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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
22/72

その15 「パフェヴェディルム」

夢を見ていた。

何処か遠く遥か果ての光景。

俺の知らない、見たことも無い光景。

影さえ明るいと感じる闇の中、ポツンと立っていた。

いや、もしかしたら座っているのかもしれない。

ひょっとすると寝ているかもしれない。

自分も周りも何も見えず感じないのだから確かめようがない。

そもそもこれは俺なのか?

自分で自分に疑問を抱かずにはいられない。

それほどまでに俺の周りは混沌としていて何もわからないのだから。

闇が身動ぎする。

のっそりと、這う様な速度で。

が、確かにそれは動いている。

あまりにも闇が濃すぎて景観から浮いているのだ。

この蠢く闇は一体…。

俺がしばらく見つめていると闇はピタリと制止する。

「…………そなたは誰じゃ?」

品定めでもするように闇はこちらをじぃっと見ると、俺に問いかけた。

「――――ッ」

口を開くが声が出ない。

陸に上がった魚の様に口をパクパク開く。

「くっく、なんじゃ。この程度の環境で話せんのか、随分と愛い奴が来たのう」

笑い声と共に闇が凝縮すると、女の姿を模り始める。

長い黒髪に真珠の様な白い肌。

辺りに光源がないのだから女の色など見えるはずも無いのだが、その女はまるで自らが光放つ様にくっきりと見えた。

深淵の瞳で小動物を愛でる様に俺を見つめるその様は…。

―――パ…フェ?

相も変わらず声は出ないので口ぱくで尋ねる事になる。

他にもっと言い尋ね方があったかもしれないが、思わずそう尋ねたくなるほど目の前の人物はパフェに似ていた。

しかし、断言できないと言うか、微妙に違うのだ。

何と言うか、その…体形が結構違う。

パフェが成長すればこんな感じだろうか。

モデルの様に長い手脚。

胸は…呪いでも掛かっているのか大して変わらない控えめな普通サイズくらいなのでボンキュボンとは行かないが、プロポーションのとれたスレンダーな体系。

何より意地の悪い笑みがパフェとそっくりだ。

「ふむ、アレの知り合いか。だとしたら随分とアレに好かれておるの、そなたは。わたしに会える何ぞ、アレの懐刀でも数えるほどしかないからの」

パフェ?がぱちんと指を鳴らすと、星明かり程度の光が灯る。

そのお陰で己の体が認識できるようになる。

左手がまだ裂けたままである事から、俺はあの後すぐの状態で此処にいる事になる。

ならばここは死にかけたパフェの精神世界なのだろうか?

事故に会い意識不明となったキャラを共通の精神世界で救うと言うアニメのワンシーンが脳裏に過る。

となると差し詰めこいつはパフェの心の闇、という訳か。

パフェらしき女に気付かれぬよう自嘲すると、馬鹿な考えを追い出す。

「―――あんたは一体なんだ?」

己を認識できたおかげか、普通に声が出る。

「何だ、か。的を得ているようでその実得ていない。わたしはパフェヴェディルム=ヒアス=ファノレシス、終焉を司る神の第二神じゃ」

女は自分はパフェであると答えた。

しかし、微妙に会話に齟齬を感じる。

「?」

アレわたしであるが、わたしアレでない。つまり、あれわたしの一部、という訳じゃ」

尊大な態度でもう一人のパフェは俺を見下ろす。

明らかにコイツはパフェと己を分けて俺に話しかけている。

「要するにお前はあいつの何なんだ?」

「一言で言うと……そうじゃの、本体…いや魂と言った所じゃの。アレわたしの意思。アレわたしの力を使い、わたしアレの思い通りに動く。そしてアレが折れた時、新たないしを創り出すモノ。区別がしたいのなら……差し詰め『混沌の闇』といった所か。ルビは…そうじゃな『無限の中核に棲む原初の混沌』のアザトースでどうじゃ。概念的には違えど人からすれば大して違いはあるまい」

パフェ、いや混沌の闇アザトースはそう言って得意気にこちらを見つめる。

「―――好きにすればいい」

わたしの事はいい。そなたの事を聞かせてくれ。どうしてこんな所に迷い込んできたのじゃ。死ぬ直前という訳でもあるまい、そもそも先の戦闘での負傷など無いに等しいじゃろ。何か悩みでもあるのかや?」

