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24. 文化祭デート② 〜男の一番弱いところ〜

「ごめんちょっとトイレ行ってくるね。時間かかりそうだから適当に回ってていいよ。後でlinee送るし。」


 学外からも客を招いているため、特に女性用トイレはライブ会場の女性トイレ並みの長蛇の列となっている。


(とりあえずこの3年生フロア回ってみるかな〜)


 由梨奈が戻るのを待つ間、大宮は合流しやすいように違う階には移動せず、今いる3年フロアをブラブラと歩いてみることにした。

 歩き回るとはいっても廊下は学内外の人でごった返しており、各教室に入って出し物を体験するのはかなり時間がかかりそうな様子だ。


(あ、生徒指揮の先輩だ。)


 ちらっと教室を覗いてみると、あの怖い生徒指揮の先輩がメイド服を着て「萌え萌えきゅん」をしているその瞬間が。


(おっと危ない。何も見ていない。ボクは何も見ていない。)


 プライドが超高くて超怖い先輩が羞恥心に駆られ、恥辱に耐えながら萌え萌えきゅんをしている瞬間はしっかりとその目に焼き付けておきたいところだが、見つかってしまっては部活での居場所がなくなるどころか、命が危険に晒される可能性もあるので、大宮は見て見ぬふりをした。


 なんとなくでフロアの端まで来てみたはいいものの、特に見るものも無さそうだ。

 元より人が多すぎて教室に入るどころか、廊下を進むのでさえ困難なほど人が多い。


(うぅ〜、戻るのめんどくさいけど戻るしかないか〜。)


 数分前の自分を呪いながら意を決して元来た道を戻るが、人が多いわ多いわ。

 この数分間でまたかなり人が増えたようだ。小柄な大宮は視界に入りづらい上に、他の客も視線は出し物に奪われているので、大宮は進むたびに誰かにぶつかってしまう。

 ぶつかる度にすみません、すみませんと言いながら目的地へと向かう。


(もう疲れたぁ。大人しくトイレの側で待ってたらよかった、、、。)


 歩き進めてようやくトイレのマークが見えてきた。


(やっと着いた、、、ユーリ先輩どの辺にいるんだろ?)


 連絡が来ているか確認するためにスマホを取り出すが、あまりにも人が多すぎるため、なかなかネットに繋がらない。


(どうしよう、でもここにいたらユーリ先輩に見つけてもらえないから、とりあえず広い所に出とこうかな。)


 廊下は人でミチミチだが、学校中央の吹き抜け部分はまだ比較的空いていそうだ。


 同じようにぶつかる度にすみません、すみませんと言いながら人を押し除けて中央広場に向かう。


「おい待てや」


「うわっ」


 ドスの効いた低い声で呼び止められると共に、右腕を強く掴まれて引っ張られた。

 一瞬何が起きたのかわからず混乱するが、すぐに現実に引き戻され、察してしまう。


(あぁ、これはやってしまった。)


「なぁお前なんなん?」


 上下真っ黒でピチピチの服を着ており、髪は金髪のスパイキーショートのガリガリ恐竜スタイル。

 なにかとジャラジャラアクセサリーを身につけており、屋内なのにも関わらずサングラスを装備している。

 見るからにヤンキー感漂う若者3人衆に目をつけられてしまった。

 おまけに威圧感のある関西弁ときた。

 周りも異変を感じ取って、ヤンキーたちと大宮の周りにスペースが開ける。


「あ、はい、すみません、、、、」


「いやすいませんやなくてさ。」


(いやすみません以上のことってなに!?)


「なぁお前舐めてんの?」


「いえ、そんなことは、、、、」


 おそらく相手は大宮のことを男だと勘違いしたのだろう。

 気弱そうな男子高校生。それだけでイチャモンをつけるには十分すぎる要件だった。

 だが大宮は見た目に反して女だ。中学でもヤンキーたちとの関わりは完全に遮断していた。

 男でもこんなヤンキーに因縁をつけられるのは普通に怖い。大宮にとってその恐怖は計り知れない。


(なんでだろう、怖くて手も声も震えが止まらないのに頭だけは冷静だ。でもだからと言ってこの人たちを落ち着かせる方法は分からない、、、)


「なあっt..ぁあん?」


 ヤンキーが力を込めて大宮の腕を無理矢理引っ張ろうとしたその瞬間、そのヤンキーの右腕を誰かが掴んだ。


「うちの彼女に何か用?」


 そこにはいつもより低いトーンで話す由梨奈の姿が。落ち着いているように見えるが、その瞳には今にも爆発しそうな怒りが垣間見える。


(ユーリ先輩!!、、、でも男3人に女ひとりは、、、)


 いくら由梨奈の身長が高いからといって、喧嘩盛りのヤンキー3人に敵うはずもない。


「はあ?彼女って!!まじおもろいな!せや、お姉さん今から一緒にどう?着いてきてくれたらその彼女さんのことは見逃したってもええで??」


「結構。」


 その瞬間、ヤンキーが大宮の腕を離して崩れ落ちる。


(え、なんで、、、?)


「梨江、走って!」


 わけもわからないまま由梨奈に腕を引かれて走る。

 さっきいた場所を見ると、股間を押さえてうずくまるヤンキーと、そのヤンキーの肩に手を当てて心配する様子の取り巻き達の姿が見えた。


 金的だった。


 どれだけプロレスラーのように鍛えていても、そこは絶対に鍛えられない。男の一番弱いところだ。

 取り巻きの男たちも金的の壮絶な痛みは文字通り痛いほど理解しているので、もう由梨奈と大宮に構わずに、蹴られた男を心配している。


(ユーリ先輩の手、震えてる。)


 後から思えばそれは由梨奈の手が震えていたのか自分の手が震えていたのか定かではなかったが、由梨奈があのヤンキーに立ち向かうのは並大抵以上の勇気が必要だったのは大宮にも理解できた。


 そしてその勇気は、十分すぎるくらいに大宮の心を動かした。


(あぁ、ボク、ユーリ先輩のことが好きだ。)


 靡く黒髪、走るにつれて荒くなる呼吸、絶対に離すまいと跡がつくくらい強く握られた手首。


 自分の手を引いている由梨奈の後ろ姿を見て確信した恋心、それは新たな恋路を示す銃声でもあり、一つの恋路を終わらせる笛の音でもあった。

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