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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
18/72

その11 「校内」

仄かな月の光が教室に差し込む中、俺は一つ一つ教室を見て回る。

本来なら部活動や居残りやらでここまで閑散としている事は無いが、最近脱走した狼の所為で下校時間が早められており、特別な理由が無い限り残る事が出来ない。

下校時間を早めた所でどうこうなる問題なのかと言う疑問を飲み込み、守衛に見つからない様、慎重に進んでいく。

無意識のうちに左の腰辺りにしまい込んだ物に手が伸びる。

家を出てすぐにパフェが俺に創ったものだ。

――――心象具現礼装。

本来は他人が使ってもあまり意味がないものらしいが、肉体を共用している俺は多少なりとも扱えるらしい。

直接触れてもいないのにソレの鼓動が伝わってくる。

心具と言うものは己の心を削って創り出すもの。

故に破壊されると精神にダメージが行き、それに連動している魂と体にダメージがいく…らしい。

あれからパフェに色々と教えてもらったが、未だに色々と了承しかねない内容ばかりだ。

従来、神の強さはその身に刻まれた歴史の数で強さが決まる。

存在した年数ではなくその神が歴史に起こした出来事の数が多ければ多いほど強い。

それは真偽問わず、如何に知られているかによって決定する。

つまり、その神が実際に起こした出来事で無くとも、その神が『した』と信じられれば、その神にそれが出来るだけの能力が備わることとなる。

勿論その神が元々持つ力も消えず、それと統合する形で残る。

が、それは言ってしまえば元が雑霊だろうと、妖魔であろうと信仰はそれを神として捻じ曲げるだけの力があるという事だ。

パフェはその人々の信仰の力こそが心具の基盤なのだろうと言っていた。

これが俺の知っている肉体を持たない、この世界の神の定義の様なものだ。

だが、パフェは、自分たちの事を信仰を糧としない肉体を持つ神だと表現した。

この際詳しい話は省いて簡単に説明してもらったが、なんでも肉体を持つ神の体は生きる歴史そのものらしい。

どうにもピンとこないのは今更なので、何も言うまい。

そこは置いといてだ。

まず一つわかった事。

こいつらはこの地上で用意できるいかなる手段でも死なないと言う事だ。

核兵器だろうと、対惑星兵器だろうと作動させるものが人間であれば、確かに脅威だがそいつを殺せば済む話だ。

妖魔であろうともそれは変わらない。

武器があれば殺せるのなら、人によって難易度が変わるだけで誰にでも戦えるチャンスはある。

パフェからすれば契約を結んでない状態の神など、人間と生物的にあまり変わらないとのことだ。

首を刎ねれば死ぬ奴もいるし、一般人が使う重火器なども一応喰らう、らしい。

ならばチャンスはあるのか、と言うと答えはNOだ。

ここで問題だったのはその体に内包する密度が違うとの事だった。

総量大体大陸並み。

大陸大の人間がもし存在可能だったとして一体誰が殺せると言うのか。

それが俺達と等身大で闊歩するのだ。

いや、ここで言いたいのはそう言う事じゃない。

こいつらは変な話だが『法則』を捻じ曲げずにこの密度で存在している事だった。

なんて性質の悪さだろう。

仮に捕獲して無防備な状態に出来たとしても殺すのに核兵器が必要なのだ。

まず不可能だろう。

そして契約。

俺が結べたことから、そんな大したのもではないと思っていたが、こっちはもっと最悪だった。

