13. オタクが一度は絶対妄想したことのある文化祭ライブの上位互換バージョン
吹部ステージが終わったのも束の間、演劇部の発表が行われているうちにその次のコラボ演奏のスタンバイをしなければならない。
急いで舞台袖に向かうと、そこには軽音の面々がすでに待機していた。
「和也!吹部ステージめちゃくちゃすごかったな!あんな上手くなってたのか!」
「えぇ、私も驚きました。感動させてもらいました。」
「はは、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。」
先ほどの吹部ステージの感想について談笑していると、由梨奈が和也たちの方にに近づいてきた。
「和也、1年生チームは何やら機材準備したりで色々やろうとしてるみたいだけど、何やるの?リハもすごい時間かけてたし。」
「それは観てのお楽しみです。絶対客席から観て下さいね。」
「ふふっ、楽しみにしてるよ。」
(ユーリ先輩にそんなこと言われたら俺頑張っちゃいますよー!)
そうこう雑談しているうちに演劇部のパフォーマンスが終わり、コラボ演奏の順番が回ってきた。
コラボ演奏は、2年、3年、そして1年の順番で披露される。
舞台袖からでも聞こえる歓声の様子から演劇部の発表もなかなか好評だったようで、客席の盛り上がりも好調である。
演劇部の熱も冷めぬまま、2年生のコラボ演奏が始まる。
曲目は、最近流行っているバンドの曲のカバーだ。
しかも原曲にはないホーンアレンジが追加されている。
めちゃくちゃかっこいいし、やっぱり上手い。
2年生との間にさえ、大きな実力差を痛感させられる。
(普段ちょこちょこ性格悪い向日先輩と未だ謎に包まれたまちる先輩だけど、本番になると息ぴったりなんだよな。)
2年生の演奏も終わり、3年生のステージが始まる。
曲目は、、、牛娘だ!!!
牛娘の楽曲は最近のJ -POPの中でも群を抜いて高難易度のものが多く、今3年生たちが演奏しているのもそのうちの一曲だ。
和也自身が好きな楽曲でもあるので、聞き入ってしまう。
(この圧倒的すぎる壁、いつか超えられるのかな、、、。2年生の演奏も息ぴったりって感じだったけど、ひかる先輩とユーリ先輩はさすが幼馴染というだけあってぴったりなんてもんじゃない。もちろんこのバンドでもひかる先輩がずば抜けているけど、それはユーリ先輩の陰ながらの活躍があってのことだ。2ndトランペットとしてリードが演奏しやすいように、引き立てるようにサポートしている。ひかる先輩の実力に隠れがちだけど、2ndプレイヤーとしてはありえないくらい上手いなユーリ先輩。)
聞き入っていると、後ろから悟が小声で話しかけてくる。
「なぁこれ、ちょっとまずくないか?」
他のメンバーたちも寄ってきて耳を傾ける。
「ん?うますぎるってこと?」
「それもあるんだが、客席見てみろよ。飽きるどころかライブ会場みたいな盛り上がり方してるぞ。」
客席に目をやると、座っている者はおらず、皆立ち上がって拳を突き上げている。
アーティストのホールライブさながらの光景だ。
「確かに、、、」
「俺たちもかなり時間かけてこだわって創り上げてきたが、ここまで実力差があると確実に実力的な面で冷められる。誰か何かアイデアあるやつはいるか?」
こんな直前でなかなかいいアイデアが出てくるわけない。
メンバーに焦りが見える。
既に完成している楽曲の中身を変更できるわけではないし、何かを付け足すことになるが、、、。
よく見るのは、、、、、、
「せっかく超上手いドラマーがいるから、頭にドラムソロ付け加えるのはどう?そこでバッチバチにかっこいいドラムソロ入れたら流れ変えられるんじゃないか?」
和也の発言でドラム担当の御影修一、その左目が輝く。
「いいね!それで行こう!修一、即興で行けそう?」
「まかせろり」
(喋れるんかい)
「オッケー!PAの方にも連絡入れとく!」
そして和也たちの番がやってきた。
3年生たちの演奏が飛び抜けて上手かったことから、ホールのボルテージは最高潮に達している。
その分大トリを飾る和也たちへのプレッシャーはこれまでに感じたことのない程重くのしかかっている。
客席も舞台も、完全に暗転する。
そしてドラムソロが始まり、照明がドラムに集中する。
ドラムにも数本のマイクを立てていることで、ホール中にドラムソロが響き渡る。
これまでのグループにはなかったサウンドに観客は一瞬驚いて静かになるが、すぐに先ほどまでを超える歓声が上がる。
やはり2,3年生の演奏はマイクなしだったためにどうしても音がホール後方まで届ききっていない印象だったが、和也たちのグループは違う。
これまでになかった音響、ドラムの超絶技巧、そして照明を駆使することによって観客はステージに釘付けになっている。
(どうしよう、ノリでドラムソロ入れるって決まったけど、どのくらいの長さかも分からんし、どうやって曲に繋ぐかも打ち合わせできてない。どうしよう!)
