10. ネットではよく喋るのにリアルだと全然なんだねっていうインキャの豆腐メンタルをぶち抜くトゲトゲワード
なかなか慣れなかった学校生活にもようやく馴染めるようになってきた。
それもそのはず、もう6月も中盤に差し掛かり、季節は夏と言ってもよい程暑くなってきた。
まぁ、相変わらず友達はできていないが。
ここ約2ヶ月で吹奏楽部にはより多くの録音機材が用意され、吸音設備が導入されるなど、練習環境がみるみるうちに整っていった。
これも私立高校の特権で、大会で優秀な成績を残した部活動には学校側から潤沢な補助金が下りる。
特に吹奏楽部は全国大会にまで成績を伸ばしていることから、その予算はかなり膨大なものとなっている。
設備が整ったことでパート単位でのレコーディングが可能となり、トランペットパートは経験を積むために、次の演奏会のセットリスト以外の楽曲も積極的に練習するようにしていた。
「はーいそれじゃあミーティングを始めます。今回嵐山コーチからのお知らせがあるのですが、一学期修了式の日に毎年行われている文化系クラブ発表会で、軽音楽部と吹奏楽部のコラボ演奏を行いたいとのことです。先に見据えているのは文化祭とのことなのですが、今回の場合は実験的に行いたいとのことで、ホーンセクション3組を吹部から参加してもらいます。トランペット6人、トロンボーンとアルトサックスは3人ずつでお願いします。今回は少数ですが、文化祭では全員出てもらう予定なので、そのつもりでお願いします。」
(軽音とコラボか。となるとボーカルがいてそのバッキングを演奏するってことだよな。サブスク音源でよく聴くような編成ってことか。ギターとかベースと合わせたことないから、上手くいくかな、、、?)
全ての連絡事項が終わり、ホーンセクションは軽音の人たちと顔合わせ&ミーティングのため、軽音楽部の部室への移動を指示された。
トランペットは元々6人所属していることから、その場で全員参加が決定した。アルトサックスとトロンボーンからは、各学年から1人ずつ選出されたようだ。
「どもどもどーもーーー!!」
ひかるがいつも通り明るく挨拶しながら部室へ入ると、
「お、吹奏楽部のお出ましだ」
と、いかにも「バンドやってます」といったビジュアル&喋り方のダウナー風お姉さんが出迎えてくれた。
「(どのバンドアニメにも絶対1人はいるタイプだ!かっこいい!好き!)」と和也は内心ドキドキしている。
「おーなぎさじゃーん!元気してたー??」
「元気もなにも、あんた同じクラスでしょうがっ。」
ひかるとなぎさは由梨奈と同じく、幼馴染だ。
「それもそうだね〜、あ、こっちは一応各学年で人数均等になるように組んでるんだけど、そっちはどんな感じ?」
「話が早くて助かるよ。じゃあ同じ学年同士で組もっか。」
「いいね〜みんなそれでいい?」
特に拒否する理由もなく、同じ学年同士で組むことが決まり、それぞれで顔合わせと曲目を決めることになった。
「あれ、烏丸くんじゃん。クラスではまだ話したことなかったかな?同じクラスの神戸悟。担当はベースね。よろしく!そこのロン毛で顔半分隠れてるのがドラムの御影修一。見た目通りありえんくらい上手い。うちではトップかな。で、リードギターがこのもじゃもじゃ頭、伊丹陽一。最後にそこのハーフアップのお嬢様がギターボーカルの芦屋川琴音。みんな学年一緒だし、あんま気張らずにできたらいいなって思ってる!よろしく!」
(クラスにこんな人いたっけか、、、?)