まず、身体能力の強化。

これの上昇率は個体差だそうで、契約に慣れればなれるほど元の体が強化されるので強い奴ほど上昇しないらしい。

次に法則の改竄。

前にも言ったと思うが世界の法則…俺の言葉で言うと『現実』とは俺達すべてに掛かっているプログラムの様なものだ。

それぞれに此処まで出来る、此処まで出来ないなどの式が課されており、エラーを故意に起こせば修正され、上書きされてしまう。

俺は前に『現実』を霊能力者や魔術師は脱却している的な事を言ったが、あれはただ人間としての上限を100とすると130や150程度出せるようにしただけだ。

飽くまで本質は人間であると言う所に変わりはない。

だが、こいつらは違う。

こいつらは設定されている上限を解除し、剰えほかのプログラムからの干渉をシャットアウトできると言うのだ。

己の記述についてはよく解らなかったが、大体こんな所だろう。

要するに契約を結ぶと概念心具による攻撃以外殆ど喰らわないに等しいらしい。

それに加えてパフェは…。

ちょうど二階を見て回り、端の踊り場に差し掛かった辺りで俺は思考を一時停止し、足を止める。

上の階から足音が聞こえる。

自然と腰に手を伸ばしそうになるのを無理やり堪える。

リズムは酔っぱらいの様に不規則で、だらしなく階段を下りているのが解る。

―――大丈夫だ、恐らく学校関連の誰かだろう。

まさかゾンビが下りてくる展開ではあるまい。

こう言う時、変な足音の方が逆に人間味がある。

しかし、不味いな、このまま1階まで下りていくならいいが、二階で止まられると鉢合わせするしかない。

どうする、隠れるか?

それとも適当な言い訳でごまかすか?

教室のドアや窓があかないのは確認済みだ。

ならば無理に隠れようとせず、普通に忘れ物を取りに来るよう装うのがベストか?

俺はゆっくり体を後退させると、何気ない風を装って歩き始める。

足音が踊り場辺りで止まる。

この階が目的か?

神経だけを踊り場へと集中させる。

すると突き当たりから、ひょこっと頭が出てくる。

「あ~っ! 輪廻くん。こんな時間にどうしたの? もしかして登校時間間違った? 残~念、学校は朝8時40分からだよ」

馴れ馴れしい口調とともに現れた女子は、よく見知った顔…と言うか、歩く校内放送と呼び名の高い如月沙良紗だった。

どうやら酔っ払いの様に階段を下りていたのはこいつだったようだ。

心の内でそっと溜息を吐く。

「勝手にHRすっとばすなよ、だいたい何でこんな時間まで残っているんだ」

自分の事は棚に上げ、思わずそんな事を口にする。

「もち、忘れもん。あ、宿題とかじゃないよ? ちょっとゲーム機忘れてさぁ。食料とかお菓子とか飲み物とか食べ物とか整えて、いざ徹夜でやろうって時に計画が破綻している事に気付いてすぐさまリターンしたわけ」

でへへ、と如月は悪びれもせず笑いながら、恐らくうちの教室のであろう鍵をブンブン振りまわす。

誰だ、こんな奴に鍵貸した職員は…。

あと準備は一言で済んだだろ。

今までの緊張と打って変わって別の汗が出てくる。

拍子抜けもいいところだ。

「輪廻くんも忘れ物? うちの教室目当てなら鍵はここにあるよ? ――――――――はっ!それとももしや誰かのリコーダーに口づけを………」

『キャー、お勧めは一番左の列の前から三番目』と訳の解らない事を叫びながらのた打ち回る馬鹿がいる。

だいたいリコーダーってネタ古いし誰が持って来てるんだ。

何処の小学生だ。

あと、この学校に音楽の授業は無いんだが?

