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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
25/72

その18 「概念」

道行く人々の視線が突き刺さる。

目を細め、険呑な雰囲気でこちらをちらちらと見ながら俺の横を通り過ぎていく。

時刻は午前十時ごろ。

通勤ラッシュに鉢合わせなかっただけましと言えるが、それでもやはりこれは何の罰ゲームだろう。

ゲームや漫画に出てきそうな黒い東洋風の衣装を身に纏い、街中を闊歩している。

そして呪詛の様な刺青の入った右手を真剣に見つめ、眉間に皺を寄せ唸っているのだ。

誰が見ても変人だ。

俺も同じような奴がいたらお近づきになりたいとは思わないだろう。

そして極めつけはそばに誰もいないのに何かと会話するように言葉を発しているとこだろう。

もうここまで行くと警察に通報されるかもしれないレベルだ。

そんな事を考えながら右手に霊力……マナを循環させる。

ぐるぐるマナが回るだけで一向に心具が出来る気がしない。

「主様、雑念を捨てよ。そんな事ではいつまでたっても先に進まぬぞ」

と左肩辺りから声がする。

「解っている」

辺りに聞こえない様にぼそっと呟きながら俺はマナの循環を止め、息を大きく吐き出す。

どうしてこうなったのか状況を整理しよう。

朝、俺は先輩と学校へ向かった。

やはり夢渡達に目をつけられている状況は拙いという意見が俺達の中での総意だった。

現状交渉の材料が零に等しいので和平は難しいかもしれないが、それでも会う事によって何らかの糸口が見つけられるかもしれない。

昨日の今日で夢渡を挑発するような行為もどうかと思うが、一応これでも俺は学生だ。

学生が学校に行って何が悪い、と言う逆切れに近い理論で踏ん反り返り、とまではいかないが夢渡に咎められたとしてもいい訳が立つ。

とまあ、意気揚々と向かった訳だが。

「まさか俺まで入れなくなっているとはな」

そっと溜息を吐く。

校門を抜けようとするなりあの時のパフェと同じように先輩にパントマイムショーを晒す事となってしまった。

予想外と言えば予想外だが、当然と言えば当然の結果だった。

で、入れなくなってしまった俺達は学校の件は先輩に任せて、街中で囮作戦兼修行中と言う訳だ。

街中で力も隠さずに力の放出の練習をしていればいやでも目につく。

それで夢渡達を釣れるのなら、それはそれで最初の目的通りだし、パフェの追っている終焉神が喰らい付くのならば予定通りと言う訳だ。

問題があるとすれば今襲われたら俺は対処できずに忽ちやられてしまうだろうと言う事だ。

だからこそ囮として機能しているのだが、如何せん綱渡りが過ぎる。

鴨葱どころか、刺し身が醤油と山葵を持ってうろうろしている様な美味しいと言うより胡散臭い状況だ。

まともな神経の奴ならば罠を警戒して逆に手が出せないレベルの無防備さだ。

罠を警戒して襲ってこないで、見張っている時間を利用して戦えるレベルまで強くなる。

有り得ないからこそ出来る心理をついた作戦だと思う。

実際はまあ時間が無いので全部同時進行すればよい、と適当なパフェの言葉から出た作戦なのだが。

「主様も意外と抜けておるの、まさかこんな体になってもまだ人間の扱いを受けれると思っておったとは」

にやにや笑いながらパフェは俺のほっぺたを突いてくる。

先程の俺の呟きをしっかりと拾っていたようだ。

何処にいるのかと言うと深夜の時と同じくデフォルメ化されておりアニメにいる妖精の様に俺の周りを漂っている。

周りの人間には感知出来なくなる様に術を施している所為で本当に妖精の様な存在になっている。

いい意味でも悪い意味でも。

「……当たり前だろ。こんな体も何もそう実感できるほどの時間はたってない」

今現在戦闘形態とやらになっているが、体が軽くなり、感覚が鋭くなっている、程度にしか今のところ感じない。

恐らく統合がまだ取れてなく正しくやり取りが出来ていないのだろう。

「あまりちんたらしておる時間は無いぞ。いくら相手が警戒するからと言っても獲物が強くなっていくのをただ眺めている阿呆はおらぬ。また、罠が無い事を早々に見破った場合、ただちに襲いかかられる。焦る必要性はゼロじゃが、時間は無駄に出来ぬ。―――――それでどこまで話したかの?」

