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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『Notturno capriccioso』
16/72

その9 「終焉神」

食事も殆ど終わりにさしかかった頃、微妙な顔して食べていた姉貴が、口を開く。

「んー、そろそろいいかな? パフェちゃんの事教えてもらっても」

「なんじゃ? 好みの雄でも言えばよいのかの? ならば当然主様じゃ」

『だいちゅき、LOVE』と言いながら抱きついてくるパフェ。

狭いテーブル内で抱きついてくるものだから手に持った湯呑を引っ繰り返しそうになる。

本当に大丈夫なのだろうか、こいつは。

色々と眩暈がしてくる。

「おい、こんな狭いとこで……」

引っ繰り返しそうになった湯呑をテーブルに置き、パフェを引き剥がそうとすると、その表情が視界に入る。

―――ニヤリ。

と俺にだけ表情が見える位置から意地の悪い表情を浮かべていた。

思わず途中まで出かかった言葉を失い、唖然とする。

これは絶対俺がパフェに返した回答に対しての当て付けだ。

あの時の解答を根に持ってたのだ。

何ともブルーな気分になった俺は、抱きつかれているのはそのままに八つ当たり気味にくしゃくしゃとパフェの髪をなでる。

「……むっ」

嫌がるかと思われたパフェだが、戸惑った顔を一瞬見せただけで特に抵抗はしなかった。

なのでそのまま撫でておく事にする。

しっとりとした質感の髪が妙に心地いい。

「――っ!!」

俺がパフェの髪を撫ぜていると悟りを得た僧の様な表情をしていた天羽の眉がピクリと動く。

天羽の瞼が重厚な扉の様にゆっくり開いていき、レーザーでも出しそうな冷たい眼で俺を睨んでくる。

あ~、ヤバいな、と思いつつも横のパフェは一向に気にした素振りを見せず、むしろ自ら頭を俺の掌に押し付けてきた。

掌と、パフェが抱きついている所は温かいが、それ以外の個所は冷たい金属でも押し付けられているかのように冷たい。

この金属の冷たさはそう、日本刀に触れた時の冷たさに似ている。

「………………」

思考すること数秒、べたべたひっつこうとするパフェを無理やり引きはがして会話に戻らせる。

この心地よさは名残惜しいが、今は断念する事にした。

パフェは口を尖らせぶーぶー言っているが、俺が相も変わらず睨んでいる天羽を顎で指すとやれやれと言った風に座りなおした。

「―――冗談じゃ。そう睨むな、怖くて吾が申せなくなってしまうではないか」

「…………くっ」

俺に抱きついていた時の態度とは一転、パフェは天羽の視線を飄々とかわす。

天羽は暫らく苦虫を噛み潰したかのような顔をして睨んでいたが、渋々そっぽを向いた。

これは流石に俺も少し同情したくなった。

俺も片棒を担いでいたような物なのでなおさらだ。

だが、それをここで言うとややこしくなるので天羽には可哀想だがスルーさせてもらおう。

「っと、その前に大事な事を聞くのを忘れてた」

手をぽんと打つと、華蓮は俺へと向き直る。

何事だろう、と俺とパフェの頭の上に?がでる。

「昨日何があったかをカー君の口から全部聞かせて、その間悪いけどパフェちゃんには黙っといてほしいかな」

真面目な顔で姉貴は俺とパフェを見比べる。

「了承した。答え合わせなり間違い探しなり好きにすればよい」

パフェは静かにお茶をすすりながら答える。

恐らくは俺が起きる前にパフェは俺達の間で起きた事を話したのだろう。

ちらりとパフェに目線を向ける。

静かに座すパフェからはなんの感情も感じ取ることが出来なかった。

視線を姉貴に戻す。

姉貴と視線が交差する。

言葉は悪いが尋問の正誤を姉貴は知りたいのだろう。

