12. 君に石を投げられるのは音を外したことのないトランペット吹きだけだ。
練習も滞りなく進み、ついに本番となる修了式の日を迎えた。
順番としては吹奏楽部のオープニングで始まり、演劇部の発表、そして最後に吹奏楽部と軽音楽部のコラボ演奏といった手順になっている。
コラボ演奏の順番についても悟が宣言通り上手くやってくれたようで、一年生バンドが最後を飾ることとなった。つまり大トリである。
「うぅ〜緊張します〜〜〜音外したらどうしよう〜〜」
オープニングの吹部ステージ直前、舞台袖にて大宮はかなり緊張している様子だ。
無理もない。大宮にとってはこれが人生で初めての本番なのだから。
「そっか!みやりん初本番か!そりゃ緊張するよな〜。でもだいじょーぶ!70人もいたら1人くらい大ミスかましてもバレないよ!」
「ひかる、安心させる方向間違ってる。」
「みやりん、音を外せるのはその音を出そうと挑戦した者だけなのだよ。君に石を投げられるのは音を外したことのないトランペット吹きだけだ。だから思い切って外してきな。そんな君をあたしたちは優しく迎え入れてあげるよ、、、」
「ひかるせんぱい、、、!!」
「あっはっは、大宮はちょろいね〜」
「間違った方向に傾倒しないことだけが心配だな。」
「ほら、行くよ」
由梨奈の呆れた号令がかかり、舞台へと入場した。
和也としてもこれは高校に入学して初めての舞台。
今生徒が座っているその席でこの吹部の演奏を観た事があるが、今はその吹部の一員となって演奏する側である。 中学の頃に感じたことのないワクワク感と緊張感が入り混じり、手が震えている。
セッティングも終わり、あとはMCの挨拶を待つだけだ。
和也はというと、先ほどは緊張で手は震えていたものの、座席に座った今は自分でも驚くほど落ち着いている。
(中3のころは自分が一番責任のあるリードを吹いてきてたけど、今日はひかる先輩がついてる。それだけで安心できる。)
ひかるがいてくれる、その事実だけで中学の頃感じていた責任感からは解放されてのびのび吹ける。
安心できたことで心も落ち着き、自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。
MCが始まる。しかし集中している和也の耳にその内容は届かない。
「では、麗暸高校文化祭、開幕です!」
その言葉を合図に、嵐山コーチの指揮棒が振り下ろされる。
入部してから今まで練習してきたSpainが奏でられる。
観客席に目をやるも、暗くて反応がよくわからない。
だからこそ、自分の演奏に集中できた。
本番はあっという間だった。
本番特有の緊張感のある空気もあり、和也は正直自分がどんな演奏をしたかなんて覚えちゃいない。
でも、楽しかった。本当に楽しかった。
初めて自分の血が沸騰するような、そんな高揚感を感じられた。
リードを吹いているひかるを筆頭に、先輩たちは本番の緊張感に全く影響されず、いつも通りだった。
だからこそ、和也はその時自分が持てる実力を練習通り存分に発揮できた。
観客席の様子はと言うと、曲が終わってからほんの数秒、無の時間が流れた。
舞台上の少し荒い息遣いがホールにこだまする。
そして誰かの小さい拍手を皮切りに、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「待って吹部ってこんな上手かった!?」
「こんな感動すると思わなかった!」
「なにあの指揮者、めちゃくちゃ美人やん!」
「プロの演奏かと思った!」
「今までもすごかったけど、もっとすごくなってる!」
和也たちにはその一つ一つまでは聞こえないが、大きな歓声をもらっていることだけは実感できた。
それは先輩たちにとっても予想外だったようで、誇らしげな顔をしている人、泣きそうになっている人、様々な表情を見ることができたが、みな想定外の歓声に心動かされたようである。
嵐山コーチもよほどいい演奏ができたと感じたのか、ものすごくドヤ顔である。
歓声鳴り止まぬまま舞台を退くと、真っ先に大宮が駆け寄ってきた。
「楽しかった!和也!ボク楽しかった!」
あぁ、なんて眩しい笑顔なんだろう。
「あのね、ボク、本番前にひかる先輩に音外しても大丈夫だって言われてから気持ちが楽になって、緊張せずに吹けた!実際ちょっとは音外しちゃったけど、でも今までのどの練習よりも上手く演奏できた気がする!」
この笑顔こそが、嵐山親子が守りたかったものなのかもしれない。
「あぁ、よかったな。俺も楽しかった。」
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「2人ともお疲れ!初本番どうだったー!?」
音楽室に戻るといつも通り笑顔のひかる先輩が声をかけてきた。
先輩たちもみんな揃っている。
「「楽しかったです!!!!」」
2人揃って食い気味に答えた。
「おおぅおう、めちゃくちゃ食い気味だねぇ!みやりん思いっきり外してたけど今までで一番元気ある演奏だったねぇ!」
「はい、清々しいくらい思いっきり外してましたね。」
「まってくださいまってください!え、隣にいたまちる先輩が気付くならまだしも、ひかる先輩まで聞こえてたってことは、、、」
大宮が周りを見渡すと、トランペットパートは全員無言で頷く。
バレバレだったようだ。
「なんでぇ、、、」
気が抜けたようにへにょへにょと膝から崩れ落ちる。
「まぁ気にすることはないですよ。ワタシたちも曲目多い時はバテて普通に外しますし。みやりんは初心者の初舞台としては上出来も上出来ですよ。」
「まちるせんぱい、、、、!」
大宮がまちるに抱きつくが、まちるはそんな大宮をよそにこちらを向きながらニッと口角を上げた。
まるで「この子、チョロいですよ」と言わんばかりの表情に苦笑いするしかない。
「あの人なんか本番中に高音で踏ん張りすぎて思いっきり屁こいてましたからね。」
まちるの指先にいる衝撃的すぎるカミングアウトをされた被害者は、、、向日だ。
「まちるちゃんそれ内緒って言ったよねぇ!?!?」
「はい、幸いワタシしか気付いていませんでしたからね。ですがもう時効です。」
「時効の期間短くない!?」
「、、、、、あぁ!なんかたまに練習中とか本番中に臭かったのってまなとのオナラだったんだ!」
ひかるの悪気のない純粋な言葉が一番グサグサくる。
「さ、もうすぐコラボ演奏の準備しないt…….プフッ」
由梨奈も流石に耐えられなかったようだ。
「、、、、、、、、!!!!!」
向日の声にならない声がこだまする。
(ざまあみろ!)
和也は心の中でガッツポーズをした。
(まぁ俺も時々同じことやらかすけど。)