「概念は原則一人一つと言った所だったかな」

俺は再び右手に力を込めながら返事をする。

心具を出す修行をしながら同時並行で概念心具についての講義もやっている。

耳を傾けながら意識を心具へと集中させろと言うことらしい。

無茶を言ってくれる。

「そう、原則一つじゃが稀に二つ以上持っておる奴がおる。かなり稀じゃがの。で、話を戻すが概念ルールにはただ一つの例外も無く完全上位互換が存在しない。どれも部分上位か相互互換になっておるだけで全てにおいて上と言うのはありえないのじゃ。ま、飽くまでこれは比較対象が同じ実力という前提じゃが。つまりじゃ、実力が拮抗しやすい終焉神クラス同士の争いになると何が優劣を分けるかは概念の相性となる訳じゃ」

パフェはグー・チョキ・パーの書かれたプラカードを取り出すと右手と左手でじゃんけんをし始める。

「そこで重要になってくるのが求心型と遠心型。簡単に説明すると概念ルールの掛かり方の分類の事じゃ。概念ルールの掛かり方には二種類あって遠心型と求心型に分けられておる。字の如くじゃが遠心型は心具の外側に向かってルールを及ぼすタイプじゃ。対して求心型は心具の内側にルールを及ぼすタイプじゃ。こう、言葉で説明すると解った気になるかも知れぬが、実際に相手の型を判別するのは意外と難しい。相手の概念が解らないとそれが内にかかっているのか外にかかっているのか、全く判別がつかない場合が多い。例えば主様、吾はどっちだと思う?」

