その16 「瞼をひらくと・・・」
窓を開けると外は銀世界だった。
トンネルを抜けるとそこは雪国だった。
そんな突然の情景と同じ位俺が目を開けた先の光景も吃驚だった。
瞼をひらくと不愛想な神剣が俺を覗き込んでいた。
距離にして数センチ。
天羽の鼻がもう少し高ければ鼻と鼻がくっ付きそうになるくらいの距離。
そんな距離で瞬きもせずにじっと俺を見つめている。
「………………………」
平時ならば叫び出しそうなほどホラ―な光景。
なのだが、一周回って驚く事すら忘れてしまったのかさほど取り乱さなかった。
その余裕からか、俺も無言で見つめ返す。
向こうも俺が眼を覚ました事に気が付いたのか、ぱちくりと瞬きする。
「…………………………ぁ………ぅ」
そして口を半開きにしたまま声にならない声を吐き出した。
「………??」
頭が回っていないせいか、俺は気にせず観察を続ける。
心なしか顔が赤らんでいる様な気もする。
突然俺が眼を開けて思考回路が停止したということだろうか。
「―――――!! ――――――!!」
そのまま見つめ続けていると天羽は視線をぎこちなく左右に動かし始める。
何をしているんだろう、こいつは。
「―――っ!! ―――っ!! ―――っ!! ―――っ!!」
そのまま観察を続けていると視線が上下にも行き始めてぐるぐる回転し始める。
それを追う様に俺も眼球をぐるぐる時計回りに回転させる。
ぐるぐるぐるぐる。
飽きもせずに俺も目を回し続ける。
起きて早々何してるんだろう、とも思うが気にしない。
暫らく回転を続けていると天羽の目がピタリと止まる。
飽きたのかと思って観察を続けると両手で俺の頭を掴み、がっちり固定した。
「?」
不思議そうに天羽を見つめていると天羽の頭が海老反りに引き絞られる。
なぜ引き絞られると言う言葉を使ったかというと、さながら引き絞られた弓の様に見えたからだ。
「ふんっ!!」
気合いと共に迫り来る投石機の様な頭。
俺が一体何をしたのだろう。
回避行動を封殺されたままスローモーションで迫りくる頭を眺める。
ごん、という音と共に脳に意識が遠退きそうな震動が伝わる。
痛いのは確かに痛いが、それよりも先に脳震盪で意識が飛びそうだ。
「――――――ッ」
寝起きの怪我人|(?)相手にヘッドバットをかますのがコイツ流の看病なのだろうか。
若しくは起きたら無理やり寝かせろと言う主命でも貰ったのだろうか。
焦点が定まらなくなってきている俺の視界に薄ら止めを刺そうと振りかぶる天羽の頭が見える。
明らかにオーバーキルだ。
……鬼だろ、こいつ。
死ねぇぇぇ、と叫びそうな形相で振り下ろされた頭を右手が受け止める。
「―――え?」
思わず声が出る。
誰の右手かと言われれば俺の右手だ。
起きて初めて見る右手は何の冗談か、墨でいたずらされたかのように紋様が所狭しと描かれていた。
――何だこれ……。
他人がこれと同じ事を刺青などでしていたら確実にイタイ奴だと思ったことだろう。
いや、認めよう。
確実に今俺の右腕はイタイ事になっている。
「それ以上吾の主様にちょっかい掛けるのはやめてもらおうか、無機物」
耳元でやけに幼い声がする。
口調からしてパフェ何だろうが、どこにいるのか解らない。
痛む頭を左手で擦りながら、体を起こし布団をめくってみる。
「………ふむ」
潜り込んでいる訳ではなかったようだ。
が、その代わりに自分が真黒な何処ぞのアニメのコスプレの様な服を着ている事が分かった。
俺がなんだこれ、と思っている間に右手にあった感触が消える。
「っ!!」
天羽は弾かれる様に後ろへ跳躍すると、ひどく狼狽した顔でこちらを見つめる。
「何をそんなに狼狽しておる。主様の顔をじっと眺めていたら突然目が空いて、見詰め合っていたら我に返り、証拠隠滅しようと頭突きで主様を失神させようとしたなどと言う厚顔無恥で恥知らずな無機物であろうとも、ここまで驚く事はあるまい」
