19. 合宿③(由梨奈と大宮〜百合の花が咲き乱れていた〜)
大宮はどうしたらいいのか分からず、ずっと涙を流している由梨奈をなだめながらベンチに座らせ、ポケットティッシュと自販機で買った水を手渡した。
(なんでボクがこんなこと、、、というか気まずい、、、)
由梨奈が鼻を啜る音が廊下にやけに大きくこだまする。
5分くらい経つと、落ち着いてきたのか呼吸の幅も広くなってきたようだ。
「えっと、ユーリ先輩、落ち着きましたか、、、?」
「うん、ありがとう、、、ごめんね。」
なんとも言えない無の時間が流れる。
(気まずいよぉー!え、これボクの方から話切り出さないとダメなやつ!?誰でもいいから助けて〜!この際まちる先輩でもいいから〜!)
「あのー、今日は楽しかったですね!みんなでバーベキューもできて海にも行けて!」
「うん、、、私は海にも入ってないしバーベキューもあんまり参加できてないけど、、、」
(そうだったー!この人ボクのこと避けて海にも入ってなかったしバーベキューの時も全然喋ってなかったんだったー!え、これボクのせい?なんかもうめんどくさ!)
大きく深呼吸してから大宮は意を決して話を切り出した。
「ユーリ先輩、なんでボクなんかのこと好きになってくれたんですか?」
「.....................」
小声で何か話したようだったが、聞き取れなかった。
「え、すみません、なんて言いました?」
「性癖、、、、、ドストライクだったから。」
大宮は全く理解ができなかった。
「私ね、アニメとか見ると幼い男の子に魅力を感じちゃうんだ。こう、心が成長しながら魔王討伐する系統とかがものすごく好きで。でも、リアルだと女の子のことを好きになっちゃうんだ。だから、ショタみたいな見た目をしながら中身は女の子、みたいな子が現実にいてくれたらってずっと思ってたんだ。」
「、、、なるほど?」
やはり大宮には全く分からなかった。
ただ、いつもクールな印象だった由梨奈がここまで感情を乱しながら自分の気持ちを赤裸々に語っている様子を見ると、大宮自身も真剣に向き合わなければいけないと心に決めた。
「ユーリ先輩、ぼく、今すごく楽しいんです。中学の頃はこの見た目と性格のせいでからかわれることも少なくなかったんですけど、高校に入ってからはぼく自身を認めてくれる人が増えて。ひかる先輩もユーリ先輩も、パートメンバーとか軽音とのチームも本当にいい人ばっかりで。、、、だから今は部活に集中したいというか、、、」
「そっか、、、」
由梨奈は視線を落しながら、いつもより低い声でそう呟いた。
「あ、でも全然ユーリ先輩のこと嫌いになったとかじゃないですよ!むしろ好きです!一瞬行き違いは起きてしまったかもしれないですけど、こうやってしっかり気持ちを伝えてくれたのはボクもすごく嬉しいですし、もっとユーリ先輩のことを知りたいと思いました!」
「そっか、、、うん、ありがとう。ごめんね時間取っちゃって。これからも仲良くしてくれると嬉しいな。」
(ふぅ〜。これで万事解決かな!?)
お互いの気持ちをしっかり伝えることもできたし、由梨奈も納得した様子だ。
話も上手く切り上げられそうな雰囲気だ。
「、、、ねぇ大宮」
「??」
「ちょっと抱きしめてもいい?」
「なんでですか!?!?」
(え、ボク今振らなかった!?!?)
「??さっき私のこともっと知りたいって言ったでしょ?」
(あ、この人完全に振られたと思ってないんだ〜〜〜〜ポジティブ〜〜〜)
独特なご都合解釈に少し呆れていると、有無を言う暇もなく抱きついてきた。
「え、ちょ、、、」
「女同士なら別に問題ないでしょ?こうして私のことをもっと知ってくれると嬉しいな。」
(あったかい、、、いい匂いもする、、、なんかちょっと、そ、そういう気分にもなっちゃうよ、、、)
「今は私のことを見れないってことは理解した。でもだからと言って完全に拒否ってわけではないんでしょ?なら、私が大宮を、いや、梨江のことをその気にさせてあげる。」
「え、あ、よ、よろしくお願いします、、、?」
(なんでボクよろしくお願いしますなんて言ったの!?!?なんか抱きつかれて正常な判断ができなくなってる!?うわこれ絶対ユーリ先輩にチョロいって思われてそうじゃん、、、でも、、、、案外悪くないかも、、、)
「と、とりあえずみんな心配してると思うので、一旦戻りません??」
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ーー大宮と由梨奈が話し合いで離れていった頃、残されたメンバーたち
和也はふと夏祭りの日に大宮に言われたことを思い出し、(このメンバーなら聞いても大丈夫か)と一応気を遣い、ひかるに尋ねてみることにした。
「ひかる先輩って、ユーリ先輩のこと、恋愛対象として好きなんですか?」
「んー、ちょっと前まではそうだったねぇ〜。」
ひかるは和也が自分の気持ちを察してしまっていることに特に驚いている様子もなく、夏祭りの時と同じように昔を見るような遠い目をして答える。
(やっぱり大宮の言ってたことは間違いじゃなかったのか。俺はまだまだだな。)
「あたし、この気持ちはユーリに伝えたことないんだ。彼女も気付いてる様子はなかったし、今後伝えるつもりもない。さっきもちょっと言ったけど、ユーリは小学校の頃からあんな感じで大人びててね、どういう子が恋愛対象なのかも聞いてたんだ。でもなかなかユーリ好みの子が現れなくて、あたしももしかしたらって想い続けてたんだ。でもみやりんが入ってきてくれて、あぁ、やっと現れてくれたって思ったよね。」
ひかるは無理をして強がっている様子も一切なく、曇りのない晴れ晴れとした顔だった。
「あ、この話はユーリには内緒ね!」
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「お、ようやく2人とも戻ってきましたね。」
まちる先輩が気付き、残りのトランペットパートメンバーも心配そうにそちらに目を向ける。
2人きりになる直前のテンション感だと、由梨奈が振られることはほぼ確定なので、それぞれがどのように声をかけたらいいのかずっと考えていたのだ。
特にひかるは由梨奈との関係が長い分、相当考え込んでいた。
「ごめんね、みんな待たせちゃって。」
そう言った由梨奈の顔を見ると、なぜかすごく明るい。
それに対して大宮の顔は笑顔ではあるが少し引き攣っている。
え、どういう状況?という疑問が全員の脳裏に浮かんだ。
「いや〜振られちゃったね〜。でも私としては今まで思っていたことを梨江に話すことができてスッキリしてるし、まだまだ勝負はこれからだよ!」
「「「梨江!?!?!?!?!?!?!?」」」
まさかずっと大宮呼びだった由梨奈が名前呼びに移行したことでパートメンバーはさすがに動揺して、大宮の方を一斉に見た。
「いやまあ、なんというか、ボクもあんまり気持ちはまとまってないんですけど、前向きに考えてみようかなと、、、思いまして、、、、」
由梨奈は大宮に振られたのになぜか2人とも前向きな気持ちになっているという事実にひかる、向日、和也の3人は脳がオーバーヒートを起こして機能を停止していた。
まちるはというと、どこから持ってきたかも分からないジョーロで2人の足元に水をやっていた。
「ど、どうしたのまちる?」
おかしくなったのかとさえ思った由梨奈も、流石にこのまちる先輩の行動は理解できなかったようだ。
「いえ、お気になさらず。百合の花が咲き乱れていたので大切に水をやって育てようと思っただけですので。」