同じくホーンセクションのメンバーたちは不安そうに顔を見合わせている。
悟の方に目をやると、、、笑顔でこちらを見ながら口パクで「大丈夫」と伝えてきた。
ドラムの御影も徐々にテンポを落としていき、悟の方に顔を向ける。
悟も意図を汲み取り、バンド全体を見ながら頷く。
「ワン!ツー!ワンツースリーフォー!」
その合図とともに曲が始まる。
イントロは伊丹と芦屋川2人によるツインギターでのリフから始まる。
そしてAメロからは芦屋川の歌唱がメインになる。
その圧倒的な歌唱力が観客の心を掴んで離さない。
単に歌唱力といってもただ声量があって派手な訳ではなく、発音・ピッチ・グルーヴ・タイム・音価・マイク乗りという6項目のステータスから成るレーダーチャートのバランスが極めて整っており、その数値もずば抜けている。
楽曲は特に大きな問題もなく進行しているが、問題なのはサイドを吹いている大宮だ。
おそらくテンションが上がりすぎているのだろう。
PAさんが調整してくれているようだが、音量がかなり上がっていて、無理な吹き方をしている。
和也もそれにつられてしまっている。最後まで体力が持つのか心配だ。
楽曲は進行していき、和也自身もあまり周りを見る余裕が無くなってきた。
そう、もうすぐソロバトルが控えているのだ。
流石に緊張する。
ふと顔を上げると、悟がこっちを見ながら「ぶちかませ!」と言ってくる。
その言葉で冷静さを取り戻し、俺と大宮はステージの中央に向かう。
もうソロが始まる。このソロバトルは大宮から始まり和也と3往復し、最後にハイトーンの伸ばしで締める。
(大丈夫、練習通りに吹けばいいだけだ。)
大宮のソロが始まった。
(練習通り。そう、練習通、、、り!?いや待てこいつ、テンション上がりすぎて全然違うアドリブソロ吹いてるぞ!?!?なんでできるんだよ!!どうしよう、近いフレーズになるように考えてソロを書いたから、これで全部崩されてしまった。いやでももう考えてる暇なんか無い。大宮のフレーズに合わせつつ自分でアレンジするしかない、、、!!)
事前にソロを考えていた時と同じように、今大宮が吹いているフレーズから一箇所をコピーして、それを元に即興でスケールを組み合わせる。
所々で飽きさせないために一拍三連や二拍三連を混ぜて王道リズムを崩す。
そして和也のアドリブを受けて大宮も自身のアドリブを更に展開していく。
和也は頭フル回転で考え事をできる余裕などなかったが、今まで体験したことのない、音楽で会話をしているような感覚に高揚感を覚える。
無事なんとかソロも吹き終わり、ハイトーンの伸ばしも成功し安堵する。
まさかの完全即興アドリブソロで和也は疲弊していたが、最後の最後には決めのハイトーンがある。
ソロバトル最後のハイトーンは伸ばしだったから外す心配は無かったが、ラストのハイトーンは決めの一発だけだ。外す危険性が高い。
想定外の出来事が起こったことで和也の体力は限界に近いほど削られており、最後のハイトーンを決められるかどうかは一かバチであった。
(頼む、どうにか当たってくれ、、、!!!!)