「――み、見ていたのかっ?!」
「それはもう確りと、な」
天羽そっちのけできょろきょろと辺りを見渡すが、パフェがどこにいるのか見つからない。
妖魔の様に影の中に隠れているのか、と部屋の隅に視線を送るがおらず。
何かの中に隠れているのかと、ゴミ箱の中を覗き込んで見るがやはりいない。
俺があれこれ探している間に状況が変わったらしく、天羽から不穏な言葉が聞こえる。
「―――殺す」
そちらに視線を送ると、天羽は辺りにあったものを適当を手当たりしだいに投げ飛ばし始めた。
これが子供の喧嘩の様に山なりに低速で飛んでくれば可愛い冗談、とでも流せるが。
天羽は腐っても神であり、そんな生ぬるい事をする訳無く。
「――――おいおい、まてまて」
シャーペンやらボールペンやら定規やらが俺の右肩やや上目掛けて弾丸の如く飛んで来る。
その精度と速度は神剣改め忍者と呼ぶにふさわしい妙技だった。
右肩やや上に俺の体は無いので避ける必要も無いのだが。
「―――――ッ!!」
なぜか俺の右腕は俺の意思に反して動き、それらを残らず受け止めた。
「カノン、なぜ邪魔をする。影女なんぞに籠絡されたかっ?!」
「いや、別に邪魔するつもりはないんだが……」
俺の言葉とは裏腹に右手は中指を立てて天羽を挑発する。
「吾と主様は最早二心………いや一心同体、体と魂を『深く』交わした間柄じゃ。諦めの悪い女は見苦しいだけじゃぞ」
テニスボール位のサイズの人形がパフェの声で喋り、ふわふわと飛んで俺の右腕に抱きつく。
先程からの声の発信源はどうやらこれだったらしい。
というか何だこれ?
左手でつまみあげて、じっと観察してみる。
漆黒の黒髪に真珠の肌。
意地の悪いにやにや笑いに扇子。
「な、何じゃ主様? あっ、やめい。首を首……捥げる捥げる捥げるっ!!」
デフォルメ化されているが、どうやらパフェらしい。
試しに胴体を固定して首を摘んだからゴムの様に伸びた。
「悪いな、影女、籠絡などと言って。籠絡どころかまともに意思伝達すら出来ていなかったんだな」
天羽はそれまでの焦った顔を一変させ、嘲笑する。
「くっく、愚かな。これは夫婦漫才と言ってな。息のあった夫婦にしか出来んまんざ……ぐぎゃぁっ!!」
パフェを握りつぶしてみると一昔にあった握ると部位が飛び出る人形の様に指の間からはみ出した。
ひんやりしているが、触感はマシュマロの様でずっと握りつぶして居たくなるほど気持ちいい。
「ちょ……っ、主様? 本気で……っ、やめ……むきゅっ」
成程、確かにこれは籠絡されてしまうかもしれない。
天羽の馬鹿にしたような視線を一身に受けながらも俺はにぎにぎし続けた。
「―――いい加減にせんかっ!!!」
パフェの声で左手を俺の右手が止める。
先程から右腕が勝手に動くと思っていたら、こいつの仕業か。
指の間から這い出てきたパフェを右手の上に乗せる。
「で、今度のこれは何だ?」
両手両膝をつき、ぜーぜーと息を吐き出しているパフェを指で突きながら尋ねる。
突くたびにぴくぴく反応してまた面白い。
これとは俺の右腕に走ってる模様の事でもあり、今のパフェの形態の事でもあり、いつの間にか着替えさせられた見知らぬ服の事でもある。
最近いろいろな事があり過ぎてちょっとやそっとのことで驚かなくなった自分を、褒めるべきなのか、嘆くべきなのか、判断に苦しむところだ。
「戦闘形態じゃ」
幾分か説明を省略して、胸を張って答えるパフェにデコピンを入れる。
「むぎゃっ!」
ピンポン玉の如く面白い様にドアの方へ飛んでいく。
そしてスライムの様にドアにベチャリと張り付いた。
「ジェノサイドがなんだって?」
「――――ぬ、主様、何処か吾の扱いが悪くないかや?」
べったり体をドアにへばり付かせながら、パフェは苦しそうにこちらを見る。
