6、公園でのあの向こうのカガヤキ
―――覚えているか?―――
―――かつての向こうの光―――
相も変わらず休暇で、俺はよくこのような公園で親友だった道彦と語らい、夕方は子供たちから慕われていた事もあった。“だった”といってもあいつが忙しくてあまり会えなくなったからだ。色を変えると虹の様に変更される。湾曲と凹凸、七色の様に光る太陽・・・。
だがそれも成長の次第で意見を言い合ったり部屋を独り占めしたくなったり、状況や立ち位置が変わってくる。そんな最中でさえ、あの地平線での光は凄まじかった――・・・
「そういや俺達、子供を持っているんだったな」
「うん、そうだけど未知雄は煩い奴だ。拘るし」
「昔みたいに海へ連れて行けばいいんだよ」
「俺は研究者で博士だ。生物的なら構わん」
道彦は俺が居る時は必ずといって研究だ、学問だと言い返す。それが未知雄にも映ったのだろう。あまり親子間での話をすることも無かったようだ。あいつも16歳、いい年頃だし生態的には変化が訪れる頃だった。いつも娘のリグと遊んでいた筈がもう成長期。遊ばなくなって3カ月目になる。
「それで、俺達は40歳を迎える訳だが、アレは出来たのか?」
「もう間もなくだ。先輩から神野学人の著書と、論文を託された事だしな」
それは核細胞で出来た生命体として導き出していた。永久に細胞分裂と結合を繰返して幾ら体が損壊したとしても再び修復するという形。それはもはや人の成せる業では無くなっていた。なぜ道彦にそれ程の才が示されてしまったのだろうか。
あの預言書の通りでは?
「もう、あの頃のように、失敗はしたくはないんだ」
「それはスポンサー契約が実ったから成功に焦る?」
「そう。俺達は一気に会社の重荷を受入れたからな」
「だがその分だけ別れがあり、今に至る訳だからな」
道彦は医師免許を取得していた。だからあらゆる分野で人工生命体と素体である肉体との結合を果たした、機械生命体と呼ばれる手術の多くを成功させてきた訳だ。そんな奴に俺は助けられた。だから預言書のことが気に掛かるのだ。
もし失敗してしまえば一度に落ち込むのは分かり切っている。俺もかつてはそうだったように道彦を守ってやれるのかと。
――――いいんだよ。守りはもう。
“フワッ”
一気に守りが砕かれたように赦されると、道彦は生命理論と科学の道をひたすら走っていった、それが生命理論でなく、唯の人的災害だろうと呼ばれたとしても、失敗は成功の鏡として受け入れた。勿論、批評・不評・定評・脱落なんかも様々在ったものの、出会いと別れの瞬間によって、あのダイヤモンドよりも固い虹の鉱石の遺伝を知り得ると益々、人工生命体の理論が完成していた。
―――それにしても道彦の赦されたる道は、何時まで輝く事だろうか―――。
勿論、原始的に無理で止めるよう、訴えられたとしても、それは必要で不必要な時など一切ない。それでも頑張って向こうを見た時に、公園の緑を思い出す。一度にたくさんの情報がそこの場所から得られるためでもある。
――――道彦、お前ってやつは・・・。
「時間の許す限り、俺達は前を向いて言える。その時、孝弘よ――無理だと言って笑ってくれるか?俺には限界があり、正しい方法や方向を向き得るには、命令通りじゃないと生きていけない後世の為に、どれほどの情報を残すべきなのかを、」
「笑う事は誰だってある。だけどお前の推論や理論や倫理に反している限り、それは誤りもせずに、笑いもせずに、正しい事だけを信じる馬鹿野郎だと信じてやまない世の中を、理解によって出し抜かれない様に守っていただけなんだ。誰だって遠慮して生きている訳じゃないんだよ。無理したからまた、無理をしろよ」
俺は公園で笑う事は少なかった。道彦は笑うがそれは偽りだと分かる。何故なら理論を逸脱し、いち、科学者としての道を閉ざされた時にも、笑っていたからその目から涙が溢れていたんだろう、親を失った時の表情と同じだ、等と感じ取れる様子が度々増えていた。
――もしも成功が一気に沸点を達する時にさえ、お前は笑って居られるのだろうか。
―――それが心配で俺とのメッセージ交換でさえ光学フォンを使わずに、ここで会話して居るじゃないか、と教えているだけだった。
「俺が、医学の道に走った理由・・・お前だけなら理解してくれるよな?」
「相木先輩の導きによって、俺達はリプラを連れてガキまで作って生活を整えているに過ぎないんだよ。それを医学の道に走ったからと言って生命理論の鉄則を壊している訳じゃないからな、理解はとうに超えているよ・・・」
――ところでさ、
「愛ってなんだ?」
――今更?