急に質問を振られ、半ば無意識に動かしていた足を止める。

パフェの概念は『浸蝕』だ。

パフェの心具であるあの闇に触れる物を全て飲み込む。

パフェの概念が作動するには何かに心具を触れさせる必要がある。

つまり外に干渉して取り込んでいる訳だ。

だから心具の外に向かう遠心型のはず。

「遠心型か?」

「まあ、そう思うじゃろうな。実際吾に概念心具で体を無くした主様でさえそう思うのじゃからよっぽど何じゃろうが、外れじゃ」

×と書かれたプラカードを取り出し、掲げる。

用意周到と言うか、いつこんな物を用意したのだろう。

愉快そうに俺の周りをぐるぐる回るパフェを見て軽く息を吐く。

本当にコイツといると緊張感と言うものが無くなってくる。

「二択なので外した時点で答えは解っておるじゃろうが、こほん、一応言っておくと、正解は求心型じゃ」

「照れを咳で誤魔化す位なら始めから言わなければいいだろ」

「煩いぞ主様。吾はこうしてクイズを出すなど初めての機会なのじゃ。少しは堪能させてもらっても好いじゃろ」

口を尖らせながら◎のプラカードで顔を突いてくる。

今のパフェサイズに合わせたプラカードなので先が尖っていてちくちくする。

「え~、主様が間違えた通り、二種の違いは解りにくい。それでじゃ、求心型、遠心型の違いが解る様図にしてみた」

パフェは新たにプラカードを出す。

そこには頭:正常 体:正常 腕:正常 足:正常

と簡単な人体の絵とその個所に呼応して書かれた表があった。

「例として『燃焼』と言う概念を用いる。まずは遠心型からじゃ」

そう言うとパフェはプラカードを一枚めくる。

何処か紙芝居の様になってきた。

『燃焼』と書かれた人型が先の人体の絵の腕に触れている。

新たに出てきた人体にもそれぞれの状態が書かれており、頭:正常 体:正常 腕:正常 足:正常

となっていた。

「これで接触。これから概念による干渉が始まる」

更に一枚プラカードをめくると、そこには腕が燃えている人体の絵があった。

そしてその人体に呼応する表は…。

頭:正常 体:正常 腕:燃焼 足:正常

となっていた。

もう一つの『燃焼』と書かれた表は変わらず頭:正常 体:正常 腕:正常 足:正常

のまま。

「次は求心型じゃ」

再びプラカードのめくられたページを戻す。

先程と同じく頭:正常 体:正常 腕:正常 足:正常

とある。

ぱらっとパフェがページをめくる。

そこには先程の二枚目と殆ど変らないページがあった。

ただ、一つだけ変化している場所があり、『燃焼』と書かれた人型の表の腕が

腕:燃焼

となっていた。

そして接触。

腕が燃えている人体の表は

頭:正常 体:正常 腕:火傷 足:正常

となっていた。

そこでパフェはプラカードをしまい込む。

「つまりじゃ、遠心型は己の概念ルールを触れた場所に上書きする事で相手に干渉して直接変化させる。求心型は己の概念ルールによって変化した己の体が触れた部位が物理法則にしたがった結果、変化した。と言う訳じゃ、理解出来たかの?」

眉間に中指を当て、パフェの言葉を反芻する。

「えーっと……あんたの言った言葉に当てはめるなら………あんたの概念ルールはあの闇にその性質を持たせる事によって触れたものをバラバラにしているのではなく、取り込んだものが結果バラバラにされている。と言う事なんだな?」

心具を出す特訓を忘れて回答する。

何となく言っている事は解る。

要するにこの二つは結果が同じでも目的は違うと言う事だろう。

パフェの例にあった『燃焼』で考えると遠心型は相手の状態を『燃焼』にさせることが目的で当然相手は燃える。

求心型は自分の状態を『燃焼』にさせる事が目的であって相手を燃やす事は副産物的なものでしかない。

と言った所だろうか。

パフェの概念『浸蝕』で考えてみても。

相手の状態を『浸蝕』にするのか、自分の状態を『浸蝕』するのかの違いで、パフェは後者であると言うだけだ。

「………………」

相手の状態を『浸蝕』

相手は削られる。

自分の状態を『浸蝕』

自分が削られ続けている状態。

つまりミキサーの様な物、か。

しかし外から見ればどちらも黒い布。

触れれば削られる。

少なくともパフェの概念を見分けるのは無理じゃないか?

「取り敢えず解ったと、思う。だからこの二つを見分けて何のメリットがあるか教えてくれ」

迷宮入りしそうな思考を放棄し、役に立つであろうかどうか先に選別する事にする。

真面目に考えて理解し、判別出来る様になったところで

『いや? ただ二種類あるだけじゃが?』

とか言われた時には目も当てられない。

「そうじゃな、まず遠心型と求心型の特性は先に話した通りじゃが、神に対する影響は話しておらんと思う。その前に契約の話になるのじゃが何処まで聞いておったかの?」

「契約を結んだ者は概念心具以外の攻撃を殆ど受け付けなくなる。一応物理攻撃も効くが、異常なレベルで硬くなる。あと記述、世界の法則の改竄、くらいか」

「ふむ、その記述についてまずは述べるか。契約を結んだ時の記述の改竄についてじゃが、前にも述べた様にこの世界の事柄は万事が式で成り立つ。もっと言えば全ての事象はこの式を経由しなければ起こり得ない。これは例え終焉神であろうとも完全に突破する事はほぼ不可能じゃ。どれだけ強い神であろうとも『理』による補正をかけられては規模の大きい怪物程度までなり下がってしまう。じゃが、主様も見た様に神は凡そ物理法則を無視している。先程式を突破するのはほぼ不可能と言っておきながらじゃ。その理由が記述にある。この世は式で成り立つと言ったが、それにはまずその式に代入する為の情報、記述が必要じゃ。それが所謂アカシックレコードなどと呼ばれる情報世界の事じゃ。そこには全ての存在の記述の情報が詰まっておる。世界はそれをもとに種族や環境、血統や物理法則の補正をかけて式に代入する。実はここに付け入る隙が存在する。式の改竄や無視は難しい、が、代入する己の値ならばまだ干渉が出来る。それを安易に可能にしたのが契約じゃ。契約とはその情報世界の記述を無理やり固定し式に代入できるようにする神技じゃ。じゃから神は物理法則には囚われんし、物理的に有り得ない耐久を持つ事が出来るのじゃ」

