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5. 2回目の合奏

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「、、、ってことがあってさー」


「そんなんおまえ、女なんだし当たり前でしょうが」


昨日あった出来事を姉の天音に話すと、意外な返事が返ってきた。


「女の餌は噂話と共感ぞ?そんな格好の餌が転がってたらそりゃー食いつくでしょうよ!私もいっぱい言われてきたし!気にしない気にしない!ゆーてもそいつらと和也たちが関わるのってもう半年くらいっしょ?どーせ卒業したらそいつらと関わることないし!」


「そんなもんなのか、、、でも今後また同じようなことがあったら嫌だなー」


「ん、和也、それはちょっと考え方が間違ってるぞ。そんな陰口なんか吹部みたいな女子社会にいたらいつでも起こりうるし、社会に出ても残念ながら無くならない。今回はその先輩が助けてくれたから良かったけど、その先輩が卒業したらどうする?和也もその大宮って子も自分で対処しないといけないぞ。今の時代嫌なことがあったらすぐに逃げることができるけど、逃げ癖がついたやつの予後は悪いぞ。」


「そっか、、、、、、って、それ授業がめんどくさいって言ってずっと家に篭ってる女子大生が言うセリフか?」


「はっはっは〜〜〜〜〜痛いとこ突くね和也!そう、お姉ちゃんは嫌なことから逃げ続けた予後の悪い女で〜す」


説得力の無さすぎる姉によるありがたい説教のおかげで何となく信頼感に欠けはするが、確かに言ってることだけは間違ってはいないなと思い、少し考えを改めることにした。


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初回の合奏は無事何事もなく終わり、今日からは主に個人&パート練習がメインで行われることになっている。そう、麗暸吹奏楽部名物の踊りの練習をしなくてはならない。先週は基礎合奏や曲合奏がメインで行われていたが、今週は踊り練習がメインで、担当の先輩がチェックに来るらしい。


和也自身、定期演奏会でのその踊りを含めた迫力のある演出に刺激を受けて入部を決めたわけだが、踊りと演奏を両立させることの難しさを痛感している。中学3年間の楽器経験がある和也ですらかなり苦戦しているのだから、完全初心者の大宮にとってはそれはそれはしんどそうで、いつ椅子に楽器をぶつけてしまわないかとヒヤヒヤしていた。


「難しすぎますよこの踊り!なんで先輩たちは吹きながら体動かせるんですか!?ボク動いたら口元ブレて全然音出ないんですけど、、、」


「そりゃみやりんにとったらこれは難しいよねー!あたしらも正直これで一切音外すなって言われても絶対無理だから、まずみやりんは踊りだけでも先にできるようになったらいいかな!本番のこと考えたら初心者のうちは演奏できてて動きめちゃくちゃよりも、演奏は他のメンバーに任せて踊りだけでも完璧にしておいた方が、お客さん目線になってみるとまだマシかな〜。だからみやりんはまずは踊りの方を最優先に頑張ろう!」


「はい!」


演奏より踊りを優先させるのって「吹奏楽部」としてはどうなんだろう、、、と和也は思ったが、和也自身もその踊りを含めたパフォーマンスに心を動かされて麗暸吹部に入部したので、そこについては深く考えずに指示に従うことにした。何よりひかる先輩の言うことはもっともだ。正直70人いる吹奏楽部で1人吹いていなくても全くバレない。でも動きがずれているのはすぐに気が付かれてしまう。


「そう言えば全然関係ないんですけど、ボク、なんとなくひかる先輩の音ってツルツルしているというか、深い音色?だなって思うんですよ。で、ユーリ先輩もまちる先輩も和也もひかる先輩の音に近いなーって感じがするんですけど、まなと先輩だけなんとなく毛色が違うなーって思ってて。まなと先輩と皆さんの音色って何が違うんですか?」


大宮の疑問に、向日は少し目を逸らした。何か身に覚えがあるのだろうか?

確かに大宮の言うことには一理ある。向日先輩の音はなんというか、ザラザラ?シャリシャリ?ギラギラ?しているような印象がある。


「よく気が付いたね、大宮。確かにその通りなんだけど、私たちも何が違うかが分かっていないんだ。ピッチが合っているはずなのにまなとの音だけ浮いて聴こえたりするし、よく合奏でも音色合わせてくださいって言われるんだ。」


「音色合わせろって言われても合わせ方わかんないんだよね〜。あたしは個性だから別にいいんじゃない?って思うんだけどね〜」


うーんと言いながら全員が向日の方に目を向ける。ほんの少し目が泳いでいるような気もするが、気のせいだろうか?