「その口ぶりだと俺が無理やりここへ来たみたいな言い方だな」

「違うのか? 本当にそなたは何も悩んでおらぬのか? 秘めたる思いを処理できずに抱えておらなんだか?」

「それは……」

俺は逡巡する。

そんなものはないと即座に反論できなかった。

それは即ち自ら何か悩みがあると言っている様なもの。

俺はアザトースに言われて初めて自分が悩みを抱えていた事を自覚した。

それはあまりにも情けない話。

力も無いくせに選択するのがいやだと言う負け犬の戯言。

努力もせずに力が欲しいと希う自分勝手な理論。

無理だと諦め、それでも現状を拒否し、都合のいい奇跡を願う心。

それら全てが楔のように俺に打ち込まれ、俺を蝕んでいる、否いた。

アザトースは全てお見通しとでも言う様に笑って俺の目を覗き込む。

深く深く心の奥底まで覗きこまれているような感覚がする。

咄嗟に目を逸らそうとするが、やめた。

黙っていても何も変わらない。

俺が黙っている限り永遠にこのままだろう。

「俺は、何処かで楽観視していた。敵がパフェと同じ終焉神なら苦労はするけど何とか勝てるだろうと心の隅で思っていた。だが、現実はどうだ、明らかに手加減をしている夢渡あいつに傷一つ負わす事も出来ずに惨敗だ」

「それはそなたの責任ではないじゃろ。アレが弱いのが悪い。如何なる脅威からもそなたを護ると大見得を切りながらこの様じゃ。吾が意思ながら何とも不甲斐ない事よ」

何もない部屋で窓でもある様に遠くを見る様な眼をする。

だが、鼻で笑いながらもその眼には慈しみがほんの僅かに感じられた。

不甲斐ないと言いながらもパフェの事を気に入っているのかもしれない。

「しかし、元を正せばパフェがそんな風になったのも俺の所為だ」

「そなた、少し被害妄想が激しいのではないか? アレはそなたの事を一切恨んだりしてはおらん。寧ろ殺されて感謝している様な変態じゃ。アレを思ってやるのはいいが同情して後悔するのは止せ、それにソレはただの愚痴じゃ。自ら悩みの答えを探そうとしない者の愚痴を聞いてやる程、わたしは暇ではないのだが?」

皮肉めいた表情を一転させ、ぞっとするような作り笑いをする。

そこで気付く。

アザトースが聞いているのは過程じゃない。

結論、そして変化への渇望だろう。

「―――力が欲しい」

俺はいくつか口にするべき言葉を考え、これを選んだ。

今まで俺は力なんぞ望んだ事はなかった。

適当に修行し、適当に戦い、適当に逃げていれば事足りたからだ。

親に勘当された時でさえ、生きるのに困ったがこう言う力を求めたりはしなかった。

今になって思えばそれは守るべきものが無いゆえの甘さだったのだろう。

いや、違うな。

今も昔も俺が失いたくない者は血の繋がった双子の片割れだけだ。

姉貴はちょっと特殊だったから危機に陥る事が無かったが、今回は違う。

今回こそ逃げれない唯一の闘いなんだ。

アザトースは俺の言葉を噛みしめるかのように瞬きすると、次の質問の為に口を開いた。

「何のために?」

「生きるために、選択する為に、そして二度と自分の為に他人を犠牲にするという考えが浮かばぬように」

「何ともまあ、心地いいまでの偽善じゃの」

嫌いではないがの、と付け加えアザトースは背を向ける。

長い黒髪がそれに追従して揺れ、扇の様にふわりと広がる。

「それで?」

アザトースは背を向けたまま続きを促す。

「力を貸してほしい」

「くっく、断る」

振り返って俺を見るアザトースの唇は三日月の様に裂け、愉悦の表情を浮かべていた。

にやにや笑い出した辺りから何となくそんな気がしたが、こう、一刀両断に断られると流石にくるものがある。

「そこは、空気読んで俺に力を授ける場面ではないのか?」

「はぁ……、授けるも何もそなたは『力』を持っておるじゃろ」

俺の当て付けがましい言葉に呆れたように溜息を返す。

その仕草がまるで駄々をこねる子供にどうやって聞き分けさせるか悩む母親のそれであり、内心笑いを誘った。

顔の筋肉を変化させたつもりはないが、コイツには俺が何を考えているか解ったらしく、じろりと睨んできた。

こほんと咳払いして誤魔化す。

「俺が…力? それは契約の事か?」

「そうじゃ、こうしてわたしとそなたが会話できるのもアレの意思もあるがそなたの力によるものが大きい」

「だが、あれは…」

「あれは自分の意志ではないと? 欺瞞じゃな。友人が殺された事により覚醒する主人公くらい嘘くさい。意識的であれ、無意識であれ、そんな力を出せるのなら始めから出せば良い。それならば何かを犠牲にする事も無かろうて。そなたの言っている事はそう言う事だぞ、全力を出してもいない癖に出せないから力を貸せと。わたしが断るのも当然じゃろ」