「……わかった」

俺はあの日パフェとあった辺りから出来る限り覚えている事を姉貴らに説明した。

ノイズや契約、神の力に関してはかなりあやふやに言ったが、そこは最早覚えていないのだからしょうがない。

「ふむ、ふむ、主観の差異はあれど、パフェちゃんとだいたい一緒だね」

「そりゃあのぉ、吾は主らを騙すつもりはないからのぉ」

パフェは手の上で湯呑をくるくる回しながらだるそうに答える。

アレは疑われて少しショックを受けている顔だ。

意外とナイーブなのかもしれない。

「さて、本題だけど。まず、もう一回確認したいんだけど、パフェちゃんはカー君と影と体で繋がっていて、離れられないんだよね?」

姉貴は唇に人差し指を添えて、考え込むような素振りで尋ねる。

体はともかく、影で繋がっている事は初耳だったが、円滑に進めるため今は黙る事にする。

「うむ、間違いないぞ。確かに吾は主様に体を提供したが、体と一体となっていてはいちゃいちゃ…こほん、色々と疎外が生まれるのでこうして多少の部分を本体として残させてもらった。じゃが、吾のみではどうしても体を維持出来ん状態じゃったのでこうして影と言う形で繋がりを作らせてもらった。まあ、言うなれば是は吾と主様の臍の緒と言うところじゃの」

と、俺とパフェ足の間に出来た影を足でちょんちょんとつつくパフェ。

助かったのは事実だが、コレはいち早く俺に言うべき事柄ではなかったのだろうか?

目線でパフェに無言の圧力をかけるが、素知らぬ顔で無視される。

随分と面の皮の厚い神だ。

――それは今に始まった事ではないが、まあ良いだろう。

形はどうであれ、共生している事は伝えられていたのだから。

今日何度目か知らぬ溜息を吐く。

「まずは吾の事からじゃの。―――――吾は終焉の神が一、第二神パフェヴェディルム=ヒアス=ファノレシス。終焉神などと大層な名で呼ばれておるが、何の事はない。ただの呪われた愚かな神じゃよ」

ふぁっと欠伸をしながらパフェは眠そうに己の名を告げる。

「吾ら終焉神はその称号を授かった時に呪いを一つもらう。その呪いは生き物が呼吸するように、食事をするように、睡眠するように日常、非日常問わず吾らの身にのしかかる。まあ、それをしなければ死ぬ、なんて呪いではないがの」

眼を細め、パフェは窓の外を見る。

ちょうど夕日が沈むところであり、それを見てパフェは忌々しげに舌打ちした。

「…その呪いとは?」

続きを促す意味も含めてパフェに質問する。

「魂を求めるのじゃ。生きとし生けるものそれぞれに備わっている魂に触れたくて触れたくて仕方なくなる。――――――解りやすく言うとじゃな、生き物を殺したくなる訳じゃ」

酷くつまらなそうにパフェは語る。

まるでやりたくも無い授業を無理やりやらされてるかのように。

さっと血の気が引くようにパフェの周りから空気が静止していった。

かく言う俺もどう反応していいか解らなかった。

恐怖とは違う、感情。

言うなれば理解できない物に遭遇した様な、そういう類の感情が占めていた。

「……言い方が悪いけど、それって逃げなんじゃない?」

そんな居心地の悪い沈黙を破ったのは先程から一切口を出してなかった先輩だった。

眼を瞑り、いつも通り淡々とした口調で一見冷静に見えるが、湯呑を掴んでいる手は微かに震えていた。

普段感情の起伏の乏しい先輩が先程のパフェの言葉で怒っているのだ。

「ほぉ………」

パフェは肯定も否定もせず先輩を流し見る。

仕草と表情を察するにどうやら続きを促しているようだ。

「…だってそうじゃないの。曲がりなりにも神様…なんでしょ、生き物を殺すのに精神病みたいにそんな理由をつける必要がどこに…あるのかな? ――――もっとはっきり『私は生き物を虐殺したいです。虐殺することが存在理由なんです』って言えばいいのに」