そしてまた由梨奈が顔を背けているのを、和也と大宮は不思議に思う。


「、、、まちる、今日は何をしてるんだい?フラメンコ?」


向日は話題を逸らすかのように、運よく見つけた獲物を捕まえた。まちるが手の甲を内側に向けた状態で肘が曲がった両腕を上げて、その腕を交互に上げ下げしている。


「いえ、コウロコフウチョウの求愛ダンスです。南米の鳥です。」


「求愛ダンスって雄がやるものじゃないのかな、、、?」


ガラガラとドアが開き、いつもの怖そうな顔をした生徒指揮の先輩が入ってきた。


(あれ、踊りの指導担当がいるわけじゃないんだ?)


和也と大宮は同じ疑問が頭に浮かんだ。


「はい、じゃあ今日のトランペットの動きチェック始めます。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


前回の合奏から1週間が経過し、2回目のコーチ合奏の日が訪れた。スタジオ奏者とは存外多忙なようで、コーチ合奏は週に一回前後、不定期で行われるようだ。それ以外の時間は今までと同じような個人練習とパート練習、基礎合奏を含む毎日の合奏練習という、ごくごくありふれた吹奏楽部の一般的な日々を送っている。ただ中学の頃と圧倒的に違うのは、部員の演奏技術である。特にトランペットの松尾ひかるは逸脱しており、目を瞑って演奏を聴けば音大生やプロと遜色ない、むしろそこらのプロより上手いとさえ思ってしまうほどだ。

楽器演奏技術の上達には本質的に練習の質や量が求められる。ただそれ以上に望ましいのは「上手い奏者の生音を間近で聴くこと」である。自分の理想とする奏者がすぐそばにいるということは、普段の練習のクオリティを何倍、何十倍にも膨らませることに繋がる。同調圧力練習法なるものだ。和也自身もその刺激を存分に受けており、練習のモチベーションが最高潮に達している。


「よっしゃー合奏始めよか!」


慣れない環境での2回目のコーチ合奏。少し重心が上がり肩に力が入ってしまっていることを感じているうちに、指揮棒が振り下ろされ、次の演奏会で演奏するメインの曲、Spainが奏でられる。前回の合奏では1年生が入部したてだったこともあり踊りは無しだったが、今回は踊り有りだ。1年生は1週間で踊りを詰め込まなければならず、和也は楽器を演奏しながら体を動かすことにかなり苦戦していた。初心者の大宮は演奏はせずに吹き真似をし、踊りだけに専念しているが、それでもかなり苦戦している様子だった。


ーーー「はい、ありがとう。」


曲が終わり、コーチのその一言で指揮棒が振り下ろされる。踊りながらの演奏は流石にかなり厳しい。かなり音も外してしまったし、動きも間違えた。でも確実に成長してる。たった1週間でこんなに成長してる!和也はそう思いながら前を向く。


「なに?これ。」


コーチのその一言に音楽室が静まりかえる。某吹奏楽部アニメで聞いたことのあるようなセリフだ。温厚そうな印象を持っていたからこそ、その差に驚かされる。


「私が前回の合奏で指摘したこと、覚えてる?何もそこまで高いレベルは要求してなかったよね?テンポキープできずに走っていたドラム・チューバ・ベース、音外しすぎの金管、聴くに耐えないピッチのクラリネットとサックス。もちろん全てを完璧にしろなんてことは言ってない。私は改善してこいと言った。そして君たちは元気良く返事をした。ただ現状この有様。生徒指揮さん、この1週間なんの練習をしてきたの?」


話を振られたのは前回の合奏で姿勢や伝統の話を指摘されていた生徒指揮の先輩だ。


「はい.......私たちは私たちなりに練習してきましたし、しっかりパートごとのチェックも入れて調整してきたつもりです。」


怒り・緊張・勇気が入り混じったような震えた声で答える。


「その結果がこれ?。おおかた曲が出来上がっていない状態で踊りつきで練習していることで一杯一杯になって何も進歩していない、というところかな。聴衆はあなたたちの音楽を求めて本番を観に来ているのであり、踊りだけを求められているのではない。もちろん踊りがあると全体的に映えはするが、それは音楽をおざなりにしていい理由にはならない。」