近くにいる天羽は当然の事ながら手を貸さず冷たい視線で見送る。
「対等で扱えと言うから敬いを無くしただけだ」
「いや、対等どころか…ぞんざいな…扱いを…受けておる……の、じゃがっ」
パフェは体をよじり、ドアから離れようともがいている。
言っちゃ悪いが、その様がゴキブリホイホイに捕まったアレに見える。
「遠慮が無くなり、俺達の間にあった壁が取り払われただけだろ」
「寧ろ…かえって…壁が………ぬぉ………出来ておる気が……するのじゃが、気の所為かや?」
すぽんと言う小気味のいい音と共に張り付けられていたドアから転げ落ちる。
「……………お前たち、それより先に私達へ何か報告する事があるのではなかろうか?」
眉を片方だけつり上げ、目覚まし時計を減り込む様に掴んでいる天羽が、時計の針へと指を指す。
――――深夜2時。
「「あっ」」
パフェと同時に時計へと視線を向けるとそろって間抜けな声を上げる。
「――言われてみれば、どうやって帰ってきたんだ俺達?」
ぴょんとジャンプしてきたパフェを肩に載せながら尋ねる。
「吾も気が付いたらこの部屋におったから知らぬ」
「と言うか、お前怪我は大丈夫なのか? あいつの剣でぶっ刺されただろ」
「あー、あれは違うのじゃ。彼奴の概念心具によるダメージで気を失ったのではなく、第二契約を結ぼうとし、それを自ら無理やり止めた事によるフィードバックにより一時的に意識不明になっただけじゃ。安心するがいい。それでもまあ、ダメージが無いと言えば嘘じゃがな」
大したダメージを負っていない事をアピールしたいのか、俺の眼前まで浮遊すると、くるりと体を回転させて見せた。
デフォルメされている所為か、お腹に白い布でバッテンがされている。
絆創膏……なのか?
これがパフェの冗談による演出なのか、デフォルメされたから怪我の表示がこうなったのか判断に苦しむところだ。
「そうか…………なら、あまり無理はするなよ」
と、そっけなくいい渡す。
どちらにせよ、こうして普通に会話できている所を見る限り、大した事はない、と見るべきか。
「ならば握りつぶそうとしたり、指で弾いたりせん事じゃ。―――全く、パートナーを何じゃと思っておるんじゃ」
ふよふよと俺の耳元まで来ると、ぶつくさ言いながら耳たぶをギュッと引っ張る。
地味に痛い。
片方だけ福耳になったらどうするつもりだ。
「おい!! な・に・か・報・告・が・あ・る・の・じゃ・な・い・かっ?!」
だん、と床を踏みならすと怒り心頭で天羽が俺達を睨みつける。
「まて、その前に俺達がどうやってこの部屋に戻ったのか、知っている限り教えてくれ。それによって話が少し変わってくる」
鼻息荒く近寄ってくる天羽をどうどうとなだめる。
最近コイツのキャラが変わってきた気がする。
こんな騒がしい奴じゃなかったはずなんだが。
若しかしなくてもパフェの影響だろうなぁ。
はぁ、と溜息を吐く。
だが不思議と気疲れはしなかった。
「カー君達はねぇ。私達の家の前に倒れてたんだよ」
突然扉が開き、寝巻姿の姉貴が現れる。
寝不足の所為か妙に血色が悪い。
まるで病人の様な青白さになっている。
「華蓮っ!! そんな体なんだ、まだ寝ていないと」
慌てて天羽が姉貴に近寄るが、手で制される。
そんな体。
大よその予想はつくが、もしかして何かあったのかもしれない。
「大丈夫………なのか?」
「大丈夫だよ。ちょっと結界張るのに大量の霊力と血を700cc程使っただけ。それにこれだけ騒がれたらいやでも目が覚めるよぉ」
パタパタ手を振りながら何でもない様に装う。
そんな顔を真っ青にして言っても説得力ゼロだ。
それにしても700ccか。
魔術関連で血液を使う事は多々あるが、流石にこれは量が多すぎるな。
単純計算で姉貴の体内の血液量の5分の1位の量だ。
