けている。

誰も彼もが疑問に思わない。

病院の混雑も、葬式場の盛況も、机に置かれる花瓶にも。

偶然不幸が重なった。

そんな程度の認識しか持ち合わせていない。

この胸糞悪くなる現象はパフェ曰く世界の修正だそうだ。

世界は世界が物理的に起こせる事象の限界を超えた事案が発生すると、それに統合性を持たせる為に世界が起こせる範囲の事象に徐々に書き直し修正するのだそうだ。

物理的に死にすぎた人々は別の要因の死へ書き換えられ、歴史に記録される。

ある者は火事による焼死。

ある者は首吊りによる自殺。

ある者は事故による事故死……etc.

皆、跡形もないのに病院に運ばれ、臨終と告げられる。

気が狂ったような世間に憂鬱になる。

とは言え、目下憂鬱の種は目の前の存在なのだが。

「………………まだ怒っているのか?」

俺はギプスで固定された右腕に気を使いながら、目の前の黒髪のお姫様に歩を合わせる。

肩を怒らせながら、今にも何かを破壊しそうな気勢だ。

そんなパフェの足がピタリと止まる。

「当たり前じゃっ!!」

くるっと此方を向くと、噛みつかんばかりの勢いで怒鳴り立ててきた。

歩道の真ん中でいきなり大声を出したせいで何事かと通行人の注目を集めてしまう。

最近注目を浴びてばかりだ。

溜息が出る。

渦中の人であるパフェはそんな事己には何の関係も無い、という様に周りの様子を一切気にしていない。

というより目に入っていない、と言った方が正しいだろう。

それだけ怒りが溜まっている、という事なのだろうが今一つ原因が解らない。

前回の闘いの後、姉貴たちに救出されてからパフェは、ずっと機嫌が悪いのだ。

腕の治療が終わるまではやや不機嫌、といった感じだったが、そこからどんどん機嫌が悪くなりたった今爆発した所だ。

短い付き合いだが、何時もにやにや笑っているイメージだったので今のパフェは俺にはどう扱ったらいいのかいまいち解らない。

なので情けない話だがこうしてパフェの要求をのみながら平身低頭するしかない。

その第一の要求が『デートに連れて行け』だった。

だからまあ、こうしてパフェを街中へ連れ出した訳だが、怒りは収まるどころかどう見ても悪化している。

余談だが、俺の右腕のギプスは格好だけで、実際は姉貴によってその下に幾重にも結界を張り巡らされ、封印紛いの扱いを受けている。

遠心型の概念心具による傷は、自己治癒によってゆっくりと時間を掛けねば治らず、腕の外傷も予断を許さないレベルで損傷しているので、外部から隔離する形で治療するしかないからである。

