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20. 合宿④ 〜切望してた音楽の形〜

 悟とのエロ談義から始まり、海水浴、バーベキュー、そして由梨奈と大宮の話など、体力的にも精神的にも和也の1日の許容量はゆうに限界を超えていた。


「はぁ、なんか今日は疲れたな、、、、」


 和也はそうぼやきながらコンビニへ向かっていた。

 疲れで目がぼやけており、やけに看板のネオンが眩しく感じる。


 何を思ったか、普段は絶対に買わないようなエナジードリンクを片手に持ち、会計を済ませていた。


 宿に戻ろうと下を見ながらトボトボと歩いていたが、ふと頭を上げると、「見晴らしの丘」と記された看板を見つけた。


「行ってみるか、、、」


 疲れておりどこか1人で休みたいと考えていた和也は、その見晴らしの丘とやらに行ってみることにした。

 特別遠いというわけでもなく、割と整備された山道の階段を10分ほど歩くと、景色が開けた。


「おぉ〜綺麗だな、、、」


 そこには満点の星空が広がっており、今日1日の肉体的な疲れも精神的な疲れも全て吹っ飛ぶような、そんな晴々とした気分になれた。

 毒素を出し切るようにため息を吐きながら、芝生の上に大の字で転がる。

 精神的に参っていたらうっかり涙を流してしまうような、美しい景色だった。


「しかし田舎だとこうも綺麗に星空が見えるんだなぁ」


 普段生活している地域とは違い、ここには街頭も、家の明かりも、都会のネオンもほとんどない。

 電車や車の音など、人工物の音も一切聞こえず、心が情報の圧力から解き放たれるようである。


 どれくらい景色を見ていただろうか。

 何やら人の足音と話し声が少しずつ近づいてくる。

 普段の和也なら変に気を遣ってその場から離れていたが、今は疲れすぎていてそれどころではない。


「あれ、和也じゃん」


「あら、ほんとだ」


 丘に寝転びながらぼーっと星を見ていると、さっき来た道から大宮とひかるが現れた。


「ボクたちもさっきそこで偶然会ってさ〜」


 そう言いながら2人も和也の横に寝転んだ。


 (せっかく1人でゆっくりしたかったのに、、、)という心の声は2人には届かない。


「なんか大変なことに巻き込んじゃってごめんねぇ、、、もっといい方法があったのかもしれないけど、流れであんな感じになっちゃって、、、」


 ひかるも罪悪感を感じているようだ。

 疲れているのだろう、そこにいつもの明るさはなく、落ち着いたトーンで話している。

 だが、その様子がかえって素の松尾ひかるという人物と向き合っているようにも感じられる。


「大丈夫ですよ。ボクとしても今は気分がスッキリしてますし。話せてよかったです。」


「俺も別に直接何かされたとかないんで、2人が納得したならそれでいいんじゃないかと思ってます。」


「そっか、2人ともありがとうね〜。」


 そこからしばらく3人とも無言で星空を見ていた。

 普段なら話が続かないと気まずい空気が流れているような感覚があるが、今は3人とも心を景色で浄化している最中だ。

 無言の間もノイズにはならない。


「そういえばひかる先輩、新歓の時にこの部活の雰囲気が好きじゃないって言ってたじゃないですか。ボク、今正直この部活、特にトランペットパートに居れて本当に幸せなんですけど、昔何かあったんですか?」


(こいつは本当に時と場所を考えないよな。)


 和也は心の中で悪態をついたが、わざわざ今この美しい景色を見ながら文句を言う必要も無いなと思い、黙って話に耳を傾けることにした。


「あたしね、中学一年で麗暸の吹部にユーリと入ったんだ。高校とは違って中学の吹部はゆるく楽しくって感じだったから、そこまで嫌な思いもすることはなく、音楽も大好きだったんだ。その頃は真剣な眼をしながら音楽に取り組んでる高校生の先輩たちがすごくかっこよく見えて、あたしもあんな風に吹奏楽に打ち込んで金賞を取りたい!って思ってた。でも実際に高校吹部に入部して蓋を開けてみたら、意味のない伝統の押し付けとかコンクール至上主義みたいな文化でさ。コーチのおかげでだいぶマシになったけど、あれもっと酷かったんだからねー?夏休み期間中はみんなピリピリしてて、人によったら精神的にダメージ負って入院した人もいたし、そこまではいかなくとも毎日誰かがどこかで泣いていたり。合奏して出来上がった音楽もなんとなくつぎはぎで無理やり合わせました、みたいなお粗末なものでさ。でもコンクールメンバーは気持ちを揃えろだの言ってくるし。しまいの果てにはコンクール直前のリハーサルではそのお粗末な音楽で保護者とかOBOGは涙を流していて、その音楽で全国大会にまで進んじゃったりしてたんだ。そこまで結果を残しちゃうとあたしの疑問は間違っているのかなって思って落ち込むこともよくあったんだよね。実際のところそれで部活に対するやる気はもう微塵も残ってなかったんだ。でもそこで運よく嵐山コーチが来てくれてさ、コンクールに出ないって言うもんだから本当に心の底から嬉しかったんだ。これであの苦しみから解放される、音楽を楽しめるって。それから入部してくれた和也とみやりんのこともだんだん理解してきて、みやりんがトランペットパートでよかったって言ってくれた時は本当に嬉しかったな〜。本当に今までの苦労が全部報われたと思ったよ。それから部活の雰囲気もどんどん良くなってきて、レコーディングとかレッスンのおかげで自分がどんどん上手くなっていくのが楽しくてね。この前の修了式の一年生ステージなんか人生最大の感動でさ、あたしとユーリ、2人とも涙が止まらなくなっちゃって。あ、これがあたしが切望してた音楽の形なんだって。今は毎日授業が終わってトランペットパートみんなの顔を見るのが本当に待ち遠しくてさ。みんなで笑顔で音楽できてるのが心の底から楽しいんだ!」


 そう語るひかるの顔は、長い苦しみから解き放たれたような、そんな顔をしていた。

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