口調は淡々としていたが、明らかに敵意を持った眼差しで先輩はパフェを睨む。

その瞳の奥には炎の様に激しい怒りが渦巻いて見えた。

「先輩……」

先輩は治癒者だ。

ヒーラーと言えば聞こえはいいかもしれないが、実際はそんないいものじゃない。

治癒者とは最も多くの直接的な死を見る職業だ。

軍人や快楽殺人者などは自分の方が多くの死を見ている、と言うかもしれない。

単純な数で言えばそうだろう。

だがそれは死者の数を数えただけだ。

銃やナイフによる死など結果死んだにすぎない。

トリガーを引くだけ、心臓にまっすぐ突き刺すだけ、あまりにも簡単すぎて二度目からは何の感慨も浮かばなくなる。

それはそうだ。

なぜならそいつはトリガーを引いただけなのだから。

トリガーを引くだけなら子供だってできる。

その先に何があろうとも、行為に然したる違いはない。

言ってしまえば心のあり様次第だ。

だが、治癒者はそうもいかない。

生きてるのか死んでるのかすらわからない物体を蘇らさなければならないのだ。

お伽噺の様に誰もかれも生還できればいいが、現実そうはいかない。

無理やり生かそうとしている人間がむなしく死んでいく。

彼らはいったいどんな気持ちでそれを見送っているのだろうか。

一度先輩にそれを聞いたことがある。

その時先輩は。

『精密機械のリサイクル工場と同じ。ガチャガチャ弄って治すだけ、治らないならダメになるまで弄るだけ。―――――そう思わないと、私は耐えれなかった』

と、寂しそうな眼をして言っていた。

だから許せないのだろう。

詰まらなそうに生き物を殺す正当性を話すパフェが。

「あぁ、すまぬ。呪いと言う言い方がまずかったかの、性質とでも置き換えてほしい。――――それと、何か勘違いしておる様じゃが、一つ訂正させてもらう」

髪の毛を指に絡みつけながら、溜息をつくと、パフェは真っ直ぐ先輩を見つめる。

「正直な話、吾を含め神は、『人間を殺した』などと思う奴などおらぬ。お主らが普段、羽虫をいつの間にか潰しても気がつかぬように、吾らとしても邪魔な何かを振り払った、程度にしか感慨を感じぬ。言うなればとるに足らない事なのじゃ、特に信仰の力を源としない吾の様な肉体を持つ神にとってはの」

頬杖を付きながら嫌そうに語るパフェ。

だが、何となくパフェの言いたい事が見えてきた。

「………………へー」

今にも凍結しそうな冷たさで先輩がパフェを睨む。

先輩だけじゃない、考え込んでる素振りの姉貴の心象も穏やかではないだろう。

天羽に至っては言わずもがなだ。

これ以上パフェが主導権を握ったまま会話しても、状況は悪化するだけだろう。

今にも噛みついて行きそうな先輩を手で制し、口論を控えてもらう。

「すみません先輩、今は話を先に進めさせてもらいます。――――――回りくどいのはなしにしないか? 生き物を殺すのにためらいがないんだろ? ならなんでそんな事を話すのに嫌そうな顔をするんだ」

