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7. レコーディング

フルート、クラリネット、サックスと木管楽器から順番に一人ずつ呼ばれているが、終わってからはそれぞれのパート練部屋に移動しているようで、音楽室に固められている和也たち部員は何も知らされないまま、そわそわしている。

次、次と呼ばれるスピードもかなり早く、一人当たり2分もかかっていなさそうだ。


とはいえ流石に全体の人数もかなり多いので、それなりに時間はかかりそうではある。


木管楽器が全員終わり、ユーフォニアム、チューバ、ホルン、トロンボーンと呼ばれ、ついにトランペットの番が来た。はじめにひかるが呼ばれ、その次に和也の番が来た。


レッスン室に入ると、そこにはコーチの前に機材が設置されていた。マイク、パソコン、ヘッドフォン、、、あのマイクとパソコンを繋いでいる四角い機材はなんだ?


「今からSpainの冒頭9小節間を録音してもらう。そのヘッドフォンつけてもらったら打ち込みのドラムとクリックが聴こえるから、それに合わせて演奏してね。じゃあ流すよ。」


心の準備も万全ではないままに、有無を言うこともできないまま演奏を促される。


演奏が終わった。10秒程度のフレーズだったから、特に間違えることもなかった。

それなりに上手く吹けた、、、、はず。


「おっけーありがとう。じゃあパート練の部屋に移動してね。」


「ありがとうございました。」


心が落ち着く間もなくレッスン室を追い出され、パート練部屋へと向かう。


「おー早いねーお疲れー!」


いつも元気なひかる先輩、かわいい。


「お疲れ様ですー。先輩どんな感じでした??」


「あたしはねー!なんか褒められたよ!すごい良い音してるって!でも録音ってなんか緊張するね!」


褒められた嬉しさが溢れているのが隠しきれない様子だ。かわいい。


まちる、大宮と次々に録音が終わり、部屋には全員が揃った。

録音はトランペットパートが最後だったので、感想を話す時間もほとんどなく、すぐに音楽室に集まるようにと連絡が来た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はい、急だったけど協力ありがとうね〜。じゃあ君たちに演奏してもらって全員分合わせたものを今から聴いてもらおう!特に大きな編集はせずに、音量バランスだけ軽く整えてちょっとだけ響き足してる感じだよ〜。」


演奏が流れる。想像を超えるクオリティに思わず部員一同、息を呑んだ。


「....これはひどい」


誰かがぼそっと呟いた。確かにひどい。ひどすぎる。曲の原型は留めてはいるが、聴くに耐えない演奏であることに違いはない。誰が拍子の頭からずれてて、どの楽器の音程やピッチがずれていたのか、全く判別できない程に崩れていた。


「そう、これが現実。まあ実際の現場ではセクションごとに録音するからもっと演奏はしやすいとは思うけど、今回は君たちに主観的な基準てのは意外にも信用ならないのだということを体感してもらいたくてね。特にアタック。これをクラシックの基準で演奏するだけでポップスは一気にダサくなる。他にもリズムやピッチ、グルーヴ感やマイク乗りなんか言い始めたらキリがないけど、主観的に上手くできたと思っていても、こんな感じでレコーディングをして客観的に聴いてみると意外と粗だらけなことに気付けるんだよね。

今とりあえず録音機材5セットの購入手配してるから、届き次第みんな自由に録音練習してね!録音に関する細かいセッティングなんかはトランペットの向日真和くんが担当してくれることになってるんで、よろしく。彼自身録音経験が豊富みたいで、今回の録音も一番クオリティが高かったんだよね〜。

自分自身の演奏を客観視して批判することは上達におけるかなりの近道になるんだ。そしてその経験はポップスだけでなくもちろんクラシックにも応用ができる。じゃあまた君たちの成長した演奏を聴けるのを楽しみにしてるよ!」


そう言い残し、コーチは足早に音楽室を去って行った。


(ん?向日先輩が録音経験豊富ってどういうことだ?てか機材って結構高いんじゃないのか?私立の財力すげえ〜)


「ではここからはパート練習の時間にします。今みなさんに演奏してもらった音源はクラウドにUPしておくので各自確認しておいてください。個別の録音を聴けるようになってるみたいです。あと、嵐山コーチが今から各パートを回ってくれるみたいです。」


部長の指示で部員たちはゾロゾロと動き始める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「真和、レコーディング経験あったんだね。やけに上手いと思ってたよ。」