少しキツい言い方ではないかと感じる者も少なくない。だがコーチの言っていることは至極当然である。確かに演奏と踊りを同時に手に入れようとして両方おざなりになっている感覚は、多くの部員にあった。


「このまま練習を続けても仕方ないね。私の時間も無駄になるし。では失礼。」


つい数分前まで明るかったコーチの豹変ぶりに、気まずい空気が流れる。


生徒指揮の先輩は生気が抜けたかのように、口を半開きにしたままただ一点だけを見つめていた。いや、もはや見つめるという動作も成り立っていなかったかもしれない。彼女なりに悔しいながらも責任感を感じ、この1週間、今までとはやり方を変えようと思い、力を尽くしてきてくれたのだろう。その努力はもちろん部員にも伝わっている分、見ている方としても辛い。


「で、、では今日の残りの時間はパート練習としてください。」


部長の声掛けと共に、ぞろぞろと部員が音楽室を離れる。誰も何も言葉を発さなかった。いや、発せなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


パート練習の教室へ移動する途中、音楽室に併設されている楽器倉庫のドアが少し開いているのが目に入った。

中には椅子に座って手に顔を埋めている生徒指揮の先輩と、それを慰めるような形で、部長が背中をさすっていた。


(あぁ、やっぱりどこの吹部でもこの光景はあるんだな。中学の頃も女子部員が泣いているのはよく見てきたな。)


俺は誰にも聞こえることのないため息をつき、脚を進めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「だああああああああああっ、つっっっっかれたわあああああああああ!!」

和也がパート練部屋に入って程なくして、ひかるがそう言いながら部屋に入ってきた。


「にしてもコーチすごいねえ〜!あたしたちが思ってること全部言ってくれるし!」


「やっぱり先輩たちも思うところはあったんですか??」


大宮が意外そうに尋ねる。


2,3年生の先輩たちは苦笑いした。


「あたしらも思うところはあるし、しっかりそれは生徒指揮にも伝えてる。ただ、取捨選択してどう練習や音楽に落とし込むのかは生徒指揮の権限だし、彼女の決定に文句は言わない。ただその分責任の所在は彼女にあるから、今回みたいな状況になったら怒られるのは彼女なんだよ〜。」


ふわふわしていて優しそうだと思っていたひかる先輩だけど、やっぱり副部長としてそのあたりの責任の所在は明確にしているんだなと和也は感心した。


「でもまあ、流石にあそこまで言われてるの見たら可哀想とは思っちゃいますけどねぇ。」


向日は苦笑いしながらそう言った。


「、、、、責任が生徒指揮の先輩にあるから口出しできないって、それは少し何と言うか、、、、傲慢じゃないですか?」


大宮の急な発言にパートメンバーは息を呑む。


「確かに責任が生徒指揮にあるってのは分かるんですけど、あまりにも押し付けすぎと言うか。責任というのであれば部員の方々の投票で決まったわけですし、部員にも選んだ責任はありますよね。それを一人に押し付けるのはちょっと。そもそも一人に合奏計画とか指揮とかパートチェックとか諸々全部任せてるの、明らかにオーバーワークですし、最低でももう1人は生徒指揮いてもいいんじゃないですかね??」


何とも言えない沈黙が流れる。先輩たちは驚き目を丸くしているが、その目に不快感といった感情は感じられなかった。


「......はっ、すみません。またボク....自分でも分かってはいるんです。この思ったこと全部口に出しちゃう性格は直さないとって、、、。ほんとすみません、、、」


疑問に思っていたこと全てを吐き出してしまった大宮は、「やってしまった...」と言わんばかりに、罪悪感で頭を抱えてしまった。


「いや、いいんだ。しっかり意見言ってくれる子って貴重だし。1,2年生に限らず私ら3年の中にもそうやって意見表明してくれる子って少ないから。トランペットパートはそういうの全然ウェルカムだよ。2年生諸君にも見習ってほしいくらい。」


由梨奈からの思わぬ流れ弾に、2年生たちは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


「まぁ確かに、生徒指揮の負担が大きすぎるってのはあたしもずっと感じてた問題点だし、また幹部に提案してみるわ!ありがとうねみやりん!」


数日後、生徒指揮は2人に増え、基礎合奏担当と本番曲合奏担当をそれぞれが担当することになった。また、奏者の負担が大きくなり演奏に支障が出ていることから、次の本番は踊り無しでの参加が決定した。

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