解りやすいほどにだるそうなスタンスでパフェは語っている。

パフェが語った内容を要約するとこうだ。

神は生き物を殺すのに何も感じないが、終焉神は生き物を殺したくなる。

且つパフェ自身は何も感じないと言う。

何も感じない、むしろどうでもいい事を呪いとして表現したのだ。

つまりはそこがパフェにとって一番言いたくない部分なのだろう。

ジッとパフェに視線を送る。

パフェは深く溜息をつくと肩をすくめた。

「吾らが生き物…神を含めての、を殺すのは生き物の数を調整する為じゃ。いや、殺すと言うより間引くと言った方が適切じゃの」

「じゃあ、あんたはその間引く選別を半ば己の意思を無視して行わされているから嫌なのか?」

言っては悪いが、俺はこいつの事を何を殺してもケロッとしてる奴だと思っていた。

俺や姉貴だって妖魔の類と対峙するときはそういうものだと割り切って殺している。

だから、こいつも仕事だ使命だと割り切って、あるいは端から気にせず殺しているのだと思っていた。

「同然じゃろ。主様は、庭にいる虫をわざわざ素手で殺せと強制されて嫌にならぬのかや? ―――――例えその虫が将来自分の家を破壊する原因になるとしても」

だが、俺の思惑に反して、冗談めかして語りかけるパフェの目は笑っていなかった。

その眼は俺に伸ばした黒い布のように深い漆黒が広がっていた。

ここでやっと俺はパフェが何でこれを話すのがいやなのか解った。

例え通り、虫ならばいい。

ためらわずに殺すだろう。

妖魔のように。

それが将来自分に仇なす害虫ならなおさらだ。

だが、それが猫や犬、果ては人間と変えられればどうだろう。

いつか、自分に仇なす人間がいるからそいつを殺せと言われた時、どうするか。

更にそれが家族や恋人、親友ならどうするか。

こいつはその時どうしたか。

生き物を間引くとはそういう意味なのだろう。

やっと繋がった。

それらを殺してきた結果、こいつは独りになったのだ。

「―――――確かに、それはいやだな」

俺はそう答える事しかできなかった。

「じゃろ? これでも吾は位の高い神なのになんでこんな事をと、今更ながら思う訳じゃ」

こうやってパフェだって冗談みたいに済まそうとしているのだ。

今なら表面上は笑える。

パフェだってこんな事を長々言いたい訳ではないのだろう。

「主様よ、なんで吾らが終焉神と呼ばれておるか解るか?」

「多くの生き物を虐殺…いや間引きか。それをするからだろ?」

ただの人間でもその気になれば何十人、何百人と言う人が殺せるのだ。

神ならば国、果ては大陸中の生き物を根絶させることもできるだろう。

こいつらのノルマがいくらかは知らないが、上限を満たせないと言う事はないだろう。

「違う、結果は同じであれ、過程は全然違うのじゃ」

首を振り、パフェは俺の答えを否定する。

「終焉神とはの、終焉神同士が戦う余波で世界このよが滅びるから終焉神と呼ばれるのじゃ」

パフェは真面目な顔をして答える。

その言葉に俺は。

―――戦慄。

したかったのは山々なんだが、なんだ。

ここへきて一気にスケールがでかくなりすぎて共感できる限界を超えた。

世界が滅びる?

わざわざ『この世』とルビを振った位なんだから地球じゃなく全宇宙を指してのことだろう、恐らく。

ギャグじゃないのはまあ、解るんだがなんかこう、ぱっとしない。

これでもお伽噺の様な環境で生きてきたつもりだが、全宇宙レベルの話は付いていけない。

事柄が大きすぎて実感がないと言うのが本音だ。

だいたい終焉神とやらはこの街にはパフェしかいない訳だ。

こいつが今、こんな状態なのだから何ら脅威ではないのではないだろうか。

と、何の根拠も無い事を考えながら俺はパフェを真剣に見ていた。

「………………………」

俺達の間に痛い沈黙が訪れる。

誰も何も発しない。

パフェは眼をぱちくりさせる。

「驚かんのかや?」

「いや、驚いてる」

驚いてはいるんだが、国外についてのニュースと同じで感情の籠らない感嘆詞しか、口から出てこない。

俺だけじゃなく姉貴たちも同じようで皆目が据わっている。

とは言えこっちは一気にパフェの話が胡散臭くなって成っているのだろうが。

パフェは再び目をぱちくりさせる。

「ふむ、みな肝が据わってる様じゃの。これなら安心して全てを話せる。実は吾以外にも終焉神が来ていての、そやつが宝具、神器の類の物を狙っておる。特にそこの小娘の様な物をな。吾はそれを阻止するためではないが、そやつを殺す為にこの世界へ来たわけじゃ。まあ、それを主様に邪魔された訳じゃが、その件に関しては気にする事はない」

「へ~、それは……大変……だ?」

皆いつの間にか姉貴によって並べられた茶菓子と茶を飲み食いしながらふんふんと適当に頷きながら聞いていた。

斯く言う俺もそうで、茶菓子に手を伸ばした姿勢のまま固まる。

―――ちょっと待て、今こいつ重要な事をさらっと言わなかったか?