そして迎えたクライマックス、、、、、
和也はその決めの一発を、、、
思いっきり上に外した。
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「はああああああああやってしまった、、、、、」
「はっはっは!清々しいくらい思いっきり上に外したなぁ和也!」
「ほんっとうに申し訳ない、、、誰か俺を口汚く罵ってくれ、、、」
「でも外したとはいえ、その音自体はコードから外れた音ではなかったので問題なかったですよ。」
「そうそう!みんな盛り上がってたし、結果よければ全てよしだよ!」
「大宮、お前は後でとても大事なお話があるから覚悟しておけよ」
「ひえっ」
「まあまあ、実際盛り上がってたしよかったんじゃないか?事前に考えてたアドリブソロもよかったが、あの即興でしか生まれないアドリブもなかなか見ものだったぞ?」
「一応聞いておくが、大宮、あのソロって事前に考えてた?」
「いや?なんかテンション上がりすぎてその場のノリで吹いてみた!」
まさかの完全アドリブに和也はもう感嘆のため息をつくしかない。
楽器を始めてまだ3ヶ月半の大宮。
まだ初心者と言える時期だが、その成長スピードは凄まじく、本番その場でアドリブを作れるほどの実力、そして度胸を既に携えている。
「君たちとんでもないことしたなぁ!」
「コ、コーチ!?」
まさかの人物の登場に変な声が出てしまった。
コーチはとても興奮している様子だ。
「これがあの噂に聞くコーチか、、、スッゲー美人、、、」
「PAは演劇部にやってもらった感じかい?まさかあそこまでやるとは思ってもなかったよ!度肝抜かれた!楽曲は君たち1年生グループだけオリジナルだったが、作曲は誰がやったんだい?」
「わたくしが作曲とアレンジを行いました。」
「そうかそうか!すごいな!コンペに出しても通ると思うぞ?君、名前は?」
「芦屋川と申します。」
「芦屋川、ぜひ君に10月の文化祭用に曲を書き下ろして欲しいんだ。今回と同じ感じで2曲頼みたいんだが、お願いできるか?もちろん対価は支払うし、アレンジは私も協力する。」
「本当ですか!わたくしとしても今回作曲していて、こう言ったジャンルが向いているのだと実感しました。ぜひお手伝いさせてください。」
「よし、決まりだな!」
話がとんとん拍子に進んでいく。
「いやぁ本当にいいものを見せてもらった!高校生ならではの範疇をゆうに超えていたし、あれは私たち大人には到底再現できないステージだったよ!文化祭のイメージもだいぶ固まった!ありがとう!」
そう言って颯爽とその場を去って行った。
「ほんと名前通り嵐のようにに来て嵐のように去って行ったな、、、」
「だろ?」
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式自体も無事終わり、夏休み前最後のホームルームのために教室に戻らなければならない。
式ラストまで出演していた和也と大宮は急いで楽器を片づけ、小走りで教室に向かっていた。
「ついたついた」
息も少し切れた状態で、クラスメイトの邪魔にならないようにそーっと教室の扉を開けると、全員の視線がこちらを向いている。
「え〝っ」
(うぇ〜っ、なんか俺やらかした!?こいつインキャの癖してなんで堂々とホームルーム遅れてんだってそんな感じ!?キッチィ〜〜〜〜〜)
この空気どうしたらいいんだ、、、と和也が思った次の瞬間、歓声が巻き起こった。
「烏丸!!!!お前あんな楽器上手かったのか!!!!」
「男でも惚れるぞあのテクニック!!」
「梨江ソロバトルすごかった!本当に初心者なの!?!?」
大宮はともかく、慎ましい中学時代と残念な高校デビューを送ってきた和也にとっては想像すらしたことのなかった歓迎ぶりに思考が固まる。
「エ、ア、アリガトウ」
(ここは素直にマジ!?頑張ってよかったわ〜ありがとう!とか言うところだろ!)と、自分のこれまでのインキャ人生を完全否定する。
(でもまぁ、こうやってみんなの輪の中に入れるのはいい気分だな。)