アザトースの言葉にぐうの音も出なくなる。

アザトースが言っている事は暴論ではあるが正論だ。

誰もが全力を、限界まで出せる訳じゃない。

が、だからといって全力を出せなくて出た結果を甘受出来ないのはただの我が儘だ。

何も努力しない、何も理解しようとはしない、自分の知らない力は使いたくない。

あぁ、結局俺はあの時の力に怯えていただけなんだな。

そんな場合じゃないって解っていたのにな。

右手と左手、左右から万力の様な力で引っ張られて、助かりたいならどちらか手を捨てろと言われて、でもどちらも手放せないなら結局己を引き裂くしかない。

「100年」

「?」

「凡人が契約を結べる領域になる為に鍛錬して到達できる平均時間じゃ。100年間飲まず食わず休まずぶっ続けでその領域に到達できる。結べるかどうかは本人の才能次第じゃが」

突然、話題が別方向へとシフトする。

関係あるかと言われれば、どちらかと言えばあるかもしれないが、今突然する話ではないだろう。

「何が言いたい」

「そなたはそんな難解な契約を努力や気合や根性で結べるのかや?」

「結べるか結べないかじゃない、結ばなければいけない」

「そうやってギリギリまで延ばして死にかけて覚醒、の。出来なければ出来ないで死ぬだけ。やはり夢を見過ぎじゃろ。守りたいんじゃろ? 力が欲しいのじゃろ? ならばその為に何を捨てれる、何を捧げれる。わたしが見たいのはそう言う覚悟じゃ」

いつの間にか出現した刃が俺の心臓辺りにつきつけられる。

「俺が何かを捧げたら力でも与えてくれるのか?」

漆黒の刃を一瞥すると肩を竦めて見せる。

わたしが望む事はアレと同じじゃ。望むのは対等、望むのは相棒、望むのは恋人、望むのは番、結ぶは契約。そなたが吾に何かを捧げるならばそれ相応の物を返さねばならん」

「なら、俺は俺の意思以外の全てをあんたにやる。どうせあんたに拾われた命だ、下僕なり奴隷なり好きに使えばいい。それともこれっぽっちじゃ足りないか?」

「自虐はやめよ、言ったじゃろ? 吾の望む事は対等だと。ならばその言葉は対等の吾らまでも貶める」

「…以後気を付ける」

「一応吾らとの契約後どうなるかも教える。肉体も魂も捧げると言う事は永遠に吾らに取り込まれ、不老不死の化物になる事を意味する。――――あぁ、そんな顔をするな、無粋なのは解っておるがなにぶんクーリングオフ不可なのでな」

俺の顔を見て、アザトースは溜息をつきながら付け加える。

自分では少し苦い顔をした程度の認識なのだが、そんなにもげんなりとした表情をしていたのであろうか。

眉間をこつこつ叩き、凝り固まった皺を緩める。

「無粋だと思うのなら、俺からも一つ無粋な質問をさせてくれ。もし、俺が夢渡あいつとの戦いで第一契約を結んでいたならば俺達は勝てたのか?」

「無理じゃ、あれはそういう事で勝てる相手ではない。因みに吾らと契約を結んでもあれは無理じゃ。引き分けるのは簡単じゃが、勝つ事は難しい。これは彼奴に限らず他の終焉神にも言える事じゃの。相性が良くないと終焉神など倒せるものではないからの」

「そうか」

内心に動揺は無く、ただ単純な感嘆詞を吐きだす。

「絶望したか? 勝てる見込みがないと諦めたか? 吾らにあった事を後悔しておるか?」

自虐じみた笑みを顔に張り付けると、パフェは前髪を揺らす。

「自ら望んで棘の道へ行くと言ったんだ。あとは襤褸切れになるまで進むだけだ。絶望や後悔しながらな」

絶望や後悔という言葉を口にしながら、決意を固める。

勝つために。

切り開くために。

守るために。

二度と道を迷わない為に。

「いいじゃろう、ならば再び誓いの言葉のろいをそなたに送ろう。吾はそなたに恋をした。そなたの全てが欲しい。そなたに脅威が迫ると言うのであらば、全力を以て排除することを第二神『混沌の闇』の称号にかけて約束する」

ぐっと顔が近づき、自然とアザトースと抱き合っている様な形になる。

耳元でそっと吐息が零れる。

「そなたの意思が、潰えるまでの」

とん、俺は肩を押され、重心が傾いていく。

俺の心臓を根に首を垂れる様に漆黒の花が開花する。

刺されたことも抜き取られたことも感じず、真黒の血が心臓から流れ出る。

アザトースが俺に接近した折にそのまま刺したのだろう。

体内から流れ出る血液が俺を包み込むように漂う。

―――進化。

―――神化。

―――深化。

―――真価。

深く、塗りつぶす様に体が変色して行く。

「現は眠る事で夢となる。夢もまた、眠る事で現となる。さあ、戻るがいい、そなたの世界へと」

眠る様に、覚醒する様に、俺の意識は浮上しているのだが、落下しているのだが、解らないまま混濁して行った。

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