終焉神がもう来ているとか、天羽がそいつに狙われているとか。

反芻して考えた内容に理解が追いついてきて、血の気がさっと引く。

パフェを見ると当の本人は一仕事終えた、という顔をしてお茶を啜っている。

この辺りからもしかするとかなりやばい状況なのではないのか、という思いが心の隅に表れ始める。

「えーっと、つまり俺たちにその終焉神とやらがこれから襲いに来るって事か?」

俺は中身の無くなった湯呑を握りしめて、恐る恐る尋ねる。

「お主らだけが標的ではないが、まあそうじゃの。この国の神器や宝具くらいは大方回収するんじゃないじゃろうかの」

俺の質問に、お淑やかに茶菓子をつまみながらパフェは何でもないように答える。

何の脅威でも無い様に、あっさりと。

「それは雑魚だから簡単に処理できるってことだよな?」

「まあ、終焉神の中では弱い方じゃの」

パフェの言葉にほっと一安心する。

後から考えれば何も安心できる要素など何一つとしてないが、この時はパフェの口振りに思わず安心してしまった。

「吾を当てにしている様じゃが、今の吾ではどうあがいても勝てんぞ? ――――吾は今普段の1割の力も出せんからの」

困ったものじゃ、と言いながらパフェは再びお茶を啜る。

勝てない? 一割も出せない?

――つまり、どう言う事だ。

暑くも無いのに全身から汗が出てくる。

「――そんな戯言を信じろと?」

俺の焦燥とは裏腹に、パフェの事を全く信じていない天羽はパフェに敵意だけでなく疑いの目を向ける。

「信じる信じないはお主らの自由じゃ。好きにすればよい。じゃが、主様はともかくお主らを吾が護るかどうかも吾の自由だと言う事を忘れないでほしいの」

「……………っ!!」

既にパフェとの実力差が解っているのか、天羽も先輩も姉貴も何も言わずに黙りこむ。

「これで対岸の火事を体験してる脳も危機感を覚えたかや。吾らがどれだけ危ない所にいるかを。――――――現にもう既にこの街でおかしな事が起こり始めとるのではないかの?」

ニヤッと笑いパフェは俺達を見渡す。

そこで華蓮が手をあげる。

「ねーねーパフェちゃん。悪いんだけど今ここで出来る全力を見せてもらえないかな? その襲ってくる終焉神さんはそれより強いってことだよね? でも、私たちはパフェちゃんの本当の力をその目でちゃんと確認した訳じゃないし、いまいち脅威の度合いが解らないから意見しにくいんだよね」

