36、道彦の孫、亞里亞―ALIR―
ラストエピソードです。
「そうだね。では君は今から彼女の母体となってくれよ」
――え、ま、待ってくださいィ、わ、私はァ――あ!・・・バタンッ・・・
私はどこかの国の誰かから人工的に臓器を移植されたらしい。その提供者は現在、行方知れずだと聞かされた。それから自分の意志に繋がるように体の記憶能力が、今までにない程にしなやかに強く踏みしめ大地を歩いていた、いい事だらけの筈なのにねぇ――。
「お爺ィ、孝弘大おじさんって博士だったんだね」
「ああ。帰って来てほしかったんだけど、私の発明・研究を介してもお前のようにはいかなかった。だから墓前で謝るんだよ」
◆
―――私の祖父・臣子道彦の孫で亞里亞というの。祖父は一人息子である未知雄叔父さんを失って以来、研究所のチームメンバーである母を養子として迎えると母は父と結婚させる。
口下手な祖父との血のつながりはなく私とは養子的な存在。でも実の孫として可愛がってくれている博士と違う一面を持ち合わせている。
それに祖父はいつまでも彌汲孝弘、大叔父さんの親友だ。祖父は研究者である立場もあって謝ることがとても苦手。つまりお礼を言いたいの。今は亡き孝弘大叔父さん。祖父はいち研究者として生命理論を更に磨き上げ、かつてのように親友の支えを借りず、以前の様に医師と同等の立場を得られるようになってから大忙しなのだ。
祖母・佳津江お祖母ちゃんにもよく怒られるんだけど、ただ祖父は追及したいだけなんだと思う。
――――
「ねぇ、私は明日研究所に向かうんだよね?」
「そう、最新の人工生命体、これはかつてダーク・オブ・ホールを愛した者の改良版なのだ。それをお前に移植しておく。そうしないと体の成長が止まって妊娠できないからな」
そう、24歳になった私にも好きな人が出来た。祖父は私が幼い頃に心臓病にひれ伏したことから人工生命体の一部を移植してくれた。
だけどソレは16歳迄で今度は機械生命体になる必要があった。この世界線ジパン・バルラーは“畏怖という冠”に絞め付けられているからだ――――。
「成長が止まらなくなったら、今度は機械の心臓を移植するよ。そこに亞里亞の魂を入れておく。そう、あだ名はALIRなんてどうかな?」
「それってお爺ィの宇宙移民計画のMITIっぽい。まぁ、いいけどさ!」
人工生命体への移植には抵抗が無かった。薬や別の肉体に変更される方が拒絶反応を起こす確率が強いというけど0.07%の被検体4,096例に過ぎなかった。
でも衰えゆく体では心臓に負担が掛かる事を幾度も結果に出ているので有用性に乏しかった。
機械生命体でも寿命が来るという試験データーも濃厚とされていた。だから非核融合生命体への移植で適用されたのかも知れない。
「お爺ィは私の体に興味があるみたいだけど、何か訳ありなのかな?」
「私には両親が居たことは覚えているだろう?生き返ってほしいんだ」
「だから医師免許を取得したのね?魂がその虹の鉱石ってモノに反応するから?」
「それだけじゃない。ライト・オブ・ホールの光体反応が無ければ亞里亞は生き残れない。ダーク・オブ・ホールと異なるその性質なら器質変化・拒否抵抗率から逃れられる」
祖父は闇の力が強すぎる事を結論付けた第一人者でもある。対して光の力は分散される特徴があり、収束率が高いことから闇の力よりもエネルギーの温存年数が高いことを示していた。500年は生きられるのだそうだ。でも、それは母体=ベースになる事を意味する。
「ALIRさん、量産型人工生命体の性能テストの母体となって下さいませんか?」
「亞里亞、儂と共に行ってくれんかな・・・あと1年だけでもいいのだ」
「でもお爺ィ、その体じゃ・・・」
――――
祖父は80歳になっていた。私も子供が生まれ育児をしている。だけどそんな時間も私にとっては短いんだろうな。そう思うからこそ祖父の身を案じるのだ。宇宙移民計画遂行の為に私達はチームとして動いてきたのに、祖父が居ない世界なんて何と心細い事だろう。
「儂は行けないのだ。魂が変容を迎える時が来る」
「それならお爺ィも一緒に非核融合生命体に移植すればいいじゃない?」
「お前も33歳、いつまでも儂に構わなくてよい。遺骨だけ連れて行ってくれ」
だけど私は祖父亡きあと量産型生命体と、宇宙船の動力回路テストの為の母体となるに留まった。何故かと言うとジパン大国内で宇宙赤線が核融合を起こしてしまったからだ。
非核融合生命体はその除去装置の機能を持ち合わせておらず、各科学者・研究者・専門家会議を開いた結果、核にも耐え得る機能をも持つであろう、新型生命体の量産計画の方を優先させる形で挙げることにした。それなら宇宙線にも耐え得る新人類が、生前の遺伝子を持ったまま移民できるとしていたのだ。
――――つまり私はここで最後の役目を遂げる事になる――――!