「情けだろう?」
――――??
――ブレトルよ、覚えているか?お前が父であった証明を輝きの向こうにある、眩き民達を動かしている理由を――
――フン、今更・・・俺達親子に導かれ、導きを与える民達に恐れは要らん。それが友情であり、神の礎であり、愛情たる由縁であったのだ――
◇ ◇ ◇
公園に居ると、多忙な日々を空想事のように思い返す。それ等を一度に纏めると別の次元に飛ばされたような感覚にさえなってしまう。それでも世界線の言う成りによって俺達は活かされているのだろうか?緑は囁き、つぼみを起こしている。それによって太陽の導きのままに七色の光を放つと、花が咲き一度の時間を繰返し巻き戻したような干渉さえ断ることも出来ないのだろう。
何れにしろ、その光と闇が繰返す世界線の頂きに何通りもの、生き方がある様に俺達は地平線の眩き太陽の瞬間に巡り合うのだ。それが公園での一時に垣間見える楽しみであり面白味であるのだが、道彦はそれでも笑っていてくれるだろうか?
「科学の合間に、前世を見る事があるんだ。例えば針のように光る、“インシュビ―”と呼ぶのだろうか。そいつの夢を見るんだ」
「生命学の合間に正義の鉄槌・審判を意味する“ブレトル”という用語を見付けた事が在る。俺はそいつの夢を見る。もしかすると、親父の預言書に書いていた“最古の世界線”の“中身”を意味するかも知れないな」
それは絵空事のように静かで落ち着いた時間帯である。後ろの噴水を見ていると子供たちが走り出してくるのが分かる。手を振り合図をすればこちらからも合図を送る。通りすがりの人から挨拶されれば、水から挨拶する事もある。そのようにして俺達は礼儀作法というモノを学んでいった。
時折、怪我をするときも在り仕事を休む時が在ればリハビリテーションとして同じ動作を繰返す。その態度と遠慮が重なり合う内に、生命の根源たる由縁に巡り合えたのかも知れない。同じ時間が交差する、そのような機会には突如として宇宙からの交信が求められていたのだろうと。
「合図して挨拶をする。これも人工生命体の理論と倫理に導入してあるシステムだ。それ等を変更し、操作するのも科学者としての役目で、俺達に必要な動作として取り入れていった・・・こう、手を結ぶようにしてッ!」
「痛ぇッ!おい、指相撲・・・すんなよ・・・よしっ、俺の力技に入った、それ、よっ・・・人工生命体の仕組みについて理解している奴がいる。それでも俺の理論には追い付かないという。寧ろ、道彦にすら適わない内容だという事だ・・・それっ、勝った!」
―――!?
―――ブレトル、また再びに負けたようだな。オレはこれから如何にして暮らせばいいのだ?
―――俺と共に生きればいい。そうすれば母でさえ受け入れてくれるだろうから、今のうちに民達の前で仲の良い親子だと知らせてあげればよい!
◇ ◇ ◇
草の生える地に、幹が立ち大いなる自然と成り育つ。その大地から得られる温かな光によって地熱が吹き上がれば当然、生命は心躍るに違いない。温かな水にさらされる様に、魚が泳ぐような微生物の生息地として噴水の中身は苔で生い茂っている。
―――俺達の生きる場所は限られているが、このようにして時間を割くことで希望に満ち溢れる時が、刻まれているのかも知れない―――。
―――もし、あの時に生き残って居れば同じ時として秒針を刻むような、ゆっくりとした変容をしていたかも知れない―――
―――ああ、宇宙よ・・・俺達と共に在れ―――




