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15. じゃあ2人で夏祭り、、、、行く?

 楽器を買ったその日の夜、和也は新しい相棒を抱きしめながら布団に入り、いつも通りアニメを観ていた。

 画面の中には、夏のど定番:花火大会を楽しむ、カップル成立直前の高校生男女二人組の姿が眩しく映っている。


「あーはいはい、一番でかい花火が上がったその瞬間に女の子の方が男の方向いて、んで何か言ってるけど花火の音でその言葉は視聴者には聞こえないってやつね〜。あるあるすぎてつまんねぇ〜。」


 そう、悲しい中学時代を過ごしてきた和也にとって、異性との花火大会は高校生のうちに体験しておきたい1番の憧れイベントだった。

 だが今の和也には一切の女っ気が無い。そんな和也の頭に身近な女性たちの顔がよぎる。


「トランペットパートならみんな来てくれるのでは、、、??」


 恋愛関係になど一切なってはいないが、気の知れた仲間たちとの特別な時間もそれはそれでいい。

 何よりお祭りに憧れを抱いていた。


「明日誘ってみるかぁ」


ーー同時刻、大宮梨江


「みんなで夏祭り行きたい!!青春したい!」


 全く同じアニメを観ながら全く同じことを考えていた。

 大宮も一旦見た目は置いておいて、中身は立派な女子高校生だ。

 高校生らしい青春っぽいことに憧れてもいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あのー、よかったら今度の休み、みんなで花火大会行きませんか?結構近くであるみたいなんで。」


 昨日の夜思い立ってすぐに和也は近くの夏祭りを片っ端から調べ、次の部活オフ日に開催される花火大会を見つけた。

 そして大宮も全く同じ花火大会を提案しようとしていた。


「ボクもそれ言おうと思ってた!行こ!」


 大宮の反応はよかったが、なかなか先輩たちの返答がない。


「すみません、ワタシもう先約が決まっていまして。」


「同じく僕も。ごめんね〜。」


「あたしたちももう別で行くことになっちゃってるんだよねー、、、。和也、みやりん、ほんとごめん!!!!また別のお祭り探しとくね、、、!」


「あ、そうですか、、、、」


 まさかの先輩たちは全員先約があり、参加できないとのこと。


「どうしよう、、、」


 大宮が和也の方を向いた瞬間、あることに気が付く。


(あれこれもしかしてボクと和也2人でお祭り行く流れ!?あの陰な和也が自分から勇気を振り絞って誘ってきたってことはよっぽどお祭り行きたかったってことだよね。最初に行けるって行っちゃったから、この場でやっぱやめとこっかって言ったら和也のこと傷つけちゃうよね、、、。ま、まぁ別にボクは和也と2人っきりでも大丈夫だけど、、、!?でも高校生男女2人でお祭りってそれもうデートでは!?!?)


 あの和也が自分のことを異性として認識しているはずがないだろう。

 いやでも万が一の可能性もなくはないか!?と思いながら、バレない程度に大きめの深呼吸をする。


「えっと、、、じゃあ2人で夏祭り、、、、行く?」


 思い切って言ってみた。


「お、じゃあ行くか!」


 思っていたよりもノリノリそうな返答に大宮は拍子抜けする。


(え、それどういう気持ち!?年頃の男女2人っきりで夏祭りだよ!?え、いいの!?)


 大宮はかなり焦っているが、和也はというと


(ラッキー!さすがに1人で夏祭りは行けないからな。大宮なら気使わずに済むし!)


 和也は大宮のことを全く異性として見ておらず、ただ青春っぽいことをしたかっただけであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(ちょっと早く来すぎたか。大体どのアニメでも準備のかからない男が先に着いてて、女の子が照れながら「ごめん遅れた〜!」って言いながら駆け寄ってくるんだよな。あれ憧れるんだよな〜〜)


 和也はというと、普通の私服だ。

 男子高校生の夏祭り標準装備だ。


「ごめん和也お待たせー!」


 後ろを振り向くと、そこには向日葵の柄が散りばめられた水色の浴衣姿に、前髪はシースルでそれ以外はアイロンでセットしてワックスで無造作に動かしている様子の大宮が下駄をカタカタ鳴らしながら小走りで向かってきていた。。


(わー、これ見る人が見たら発狂しそう〜〜〜)


 特定の性癖の人にはブッ刺さりそうな外見に、和也にはなんとも言えない感情が生まれる。


「今日のボク、、、どう?」


(わぁ〜。なんか目覚めそ〜。)


 少し照れくさそうに上目遣いで尋ねてくる大宮にこれまたなんとも言えない感情が生まれる。


 大宮にとってみると、年頃の男子高校生と2人きりでお祭りに参加することはデートと同義だ。

 もしかするともしかするかもしれないという気持ちでここまでの道のりを歩んできた。


(今日セットもメイクも頑張ったからどうだろ、、、、、?)


