表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

3. 初めてのパート練習

新歓の翌日、新入部員は早速パートに入り、練習に参加するように指示された。


和也が部屋に向かっていると、後ろから大宮が後ろから嬉しそうに小走りで寄ってきた。


「和也〜、今日の物理基礎めちゃくちゃ難しくなかった〜?ボク理系科目全然ダメでさー。」


(何を言っているんだこいつ、別に同じクラスでもあるまいし、、、)と思いながら大宮の方を見ると、その考えが大宮に伝わってしまったらしい。思いっきり顔に出ていたようだ。


「え、まさか同じクラスってこと気付いてなかった!?」


「え、あー、うん。同じクラスだったのか。」


「まぁ和也ずっと下向いてスマホ見ながらニヤニヤしてるもんねー!小学校の頃はもっと活発に動いてたのにどうしたの??」


無邪気に悪気なく聞いてくる視線が痛い。悪気ないと言うかもはやこれは一周まわって悪気しかないだろとも思うが。

和也自身、中学でアニメにどハマりした結果睡眠時間をかなり削ってしまい、授業中や休み時間にその足りない睡眠時間を消化していたので、その時点で他者とのコミュニケーションを絶ってしまっていたのだ。高校生活では心機一転友達を作ろう!と意気込んではいたものの、中学3年間という多感な時期に失われてしまったコミュ力はそう簡単には取り戻せず、さらには内部生との間にある高すぎる壁を越えることもできず、不服ながらめでたく現在のステレオタイプど真ん中のアニオタインキャが完成してしまったのである。


「色々あるんだよ、、、」


パート練部屋に入ると既に2,3年生はもう揃っている様子で、なぜかまちるはまるで相撲取りのように四股を踏んでいた。大宮と和也からするとかなり新鮮で異質な光景だが、先輩たちからすると日常風景なようで、特に気にしている様子はなさそうだ。


「まちるん先輩、今日は何してるんですか〜?」


「少々股こりがひどくてですね。お気になさらず。」


いやなんなんだその肩こりみたいなのは。


ーー俺には1つ楽しみにしていることがあった。トランペットパートのメンバーがどこのメーカーのどのモデルを使っているか、である。そう、俺は生粋の楽器オタクなのだ!中学でトランペットにどハマりし、楽器屋でカタログを片っ端から集めては読み込み、今では主要メーカーのほとんどのモデルの仕様や特性、値段までも把握している。

とはいえ、普通のJKがそんなマニアックな楽器を持っているワケないか、とあまり大きく期待しないようにしながら右へと目を向ける。

どこの吹奏楽部とも大して変わらない結果に、まぁそんなもんだよなと内心少しテンションが下がっていたが、左を見ると一際輝く金色のトランペットが.......!


「ひかる先輩、めちゃくちゃ良い楽器使ってますね、、、、!」


思わず声をかけてしまった。


「え?やっぱわかる??あたしあんま楽器詳しくないんだけど、なんか見た目かっこよかったからこれにしたんだー!」

彼女は明るく答える。


その瞬間、和也は確信した。ユーリ先輩の言っていたことは全く嘘じゃない。この人はマジの金持ちだ。


ーー基本的に高校生が親に買い与えてもらうトランペットの相場は40~50万円程度である。だが、ひかるが手にしているそれは70万程度するのだが、それの金メッキである。某パンデミックや戦争の影響で金の値段が爆上がりし、今金メッキの楽器を買おうとしたら150万くらいする代物だ。プロであったとしてもトランペット1本に150万も出せるか?答えはNoだ。


そんなオタク早口を心の中で唱える和也のことは一切気にも留めず、彼女は音出しを始める。


その瞬間、和也は息を飲んだ。

いわゆる「普通の高校生の音」を「コンクリートの表面のようなざらざらな音」と例えるのであれば、彼女の音は「摩擦ゼロの氷上を滑っているかのような音」と表現するのが適切であろう。音の輪郭は雑味が一切無く、摩擦のない氷上のようである。かといって音質も氷のように冷たいわけではなく、日光浴をしている猫のような温かさや優しささえ感じる。


何だこれは。今まで耳にしたことがない体験をした和也は正しく言葉を失いながら先輩を見つめる。


「なになに恥ずかしい〜」


ひかるのその言葉で和也はふと我に帰る。


しかし、その音に驚いたのは和也だけではない。大宮もひかるの方に視線を奪われていた。


「やっぱりそうなりますよね。私たちも一年前全く同じ反応してました。」


まちるが隣で呟く。


ひかるの音は高校生としては現実離れしすぎているし、音大生やプロを集めても突き抜けてくるような、そんな異色で輝かしい音をしていた。


「、、、そういえばなんだけど、和也も楽器は持ってないんだっけ?」


由梨奈が思い出したように聞いてきた。


「あ、はい。買った方がいいんですかね?」


「いや、別に絶対買わないとダメってわけじゃないよ。最近の楽器高すぎるからあんまり気軽に手を出せる値段じゃないしね。よし、じゃあ2人にはまず楽器を選んでもらおうか。と言っても学校楽器は2台しかないから、大した選択肢でもないんだけどね。持ってくるからちょっと待ってて。」