「で、それと求心型、遠心型と何の関係があるんだ?」

「せっかちじゃのう、それを今から説明すると言うのに。先も言った通り神は契約により記述を固定化している事から途轍もなく強固じゃ。それこそ普通の心具ですら殆ど傷が付かないほどにの。ここで概念心具によるダメージの与え方が重要となってくる訳じゃ。まずは遠心型、これは概念ルールを相手の固定化された記述に上書きしながら攻撃することが可能なじゃ。即ち『燃焼』の場合、相手が氷であれ、不可燃物質であれ、またマグマや爆炎などであってもその上から『燃焼』する事が出来ると言う訳じゃ。次に求心型じゃが、こちらはそうじゃの……遠心型と比べて言うならば正攻法じゃ。遠心型が相手の記述を己のルールで上書きして攻撃するのに対して、求心型は己の概念ルールにより自身の記述の固定化をさらに強固にし、己の硬さで相手の記述を削る事によってダメージを与える。遠心型と比べそのダメージは微々たるものじゃが強固さで言うなら求心型が遥かに上じゃ。吾で言うならば全力時の吾は遠心型以外の概念ルールでは全く削れ無くなる程硬い、と言えばわかるじゃろうか?」

パフェは今現在は求心型でも普通に削れるがの、と付け加えた。

パフェの硬さの秘密はここにあった訳だ。

「ちょっと待て、昨日戦ったあいつ……第六神はどっちなんだ?」

純粋な疑問と言うか、今後の単純な問題。

もし夢渡が求心型、第一契約の時点でパフェがあれほど消耗するのであれば、この先遠心型の第二契約状態と会った時、攻撃を耐えれるのかと言う疑問だ。

今俺達が一番拠り所にしているのはパフェの耐久力の高さだ。

下手な攻撃では死なない以上粘り勝ちと言う選択肢が生まれる可能性がある。

「主様よ、あの時吾が言った言葉を忘れたかや? あの時吾は」

パフェが言葉を言いきる前にあの時の言葉が脳裏に過る。

『奴のルールは自身を最強にするタイプじゃ』

そう言えばそんな事を言っていたな。

夢渡のあれは求心型と言う意味だったのか。

「主様よ、心配になるのは解るが、相手が遠心型であろうとも求心型であろうともさして脅威は変わらぬ。遠心型ならば一発逆転のチャンスが生まれ、求心型ならば粘り勝ちが狙えるだけじゃ」

「それはつまりネガティブに考えれば遠心型なら一発でやられる可能性が出て、求心型なら一発も通らない可能性もあるってことだろ?」

俺がそう言うとパフェは渋い顔をする。

「解っているさ、恐れて対策ばかり考えても勝てない事くらい。相手の獲物にばかり気にして護りに目を向けるだけじゃ勝機は見えてこない。あんたの言いたい事はそう言う事だろ?」