「クラスにこんなやついたっけ?みたいな顔してるな?」
バレてしまい、和也は苦笑いするしかない。
「和也クラスでは静かだからね〜!」
「大宮、それ、ネットではよく喋るのにリアルだと全然なんだねっていうインキャの豆腐メンタルをぶち抜くトゲトゲワードだから勘弁してくれ」
神戸と大宮が大きな声で陽気に笑う。
「トランペット吹いてるのがこっち2人、烏丸和也と大宮梨江。トロンボーンが淡路で、アルトサックスが摂津。こちらこそよろしく。」
挨拶を済ませると早速、なあなあと言いながら、神戸が小声で俺たちに話しかけてくる。
自然とみんなが体を小さくして耳を傾ける。
「これは俺ら軽音の1年だけで話してて先輩たちには隠してるんだけどさ、せっかくやるからにはめちゃくちゃすごいことやってみないか?あと1ヶ月も練習期間あるんだし!」
「全然、俺たちに協力できることならなんでも大丈夫だけど。」
「すごいことって、具体的には?」
「話聞いている感じ、おそらく先輩たちは普通にポップスのカバーを演奏するだけだと思うんだ。そこと差別化するために俺たちが考えてるのが、音響と照明だ。生で、しかもホールで演奏するとなると、タイムは崩れやすくなるし、迫力にも欠ける。だからイヤモニを通して正確なテンポをみんなで共有しながら、生音をマイクからスピーカーに通すことで、完成度が高くて迫力のある音響に仕上げる。んで、加えて照明をつけることでホールライブさながらの演出をしようかと思ってるんだ。」
「なんだそれ、、、、、オタクが一度は絶対妄想したことのある文化祭ライブの上位互換バージョンじゃないか、、、、是非ともやらせてくれ!」
「そうこなくっちゃ!」
音楽をやったことがある人間は例外なく(自社調べ)文化祭でのステージで一躍人気者になる、みたいな妄想をしたことがあるはずだ。
和也と大宮はそれを実現できるかもしれないという高揚感で思わずニヤニヤしてしまう。
ただ、実現には相応のハードルがあるはずだ。
「でもやるのはいいとして、その音響と照明はどうするの?ボクたちそこまで知識あるわけじゃないよ?」
(ボク、、、?)と軽音部のメンバーの頭にはハテナマークが浮かんだが、流石にそこには突っ込みにくそうだ。
(大宮が言うのはもっともだ。俺たち吹部はマイクや機材の扱いはある程度理解しているが、ホールでライブとなると話は別だ。PAまではさすがにできない。)
「そこはもう演劇部に話はつけてあるんだ。ほら、うちの演劇部って大会でも成績残してて実力もあるし、その影響で結構いろんな所で公演やってたりするんだよね。だから自分たちで照明とかPAとかできるのよ。しかもクオリティめちゃくちゃ高い。」
まさかそこまで話をつけているとは、、、
神戸の用意周到さには感心する。
いやでも待て、話だけ聞いていると演劇部側になにもメリットがないような気が?
「それって演劇部の皆さんにはメリットがないように感じるんだけど、本当にやってくれるの?」
和也が思っていたことを大宮がそっくりそのまま質問してくれた。
「そう、もちろんそれだけだと相手にメリットがない。だからこちらも相手に提供する必要がある。」
「と言いますと?」
「演劇部、次やる演目の音源に力入れたいみたいで、いつもは全部打ち込み音源のところをホーンセクションとバンド部分だけでも生楽器のレコーディングを差し込みたいみたいなんだ。そこで最近の吹部はレコーディング練習をしているとの噂を聞いてね。どうだい、協力してもらえるかな?」
もう俺たちに拒否する道はない。
そう思わせるほどに神戸はこの短時間で話を進めていたのだ。
なかなかの策士ぶりに感心する。
「もちろんだとも」
「そうこなくっちゃ!」
「本番で演奏する楽曲はわたくしが用意しておきますので、あと数日ほどお待ちいただけたらと思います。」
(現実に一人称がわたくしの人っているんだな。さぞお嬢様的な上品な曲になるんだろう。)
「ありがとう琴音。じゃあ今日はこれで解散ってことで、楽曲共有されたら練習よろしく!あ、あと本番の順番は俺たちがどかーんとかませるように最後にしてもらっとくし!」
「ああ、ありがとう」
どこまでこいつは策士なんだと思いつつ、感心する。