「お、今日はメイクしてるんだな!着物も似合ってるし髪型もふわふわしてて可愛いな!」


「!!!!!!!!!!」


(え、なに、なんでそんなに褒めてくれるの!?いつもの和也と全然違うんですけど!!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 烏丸和也には姉がいる。

 それ故に女性の扱いというものはある程度叩き込まれてきた。


「いいか和也。基本的に女は男のことを心の底では無神経なバカくらいにしか思っていない。例えばネイルをしただのチークを変えただの、お前にとってはクソほどどうでもいいだろ?」


「クソほどどうでもいいな。」


「そう、女は男にそんなこと最初(ハナ)から期待しちゃいない。だからこそ、そこを攻めるんだ。」


「と言いますと?」


「なに、簡単なことだ。いつもと明らかに違う変化があればそこを褒めるんだ。チョロい女はそこで勝手に意識するし、よっぽどキモい男でない限り悪い気を起こす女はいないと思うぞ。」


「俺がそのよほどのキモい男に含まれる可能性は?」


「.............」


「おい、黙らないでくれよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(まぁとりあえず無難に褒めときゃ悪い気はしないだろう。)


 和也はただお祭りを誰かと楽しみたかっただけだ。

 姉にテクニックだけは教え込まれてはいるが、女心は微塵も理解していない。


「花火まで時間あるし、とりあえずなんか食うか?」


「そうだねっ」


 2人で歩きながら屋台飯を食べたり、射的やスーパーボール掬いを楽しんだりと、順調にお祭りを楽しんでいる。


(こういうの憧れてたんだよな〜。The・青春って感じ!)


(むぅー、、、なんかモヤモヤする、、、。これ傍から見たらデートだよね!?なんでそんな普通にしてんの!?、、、ちょっとカマかけてやろ!)


「ねぇ和也、次あっち行ってみよ!」


 和也の脇に腕を通し、強引に腕を組んで密着してみる。


(これならどれだけ鈍感でもさすがに意識するでしょ!)


「お、行ってみるかぁ」


(なんでだよ!!)


 和也はというと、祭りに夢中でそれどころではない。

 そもそも家族で出かける時も常に姉が密着してきているので、アウトオブ眼中の大宮が密着してきたくらいではその心は揺れ動かないのだ。

 鈍感にも程がある。


「そういえばだけど、先輩たちは誰とお祭り来てるんだろ?」


 自分のアピールを気にも留めない和也に対して苛立ちを覚える。


「さあ。ひかる先輩とユーリ先輩は分からないけど、真和先輩とまちるん先輩は一緒じゃない?」


「え、なんで?」


「なんでってそりゃ、あの2人付き合ってるからでしょ?」


 さも当たり前かのような表情だが、和也にとっては思ってもいなかった衝撃的すぎる情報だ。


「・・・。え、あの2人付き合ってんの!?!?」


「え、気付いてなかった!?!?あれは誰がどう見ても付き合ってるでしょ!!あのボケ方とツッコミ?見てたらわかるでしょ!!」


「まじか、、、全く気が付かなかったわ、、、」



 鈍感すぎる和也を目の当たりにして、(そりゃこいつがボクのアピールなんかに気付く訳ないよな〜)と大宮は呆れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 お祭り屋台を楽しんでいると、「あと20分で花火が打ち上がります」とのアナウンスが会場に響き渡る。


「そろぼち移動するかー」


 和也の声掛けで、2人は花火がよく見えそうな河川敷に向かって移動し始めた。

 周囲にいた参加者たちも花火を見に移動しており、河川敷に向かう流れができていた。


 大宮はというと、履き慣れない下駄の鼻緒が食い込んでかなり歩きづらくなってきていたので、もう和也と腕を組んだまま歩いている。


(どうせボクにその気がないならもういいですよー。)


 少し拗ねてしまった大宮はもう恥じらいも何もなく、ただ少し期待をしてしまっていた自分がバカらしく感じてきてしまっている。


「そういえばだけど、ユーリ先輩ってボクのこと苦手なのかなぁ?」


 ふと和也にそう尋ねてしまったそばから、(あ、そういえばこいつ鈍感だった)と思い出してしまった。


「あー、それ実は俺も思ってたんよね。なんとなく避けてる感じあるし。まぁ大宮も自覚はあるっしょ?」


(なんでこいつ先輩たちの関係とかボクのあからさまなアピールにも気付かないのにそこには気付くんだよ!というか悪気なく性格ディスるな!やかましいわ!)という大宮心の叫びは置いといて。


