9. アニソン歌手が歌うのと声優さんが歌うのって何が違うと思う?
今日はまたコーチのパート別レッスンの日だ。
週に2回あれば良い方で、それ以外の日はレコーディング練習に明け暮れている。
とても貴重なレッスンである。
部の幹部クラスの先輩たちも録音練習による効果を実感しているのか、最近は生徒のみでの合奏練習もめっきり減り、個人練習がメインとなっている。
トランペットパートもレコーディングに没頭しており、各々が常に考えながら演奏をする癖がついてきている。
その中でもやはりひかるは元々自分の演奏の細部までこだわる性格だったことから、さらにメキメキと実力を伸ばしている。
また、大宮も初心者ということでかなり成長スピードが早い。そこにレコーディング練習が加わることで、爆発的に成長している。
「あーもう全然高音出ないですー!」
「わかる〜!Spainってあたしら1stがめちゃくちゃ音高いから、みやりんとかの2ndでも結構音高くなるよね〜」
大宮は高音に苦戦しているようだが、まぁ無理もない。
大宮は初心者だ。
トランペットに限らず金管楽器の初心者はまずハイトーンで苦戦するし、どれだけ年数を重ねていてもハイトーン問題からは一生逃れることができない。
「コーチ〜、高い音出すコツとかってないんですかぁ?」
「んー、色々と小手先のテクニックとかあることはあるんだけど、今いきなり梨江がバリバリハイトーンを吹けるようになるかと言うと、それは難しいかな。まぁ私もハイトーンしんどいし、できれば吹きたくないまであるから、気持ちめっちゃわかるんだけどね〜〜」
目を細めて苦笑いしている。
(意外だな、コーチくらいのトッププロにもなるとハイトーンなんて屁みたいなもんだぜ〜くらいのテンション感かと思っていたんだが。)
「コーチもハイトーン苦手なんですか!?先輩方含めて上手い人たちってみんな得意なものかと、、、」
いやいやそんなことはないと、先輩たちは首を大きく横にふる。
「いやいや〜全トランペット人口を考えると、好き好んでハイトーン吹いてる人って割と少数派よ〜。んで、高音のコツなんだけど、、、、、気合いだね。」
「え、気合い、、、ですか、、、???」
口の形がどうとか体に使い方がどう、みたいなアドバイスを受けることを期待していた大宮だったが、気合いという想定外の根性論に困惑している様子だった。
「うん。理論とか色々あるけど、結局のところは気合いだね。筋トレと似た感じ。高音に限らず楽器の練習って、より良い筋肉の使い方を時間をかけて身体に染み込ませていく作業だから、これをやったらすぐに上達する!みたいな魔法はなくて、ゆっくり量と質をこなすしかないんだよね〜。」
「果てしないんですね、、、。ボクからしたら和也も先輩方も雲の上の存在って感じですし、先輩方からしても嵐山コーチはすごい遠い存在で。そんな嵐山コーチはどこを目指しているんですか??」
「良い質問だね!それこそ音楽上達の本質だと思っていて、私もまだプロ生活は短いから憧れてる奏者はいて。その憧れの奏者も自分の実力に慢心することなく日々の研鑽に励んでいる。確かに果てしないけど、練習して自分が上達してる感覚を得るのが堪らなく楽しいんだよな〜!」
(プロの世界でこそコーチが言ってるみたいな探究心が重要なんだな。確かに音楽の話してる時のコーチはずっと笑顔だし、こんな大人になりたいな。)
「でも何もがむしゃらに練習したら良いって訳じゃなくて、それなりに練習の近道ってのは存在するんだ。そのうちの一つがレコーディング。もうみんなそれなりに練習して実感してると思うんだけど、主観的にリアルタイムで聴く自分の音と、後から客観的に聴く自分の録音って全然違うでしょ?自分に厳しくその差を埋めていくのが練習の近道なんだよ。事実、君たちはもうそこらの高校生より上手い。特に梨江の上達スピードはすごいね!本当に頑張って練習しているのが伝わってくるよ。前に倍音の話した時にも思ったけど、特に君たちトランペットパートは他パートと比べても探究心があるから、上達が速い印象だね!ぜひその調子でお互いに刺激し合って研鑽を重ねてくれると嬉しいな!」
(あぁ、嵐山コーチは本当に眩しいな。俺自身中学の吹部では人間関係であんま良い思い出は無くて、その延長である覚悟を持ってこの麗暸吹部を選んだけど、まさか音楽がここまで楽しいものだとは思っていなかった。)
和也だけに限らず、初心者の大宮や過去の麗暸吹部を知っている2,3年生もコーチの影響を受けており、同じように音楽の楽しさを実感し始めていた。
特にひかるは彼女が思い描いていた吹奏楽部の形がどんどん実現していっているようで、ものすごく目を輝かせながら大きく頷いてコーチの話を聞いていた。
