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Demise ~終焉物語~  作者: メルゼ
『da capo』
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プロローグ

 息も荒く街中を駆け抜ける。

 足がぶれ、こけそうになろうと必死に足を動かす。

 爆発しそうなくらい心臓が鼓動し、それでも酸素が足りない俺は金魚の様に口をパクパク開き、少しでも多く空気を取り入れようとする。

 縺れる足、揺れる視界。

 住み慣れた町の光景が、今は異界へと変わり、何処を走っているのかさえ解らない。

 渇いた喉を潤そうと嚥下した唾に咽ながらも俺は走り続ける。

 ――あぁ、どうしてこうなったのだろう。

 ただただ理不尽な恐怖が俺の思考を削いでいく。

 どうすればいいのか解らないし、どう言う事なのかすらわからない。

 ただ、アレは俺を殺そうとしている、と言う事だけは理解できた。

 何時来るのかもわからない死の恐怖。

 一体何時まで走り続ければいいのか。

 答えの出ない恐怖に俺は思わず後ろを振り返る。

 それがまずかった。

 後ろに気を取られた一瞬、俺の視界は一気に開けた。

「っ!!!」

 一面の大空。

 そして階段、と認識した時には既に遅く、疲弊した体は止まる動作もせずに真っ逆さまに落下し始めた。

 一瞬思考が硬直するが、頭を護るように腕を十字に組み衝撃に備える。

「ぐっ!!」

 ガンガン体中を打ちつけ転がるが、それでも立ち止まるわけにはいかない。

 痛みに呻く暇も無く、俺は全身打撲となった体に鞭を打ちすぐさま駆け出す。

 ――詰んでいる。

 俺はもう既に詰んでいる。

 それでも無様に逃げるのは生物の本能所以か、俺がただ生き汚い所為か。

 街を幾ら駆けずり回ろうとも、目的は無い。

 ゴールなどは無く、ただ、一分一秒死の導火線から逃げていたかった。

 巨大なハンマーの様な物で叩き潰されたかのようなビルの跡地。

 脇にあった建物が強烈な酸で溶かされたかの様に軒並み融解して、見通し良くなった路地裏通り。

 砂山の様にど真ん中に風穴を開けられ、吹き飛ばされた近場の山地。

 総てが夢と見間違いたくなる光景。

 そこにアレが現れる。

 その瞬間俺の心臓がギュッと縮まる。

 ――ヤバい、やばい、早く逃げなければ。

 ゆっくりと、散歩するかのようにソイツはこちらに近づいてくる。

 一歩一歩踏み出す度に確実に迫る死の気配を感じる。

 俺は口から零れそうになる悲鳴を、無理やり息を吸い込みねじ伏せ、ソイツとは逆方向に走り出す。

『元』十字路を左に、交差点を右に、廃墟となった家の跡地を乗り越え、ただ只管に体力の続く限り走り続ける。

 一瞬だけ振り返ってもソイツが急いで追いかけて来ている気配はない。

 どのくらい走っただろうか、辛うじて半壊で済んだビルを見つけ、駆け込む。

「はぁ………はぁ………ふぅ」

 じっとりと流れ落ちる汗をぬぐいながら俺はビルの陰から辺りを見回す。

 撒けたか?

 まだ追ってきているか?

 心臓を激しく鼓動させながら俺は必死に視線を周囲に巡らせる。

 障害物など大してないのだ。

 追ってきているのならばここからすぐに気付く。

 二度、三度確認した後俺は漸く大きく息を吐き出し、腰を下ろした。

 そしてそれに気が付いた。

 目の前に立つ影に。

「御早い到着で……」

 最早笑うしかなかった。

 ジグザグに走り抜けたのに、コレは俺が来るのを解っていたかのようにここで待っていたのだ。

 スッとソイツは指を俺に向ける。

 無意味だと知りつつも俺はいつでも逃げれるよう身構えた。

 だが、ソイツはそれ以降一向に動こうとはしなかった。

「ぐっ!」

 舐められているのか、或いは俺が動き出せば殺すという合図なのか。

 ソイツの意図はさっぱり分からないが、同様に俺も動けなくなっていた。

 そんな中、何時からだろうか。

 視界に長い棒の様なものがちらちらと映り始める。

 ――何だ、これは……?

 ソイツがいつ動き出さないとも限らないのに、俺はそれが気になって仕方なくなった。

 それに伴ってか、あれだけ感じていた疲労も今は無くなり、いつの間にか俺の体は生温かい熱に包まれている。

 まるで俺自身が熱を放出しているように。

 視界に鮮血の花が散る。

 体がスローモーションで傾いていくのがわかる。

 ここでやっと『あぁ、俺は棒状の何かで先程既に突き殺されたのだと』崩れゆく視界の中、得心した。

 なんて間抜け。

 なんて呆気ない最後。

 視界にソイツの顔が映る。

 暗くて表情がよく解らない事がなぜか俺は無性に悔しかった。

 溜息と共に走馬灯の様なものが駆け抜ける。

 語るに値しない取るに足らない人生だ。

 だから俺の頭の中を占めたのはただ一つ。

 なあ、お前は一体誰なんだ?

 なんで、こんな事を……。

 薄れゆく意識の中、俺はソイツに声無き問いを投げた。

 そこで俺、輪廻りんね 架音かのんの記憶は幕を下ろした。


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