「はは、あんまり公表する気はなかったんですけどね」


「すごいすごい!じゃあ録音したやつヨウツーベに載せてたりするの??」


「載せてますよ。絶対教えないですけどね。」


「え〜なんで教えてくれてもいいじゃないかよぉ〜」


「ダメです。先輩絶対周りに言いふらすでしょ」


「絶対教えないから!!だからお願い!!!!」


「ダメなもんはダメなんです〜」


よほど見せたくない理由があるのか。それはそれで気になるな。


「あの〜、部長が個別の音源聴けるって言ってたので、せっかくなのでみなさんで全員分聴いてみませんか?」


「おぉ〜いいねぇ聴いてみよう!」


大宮の提案で全員の音源を聴くことになった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「、、、なんかしょぼいですね。」


「ね、、、」


とにかくしょぼかった。リズムもピッチもガッタガタ。録音中は全くそんなこと思わなかったのに。さすが経験豊富なだけあって向日先輩はとても正確な演奏をしていて、音のカッコよさみたいなのが感じられる。一番意外だったのはひかる先輩だ。何というかこう、ひかる先輩の音色の輝かしさが失われているような?


「なんと言うか、ひかる先輩の良さが消えましたね。」


さすがまちる、一切気を遣わない。


「そうなんよね〜。あたしの音ってこんなつまんなかったっけ?まなとはどう思う?あたしと何が違うと思う?」


「いや〜正直僕も趣味でやってるだけなので、あんまよく分かってないんですよね。」


「おーうどうだった〜?」


ちょうどいいタイミングでトランペットを持った嵐山コーチが部屋に入ってきた。今話していたことを伝えると、


「あ〜それはマイク乗りの問題だなぁ。よく気づいたね!」


とコーチは言った。


「君たち、倍音って言葉は聞いたことある?」


「基音がなってて、同時にその倍の周波数の音が聞こえるってやつですか?」


コーチの問いかけに向日が応じる。


「そうそう。あれって周波数で考えるんだけど、トランペットのマイク乗りにいい倍音は2kから4kHzの帯域が出てる時って言われてるんだ。これはクラシックで求められるようなピュアな音とは違うから、ひかるの音は綺麗にマイクに乗らなかったんだよ。それに対して真和はそこが強く出てるから、いい感じに耳触り良く聴こえるんだよね。」


「「「ほぉーーーーー」」」


「多分だけど、今まで真和だけ音色が合わない、みたいなことなかった?」


「ありました!ピッチは合ってるのになんか音色合わんなーみたいな。」


まさにこの間話していた内容をそっくりそのままコーチに言い当てられ、全員が目を丸くしてコーチの方を見つめる。


「やっぱりね。それも倍音が関係してて、、、説明するより聴いてもらった方が分かりやすいかな。じゃあ真和、ドの音吹いてもらっていい?」


向日がドの音を吹き、コーチがその上にソの音を重ねる。

なんというか、、、合っていない。先輩の音はザラザラ?シャリシャリ?しているのに対して、コーチの音はひかる先輩みたいにツルツルして噛み合ってない感じがする。


「多分悩んでたのはこういう状況だったかな?じゃあ真和、もう一回吹いて。」


また向日が同じようにドの音を吹き、コーチがその上にソの音を重ねる。その瞬間、空気が変わる。


「こうなりたかった感じかな?」


「す、、、すっごい、、、、、、、」


「すごいですね。まるでこの部屋が鳴っているようでした。」


「そう!まちるいいとこ気付いたね!こんな感じで倍音の帯域を合わせると、今みたいに空間がハモったみたいなバリバリ感が出てめちゃくちゃ気持ちいいんだよね〜」


「2人で吹いてるのにもっと大人数で吹いてるみたいな感覚でした」


「倍音って、どうやったら合わせられるようになるんですか?」


「んー。すぐには難しいと思う。普段から意識して聴くようにしないと。そのためのレコーディング練習なんだよ。普段から自分の演奏を客観的に聴くようにして、もっとこうしたいな、みたいなことを考えながら練習する。それの繰り返しでそのうちできるようになってると思うよ。ここからしばらくはポップスの楽曲が多くなるから、真和に練習とレコーディング手伝ってもらいな!じゃ!次のパート行ってくるわ!」


そう言って足早に部屋を出て行った。


「なんか、、、遺伝子を感じるな。」

「うん。嵐のように来て嵐のように去って行ったね。」


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