「よしじゃあそろそろ合奏の時間だし、音楽室行くか!」
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「よっしゃーじゃあ合奏始めようか!Spainの頭から!」
コーチが来てから合奏はめっきりなくなり、個人練やパート練ばかりになった。
始めは頑張っていた踊りもなくなり、部員各々が自分自身の音楽としっかり向き合う時間が増えた。
そんな中での久しぶりの合奏。
多くの部員が他パートの成長を見れることを心待ちにしていた。
指揮棒が振り下ろされ、冒頭のフレーズが演奏されると、例外なく全員が驚いた。
まず全体としての「鳴り」が格段に上がった。ピッチやリズムがずれることもかなり減っており、音楽がスッキリして聴こえるようになった。
最後まで演奏し終わり、指揮棒はゆっくりと下ろされた。
驚き感心している者、少し笑顔になっている者。
部員全員がその変化を実感していた。
「いやすごいな君たち。想像以上だわ。この短期間でここまで成長するとは、、、。ただな、、、、」
何か言いたげな様子だ。
プロ視点だとやはり欠点は色々あるのか。
「音、デカすぎ。」
そう苦笑いしながら言う。
「まぁ吹奏楽部あるあるだわな。特にレコーディングしてるから仕方はないんだが。例えばトランペット1本が出す音の大きさって、車のクラクションくらいなんだよね。それが6人いるとどうなると思う?そう。かなりうるさい。そしてこの吹奏楽部全体となるとかなりの音が鳴っているんだ。、、、生徒指揮の梅田さん、なんでこんなに音が大きく鳴っているんだと思う?」
「んー、、、今までずっともっと大きい音で吹けって言われてたり、実際にコンクール会場で聴く金賞常連校の音量もすごい大きかったという印象が残っているからかなと思います。」
「そう、それが問題なんだ。特に世間的に上手いとの評価を下されている吹奏楽団体はなぜかもれなく音が超でかい。そこでだ。少し話はそれるんだが、和也、君アニメとかが好きなんだって?アニソン歌手が歌うのと声優さんが歌うのって何が違うと思う?」
突然の指名に驚きを隠せない。
いやそれより気になるのは、、、、
「なんで俺がアニメ好きって知ってるんですか、、、?」
「ん、君のツイッター見たから。」
(またあんたの仕業だな、、、、こんな所で公開処刑するとは、、、)
(てへぺろ)
まさかのコーチまで自分のアカウントを知っていることに驚きを隠せない&向日への怒りを抑えられないが、今は質問に答えなくてはならない。
この部活に入ってから全体の前で話すということが初めてなので、かなり緊張している。
「、、、本当に勝手に思っていることなので間違ってるかもしれないですけど、最近の声優さん、すごく歌上手いんですけど、なんとなく楽曲がスカスカしているように感じるというか。パワフルに歌う人でもそう感じるんですよね。アニソン歌手にはあんまり感じたことがないです。」
和也自身、そこまで自信を持って絶対にここが違う!と感じていたわけではないので、もし間違っていたらどうしようという不安が頭をよぎり、少し声が震えてしまう。
「お、よく研究してるね!まさにその通りで、私が言いたかったのはそこだ。そのスカスカの正体とは、、、、、音価だ。」
「音価、、、?」
「そう、音価。ズバリ君たちアマチュアと我々プロプレイヤー。声優歌手とアニソン歌手の間にある絶対的な違いの一つは音価にあるんだ。音価が足りていないと、今和也が言ってくれたみたいになんとなく音楽にスカスカ感を感じるんだ。そこを埋めるためにどうするかと言うと、アタックを強くしたり無理矢理音量を上げようとするんだ。吹奏楽部に至っては指導者がそれについて理解できていないから、そんな風に指示しちゃうんだよね。まずはフレーズ終わりの音価から気にしてみよう。自分の音録音した時にパソコンで波形見れるでしょ?あれで楽譜に指定された分しっかり音価を保てているか確認してみるといい。音価が保てていると音楽的な充実度は上がるから、そのようなスカスカ感を感じることは無くなるし、そこまで音量を上げなくても済むようになるんだ。その方が断然美しい音楽になる。」
本当に嵐山コーチは音楽についてすごく研究しているんだな。
今までの吹奏楽人生やヨウツーベの解説動画でさえで聞いたことのないような指摘がバンバン出てくる。
彼女のおかげで部の雰囲気も少しは明るくなった気がするし、和也も特にネガティブな感情を抱くことなく楽器を演奏できている。
「まずは自分の吹きやすい音量で。音を抜かずにしっかり伸ばし切ることを意識して吹いてみよう!じゃあもう一回頭からいってみよう!」




