29、相木俊郎と常間羽理恵(ときま・うりえ)
俊郎が病でひれ伏した。それも、二度目になる。その時は入院治療先である人工生命体化学病院に運ばれ、羽理恵とはそこで出会う。
彼等は夫婦となり、のちに羽理恵を母体とした人工生命体、長男・未辺流を産みだす。最後、臣子道彦の開発した核融合生命体の暴走による闇の災厄に巻き込まれる。それまでに様々な出来事が在ったのだが・・・
「こんにちは・・・」
「初めまして・・・」
◆
俊郎は科学者、羽理恵は看護師である。
二人はすれ違う度に、挨拶を繰返すようになった。ここは病棟だから思い切った発言等すれば人工生命体手術の後遺症として、出血・神経障害・失語症等が現れて、薬物投与しなくては生命としての効果が成らなくなる。
いくら辛くてもその足で歩いて挨拶くらいはさせて欲しいものだ、と感じる俊郎と羽理恵だった。
「あ・・・本が・・・」
「落としましたか?この病棟では看護師が全力では無いですが、お手伝いの出来る限りは支援しますので、あまり体を動かさずに、ゆっくりと歩いてくださいね?」
「ありがとう・・・」
こうして、二人の時間がすれ違いつつも、長い治療とリハビリテーションの生活により、その出逢う時間も増えていった。俊郎は積み木などを扱い、子供の前で演技を行う。羽理恵は看護師の傍ら、俊郎のそういう姿を見て嬉しそうに表情を変える。
元々、表情を示すことの無い、緊急病棟でもあるから一瞬の笑顔でも俊郎にとっては喜びの一時となるのである。
「相木さん、積み木ばかりか、会話も上手に・・・人を教えるのがとっても得意なんですね?」
「あ、見つかってしまったか・・・常間さんにはそう見えるのかな?私も面倒な社員が二人も居て、更に傘下の社員も居て学問を一から習得させるのに、手間取っているんですよ」
同じ事、そのような卓上の話、利便的な内容で話題を進める俊郎と羽理恵。二人は何か懐かしい空気を感じていた。まるで別次元での再会を果たしている様でもある。
それは宇宙が成る海と網の融合で、時空さえもなだらかに笑ってくれている様でもあった。そんな微笑ましい時間が次第に過ぎ去ろうとしていた。
「俊郎さん、もう少し点滴を入れなくては・・・」
「羽理恵さんこそ、水でも飲んで俺と話してくれないか?」
お互いの名前を苗字で呼ぶようになって、時と共に愛を育んでいった。その時間は余りにも短いのに、何だか長い付き合いをしている様でもあった。時を戻さずともお互いが理解し合える。そんな温もりに時は穏やかであった。
―――退院後―――
「相木先輩、どうも!」
「おお、彌汲に臣子じゃないか!暫くぶりだなァ、」
「もう、社長から引退したんだし、人工生命体の理論も大方、実用・量産に追い付きましたよ。見ます?」
「それはいい。それよりも、俺の彼女、見てくれよ」
「常間羽理恵といいます。俊郎さんにいつもお世話になって居ます。」
「わ・・・若い・・・中々の若さだ!」
俊郎は54歳で歳で羽理恵は28歳。年の差なんて関係ないと思っていた矢先、俊郎が無理をして食事を戻していた事がある。同棲していた羽理恵は、即座に病院へ連絡し、その弱った体の回復を促していた。
そんな事が何度も起き、何度も繰り返され、ようやく体力を戻したのは羽理恵の3年余りの必死なる看護によるものである。その間、羽理恵は病に伏せていたので人工生命体の母体として、被検体治療を受けていた。実用としての成果は上々。
通常の人体よりも身体能力が勝っていたのは、当人も驚きを隠せていなかった。
――――副作用・反応すら無かったのだ。
「そういえば・・・あいつ等、実験どうしているかな?」
「無理を言わないで。それと、妊娠したの・・・」
「え?・・・それは本当??」
―――出産―――
俊郎と羽理恵の間に産まれた赤子は長男・未辺流と名付けた。まるで何かに興味を抱いたかのように元気だった。それは孝弘と道彦、リプラが見ても一目瞭然だった。
全く、病の一片も感じられない俊郎の姿を見ていると、その様に感じられたのだ。そして、俊郎の細胞分裂の症状も落着いた。それも、祖先の代から受け入れていた神の信託と論文のお陰である。更に、神野学人の著書も道彦に託していた。
――――だからか、安心して落ち着きを取り戻せていたのだ。
◇
「俺もようやく一家の主になった。そういえば臣子、核融合生命体はどうした?」
「大丈夫ですよ。もう少し手を加えてやれば、先輩の推論通りに事は進みます」
「道彦、先輩のお目に掛かっているのは、お前の実力が勝ったからだぞ?」
しかし、それは闇の災厄として招かれた。弥氏の寺で丁度、厄除けが行なわれたのか、大事に至らなかったが、孝弘の魂は変容されてしまった。
そのせいか、俊郎の器質である意志が分裂し介間にブレトルの姿を見せたという。一方、羽理恵は翼の民であるかつての兄ミキュールの魂と共鳴し変容を遂げると翼の民ウリュエルの魂へと戻り、やがて次代の世界線へと旅立つのであった。
最後に
「だめ、あなたまで失ってしまったら私は・・・飛べないじゃないのォ・・・」
と、言い残して――。
※関連・神野学人、臣子道彦
人工生命体の発案者である、相木俊郎が常間羽理恵と恋に落ち、結婚・出産を迎えるのですが、人工生命体の研究・実験の耐久被検体として招かれました。しかし、献身的な愛によって情けが選ばれ、孝弘と道彦は新たなる生命体理論に準じて、会社を筆頭にお互いの人生を全うしていった・・・というストーリーです。