「なあ、いい加減何を怒っているのか教えてくれないか? 謝るにしたって訳も解らず謝ってもそっちの気は収まらないだろ」

お手上げな俺はパフェになぜそこまで怒っているのか尋ねた。

どうやらそれが拙かったらしい。

ピキッと音がする位綺麗にパフェの顔に青筋が立つ。

確信できる。

間違いなく今俺は地雷を踏み抜いた。

「~~~っ!! 主様は……最後っ! この吾をっ! 放り投げたのじゃぞっ?! 怒らぬ筈がなかろうっ!!」

鼻息が当たるくらいに迫ってくるパフェに俺は思わず仰け反る。

第九神に俺の所為で負けて、その事で怒っていると思ったが、どうやら違うらしい。

「アレはだな………、少しでも生存率を上げようとしてだな……」

パフェの気迫にのまれ、弁明しつつも一歩二歩と下がっていく。

それと同時にパフェは更に前進し、距離を詰めてくる。

結果、距離感はさほど変わらず他の通行人に煙たがれながら壁際に後退する。

「それは吾だけの生存率じゃろうがっ!! もし第三神が止めなければ今頃主様だけ死んでおったかもしれぬのじゃぞ?!」

「二人共々死ぬよりは一人生き残ったほうがいいだろ。現にお前だって第九神を倒す為に犠牲になろうとしてただろ」

「戯けっ!! 誰が犠牲になると言った? 吾は死なんと言ったじゃろうが。何故信じん」

もうこれ以上下がれないところまで来てしまった俺は、ぐいぐいと近づいてくるパフェを左手で押しとどめる。

それに伴いパフェの言葉はさらに勢い付く。

俺の弁明は結果として火に油を注いだようだ。

だが、流石にこうまで一方的に罵られるのは納得できない。

「じゃあ、第九神の攻撃を喰らった後どうなるか、嘘偽りなく詳しく説明出来るのか?」

だから俺は意地悪な質問を返した。

「―――――それは、じゃな………」

パフェは俺から少し離れるとバツが悪そうに言葉を濁す。

その態度がそのまま質問の答えとなっていた。

「答えられないだろ? だったらここはお互い様、って事でいいだろ」

「い~や、やはり駄目じゃ。吾は良くても主様がするのは駄目じゃ」

それでもまだ納得がいかないのか、先程の様に近づきはしないがキッと睨みつけてくる。

最早そこに理論は無く感情論で、ヒステリック気味になっている。

「そこはほら、男が女を護るのは当然、みたいな理屈じゃダメか?」

個人的な心情としては男だ、女だ、あまり言いたくはない。

かと言って女権拡張論者の様に男女平等を掲げたい訳でも無い。

個体に能力差があるのは当たり前だし、それを無理に是正しようとすれば歪になるからだ。

要するに俺が言いたいのは男だ女だ言わずにその時に相応しいものがすればいい、という事だ。

「主様は一つ勘違いをしておる。確かに雌は雄に護って貰うのを好む傾向にある。じゃが、それが雌の方が弱いという事実には結びつかん。真に雄が雌を護らねばならん状況は一つだけじゃ」

「その一つとは?」

稚児ややこをその身に宿しておる時のみじゃ。吾の中に主様の稚児はおるか? それともあの行動は求婚の証と受け取ってよいのか? 何なら今ここで子作りでもするか、ん?」

自棄になったのか、ジーンズのボタンをはずし、チャックを下げ、いきなりズボンを脱ごうとし始めるパフェ。

しかも何故か下着は履いておらず、真珠の様な銀白色の肌が眼に飛び込んでくる。

あまりの行動に俺だけではなく周りの人々までぎょっとし、一瞬パフェ以外の世界が止まる。

「……わかった、わかった。俺が悪かった。頼むからズボンを下ろすのはやめてくれ」

すぐさま我に返った俺はパフェの腕を掴み、それ以上ズボンを下ろすのを阻止する。

何なのだろうこの絵面は。

はたから見れば俺が犯罪者に見えるのではないだろうか。

だからと言って俺が手を離せばそれはそれで不味い事になるだろうし。

引くにも引けなくなってしまったこの状況に自分の浅墓さを呪う。

「なんじゃ、見られるながらスルのが嫌なのかや? ならば―――ほれ、そこの路地裏で心具の結界を……」

そんな俺の表情を見て何を思ったのか、パフェは一旦ズボンを上げる。

そして素早く俺の左腕に抱きつくと路地裏へ連れ込もうとする。

大丈夫じゃ、痛いのは最初だけ、ととんでもない事を言いながら強い力でずるずると俺の手を引っ張るパフェ。

これは本格的にまずいと思った俺はパフェの手を振り払い、片手でパフェを抱き上げると近くのファミレスへ駆け込んだ。

「!? い、いらっしゃいませ……」

腫れものでも見る様な目のウェイトレスに案内され、窓側の席に着く。

完全に危ない人を見る目だった。

パフェが暴れていれば完全に通報された事だろう。

かなり空回りしている感があるが、やっとこれで色んな意味で腰を下ろせる。

そう思っていた矢先だった。

「室内遊戯でもするのかや? しかし、どうせ室内で致すのじゃったら夢のお城とかいう場所の方が……」

きょろきょろとあたりを見渡しながら向かい側の席についたパフェが、まだ何も終わってはいない事を俺に思い出させるようなセリフを吐いた。

「あーっ! もういい加減そのネタから離れろ」

流石にやりきれなくなり、少し声を荒げる。

さっきから下ネタを連発しておっさんか、と突っ込みたくなる。

パフェはまだ納得いかない様な顔をして、ネタではないのじゃがな、と呟く。

無視だ、全力で無視しよう。

無視を決め込んだ俺は、再びやってきた先程のウェイトレスがテーブルに水を配っているところを黙って見ていた。

「御注文がお決まりになられましたら備え付けのボタンによって御呼びください」

愛想も無く淡々とテンプレ口上を述べ、一礼して去ってくウェイトレスを尻目に視線をパフェに戻す。

「――確かに俺はお前の癇に障る事をしたかもしれない。謝罪は当然しよう。だが、アレはそこまで怒る事か? 俺もお前に同じ様な事をされた時確かに怒りは感じた。でもそれはお前に対する怒りじゃなく、自分の不甲斐なさに対する怒りだ。『結局俺は無力で何も出来ないのか』ってな」