「ALIR、済まないが・・・あなたをデーターとして打ち上げたい」
「構わないよ。私と祖父のデーターだけ持ち上げてくれるなら、喜んで協力するよ」
だから私は孤島でただ一人、過ごしたいと望んだ。そうしないとこの大地には誰も来ないから、見張り役として祖父の意志を受け継ぐ人達を見送る事にした。私の光源エネルギーも尽きることは分かっていたから、せめて崩れることの無いこの姿だけでも残しておこうと思う。
「お爺ィと違う魂よ。私は義眼なんだよ。だけど見えるんだ」
「このまま“ヨーイ”を言ってもいいでしょう?」
「いつかこの魂があなた達を守るなら喜んで」
「あ、れ・・・?あの球体は・・・」
「赤い線が・・・消えた?」
“シュウウゥ――、シュタンッ、ガゴン、ウイイ~ン、スタスタ、タ―、タ―ッ”
「無事でよかったぁ?あ!居た、お~~い!」
「只今戻りましたALIR、我々は移民に成功したのです!」
「やぁ、私はあの時の研究者の子孫、構呂木ディシュメントです」
「これは、次元間移動で遺伝子を集約した“虹の遺伝子の鉱石”なのです」
721年と3カ月、宇宙移民計画を果たした彼等は世代を超えて世界線の名称をジパン・メギドへと改名したらしい。そこから1万4,289光年もの時を経て、そこから“次元空間移動”という技術を生んだのだった。
それでこの旧ジパン・バルラーを発見しここへ再び人類を産みだしたのだ。つまり私が孤島へ独りぼっちだった期間は僅か429年と3カ月7日間になる。その後から私は新たな体、人の寿命を得られる生命そのままの体を与えられ魂の変容を迎えられたのだった。
そして畏怖の痕跡と私から解き放たれた筈のその子孫は臣子家について、このように示した。
「OMIK―ALIRは人類の希望」と・・・。
私は人類の希望の導き手として確かなる存在となった。
その光源を得た虹の鉱石にはあらゆる遺伝子が混じる事で、生命は歩いて惑星へと向かえるようになる。新たな生命と研究理論によって成功した宇宙移民計画と宇宙放射線除去。
そして虹歴0,025年―――、
“スゥゥウウゥ――――ン、スタ―、スタ――、スタ―――”
「ふィ~まるで、浮いて泳いでるみたいだ~」
「歩いて12分で惑星間をも移動できるなんてさぁ」
「非核融合光体線エスカレーター、ヒロイミチは凄いねぇ」
「流石過去のデーター、彌汲と臣子は“眩才”だ!」
そして預言科学伝記にある彌汲孝弘と臣子道彦の名は過去のデーターであり、歴史的存在意義と評価されていたものの、既に子孫が自然科学者として引継ぎ教科書に刻まれたの。
人工生命体が無くても新生命として生きるなら私達に未来はある!
だから――、えへへ。
流石は、亞里亞のお爺ィだね!
◇
こうして、失った肉体は超・人工生命体の技術で蘇った。そこには機械生命体の技術の結晶が盛り込まれた。失った魂は、その遺伝子の理をコンピューターに組み込んで蘇らせた。
情報処理よりも、当人の過去と現在、未来を予測せずありのままの形で復活させたのである。
「なぁ、そういう訳で孝弘、この話はお終いにしよう、カンッ」
「そうだな、道彦。お前と再び酒を酌み交わせるとはなァ、グビッ」
宇宙の成る時が刻まれ、
意志が記憶と共に在らんことを!
そして、再び会おうッ!
畏怖の世界線ジパン・バルラー編―完―
最後は長目の文章になりました。
結局、孝弘と道彦は蘇ったのです。
あの頃の様に・・・




