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14、友人と同僚


 俺は幼いころから道彦と共に過ごしてきた。


 だが、あいつは俺の足よりも速く追い付くことはなかった。


 そしてそこで一つのアクシデントが起きたんだ。


 そう、”飛びつく”からだ。


――――

――

『あ!帰ってきた・・・隠れろ、またアイツが来た・・・』


『え・・・何で隠れるの?どうして、僕を避けるの?』


 ――――道彦は幼いころから“悪戯”をしてくる。

 だがそれが逆の立場だと恐れる様に、その対象を確かめたがる癖があるのだ。もう少し待っていれば俺がお前の傍で居てやれるというのに。なぜ待たなかった――――?



“お片付け致しますね~カチャ、カタ、そうか~だろう~?ワ”ッハハァ~ッ”


「お前はいつも俺の悪口を、叩き返してくれたよな」

「グビ、そう!お前は叩かれたら、幾度と跳ね返る」


――――

 例えばお前の同僚はいつも“成績優秀”とか、“将来の展望”があり、確実に“博士号”を取り、有名になるなどと何かと当たり前のように聞かされていた事だろう。だが、それがお前にとって負担だったんだ。


『なんだぁコイツは~この本そんな面白いワケぇ~~?そぅッらぁ“ポイ―、ボチャッ”』


『あ!なんてことを・・・叔母さんが買ってくれた本なんだぞォ――!』


 俺と別れたお前は何かと“試練の場”に身を置くことになる。同じ志を持つだろう皆との違いをも何ら感じられていない。そんな態度が“預言書”どころか本からも逃げられてゆくのだと、何時になっても気付かずに居る。お前にも家庭があるならそんな奴らは蚊帳の外へと出してしまえばいい。


「優柔不断、無味無臭、評価不振、一度のせいで、二度もやり直し、三度目はドボンと落とされて天に向かって吠えてみろ・・・という言葉を父から聞いた事が在るんだ」

「すると天はどう答えたんだ?笑うな前を見ろ、手を挙げて扉を開けろ、ただ見は金の祭りで長い年月経ったら、帰り道にボールを叩け・・・という言葉は親父から聞いた事が在る」


 ―――そうやって夜間に出掛けた居酒屋で豆を食って、喉を詰まらせたときのお前の顔は、同僚だった俺の顔にコブを作っていた。それも一度や二度じゃない。幾度もだった。通常じゃ在り得ない様な泣き面を見せておいて、後ろから毛虫を入れると、何時も逃げ纏うように同僚を馬鹿にしていたな―――。


――――

『分かった風に言うなよ』

『ハハハ、お前の想像力はどうなってんだ?波亀なみカメか、轟海豚ごうイルカか、それとも?』

『波亀は生体本能が強いし、轟海豚は頭脳によって仲間を引き付ける・・・もうよせよ、その辺で。先生が来た時にどう説明するんだ?』

『編入されたから、叔母さんに頼れたから、有名な研究者の伝手があるから?焦ってどうすんだよ。お前の父さん、母さん死んじまったんだろ?』



『・・・やめろ、俺の親を・・・侮辱ぶじょくするのはもう、』



“ピキ、メキ、ゴキン・・・あ!?”


“な・・・何だよ・・・やるのか?”

“・・・すまない。もう十分だ・・・ありがとう・・・”



“フワッ”



壊れた・・・。


なのに、何かが救ってくれた気がした。


それは紛れもない“友人”だったと・・・、


そう、お前が応えたんだろう?


だが、「いや、孝弘・・・そうじゃないんだ・・・」と答えた。


何故だ?



 ――――過去に捕らわれず、縛られず自らを扮する事はかなりの情熱と、落ち着きが大切なんだと俺はお前に言っていた。『俺がもし、そこで“砕いて居た”なら既に終わっていたものを、彼は庇って赦してくれたのだった』と・・・。

 だが、『そんな事は必要ない、不必要な出来事はもう十分だ』とか、『俺から奪った時間をもう、失う事はない』と・・・。道彦はよく、そう言っていた―――。



『審判は下された。それに道彦、お前の両親はどこか遠慮がちだった。しかも俺の親を庇ってくれるように面倒を見てくれた。その時間を失うという事は、あいつ等の時間を奪ってしまうという事だ・・・もう、その辺でよそう・・・ギュッ』

『孝弘・・・グイッ、グスッう、うゥ・・・』


――――

 お前はよく、友情と、同僚との異なる宇宙を感じ取れていた。まるでそれは彼方の世界線から降り立った元素・粒子・資源のように原理が免れない時期を彩っていたように、全ての道が繋がって居たかのようにも捉えられた。

 それ等を赦す道彦の気心が懐かしいあの頃の様にも感じられたのだろう。俺達は繋がっていたのだと再認識させられた。


『もう、傷付くことは終わりにしよう・・・それでいいんだよね、父さん、母さん・・・。俺を置いて行ってしまっても繋がっている事を思い出せ、道彦よ!』

『そうさ、もう十分だ道彦。俺が生きている限り守ってやる・・・』


 道彦にそう言うと、傷付くことの重大さ・到達点・両親との繋がれない辛さ・記憶・思い出を―――、再び要らなくなるように終わらそう―――、と傷ついた心を癒そうとしていた。

 だが、お前は『そのように自分に念じてみせた』と言っていた。すると、意志と魂が何処からが、不思議と亡き両親の声を拾ってくれたのである、と語っていた事が在る。

 俺には聞こえないが、聞こえていたような気がするんだよ――――。


――――あぁ、道彦・・・生きて居てくれたんだね・・・


――そうだね。慰める言葉も無いけど、お前を子に持って希望を与えられた様だよ。もしどこかで、くじけそうになったら私達を思い出すより先に、友人と同僚との関係を鑑みてみるんだ。すると驚くほどによい、ヒントを思い付くかもしれないよ。そこから這い上がってみるんだよ。ねぇ、母さん?


――ええ。道彦が楽しみ面白さを受入れるなら、彼は黙って文句も言わず、友として同僚として同じ道を選んでくれるわ。きっと元気な顔に巡り合わせる様にして、強い絆を与えてくる、そういう孝弘君の愛情を受入れていくのよ。


 おじさん、おばさん・・・。

 道彦を、コイツを見守っていてくれていてありがとう・・・。


“フワッ”


友人=道彦 同僚=いじめっ子

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