23. 文化祭デート① 〜アニメですら未開拓の領域:ケモ耳喫茶〜
文化祭のオープニングも大盛況で終わり、大宮と由梨奈は文化祭デートの真っ只中である。
「ね、梨江はどこから回りたい?」
「んー、そうですね〜。近いところだと3年生の先輩たちのクラスはどうでですか?ユーリ先輩とひかる先輩のクラスは何やるんですかー?」
「うちはメイド喫茶だよ。ただど定番のメイド喫茶じゃなくて、ちょっと凝ってるんだ。」
「えー、楽しみです!」
大宮はというと、先日の合宿で由梨奈に告白されて思わず振ってしまったが、時間が経つにつれて由梨奈のことを意識せざるを得なくなってしまっている。
(こうみるとユーリ先輩って男らしさがあるというか、でも笑ったら女の子みたいなんだよな〜。女の私にとってもすごく魅力的に見えるから、男の人にもすごいモテるんだろうな、、、)
由梨奈のことを考えていると、なんとなくモヤモヤした気持ちが芽生えてきてしまったが、そうこう会話しているうちにひかると由梨奈の教室に到着した。
「ここ、うちのクラス。先入っていいよ。」
「おかえりなさいませ、ご主人様。」
そう言って大宮たちを出迎えたのは、メイドの格好をしたひかるだった。
しかもメイドとは言っても単なる白黒のメイドではない。
「わ、ひかる先輩可愛いー!!!!」
「でしょー!うちの出し物はこれ!洋館メイド喫茶!」
そう、ありきたりなメイドではなく、緑の衣装を身に纏った、オタク大歓喜な某テーマパークでも人気のあの洋館メイドさんである。
部屋の内装もかなりこだわっている様子で、よくイメージされる洋館さながらの赤と茶色で統一された室内に、所狭しとタンスなどの家具が設置されている。
「どう?みやりんこういうの好き??」
くるりと一周回って衣装を披露すると、ワンピースの裾部分が丸みを帯びてフワッと靡く。
「はい!ものすごく!衣装もすごいですね!これ市販品かオーダーメイドですか?」
「ううん、これは各自自作したんだー!あたしなんかこだわりすぎて2ヶ月もかけちゃったよ〜」
「2ヶ月も!?すごい力入ってますね、、、。各自作ったってことはユーリ先輩も衣装あるんですか!?」
「うん、あるよ。まだシフトじゃないんだけど、、、よかったら見る?」
少し遠慮がちに、少し頬を赤らめながら見てくる先輩に、大宮はなんと呼んだらいいかわからない感情だが、心がグッときた。
「え!見たいです!いいんですか!?」
「じゃあ着替えてくるからちょっと待っててね。」
由梨奈はそう言って嬉しそうに裏に入って行った。
「ちょっと準備に時間かかるから、その間にあたしがみやりんの接客するね!、、、って言いたいところなんだけど、実のところユーリとは今どうなの??もう付き合ってるの??」
ひかるが小声で、でも興味津々で尋ねてくる。
「いや全然まだまだ付き合ってないですよ〜。ボク自身まだ同性の人を好きになるって感覚がまだわからないですし。でも、試さずに退けてしまうのももったいないなと思って、最近はユーリ先輩のことをもっと知ろうと思ってるんです!」
「な〜るほどね〜!だ〜からここ最近のユーリはあんなに明るいんだね!」
シャッとカーテンが開く音がし、そちらに目を向けると、そこには衣装を身に纏った由梨奈が。
「ど、、、どうかな?」
「、、、、、、、、」
「やっぱりちょっと変だった、、、かな?男っぽすぎるとは思ったんだ、、、。」
気合いが入りすぎて痛くなったかと思いながら顔を上げると、部屋の中にいる客もキャストも、もちろん大宮も、誰1人例外なく由梨奈の方を口を開けながら凝視していた。
「す、、、、、、すごく似合ってます!!!!え、なんですかなんですか似合いすぎじゃないですか!?!?!?え、かっこいい!!可愛い!!え、、、尊いっ、、、、、」
「すっご、、、」
「かっこいい、、!」
「女でも惚れるんだけど」
皆口々に由梨奈のことを絶賛している。
それもそのはず、由梨奈の身長は166cmもあり、痩せ型でかなりスタイルが良い。
メイド喫茶というコンセプトではあるが、由梨奈はタキシードにスラックスを合わせた男性スタイルをとっている。
外見は男らしいのに加え、レイヤーウルフにダウナー系メイクという男女問わず一部の性癖の人間にブッ刺さる格好をしていることで、超魅力的に見えるのである。
「そっか、よかった、、、」
(え゛、、、、エロい!その超かっこいい女性がふとした時に見せる女性的な笑顔エロいよ!!反則!!)