先程から無言だった華蓮がニコニコしながらパフェに言った。

それは至極まっとうな意見だろう。

戦った俺はともかく、姉貴らは聞いていただけのはずだ。

聞くのと見て感じるのとでは認識の度合いが全然違ってくる。

「良いじゃろう」

パフェはこくりと頷くと、掌を上に、胸の前に右手を持ってくる。

パフェの髪がフワッと巻き上がり、瞬時にその右腕にエネルギーが集められていくのが解る。

その手のひらの先に黒い球体が出来る。

あれがパフェの言う概念心具と言う奴なのだろうか。

そう思っていた次の瞬間パリンと音がし、空間が割れた。

硝子のように黒い線を幾つも走らせて。

―――いや、違う。

破片の縁に見えた黒い線は幾重にも張り巡らされたパフェの漆黒の杭だった。

俺達や家具を避ける様にだが、それでも残りの空間にびっしりと張り巡らされていた。

ここにいる誰もがそれに反応する事すらできなかった。

「―――天羽、祓って」

華蓮が指示を聞くと、ろくに構えもせずに天羽は無造作に二、三腕を振る。

パラパラと音がして切り落とされた枝先がフローリングの床に落ちる。

「ふざけるな、これが全力…」

「ストップ!」

パフェに文句言おうと一歩足を踏み出そうとした天羽に華蓮が静止の声をかける。

「これが、パフェちゃんの能力ってわけ?」

フローリングに突き刺さった漆黒の枝を注意深く眺めながら、姉貴はパフェに尋ねる。

「吾だけではない、肉体を持つ総ての神に備わっている能力、心具……正式名称心象具現礼装じゃ。字の通り心象風景を具現化し、武器として使う事の出来る技法じゃ」

床に突き刺さっていた漆黒の枝と残った枝が一瞬で分化し、ナイフを模って天羽と華蓮に付きつけられる。

「特徴としては物理、霊体、魔術など全ての物に接触が可能だと言う事」

「それは霊力を込めた武器や神器とどう違うの?」

本来人間であれば、天羽などには見る事も触ることも許されない。

俺達はそれを無理やり目や手に霊力を灯す事により、見たり触ったりしている訳だ。

天羽はその逆で、触りたい物に自ら神気を通し、触れるようにしている。

つまり姉貴が言いたい事は霊力を灯せばどんなものでも触る事が出来るのに、特徴としてそんな物をあげたのかという事だろう。

「神器はともかくとして、マナ…いや霊力かや? そんな物をなぜ武器に通す。霊力自体が霊体に触れる事の出来るものじゃろ? 宙にその武器状の霊力の塊を作ればよい話じゃろ」

「それは…………」

俺も姉貴も言葉を濁す。

出来ない事はない。

が、メリットデメリットが釣り合わない。

空中に霊力の武器を作ろうと思うのなら霊力の固定をする必要が出てくる。

でないと、すぐに霧散してしまうからだ。

それに加えて空気は伝導率が悪い。

この二点により、この方法は非常に燃費が悪い。

しかも得られるメリットが、武器が無くても戦えるという点のみだ。

これならば徒手空拳で闘う方がましなレベルだ。

「まあ、無理じゃろうな。そんな事が出来るのなら魔術師は呪具や魔具を必要としなかったじゃろうし」

「という事はその心具は霊力を必要とせず、霊体などと接触が可能だって事?」

「その通りじゃ、付け加えるならその霊力の伝導率も100%じゃ、いや蛇足じゃったな。―――――本題はここからじゃ」

左手をギュッと握ると、辺りに散らばっていた心具がパフェの右手の上に集まる。

「ここまでは別に神じゃなくてもできるし、別に大した脅威でも無い。脅威となるのは、ここに概念…法則を捻じ曲げたルールをひとつ加えれる事にある。――――概念心具第一契約『Ⅰstファースト-SIN-』」

ぼそりと呟くと、見かけ上変化がないが、超然とした神気がパフェから放たれはじめる。

パフェはそのまま右手を湯呑の上にかぶせ、押しつぶすように降下させる。

まるでブラックホールでもあるかのように、黒い物質の中へ湯呑が取り込まれていく。

俺達は固唾をのんでそれを見守る。

「それが、私のコレクション一本ダメにしちゃった能力の正体か」

姉貴は何所からか柄だけになったひと振りの刀を取り出すと、残念そうに欠けた部分を触っていた。

本当に俺が寝ている間に何があったのだろうか。

だんだん聞きたくなくなってきた。

「まあ………そういう事じゃ。吾の概念ルールについては詳しくは話せぬが、見たままのルールだと思ってくれてよい。なお、この概念は神それぞれ固有のものであり、例えば『燃焼』と言う概念ルールを持つ物はその心具に触れる物を『燃焼させる』と言うルールが付加される。もし今吾の心具に『燃焼』が加わっていたのならこの湯呑は燃えていたじゃろう」

パフェは残った湯呑をぐちゃっと概念心具で握りつぶす。

「ちなみに概念ルールに対しては別の概念ルールでしか対抗できん。コレに抗したいのならば魔術なり神器なりを使え、間違ってもただの霊力だけの攻撃で防ごうと思うな」

すぅっとパフェは息を吸うと、掌の概念心具を解除する。

そして天羽を見ながら『まあ、そこの小娘でも焼け石に水じゃろうけどな』と呟く。

「なら私たちにどうしろというのだ。戦いもせず逃げ回れと?」

ゆらりと天羽がパフェに近づき、右手をパフェの首先へと向ける。

「そうは言っておらん。まあ、吾に考えがある」

パフェは不敵に笑うと、俺達を手招きすのであった。

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