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―3―畏怖の世界線「ジパン・バルラー」  作者: 醒疹御六時
終章、確かなる手ごたえ
34/37

34、我が記憶と己が意識と

――――

 そこは暗き門。長き道を歩いて来たが、随分と永らく生きていたような気がする。それに、道彦が孝弘と出逢ってからというもの、幼馴染としてクラスメートとして、そして、親友として同じ志を与えられ、関わってきた人物。それから長き人生に卒業を目指している様に、研究者としての道も更なる門を叩き挙げた。それは自らの力ではなし得なかった事。

 暗き門が光の門へと繋がるという事に、様々な試練に己を費やしていた。それも仲間との出逢いが待って居る事にも気付かずに、ライバルとしての硬い絆を司っていた。誰もが変えられぬ運命、誰にも代えられぬ宿命に道彦は、とうとうその才を丁度いい場所へ置いて来た――――。


      ◆

「それは道彦さん、あなただって覚えていないでしょう?」

 道彦は覚えていた。それも自分自身が事故へ直面した時に両親との別れを体験した事を。そこで叔母との面会を許された。それも名前も覚えられない程に傷付いた時間を過ごした為に起きうる症状、“記憶喪失”である。

 再び、出逢いが重なるなら宇宙の波は空間さえも歪めてしまうだろう。両親の傍へと向かいたくなる人物の一人でもあった。


「あなたは繰返すの。もっと酷いことが起きてしまうと抜けられなくなるわ」

 もう、十分繰返してきた。何もかも投げ出したいときに妻に当たった。それも何が起きたのか、何処へと向かっていてそこへ帰っていたのか。我が子を想う気持ちも分かるのにも関わらず、自ら残してきた痕跡さえ忘れてしまう。

 そう、名前も場所も時間も何もかも理解が及ばなくなっていた。何故なら彼の元から居なくなってしまったからだ。


「だから死んだんだよ。お前の両親は巻き込まれた。それはお前のせいだろう?」

 唯一の親友だとして付き合ってきた筈なのに、先に逝かれて充分、努力はしてきた。それでも礎にも縋れず、中半場で研究をしていた仲間たちを前に、彼は居なくなってしまった。

 どうして道彦自らその、人工生命体理論を完結させようとしたのに、親友だけは蘇らせなかったのだろう、と後悔もした。何故なら、自ら愛して居たとする親子・兄弟のような存在には二度と出逢えなかったからだ。

 但し、唯一無二なる親友は彼の記憶から去ってしまったからである。「お前のせい」=「お前の元から」という意味では理解していてくれた、人物だからだ。


「臣子家の恥さらしが!お前など叔母さんが居なけりゃ、施設に預けて終わりだ」

 親戚と両親は仲が悪い。それ相応の報いを受けてきたにも拘らず、他人同士のような関係である叔母を残して、迷惑だとか遺産手続きだとかもう、沢山だと思わせた人物たち。それは道彦にとっては記憶にさえない他人同士だった。

 それを再び蘇らせると意識の奥底に眠っていた記憶が蘇りそうで嫌悪感を覚えていた事は彼にとって、やはり救いようの無かった時間である。


「お爺ィ、いつまでもさぁ甘えていないで私の事も思い出してよ?」

 あの子だけは理解してくれると考えていた老後の人生。しかしそれでも物足りないと望んでしまうのが人工生命体を発現させた人生故か、自らの孫娘でさえ改造してしまう。

 そして在ろう事か、あの夢を叶えようとしてしまう程の推力を自らの才を引継ぎ叶えてしまった。道彦自身が覚えられなくなったのは、それが本当の事なのか、全く異なる事なのか、区別の出来ない窮地に立たされた事を知っていた為だった。

 実は自分の孫娘が演習ソフトの中へプログラムされただけだったのに、体は問題なく人間として生きていたのに気付かされたのは、亡き息子に救われたからだと感じてしまってからだった。


「そうだぁ!あなたには何も見えていない。人は?救いは?誰も居ないこの場所で??これの何処が研究ですか!!これは只の人災的手法だろォォ――!!!」

 道彦が新たな生命体を産みだして以来、このような意見を度々聞いていた。だが幾ら時間を費やしていても彼等の期待通りに事は運ばなかった。これ等、生命体の開発の裏では誰も知らない計画案がもたらされていた為に、同じ過ちを繰返し幾度もその研究と実験に身を呈さなくては、誰もが両親の様に取り返しのつかない事態になり兼ねないと感じたからだ。



“今日もありがとう道彦よ”


“あぁ、孝弘、俺も感謝するよ”



      ◇

 あの頃を懐かしむ暇なども無かった。それがいち研究者としての宿命であり使命でもある。人の意志が連なるとそれが魂となって人工生命体へと吹き込まれてゆく。

 その過程は人の死と自らの死を天秤に掛けるようなモノ。それがどの様な形で在れ、関係温存、人命救済、災害対策、長寿王国たるルールであるのなら、研究者として寿命を全うしてみようではないか。

 これが齢80年を超えた“英知”の姿であった。


【音声記録】

≪なァ、道彦・・・もし、俺が去ったならお前は省みて謝り、自らを追い込むことも在るだろう。だが、お前自身が勝手に臨む事が在るなら、俺の親父の詩集を当たるんだ。そこには預言以外の事が多く書かれている。古代の研究者を創造したのも、治具流自身である事は覚えておいて欲しい・・・託したぞ≫


「孝弘・・・」


≪あと、忘れていたけど・・・そうだなァ、≫


「何だろう・・・?」


≪それでいいんだよ、親友バカヤロウ!≫


馬鹿野郎しんゆう・・・か」


想いと励ましを描くのに苦労しましたが、

ストーリーが、よい感じになっているといいです。

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