ショック症状が起きるギリギリまで使用した…と言った所か。
そんな状態で生命力とほぼ同一である大量の霊力を消費して大丈夫な訳が無い。
寧ろこうして起きているだけで驚嘆に値するポテンシャルだ。
「命が掛かってるんだもん。多少のリスクには目を瞑らなくちゃ。―――――で、話を戻すけど、まずは私達がカー君が出て行ったあとにした事を話すね。先も言った通り結界を張った訳だけど、時間も用意も何にもしてない訳だからそんな小難しいのは作れなくて隠密性が結構低いタイプになっちゃたわけ。想定している効果範囲はこの階全て、で期待する効果は領域の誤認、かな。こっちはおまけみたいなものだけど」
天羽に用意してもらったクッションにポフッと座ると、紙飛行機を何処からともなく取り出して俺に飛ばしてきた。
ゆるやかな曲線を描き、俺の手に収まる。
何の悪ふざけかと紙飛行機を広げてみるとうちのマンションの設計図だった。
結構重要なものじゃないのか、と思いながらもパフェと共に目を通す。
別段変った事は書かれていない。
強いて言えばそう、赤ペンでぐるっと大きく丸が書かれ、『※けっかい』と書かれている事くらいだ。
非常に馬鹿にされている気がするのは気のせいだろうか。
思わずくしゃくしゃに丸めて捨てたくなる衝動を抑え、姉貴に視線を戻す。
姉貴はたまにこれで本気の時があるから性質が悪い。
そして捨てた後さらっと重要な事が書かれている事をもらすのだ。
「その領域の誤認とはどの程度の精度なのじゃ?」
パフェは設計図を一瞥しただけで視線を外すと姉貴に問いかける。
「ん~、この階の特定の個室に用が無いのならその一つ下の階が最上階と認識される程度、かな。カー君達が普通に運ばれてきたから結構怪しいけど」
「俺達を運んだ奴は、どうやら俺の事を知っているらしい。だから引っかからなかった、かもしれない」
気休めかもしれないが一応言っておく。
この中にいる面子で誰も言葉の通りに信じた奴はいないだろう。
だからと言ってネガティブになっていてもはじまらない。
「そっか………。まあ、その所為と言うかお陰と言うか、こうしてカー君が戻ってこれた訳か。不幸中の幸いとでも言うべきかなぁ」
姉貴は俺だけに解る様にぱちんとウィンクして微笑んで見せる。
それを見て、あぁ成程と納得した。
恐らく姉貴はわざと誤認の領域を甘くしたのだろう。
俺達が捕まり、人質となる可能性とかも考慮していたに違いない。
そう考えなければこの結界はあまりにもずぼら過ぎる。
如何に時間も準備も無かったからと言って隠匿効果を蔑にすることなどあり得ない。
発見されない以上に優秀な防御機能など存在しないのだから。
「で、カー君の方はどうだったの? 状況から察するにかなり状況悪いと思うんだけど」
「あぁ、それなんだが―――」
校内での出来事、夢渡とやりあった事、覚えている限り詳細に伝える。
ノイズの事やもう一人のパフェの事は上手く説明できる気がしないので、誤魔化す事にする。
それに、パフェ自身ももう一人のパフェとの事を知っているとは限らない訳だし。
パフェに視線を送ると首を傾げて見つめ返された。
何れにせよ、今ここでする話題ではないだろう。
「ん~、話を聞いてて思ったんだけど、別に手を組まなくてもそのカー君の友人の神様にパフェちゃんが追っている終焉神を退治してもらう事は出来ないのかな? パフェちゃんを脅威と見なすんだから、その終焉神もかなりの脅威となるはずなんだけど、どうなのかな?」
「恐らくこちらが頼まずとも排除しようとはしておるじゃろ。じゃが、襲いかかってくるものを撃退するのは簡単じゃが、逃亡しているものを追撃するのは難しい。加えて彼奴らの目的は学校を護る事じゃ。大逸れた狩りなどするはずもない」
「結局自分の身は自分で守るしかない訳かぁ」
「そう言う事じゃ」