行儀悪くパフェは片膝を椅子の上に立て、そこに肘を載せ頬杖をついていた。

興味なさそうに窓の外を見ながら俺の話を聞いていたが、深く息を吐き出すと此方に向き直った。

「―――――主様の心具。腕の形をしておるが、アレは何を思って創った?」

「何って………言わなきゃダメか?」

突然心具の話題になったとこで戸惑いつつも応答する。

キチンと回答しなかったのは咄嗟に答えが出なかった訳ではなく、ただ単にあんなこっ恥ずかしい事を口に出して言いたくなかったからだ。

「いいから言うのじゃ。言わなければ今ここで合体するかの二つに一つじゃ」

いつもの様に茶化して言う訳ではなく、冷めた眼差しで俺を見つめる。

妙な威圧感に押され、俺は渋々と口を開く。

「…………………『取り零さぬよう、無くさぬ様、伸ばした腕で掴み取りたい』みたいな感じだ」

極力小さな声でまだの外を見ながらぼそぼそ述べた。

後悔はしてないし、これでいいとは思うのだが、何でこう口に出すとこういうモノは恥ずかしいのだろうか。

「その『腕』で掴み取りたい対象に吾は入っておるか?」

パフェがどんな表情をしているか解らないが、更に恥ずかしい事を聞いてくる。

「――――あぁ、一応入っている」

そう言った瞬間背筋がぞくっとする。

まだ窓の外に視線を向けているので大体しか解らないが、パフェが座っている辺りから本物の冷気が流れ込んでくる。

本物と言い切るのは冬でも無いのに窓の内側に氷が出来始めたからだ。

見なくても解る。

パフェは間違い無くキレている。

「……一応?」

ゆっくりとパフェが訊き返す。

あふれ出る陰気と神気で今度は怖くてパフェの方を向けなくなった。

「い、いや……確実に入ってる」

堪らなくなり、そう答えた。

久しぶりにパフェに恐怖を感じた。

「ならばその対象に『主様自身』は入っておるか?」

俺はゆっくりと視線をパフェに戻す。

「―――――何が言いたい?」

「主様とは出会って短いが、その間吾はずっと見てきたつもりじゃ。そしてこの前の闘いを経て確信した。―――――――主様は己の命を何とも思っていないじゃろ」

「そんな事はない。俺だって死ぬのは嫌だし、怖い」

「ならば自分にとって大事な人の命と己の命が秤に掛けられた場合、自分の命を取る場合もあり得る、という事じゃな?」

ジッとパフェは俺の瞳の中を覗き込んでくる。

心の奥、触れられたくない領域まで踏み込んでくるその瞳から視線を外せない。

「…………………」

いや、それどころか俺は答える事が出来なかった。

誰だって死にたくはない。

時と場合によっては自分の命を選ぶことだってあるはずだ。

いや、大多数は自分の命を選ぶはずなのだ。

だから俺がこの問いにYESと答えたところで何ら問題ないはず。

なのに――。

「断言する。主様が己の命を選択する可能性はあり得ん、とな」

「――ッ!!」

俺が答える前にばっさりパフェに切り捨てられる。

そしてそれに対する反論が一切できない。

幾らでも言葉は思い付くはずなのに何も言えない。

「何故吾が怒っているか解るかや? それは主様が吾より先に死のうとしておるからじゃ。それが悲劇のヒーローを気取っておる偽善者ならまだよかった。そう言う奴らは結局悲劇の中にいる己が好きなだけじゃからな。じゃが主様は違う。恐らく主様は己を見てすらいない。じゃから流されるままに生き、そして簡単に己の命を放り出せてしまう。いや、違うの。放りだすのではなく、危急の局面で己の命の計算が初めからないのじゃろう。だから迷わず他人の命を選択できる。違うかや?」

パフェの言う言葉は正直暴論だ。

俺は欠落だの何だのと、特別性を謳われる様な人間じゃない。

だがしかし、あながち的外れ、という訳でも無い。

確かに俺は少し自己犠牲の精神が強いのかもしれない。

総ての人間が軽度の精神病と診断できるようにパフェはそれを誇張表現で表しただけだろう。

「あぁ………そう、なのかもしれない。だが、それでも俺は……」

「解っておる。心具にそんな思いを込めれる時点で生半可な願いじゃないと解っておる。あの時の様に吾と主様の命が秤にかけられれば必ず吾の命を選ぶじゃろう。それが嬉しくもあり、哀しくもある。残るのはやるせなさだけじゃ。前に言ったじゃろ、独りは飽いたと。なのに主様は吾を置いて先に逝こうとする。どうせ死ぬのであれば吾も一緒に死んでもかまわんじゃろうに」

疲れた様な表情で笑うパフェに俺は何も言えなくなる。

生きると言う道が必ずしも救いでない様に、死は時として救いとなり得る。

それが遥か、太古の昔から生きてきたパフェなら尚更だ。

「――――ッ」

軽い頭痛と共に、既知感と吐き気を催す。

――なんだこれは?