「下らないこと言ってないでとっとと鍵を渡せ。それと、今この街は危ないんだから用事が済んだのなら早く帰れ」

突っ込むのは心の中だけにして、さっさと話を切り上げる事にする。

だが、ここで鍵が手に入るのは大きい。

捜索範囲拡大と、職員室に行くのが一回で済むのだから。

非常事態に鍵を返せなくなって色々厄介な事になりそうなデメリットもあるんだが。

まあ、それは如月の所為にすればいいか。

「なになに? 心配してくれるの、なら家まで送ってやるくらい言わないと駄目だよ。それなら私へのフラグも十分たつのに」

口を尖らせ、鍵で頬を突いてくる如月に、いい加減付き合いきれなくなる。

どうして俺の周りにはこんな電波が飛んでいるような女子しかいないのだろうか。

無理やり鍵を奪うと、如月をほって教室に行く事にする。

フラグ云々抜きに送らないのはやや心残りだが、パフェと共同体になっている今は、俺といる方が危険は大きいだろう。

暫らく進んだところで振り返る。

なんやかんやで如月も追ってくる気配は無い。

いつもの冗談だったのだろう。

三階、廊下、自分のクラス。

緩んだ気を再び締めなおして、点検していく。

自分のクラスを点検する際、ふと左側の前から三番目の席が眼に入る。

如月の席だ。

机の中の乱雑さから一目でわかった。

明らかに学校に必要ないモノが所狭しと詰め込まれている。

こいつ学校に何しに来ているんだろうか。

当然の疑問を感じつつ次の机に行こうとすると、スティックのりサイズの褐色色の小瓶が如月の机からはみ出しているのが見えた。

「なんだこれ?」

悪いと思いつつ手に取ってしまう。

中にあるよく解らない色の液体が揺れる。

どろり、どろりと言った感じで。

何だろう、物凄く危険なものに見える。

俺は其のパンドラの小瓶をそっと如月の机の中に戻した。

この件に関してこれ以上余計な詮索は止めようと心に誓う。

本当にコイツは何しに学校に来ているんだろう。

俺はそっと溜息をついた。

俺は職員室に鍵を返すいい訳のため、自分の机の中のプリントを適当に抜き出し、もと来た道を戻り始める。

何かを期待する訳ではないが、パフェと関連ありそうなものは見事に何もない。

見回りの先生に会う訳でも守衛に見つかるわけでもなく、誰もいない校舎をただひたすら歩いているだけだ。

静かすぎる、と言えばそうなのだろうし、こんなものだと言えばそんなような気もする。

そして今更ながらなんだが、探せと言われてルートや方法に頭がいくばかりに『何を』を訊くのを忘れていた。

神器や魔具、宝具と言うけれど、そんなものが見える場所に安置されているなら普段から気付くはずだ。

逆を言えば、普段はいかない場所や隠すスペースが作れる場所にある可能性の方が高いと言う訳だ。

あくまで隠されているものがその類の場合はな。

別の視点で考えてみる。

パフェは見せびらかしていると言っていた。

そうだな、ピッキング不能な箱と考えるか。

それを道端に置くと仮定しよう。

それは強固で特定の人物ではどうあっても開けられない。

そんなものがある時俺なら何を入れる?

お金や貴重品の類を入れるだろうか?

自宅にそんな金庫を置くならありかも知れない。

しかしここでいくつかの疑問が出てくる。

まず、なぜ目のつく様な所にそんな物を置いているのか。

二つ目、箱と言う表現を使ったせいで少しおかしくなっているが、なぜ普通の生き物は箱の中に入れるのか。

そして、三つ目、それに賛同する奴が最低二人もいるのかと言う事だ。

仲間内で集めた財宝なら箱を埋めるなり、して隠せばいい。

幾ら箱の強度に自信があろうとも中に入れるものがいるのだから、取られても文句は言えないだろう。

その条件下での協力者の存在。

パフェの言葉を信じるならパフェと同じような神がこの学校に三人も関係している事になる。

先程の会話でそいつらはこの校舎内に入れる可能性が高い事をパフェは口にしている。

それぞれがこの箱に入れる場合、内容物は一つ、或いは共通で保管する物体である可能性が高い。

なぜなら別々の物を入れると横取りされる危険があるからだ。

とはいえ、有り得ないわけでもない。

信頼における者同士なら十分辻褄が合う、か?