一同はぁ、と溜息をつき、物思いにふける。
事態は好転するばかりか、敵が増えただけという始末。
敵の敵は味方と言うが、敵は敵なんだから敵以外の何物でもない。
たとえ一時手を結ぼうが互いの敵を倒せば残る敵は己らとなる。
相討ちになるか、消耗したところを漁夫の利としたいところだが、両方から狙われる身としてこれは現実逃避以外の何物でもないだろう。
いや、同時に俺達を攻撃させるようにおびき出せば不可能ではない、か。
やるとしても取り敢えずまだ会話が成り立つ夢渡達から交渉を始めるか。
「ところで、さっきから気になってたんだけど…………それ何なのかな?」
姉貴は俺とパフェの格好を指差す。
当たり前の様にスルーしていたが、やはり姉貴でも気になっていたようだ。
「何って……………何?」
姉貴からパスされた質問をパフェへとトスする。
何なのかは俺が知りたい。
「じゃからジェノサイド……って待て主様。デコピンはやめよと言っておるじゃろ」
ジェノと言った辺りから左指をパフェの後ろへ持っていくがあと一歩のところで勘付かれ、ふよふよと逃げられる。
「だったら真面目に説明しろ」
「じゃから真面目に戦闘形態と言っておるじゃろうが。今は主様の治癒の為に非戦闘時にこの形態になっておるが、これが吾らが神と戦う時の本来の形態じゃ。吾らの心臓でもある主様を護るため、吾の体と主様の体を殆ど融合させておる。吾が斯様な姿をしておるのもその所為じゃ。ま、先の闘いでは同調がうまくいかずに中途半端な形になってしまったから驚くのも無理はないがの」
不機嫌そうに俺の心臓の上あたりを掌で突く。
「怪我と言っても主様の体はほぼ無傷じゃ。これは主様に与えている左腕と両足のメンテナンスの様な物で、主様の治癒が終われば自動で解ける故何の心配いらぬ」
それを聞いて仏頂面だった天羽が鼻を鳴らす。
天羽も多少は俺の事を心配していたのだろうか。
「………」
そんな天羽をしばらく見つめていると殺意を込めた視線で睨み返された。
どうやら気のせいだったようだ。
それにしても治癒……ね。
何の違和感も無い左手を動かす。
夢渡によって切り裂かれた左手も再生しているし、筋肉痛などの肉体の酷使後ダメージも無い。
起きた時に既にほぼ完治している様な状態だったから、てっきりもう一人のパフェに体も魂も乗っ取られて今度は俺がパフェの体に寄生しているのかと思っていたが、そう言う訳ではないらしい。
しかし本当に戦闘形態だったとは。
何と言うか、形だけ感がして何とも気が乗らない。
漫画のキャラのコスプレをしている様だ。
とは言え、冗談ようだがこれが俺の覚悟に対するもう一人のパフェの答えなのだろう。
そうなるとパフェも何の疑問も無くこの形態をとっている事から、やはりあの時の事はパフェも知っているのだろうか。
「何にせよ、今夜はもう良いかな。細かい打ち合わせとかは明日の朝にでもすればいい訳だし」
あふっ、と可愛らしく欠伸をしながら姉貴は立ち上がる。
それに追従する様に天羽も立ち上がる。
何だかんだで結構長い時間話し続けてしまったようだ。
それにしても欠伸の事とは言え実の姉に可愛いと言う形容詞を使うのはどうなんだろう、思う。
そんな事を考えていると視界に一瞬パフェが映る。
心なしかパフェが馬鹿にしたように笑った気がした。
「それじゃあ、カー君お休みぃ~」
「あぁ、疲れてる所起こして悪かったな」
間延びして小さくなっていく姉貴の声を聞きながら二人を見送る。
「あは、そんなこと気にしなくていいよ。――――――あっ、それと…」
天羽を先に行かせ、首だけドアの間からひょこっと出すと。
「お帰り、カー君」
と言い、ちょろっと舌を出しながらすぐさま顔を引っ込めていった。
「あぁ…………ただいま」
俺が呟くように言うと、パフェは今度こそ馬鹿にしたように笑った。