大宮にはかなり刺さったようである。
「ひかる、もう梨江の注文取った?」
「まだだよー!」
「そう、よかった。じゃあ、、、、。ご主人様、ご注文はいかがなさいましょうか?」
「じゃ、、、じゃあホットレモネードで、、、、、」
「かしこまりました。少々お待ちください。ご主人様。」
「へひゃっ」
本来なら大宮が支配される側な空気感なのに、実際は由梨奈が支配されている側というチグハグ感が、大宮のまだ血が通っていなかった脳の一部分を刺激する。
大宮には今回のユーリ先輩がブッ刺さっている様子だが、由梨奈自身もかなり気に入っており、興が乗ってきてノリノリな様子である。
「ご主人様、こちらレモネードになります。それにしてもご主人様、今日はまた一段と可愛いですね、、、」
そう言って由梨奈が隣に座って肩を組みながら撫でるように顔を触ってくる。
「へっ、か、かわいい、、ですか?」
「はい。いつもよりメイク乗りも良いですし、気合い入ってる感じがしますね」
「、、、、、ふふっ。意中の人に振り向いて欲しいならこのくらいは当然でしょ?」
意図を察して乗ってみる。
「ははっ、そんなこと言われたら照れちゃいますね。ありがとうございます。でも姫はそんなに見繕わなくても、私にとってとても特別な存在ですよ。」
「きゃっ、もう、上手いこと言うんだから。お礼にシャンパン下ろしちゃおっ!」
「どこの特殊ホストクラブや!」
「「いたっ」」
ひかるがどこから持ってきたのかもわからないハリセンで2人をしばいた。
「うちは洋館メイド喫茶なの!どこに洋館のコスした男装ホストが存在するんだ!!」
ひかるのおかげで2人の暴走は沈静化されたが、その場にいた他のキャストや客も(案外悪くないな、、、)と思っていたことは黙っておこう。
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「ふぅ〜レモネード美味しかったです!次はどこ行きましょうか??」
「そうだね、、、そういえば梨江と和也のクラスは何するの?」
「私たちのクラスはケモ耳喫茶です!」
「け、ケモ耳喫茶!?!?」
もはやアニメですら未開拓の領域に、由梨奈の鼻息が荒くなる。
「はい、女子はあんまり乗り気じゃなかったんですけど、男子全員の強すぎる要望で決定しちゃって、、、」
「、、、と言うことは梨江も着替えるの、、、?」
「はい!思ったより可愛くできたので!私もシフトまだですけど着替えましょうか?」
「うん、見たい!」(男子諸君、ありがと〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!)
「うちのクラスはここです!」
高鳴る鼓動を必死に抑えながら扉を開けると、そこには楽園が広がっていた。
「おかえりにゃさいませ、ご主人様!!」
部屋の中はというと、大混雑で満席である。
客一人当たりにメイドさんが1人ついてくれるようで、男性客は逃げ場を失ってデレデレ、ニヘニヘしているのがほとんどだった。
気弱そうな男の子も、野球部やラグビー部の屈強な男性も例外なく同じようにデレているのが、男という生物のちょろさの縮図を表しているようだった。
「着替えてくるのでちょっと待っててくださいねー!」
そう言って大宮は後ろに入って行ったが、由梨奈は気が気でならない。
果たしてスク水姿に耐えることができなかった人間がケモ耳メイドに耐えうるのだろうか。
(スク水は現実に存在する、想像が可能な範囲のものだったからなんとか耐えられた。ただ人外ケモ耳コスプレはまずい。ケモ耳となると犬猫を想像しがちだが、それ以外となるとまずいぞ、、、)
どうにもこうにも心が落ち着かず、キョロキョロしてしまう。
「あれ、ユーリ先輩じゃないですか」
聞き覚えのある声に反応して顔を上げると、そこには見知った和也の顔があった。
男たちはホール業務に徹しているようで、和也も給仕の格好をして食事やドリンクを運んでいる。
「今ちょうど大宮が、、、、あ、なるほどなるほど。ごゆっくりどうぞ〜」
察してしまった和也はニヤニヤしながら別のところへ行ってしまった。
少し待つと、席の前に人が立ち止まった気配がした。
「お待たせしましたご主人様!」
もはやその声と自分の果てしない妄想だけで昇天してしまいそうだ。
(果たしてここで顔をあげてしまったら私はどうなるのだろうか。おそらく本当に昇天してしまうだろう。だがここで回れ右して大宮のコス姿を見ずにこの場を離れることができようか。いや、ここで顔を上げずに後悔するくらいなら上げて幸福に包まれたまま死にたい!)
