30、道彦と医師免許
「おい、こりゃ重症だ・・・頭が半分割れている。人工手術は彼しか出来ない・・・」
俺は人工生命体の成果を医学としての流用が出来ないかと相木俊郎社長から提案された。その支援と援助はジパンの各国からの提供という形で資金・技術・機材・素材・資料・免許取得期間の大幅短縮と壮大であった。
「せ、先生ぃ~息子の義足から解放させて頂けて―・・何とお礼を・・・」
「わ、わたし・・・もう人工肛門じゃなくていいんですね・・・う、ぅぅっ」
「臣子博士―、人工生命体の抜け殻は人類の救いとなったんですよ――ッ!」
「は・・・リグ、リグぅ~―ッ!・・・み、道彦、お、お前が成功させたんだぞ!?」
◆
俺のオペは後の医療班と研究班によって更なる希望・模範となった。僅か3カ月で医師免許を取得したのも持ち前の才と頭脳=才能が活かされたからだった。
――――俺はジパン大国各国へ論文とその意向を表明した。それは反魂で人工生命体の開発・量産化に優位に運ぶ内容で記した――――。
お陰で無償での免許取得と治療許可を得られ、両親の事故の究明にも一歩ずつ踏め出せた。たとえ損傷部位から光体反応が現れてもそのまま修復可能だからだ。
「君は私の事をあまり快く思っていないだろうが、頼めるか?あの手術を」
相木俊郎、それは懐かしい“声”だった。
通りがかりの人物でさえ、俺の顔を覚えていた。まるでそれは命乞いをするようで、しないような目線だった。なのに、俺には命乞いをする“モノ”にしか見えなかった。直ちに「オペを開始する」という言葉さえ浮かんでこなかったのに、それとは別に喉を潤すように行い始めるのだった。もう、国の支援はそれほど以上にまで進んでいたので、苦労もなく仕事を再開するのに、家庭だけは返りみられなかったのだ。
――――それが、例え親友の依頼であったとしてもだ――――。
「おい、道彦・・・お前のお陰でリグは回復に向かっているぞ?喜べよ、おい女将ィィ、酒、酒をくれ―――ぇッ!!」
まるでそれは巨大な輪に身を乗せた気分になる。同じ事だろうが自制できずに、自ずと未来を鑑みる事になる。一切合切、誰にも支持されずに生きていた時間が懐かしい。
それも宇宙の果てから世界線を傍観するような行いか。人工生命体の手術に成功しただけで、こうも未来の若者を育てられる機会が得られようとは、そう、これが儚くも醜く、報われない時で、望みを叶えるための救いの手か・・・と。
――――
「あなた、偶には休んでは如何です?私も、新婚旅行以来、あなたと出掛けた事はありません・・・どうか、休息を取ってくださいね・・・」
◇
それは罠だと感じたのは、大まか自信過大に至っていた時である。治具流おじさんならどう言っていたのか、と思い出してしまう事も無い時だった。自信過失になると、こうも愛すべき人を見ることも出来なくなるものなのか、と若干、後悔する事も在ったが、そうも言い切れない事態は直ぐに遭遇する。
「博士、医師免許が剥奪されるそうですね・・・たった一件の出来事がこうも拡散されると・・・次のドナーも案件も全て“失敗”として流行りますからね・・・」
そうも言ってられないのが心情だ。俺には両親が居ない。もう、他界して何十年も経つというのに変わらず、居ない事の虚しさを痛感させられる。
じっとしているなら傍観するだけで、シャワーを延々と浴びているに違いなく、忙しいならそれでもシャワーを一滴残らず飲み干してしまうだろう。
それ程に過大なストレスに追いやられて生きているのが困難になる。そんな時に何時も頼っていたのが、親友という親よりも偉大な存在である。
「うィ~~ヒック・・・でぇ、道彦君はママと別れて、父が恋しくなったぁぁ~~ん?で、もう一杯飲めと叫んでしまうぅぅ~~ヒックッ、うィ」
諦められない道が在るからこそ、お前に頼ってしまう。だからこそ逃げたい現実から逃げられない時に、酒に溺れると、覚えられない事が不思議と覚えられるようになる。すると、俺は一体、どこから現れて何処へ向かっているんだ、と返答を求めてしまうのに、実際は大きな巨体を乱暴に使っているに過ぎなかったのだ。
「乱暴な程にオペを任されているなら、それくらいにしろ。お前は人を救うために立ち直ったんだ。それ以上の責めは置いとけよ?」
「孝弘・・・救えたのに・・・今回も救えなかった・・・」
「いいんだ、馬鹿野郎。お前は幾つもの案件を救ってきたんだ。それを見守る者も居る事を覚えて置け。これは、お前の両親・・・おじさん、おばさんの遺言と思え・・・なぁ?」
――――
ああ、医師免許が在ったからこそ、お前の子をも救って見せた。そして感謝もされたし、生き甲斐も見付けられた。だから、もう少しだけ付き合ってくれないか?
「いいぜ?」
ありがとう・・・!
医療の道は高く険しいと聞きます。
学生~研修~実用研修~助手~医師のような流れではないでしょうか。
この話では、道彦が意志を持ち、自らの道を歩む事を描いています。
よかったら感想など頂ければと思います。