少し別の視点に移ろう。

なぜそいつらはここに結界を張ったのか。

ただの気まぐれと言われれば、そこで終了だが、少し考えてみる。

例えばそう、ここでなければいけない理由があるとしよう。

校舎にしか隠せないものとはなんだろうか。

いや、何も隠すだけが能じゃない、保護すると言う選択肢もあり得るはずだ。

それなら生徒が出入りできるのも考えられる。

生徒を保護する………、いや、環境を保護か。

この学校と言う環境を護っているのなら、生徒が出入りできるのも理由がつく。

学校と言う環境にとってパフェは異物と判断され、排除されたと見るべきか。

髪の毛をがしがしと掻きながら思考を中断し、立ち止まる。

本音を言うとパフェから聞いた時から何となくこれじゃないかと思う推論がある。

この結界の条件。

1、一定以上の能力を持つ者の入場を拒否。

2、学生やそれらの関係者の入場を許可。

3、3人以上6人未満で作られている。

4、触れるまでその存在に気付く事はない。

4の条件はパフェが学校を見て普通だと言っていた事と、壁にぶつかるまで何も言わなかった事からの推論だ。

パフェはあたかも一面ガラス張りの部屋に宝を置いているかのごとく喋っていたが、4の条件を見る限り最低限は隠している事が解る。

最低限なのは恐らく2の為だろう。

ではなぜそこまでして2を許可するのか、学校でこの条件を適用するのだから生徒が必要なのだろう。

もしくはさっき考えた通り、学校と言う環境が重要なのかだ。

しかし、外に出れば結界の保護から外れるように、生徒を護っている、とは違うみたいだ。

学校と言う土地を護るのであれば、それでいいが、環境を護るのであれば少しおかしい気もする。

例えば外でここを狙うものが待ち受けており、出てくる生徒を皆殺しにするとしよう。

そうすると学校はどうなるか?

生徒が次々と殺される学校が学校として機能するだろうか。

それとも新しく生徒を補充すれば有効となるだろうか。

そういう人寄せの魔術が掛かっているのならありだ。

パフェが言っていたようにいかれた魔術師が夜な夜な生徒を実験材料に遊んでいるのだろう。

だが、恐らく違うはずだ。

そこまでして得るメリットが少なすぎる。

そんな事をする位なら完全に結界を隠し、攫ってくるか、不可逆性の結界を作ればいい。

人寄せの魔術があるならなおさらだ。

大量に材料が必要にしたって、別に学校じゃなくてもマンションや住宅地でいいはずだ。

そもそもこんな変な結界を用意する意味がない。

実験用のアリ一匹に犬小屋を用意するかのような不自然さだ。

ならば土地を護っているだけなのだろうか。

むしろ俺は逆にこう考えたい。

蟻の巣に犬が混じっているから犬小屋を建てた。

そんな気がしてならない。

化物が学校に通いたいと言ったから、それを外に逃がさない為に首輪をつけた。

つまりこれは檻なんじゃないかと思う訳だ。

いや、化物じゃなくてもいい、何処かのお姫様でもいい。

命を狙われているが、学校に通わせたい、とか。

案外この結界を作った奴らが学園関係者で学校生活を壊されたくない、とか。

そんな存在がいるかどうかはパフェに訊かないと解らないが。

「ふぅ…」

思案しながら適当に見回っていたせいか、いつの間にか我が部室の前に着いていた。

オカルト研究部だか占い部だかミステリーサークルだが忘れたが、うちの先輩が立ち上げたいろんな意味でイタイ部だ。

よくもまあ部室が割り振られたなと思う。

部室の鍵を持って来てないので中は確認できないのだが、まあダメもとで扉に手を掛けて引いてみる。

あっ、開いた。

と意識の内で呟いていると同時に自分の体感時間が引き延ばされ始める。

思考は未だ認識できていないが、眼球めがけて何かが迫っているのを視界に収める。

思考はそのまま扉の開閉に向いたまま、反射だけで首が傾き直撃を避ける。

通過していく銀の鎖の付いたナイフを流れ見ながら思考の処理はまだ追いつかない。

迫る第二撃を察知し、体は横に飛ぶ。

それと同時にナイフを投げた奴が俺のいた地点を手刀で薙ぎ払った。

流れる様な追撃。

もし防ぐなり喰らうなりしていたら完全に入っていただろう。

スカった?