「う…む。そうじゃが……」

パフェは何所か納得いかない顔で歯切れの悪い言葉を残す。

「次は第二契約について教えてくれ。この先相手が本気になればそれとまみえる事になるんだろ?」

「あぁ、なる。どううまく立ち回ろうが第二契約を結ぶ/結ばれる事になるじゃろう」

パフェは顎に手を当てて俺の目と鼻の先で円運動を開始し始める。

目の前でぐるぐるとやられて目障りなことこの上ないが、邪魔をせずに俺も意識を心具の方に戻す。

ついでに止めていた足を動かし始める。

しばらくするとパフェがピタッと止まる。

「簡潔に説明するとじゃな。第二契約と第一契約の違いは戦術核と戦略核の違いと同じようなものじゃ。」

戦術核と戦略核の違い。

この二つを明確に区分出来る人間などいないだろう。

そもそもの戦術と戦略の違いが規模の大きさの違いと言う曖昧な定義しかない言葉だ。

何処から何処までが戦術で何処から何処までが戦略と言った境界線が無い以上曖昧になるのは当然だ。

詰まる所パフェは第二契約は規模が大きくなっただけと言いたいのだろうか。

「概念心具第一契約『SIN』は吾らに言わせれば対神兵器、普通の神の感覚から行くと対神軍兵器と言った所じゃ。じゃが、概念心具第二契約は違う。明確に対国兵器として存在する。主様は不思議に思わなんだか? 触れれば概念干渉出来る概念心具がなぜこんなにも小さいのかと。心具の重さの差など大したものではない以上どうやっても馬鹿でかい獲物を振りまわす方が有利じゃ。ならば何故しないのか、心具の濃度が薄くなるデメリットもあるが、一番の理由は対神兵器じゃからじゃ。『SIN』は一度に数体の神と戦う様にしか想定されておらん。国と戦える様想定された概念心具である第二契約があるのじゃ。無駄に大きくする必要はない。それと勘違いしてほしくないのじゃが、光の巨人の様に戦闘の規模が大きくなるだけではないからの? 第二契約の最大の利点は記述干渉の領域の拡大じゃ、干渉の速度も深度も範囲も段違いに上昇する。理解出来たか?」

「要するに第一契約のパワーアップ版と言う事だろ。用途、用法は違うけれど根本的な部分は変わらない。詳しく説明してくれるのはありがたいが、やはり回りくどすぎる」

自分で訊いててなんだが、いい加減げんなりしてきた。

先程の求心遠心のように聞いてて今後の戦い方に影響しそうな事柄は兎も角、今回は聞いて納得するだけの事柄だ。

大部分カットでもいい気がしてならない。

説明を受けれいる側で我が儘極まりないが、なんせ俺達には時間が無いのだから。

「―――主様。少し待て」

そう文句を言おうとした俺をパフェが低い声で止める。

その声は先程の様な浮かれた調子は一切無く、警告の色合い濃い声だった。

慌ててパフェを見、その視線の先に焦点を合わせる。

『KEEP OUT』

目の前の路地裏の入り口にはそう黄色いテープで張られていた。

夢遊病の様に目的も無くふらふら歩いていたせいで気付かなかったが、ここは昨日夢渡と戦った場所だった。

あれだけ派手にぶっ壊したのだ。

事件にならない訳が無い。

今朝の新聞に『水道管破裂か?』

と小さく乗っていた。

どう考えても水道管が破裂して出来る傷跡ではないが、そこら辺は恐らく夢渡達がうまくやったのだろう。

話題性としては薄いかもしれないが、昨日の今日出来た現場をこんなテープだけで放置していていいのだろうか。

警備が杜撰すぎるのが気になるが、それがパフェの気にしている事ではないだろう。

「どうした?」

出来るだけ自然な動作で黄色いテープに近づきながら、パフェに小さく尋ねる。

「今、主様が昨日あったという教師が潜っていった。ほんの一瞬視界に入った程度じゃが、まず間違いないと思う」

パフェには昨日学校で会った人物の写真を見せてある。

夢渡以外には見たことが無い、と首を振っていたがそれだけで安全だと除外するのは早計だろう。

「怪しすぎるな。罠じゃないのか? こんな時間に教師が歩いていたらまず間違いなく怪しまれる事は解っているだろ」

夢渡の仲間で後処理中、と考えられなくもない。

校内で会った3人の中でもあの教師は一番怪しかったのだ。

かなりの確率で終焉神の関係者と考えていた方がいいだろう。

夢渡達と関連性がある可能性は高い。

が、迂闊に近づくのはどうかと思う。

夢渡の仲間なら俺の存在に気付かずに、わざわざパフェに見られるという失態を晒すだろうか。

奴がパフェの追っている終焉神だとしてもそうだ、わざわざ姿を見せる理由なんて一つしかない。

だがもしこれが単なる失態であるのならば、俺達は絶好の好機にいる事になる。

難しい顔で考えているパフェの様子を窺う。

「…………罠か。いや、それは解っておる。問題なのはコレを追う事が罠なのかコレを追わない事が罠なのか、と言う事じゃ。単純に考えて自分を囮にして罠を張っていそうな人物を釣って罠にかける時、己を追わせて罠にかからせようとするかや? もっと言うと罠を張りそうな人物がこんな安易な罠に引っかかり、のこのこついていくと考えるか、と言う事じゃ。罠とは相手の思考を読み、その先にかけるものじゃ。じゃから寧ろこの場合、こうして考え込むこと自体が……」

と言いかけてパフェは止まる。

その視線の先は新たに現れた二人組に目が向けられていた。

そう、俺達はまんまと嵌められたのだ。

パフェが奴の姿を確認してしまった時点で最早罠にかかったも同然だったのだ。

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