2,3年生は全員自分の楽器を持っているようだ。和也は中学の頃から欲しい欲しいとは言っていたが、なかなか親の許可が出ず、半ば楽器購入は諦めかけている。


そうして由梨奈は楽器庫から2台の楽器ケースを持ってきた。


「一応2台とも全く同じモデルなんだけど、片方は銀メッキで、片方はラッカー仕上げだよ。大宮のために軽く説明しておくと、金管楽器全般とサックス、フルートあたりは基本的に真鍮っていう銅と亜鉛の合金で作られているんだ。身近なものだと五円玉とかに使われている、くすんだ金色みたいな金属。で、その上に保護用の透明な塗料を吹きかけた仕上げをラッカー仕上げ、銀を掛けたものを銀メッキ仕上げ、金を掛けたものを金メッキ仕上げって言うんだ。」


「へぇ〜。わざわざ分けるってことは音が違ったりするんですか?」


「うん。変わるよ。一応この仕上げはこんな音、みたいな説明もあるけど、正直みんな言ってることは違うから、あんまり気にせずに自分の好きな音色のものを選べばいいかな。もっとも、大宮は初心者でまだ違いが分からなくて当然だから、見た目で判断したらいいと思うよ。」


「ねぇ、和也はどっちがいいとかある!?」


すごく笑顔でこっちに尋ねてくる。まるで自分はもうどちらか決めたようである。ここは気を遣っておくか。なんとなくでしゃばりな印象の大宮は、目立ちやすい色のラッカーの方を選びそうな気がする。


「俺は正直どっちでもいいかな。大宮先に選んでいいぞ。」


「ほんと!?ボクはこっちのラッカーの方!!」


正解。


「お、でしゃb…..大宮の性格にぴったりだと思うぞ。」


「なんだって?」


「いや?なんでも?」


あぶねえあぶねえ。


「和也は分かってると思うけど、大宮、初心者のうちは楽器落としたりぶつけたりしやすいから気をつけてね。」


「ちなみにこの楽器っていくらくらいするんですか、、、、??」


「んー、最近結構値上がりしてるからね。それだと30万くらいかな?」


「さんじゅうまん、、、、!!!!た、たっか、、、、もう持つのも怖いんですけど、、」


(そう思うよな。俺も中学で楽器始めてから最初に楽器屋行った時同じような反応をしたなぁ。)


「はっはっは、それくらいの気持ちでいたら大丈夫だよ。ちなみにだけど、業界標準みたいな感じのトランペットは今40-50万くらいするんだよ〜。僕らが持ってるのもそれくらい。ちなみにひかる先輩のは今150万くらいだよ!」


向日が不躾にもひかるの超高級トランペットの値段を暴露してしまう。

どうしてトランペット吹きはすぐに値段を言ったり聞いたりしたがるのだろうか。


「ひゃくっ、、、、」


「言わんでよろしい!実際のところ値上がり前だったから半額くらいだったし!」


「はん、、、がく、、、????」


半額でもトランペットとしては半端ない金額だ。大宮にとっても気が遠くなるような金額だが、3年間トランペットに触れてきた和也にとっても、その値段の楽器は欲しいとさえ思ったことがない。


「トランペットの大きさでこれだけ高いってことは、トロンボーンとかチューバみたいな大きい楽器はもっとお高いってことなんですか??」


「そう!金管だとチューバとホルンがいい勝負かな?普通に200万とかするし!」


「ヒェェェェ」


「ちなみにだけど、吹奏楽で使われる楽器で一番高価になりやすいのってどの楽器だと思う〜?」


「そうですね、、、大きさ的にはチューバかホルンですかね、、、あ、バリトンサックスとかものすごい高そうです!!」


「確かにバリサクは高いね!でも一番値段の幅が広いのは、、、フルートなんだよ!」


「え、うそだぁ。だってあんな小さいのにめちゃくちゃ高くなるなんてこと無くないですか??」


「うんうん。そう思うよね〜〜。ちなみにフルートはMaxで1000万超えるんだよ〜」


「、、、なんかもう現実味なさすぎて逆に驚かなくなってきました。」


ひかるが自分の楽器の値段から話を逸らすために、管楽器の中では高価代表のフルートの話を持ち出してきた。まるで「一千万って聞いたらあたしの楽器の値段なんて可愛いものでしょ?」と言わんばかりに。


「さっき私が楽器の材料の話したの覚えてる?」


「はい!真鍮、、、でしたっけ?」


「そう。基本的に金属の楽器は真鍮で作られてるんだけど、フルートだけに関してはメッキじゃなくて管体を金で作ったりするんだ。うちの吹部にも1人だけウン百万する金のフルート持ってる人いるよ。」


「へぇ〜〜〜でもそれって吹奏楽みたいな爆音環境で吹いたら絶対音埋もれますし、そこまで高いの使う意味なんてあるんですかね?」


「大宮、それ以上は世界中のフルート吹きたちに殺されかねないからもうやめとけ」


流石に色んなところで叩かれそうな気がしてきたので、和也は大宮を静止させた。


「じゃあみやりん、初めてのトランペット吹いてみよっかー!」


そうして大宮のトランペット人生の幕が開かれた。


そしてなぜだか分からないが、由梨奈が部屋の隅で顔を背けながら小刻みに震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