―――――いや違う。

無駄な思考をシャットダウンし、目の前の相手に思考処理を集中させる。

初撃に投擲されたナイフが鎖によってしなり、鞭のように迫ってくる。

空中により回避不能。

先に右腕を伸ばし自ら当りに行く事でダメージ軽減。

手に幾らかのダメージがあるが戦闘続行可能。

鎖を握りしめ、手繰り寄せて攻めに転じようとする。

手応えが…ない?

気付いた時にはもう遅かった。

相手は始めから俺が鎖を手繰る事までを読んでいた。

手繰ると同時に手を離し、俺へ迫る。

俺は全力で手繰り、空を切った事により完全にバランスが崩れている。

何とか体を動かそうとするが、間に合わない。

衝撃に備えて体を固くするのと同時に相手が止まる。

「ぁ? カノンか?」

何処かで訊いた事ある声が聞こえる。

顔を上げ、よく見ると知っている顔と言うか、部員の一人だ。

というか、赤城だ。

「っと、…殺す気か」

不自然な体制から体を痛めない様着地すると、辺りに腰を下ろす。

どっと汗が噴き出てくる。

何で部室のドアを開けるだけでこんな目に合わなければならないのだろう。

「なんだよ、気配消してドア開けようとしてる奴がいるからてっきり俺を殺りに来たのかと勘違いしたじゃねーか」

先程手放したシルバーチェーンを回収すると、赤城は俺の横に座り込む。

部室がすぐ傍にあるんだからそこで話せばいいのにと思うが、もう腰を上げる気にならなかった。

というか、その全身の銀細工、護身用だったのか。

真剣にこいつが校則違反にならないか生徒指導に尋ねてみたくなった。

「んで? どうしたんだ今日は。お前休みだったろ、何でわざわざ今部室に来るんだ?」

「忘れ物取りに来たついでにダメもとで部室覗いたら襲われた」

咄嗟に出たいい訳にしては上出来な部類だと思う。

実際嘘は言っていない。

「そいつは悪かったな。あ~、実はな昨日の事なんだが、コンビニ前に屯っている奴らを少し撫でつけちまって、今日報復にやってくるんじゃないかとびくびくしてたわけだ」

そう言いながら赤城は指をぽきぽき鳴らす。

その眼は瞳孔が開いてぎらつき、完全に野獣の眼になっていた。

こいつ…なんか違うぞ、絶対こいつ違うものにびびっている。

俺じゃ無くても十人が十人そう思うだろ。

「撫でつけ? びくびく?」

俺は胡散臭そうに赤城を見る。

実際胡散臭いし。

「詳しく言うとだな、昨日の夕方、急にインスタント食品が食いたくなった、それもいつも非常食として常備してある人気メニューじゃなしに、期間限定とか、地方限定とか、新商品とか、そういう未知の奴が食いたくなったんだ。あるだろ、そういう時? ぁ? ない? いや俺はあるんだよ。でだ、原付に乗って近くの店へ行くわけだ。選択肢は二つ、2、3分で行けるコンビニと7分かかる代わりに品ぞろえの良いスーパー。どっちを選ぶか解るだろ? 俺はすぐインスタント食品が食いたいんだ。当然コンビニをチョイスしたわけだが、目的のコンビニの前には肥溜みてぇな連中がうじゃうじゃといたわけだ。まだ日も落ちてねぇのに涌いてきやがって糞どもがと思ったが、今騒ぎを起こせばインスタント食品が買えなくなると思い、眼を合わせずにコンビニへ入るわけだ。中には店員以外誰も居ず、俺は晴れやかな気持ちでインスタント食品コーナーへ向かった。中に客がいないのは外の連中のおかげかもしれないとちょっと思ったが、最早そんな事はどうでもいい。