「まぁこの性格だからね〜。今の所特に問題ないからいいけど、ボクもあんまりいい気はしないかなー。」


(お前、その問題ないっていうのは周りがめちゃくちゃ気を遣っているからだぞ)という文句は決して口には出さない。


 話しているうちに、開けた河川敷に出た。

 かなり人が密集しており、座れるスペースを探すのに苦労しそうだ。


「和也、あそこ空いてる!」


大宮が空いているスペースを見つけ、2人して「すいませ〜ん」と言いながら場所を確保する。


「あれ、和也とみやりんだ!」


 和也たちを呼んだ聞き覚えのある声に反応し振り返ると、そこには百合柄の入ったサーモンピンクの浴衣を身に纏ったひかると、これまた百合柄の入った黒の浴衣を身に纏った由梨奈の姿があった。

 2人ともかなり気合を入れてヘアメイクを済ませた様子だ。

 2人とも驚いた顔をしているが、由梨奈だけ急いで大宮から目線を逸らしていた。


(あぁ、やっぱりユーリ先輩は大宮のこと苦手っぽいな。どうしよう気まずいよ〜。)


「え!本当に2人でデートしてたんだ!」


「「デートじゃないです!!」」


「おぉ〜ハモったねぇ〜」


「それよりひかる先輩とユーリ先輩2人で来てたんですね。」


 男と2:2で来ていたらどうしようと思って周りを見るが、それらしき人物も荷物も見当たらず、安心した。


(いや別に2人とも華のJKだしめちゃくちゃ美人だから、彼氏いてもおかしくないんだけど、なんかこう、モヤモヤするな〜〜〜)


「そうそう、あたしたち小学校の頃から毎年2人でここの花火大会来てるんだ〜。でももうこれが最後かなーって丁度話してたんだ〜」


 ひかるはそう言って遠い目をする。

 和也も大宮もその理由を聞きたいとは思うが、さすがに2人とも空気を読んで切り出せずにいた。


 無言の気まずい空気が流れる。


「あたしね、大学は東京に進んでプロ目指すことにしたんだ。」


「音大ってことですか?」


「ううん、普通の4年制大学。嵐山コーチの勧めでね〜。音大に進んで選択肢を消すのは絶対にやめた方がいいって言われて、それなりの学歴をとりながらコーチの元で現場経験を積んでいくことにしたんだ〜。」


 ひかるは遠いところを見たまま視線を動かさない。


「ひかる先輩プロなるんですか!俺応援しt………うわっ」


 急に大宮が立ち上がって和也の腕を強く引っ張った。


「何すんd」


「すみませんボクたちもう一箇所行きたかった所あるの思い出しました!和也!金魚掬い行ってない!!今なら空いてるから行こ!!!!」


「え、ちょっ」


「はい行くよ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 何かを訴える暇もなく、和也は大宮によってその場を離れさせられた。


「ちょっと待てって!」


 そう言って和也は無理やり腕を振り解く。

 もう河川敷からはかなり離れてしまった。


「はあああああああああああなんで気が付かないかなぁ!!!!」


 大宮がものすごい剣幕で文句を言いながら大股で和也に近づいてくる。


「あのひかる先輩の話を聞いて、あの目を見て、本当に何も感じ取れなかったわけ!?」


 和也には大宮がそこまで真剣に怒っている理由が全く理解できない。


「確かにひかる先輩はどっか遠いとこ見てる感じしたけど、あれはユーリ先輩とかと離れるのが悲しいって感じだろ?何もそこまで怒ることなくないか??」


「全くもってその通りだよ!よく気付いてるじゃんか!そこまで分かっててなぜ本質が理解できない!?」


「????」


 女心が一切理解できていない和也に大宮は呆れて大きくため息をつく。


「あのね、和也のためにもはっきり言うけど、ひかる先輩はユーリ先輩のことが好きなの!もちろん恋愛感情で!」


「、、、、、え?、、、ひかる先輩が、ユーリ先輩を、好き、?」


「そう!今はそういう時代なの!小学校の頃から2人っきりで来てたってことはもう10年くらいはあんな関係ってこと。あの瞬間だけだとユーリ先輩がひかる先輩のことどう思ってるかまでは分からなかったけど、少なくともこれが最後かもしれないって時にボクたちが邪魔すべきではないよ、、、」


 後ろでは花火の音が鳴り響いており、和也の腹の底に響いている。

 煙の匂いが鼻を刺激する。


 とめどなく打ち上げられる花火が、大宮の潤んだ瞳に七色の世界と暗闇を交互に映し出す。


「金魚掬い、行こっか。」

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