俺はこういう奴を何人も見てきた気がする。

そんな奴俺の記憶に一人もいないのに。

「――――それすら我が儘と拒否されるのであればせめて主様の子をくれ。そうすれば吾は独りじゃない」

俺の反応を見て否定と捕らえたのか、再びパフェはトラブルの元となる話へと戻す。

今度は冗談ではなく本気で言っているのが解る。

いや、先程のセリフだって恐らく本気だったのだろう。

「そう言うのは恋人同士になってからするものじゃないのか? まだ返事をしていない俺が言うのも卑怯かもしれないが」

「何も認知しろ、父親になれ、といっとる訳ではない。主様の願いを汲み、主様との心中にお伴出来ぬと言うのであれば、せめてもの情けをくれ、と言っておるのじゃ」

「……………」

―――あれ?

何か会話の流れがおかしい。

シリアスな話だったはずがいつの間にか俺とパフェがナニをする話になっている。

パフェを護って死ぬと言う願い、これは俺の我が儘なのか?

いや、そもそも会話の流れが俺が死ぬ事前提なのがおかしい。

「待て待て、確かにどうしようもなくなれば、そう言う選択も解るが。脅威であった第九神は死んだわけだろ? だったらそこまで気合を入れなくてもだな……」

「何を言うかと思えば主様。この街には第三、第六、第七神がおるのじゃぞ? 何時死んでもおかしくない状況じゃ。今こそ絶好の機会じゃろ」

――なんの好機だ。

どんどんと外堀が埋められ逃げ道が無くなって言っている様な気がする。

真剣な表情のまま身を乗り出してくるパフェ。

「わ、解った。もし今度そういう局面になったら二人とも生き残れる道を探す事を約束する」

「いや、主様はそう言っておきながら最後吾を再び放り投げたりしそうじゃから信用ならん。確実性のある子の方をくりゃれ」

パフェはがしっと俺の手を両手で掴み、ゆっくりと撫でる。

ひんやりとした指が手の甲をゆっくりと往復し、非常にくすぐったい。

今すぐ手を振りほどきたいが、何故か手は固定されたまま動かない。

「だからその、そう言う話は結婚の後にだな」

「何が気に食わんのじゃ。自分で言うのも何じゃが、中も外も人とは比べ物にならん器量良しじゃ。唯一負けている所があるとすれば……………………」

パフェは視線を胸元へ向ける。

俺もつられてパフェの視線の先を追う。

慎ましやかな膨らみが二つそこにはあった。

パフェはそこに自分の手を当て、軽く形を変える。

「のう主様」

「何だ?」

「そう言えばお義姉さまの乳は大きかったの」

パフェの胸を見ながら自分の姉の胸の大きさを思い出す。

何をしているんだろうか、俺は。

「まあ、人並み以上ではあるな」

何となく大きいと明言する事を避け、当たり障りのないセリフを返す。

人並み以上。

自分で言ったはいいが、そもそも誰と比べて人並み以上なのだろうか。

大きい小さいで言えば大きい部類に入るはず。

なら何思って俺が大きいと認識しているかだが。

目の前にある半球状の物へ意識を向ける。

とてもじゃないが大きいとは言えない。

つまりはそう言う事だろう。

そう言えば姉貴と並んで歩いている時は、よくすれ違う男からの視線が何度も姉貴の胸元へ行くのを見たな。

アレはそれだけ目立つ、と言う事。

だからなんだ、という話だが。

「……………」

パフェは眉間に皺を寄せ、黙り込む。

暫く黙りこんでいたが突然、ハッと何かを思いついたかのように電球マークを頭に浮かべる。

「主様は………シスコンなのかや?」

片手で俺の手を握り、片手で自分の胸を掴みながらパフェはそんな事を聞いてくる。

何でその結論に達したか詳しく聞きたい。

「よくよく考えてみればそうじゃ。姉弟とは言え年頃の男女が二人っきりで同じ屋根の下で暮らしておるのじゃ、何か起きないはずがない。加えてあの乳……主様が吾に手を出さないのも解らないでも無い」

うん、うん、と一人得心がいった様に頷く。

………前言撤回、聞きたくなかった。

「じゃがの、主様よ。重要なのは体の相性であって乳の大きさではない。そりゃあ色々挟めぬかもしれぬが、体はほぼ融合したようなもんじゃ。内外混ざり合い相性抜群に決まっておる」

「酔ったおっさんかよ」

思わず突っ込んでしまう。

それも今度は口に出してだ。

自分の心の声すら卑猥な文章に見え始めてきた俺はパフェに完全に毒されているのかもしれない。

長々と下ネタを続けるパフェに俺はいい加減うんざりして注文のボタンを押すのであった。

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