見るとそこにはうっちゃり味とさば折り味のカップラーメンが置いてあったんだ。なんだ、うっちゃりって…決まり手缶ジュースのあれか、螺旋缶ジュースのあれなのか? と訳のわからない事を思いつつもこれは買うしかないと思い、二つをそれぞれ一つづつ買う訳だ。この時点で俺のボルテージはマックスでフルスロットルに解放されてる訳だ。そんな俺を肥溜の連中が『あっ、あいつうっちゃり味のカップラーメン買ってきましたよ。ぷっ(笑)』って言って爆笑しやがった。ま、俺もおかしなもん買ってると自覚してるからな、この程度の暴言許してやろうと思った訳だ。ところがだな、奴ら何を思ったのか、俺へ向かって唾吐きやがった。あろうことかそれが俺のカップめんにかかりやがった。その瞬間一番近くにいた奴の顔面を減り込むくらい…いや実際めり込んだな…、蹴飛ばし、近くにいた奴らを俺の腕が奴らの血で染まるまで殴り始めたわけだ。当然数で勝ってるやつらは俺を後ろから羽交い絞めにしたり、蹴りかかってくる奴らもいたが、どてっぱらにナイフぶっ刺してやったら大人しくなった。んで、気がつくと辺りはそいつらの唾やら血やら吐瀉物やらでどろどろになってて、俺のカップラーメンも奴らに踏まれてぐちゃぐちゃになってたわけだ。仕方ねぇからそいつらの財布から金とってもう一個買いに行こうかと思ったが、コンビニの店長が何処かに電話かけてんだよ。これはやべぇと思い、急いで原チャリに乗り、トンズラしたと言う訳だ。ん? どうしたカノン」

長い、と言うかこの人真剣にやばい。

どれだけインスタント食品好きなんだよこいつ…。

インスタント食品が原因で流血沙汰なんて聞いた事無いぞ。

なんでこんな奴が普通に学校通えているのか甚だ不思議だ。

「……………いや、何でも無い。取り敢えずお前からインスタント食品をもらうのは未来永劫しないことを誓う」

「なんだそりゃ。まあ、という訳で俺は昨日カップラーメンを食い損ねた訳だ。だからな」

だから?

猛烈にいやな予感がする。

「今度そいつらにあったら真剣まじで殺さないかびくびくしてる訳だ」

何言ってるんだこの人。

血走った眼でこっち見て何言っちゃってるんだ。

俺は自分でもどうやったか解らない技術で座ったまま後退する。

それくらい今のコイツから離れたかった。

「……取り敢えず、俺はもう行くから。これ以上変な事件は起こすなよ」

俺は立ち上がり、汚れてもいない裾を叩くと、赤城に背を向ける。

「はっ! 起こすかバーカ」

赤城も立ち上がると俺とは逆方向に歩きだす。

正直に言おう、俺は絶対無理だと言う確信がある。

こんな奴が問題起こさないなんてありえない。

今後友人としての身の振り方に考えた方がいいだろう。

「架音」

数歩歩いたところで赤城は振り向き、俺を呼ぶ。

反射的に俺は立ち止まった。

「―――気をつけろよ」

聞きとれるか聞き取れないかギリギリの声が俺の耳に届く。

すぐさま振りむき、意味を尋ねようとするが、既にそこには赤城はいなかった。

「どう言う意味だよ、それ…」

俺の呟きは人気のない校舎に吸収されていった。


久しぶりに夜行と沙良紗が出てきました。

え?新キャラと思った方は第一章その1か人物紹介へどうぞ。

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