1. 初めまして、吹奏楽部
私立・麗瞭高等学校。和也が入学したのは県内でもかなり入学難易度の高い高校だ。それもそのはず、麗瞭は小学校から大学までのエスカレーター式で一貫教育を行っており、大学は全国的に見てもかなり名前が知れ渡っている。高校入学者のうち8割程度は内部生が占めており、外部からはあまり多くの入学者を採っていない、それ故の入学難易度なのだ。
入学式は赤い座席で統一されたやたらと高級感のあるホールで行われ、終了後は各クラスに移動し、ホームルームが行われた後に部活動体験という手順になっていた。
(ホームルームで周りの誰かに話しかけるぞ!もしかしたらアニメで観たみたいに隣の女の子に話しかけられて恋愛関係になったりするかも??まぁそこまでのことは無いにしろ、流石に誰かとは友達になれるだろ!)
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(どうしてこうなった、、、、、、、、、)
結局誰とも話せずにホームルームは終わってしまい、和也は教室を後にしていた。
それもそのはず、麗瞭高校は入学者のほとんどを内部生が占めている。3年、もしくは9年連れ添った友達がいるならその内輪で仲良くするに決まっている。その内輪に入っていけるコミュ力を持ち合わせていない和也は、ただツイッターを開いて閉じる作業を繰り返すことしかできなかった。
(俺の友達はツイッターで繋がったアニメ好きのななまなさんだけだ、、、いや会ったこともないから友達と言えるかも怪しいのだが。ななまなさんがヨウツーベに上げてるトランペットの演奏動画好きなんだよな〜)
密かに期待していたお決まりの学園ラブコメ的展開も一切起こらず、俺の高校生活、お先真っ暗といった具合になってしまった。
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部活動見学の時間になった。もちろん和也が向かっているのは吹奏楽部だ。
麗瞭高校吹奏楽部。吹奏楽の甲子園と例えられることも多い吹奏楽コンクール、その県大会では毎年金賞を受賞しており、2,3年に一度は全国大会にまで出場しているほどの実力だ。
また定期演奏会にもかなり力を入れており、2部で行われるミュージカルや3部で披露される激しい踊りと共に音楽が奏でられるポップスステージは、毎年日本全国からお客さんが訪れるほど人気だ。
和也も、中学2年生の頃に初めて観た定期演奏会に過去人生最大の衝撃を受け、ここへの入学を決めたのである。
「失礼しまーす」
わざわざ全体に聞こえる声量で挨拶する必要も無いけど、何も言わずに入るのは礼儀がなっていないかと思い、一応小声でそう挨拶しながら音楽室に入ると、もう部屋には25人程度の新入生と多くの部員が集まっていた。さすが麗瞭吹奏楽部。やはりそれを目指してこの高校を選んだ生徒がかなり多いようだ。
(うわっ、さすが私立は清潔感が違いすぎるな.....)
音楽室は特別広いわけでは無く、パイプ椅子が所狭しと並べられているが、和也がつい先日まで通っていた公立中学の埃っぽさとは打って変わり、清潔感のあるフローリングにホワイトボードと、私立高校の財力を目の当たりにした様子である。
ホームルームの時はツイッターばかり見ていたため気が付かなかったが、見渡す限り、皆それぞれ違った制服を着ている。紺や焦茶。麗暸のものではない校章が胸ポケットについてたりもする。そう、この高校には制服が無く、自由な服装で登校して良いのだ。ただそれでも女子高生は制服を着ることで「The・華のJK」が完成するので、結局のところ自分で制服を用意するようである。いやぁ、実に眼福である。ありがとう。
ちなみに男にとって制服は割とどうでも良かったりする。
「いや〜今年も結構な人数集まってくれてるな〜」
そう言いながら音楽室に入ってきた小柄なおじさんは、顧問の嵐山先生だ。この高校で吹奏楽を教えてかなり長く、毎年関西大会以上に連れて行ってる敏腕指揮者だ。部活体験を定期的に開催していたことから嵐山先生の人柄に惹かれて入部を決めた生徒も一定数いるようである。
「え〜皆さん、この度は入学誠におめでとうございます。顧問の嵐山です。今日めちゃくちゃ寒いけど、桜も満開で入学式として申し分無い感じだねえ〜、、、と挨拶はこのくらいにして。実はこれさっき決定してまだ2、3年生にも伝えてないんだけども、、、」
いきなり重大発表があるかのような話し方だ。
「今年は吹奏楽コンクールには出んことにしたんだわ」
時間の流れが、止まったようだった。
「、、、、、、、、ンはへ?」
情けない声が和也の口から漏れ出た。
コンクールに出ない!?!?!?!?
あり得ない
ここにいるほとんどがコンクールを目指してきたんだぞ???????
何考えてんだあのじーさん???????
困惑しているのは他の新入部員だけでなく、先輩たちも同じようだ。音楽室全体がざわついてしまい、続きを話そうとする顧問の嵐山先生の声がかき消されてしまうほどだった。
「あのっ、わたしこの部活なら全国金賞目指せるって思って入部したんですけどっ!」
一箇所に固まっている和也たち入部希望者の中から一際目立つ声が上がり、視線がこちらに集中する。
(おー度胸あるな、あのボーイッシュの子。見た感じ同じ新入生のようだが、やっぱりあの手の自分の芯を持って発言しちゃう空気読めない系の女子ってどこの吹部にもいるんだな。気は強そうだけど嫌いじゃないぞ)
新入部員、というかまだ入部もしていない段階の新参者がいきなり先輩たちがいる目の前で顧問に意見をするという、普通では考えられない寒いムーブにその場の空気がなんとも言えない気持ち悪さを帯びる。
(、、、、、いやまてあいつ小学校一緒やった大宮か!!身長もそこまで伸びていないし、小学校の頃のボーイッシュさがそっくりそのまま残ってるの懐かしい!)
まさかのショタな馴染み(いやショタではないのだがこの際どうでもいい)との再会に昂る気持ちはあるが、今はそれどころではない。
「まぁ確かにうちは特に夏のコンクールに力入れてきたから君の気持ちもわからんでも無いけど、吹奏楽の楽しみ方って何もコンクールだけじゃ無いんだぞ〜」
何か含みのある言い方のようだ。
「あ、そうそうもう一個言わなあかんことあったわ!」
これ以上何があるって言うんだ、、、
「わし今年から指揮振らんし」
とどめを刺された生徒も多いことだろう。
何人かは吐血していた。
嵐山先生はマスコット的な要素も含んでいることから、それに惹かれた生徒も多いようだ。特に女子。
部員も新入生も頭が情報に追いつけておらず、放心状態になっている者がほとんどだった。
「てことで今後はうちの娘に任せるんで!ほなわし畑見にいかなあかんし!あとは頑張れ!」
名前のごとく、まさに嵐が過ぎ去ったかのように、音楽室はお通夜状態に陥っていた。
「ま、、、、、まあせっかく新入部員の子たちも来てくれたので、お花見でもしましょうか!!」
部長らしき人物はまるで現実逃避をするような、そんな空元気な声で呼びかけた。