そう決心して、由梨奈はそーっと顔を上げた。
そこには癒しを司る天使の姿があった。
「ふぁっ、、、、、、、、、、、、、、、、っぶない!!!!!!!!」
「ははっ、ボクが可愛すぎて昇天しかけちゃいました??」
「いやもう全くその通り。」
ユーリは溢れた鼻血を拭きながら大きく息をして心を落ち着かせた。
「どうですか〜?ぼくの衣装!ケモ耳と言ったら猫!みたいな風潮ありますけど、ぼくは狐にしたんです!それで狐といったら神社だと思って、巫女さんの衣装着てみたんです!」
「ありがとう、ありがとう、生きててよかった、、、」
大きくてふわっふわな耳と尻尾に、先端に鈴のついた赤い紐でできた2つの髪飾りは、由梨奈の性癖の一番脆いところをこれでもかというほど刺激していた。
「ご注文はどうしますかー?」
「えーっと、どうしようかな。、、、ってなんだこのメニューは。」
メニューに記載されているのは、「イタリア人が助走をつけて殴りかかってくる!?半分に折られたパスタで作ったナポリタン」や、「自販機でたまに売ってる出汁」など、どれを見ても注文するのを躊躇うメニューばかりだ。
「うちの文化祭ってアイデア賞あるじゃないですか?あれ狙ってるんですよ!」
(アイデア賞ってそういうことじゃないと思うんだけどな、、、)と思うも、わざわざ口に出す必要はないかと踏みとどまった。
「じゃあこの”世にも珍しい銀賞受賞の唐揚げ”と、”海外セレブがよく飲んでるやたら緑のスムージー”で。」
「ありがとうございます!注文入りましたー!」
大宮はバックヤードに注文を伝えに行ったが、ものの2分で唐揚げとスムージーを用意してきた。
「は、早くない??」
「あ、メニュー全部コンビニなんですよ」
「まぁそんなことだろうと思ったよ。じゃあこの”美味しくなるおまじない”のオプションもお願いしようかな。」
「うっ」
大宮が一瞬たじろいだ。
「、、、お好きなシーンをお選びください、、、」
オプションを見ると、
1. メイド喫茶の定番!明るくて元気なおまじない
2. 色気ムンムン!女上司風おまじない
3. 恥ずかしい...///気弱な女の子風おまじない
4. ドM向き!Sな女の子からの上から目線おまじない
5. かっ、かわいい!とにかく可愛い上目遣いおまじない
6. これもまたいい!気だるげなギャルのだるそうなおまじない
↑これらのオプションはあくまで一例です!上記のシチュエーションを混ぜることもできますし、お好きなシチュエーションを追加していただくことも可能です!
と書いてある。
明らかに男子たちの欲望の限りが詰め込まれており、よく女子たちがOKと言ったなと思った。
「どうしようかな、、、普段の梨江イメージからは想像できないところにも魅力はあるけど、私は可愛い梨江が見たいから、5番でお願いしようかな。」
さすがの由梨奈でもここで欲望のままにオプションをカスタマイズするのは大人気ない&これ以上は身がもたないと考え、オーソドックスそうなものを注文した。
「よかった、、、どんなはちゃめちゃカスタムされるのかヒヤヒヤしましたよ!」
「それはまた今度やってもらうよ。」
「やりませんけど!?!?」
大宮は「じゃあおまじないやりますね!」と言って、由梨奈のテーブルの前にしゃがみ、ふう〜〜〜っと大きく深呼吸をした。
「ユーリ先輩、ぼく、先輩に美味しく食べてほしいと思ってすごく頑張ってお料理勉強したんです!あとは最後のおまじないだけ。宇宙で一番美味しくな〜あれっ!、、、食べて、、、いただけますか、、、??」
「ウッ、、、、!!!!」
(危なかった、、、なんか今までずっと虐げられてきた子が初めて勇気を出した瞬間に立ち会ったみたいな錯覚でつい泣きそうになってしまった。好きな子のかわいいは正義。好きな子の上目遣いは破壊力が半端ない、、、、)
由梨奈的にはドストライクなシチュエーションだったようだ。
「せめて何か反応してくださいよ!!!!」
よほど恥ずかしかったのか、頬を真っ赤にした大宮が由梨奈に大声で文句を言う。
由梨奈も感動しすぎて涙を抑えるのに必死で何も言えないまま顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
(なんか恋人同士のイチャイチャを見せつけられてる気分だけど、百合だと考えると不思議と微笑ましい気持ちになるな)と、仏の顔で思った和也であった。




