第9話 真夜中の無謀な侵入者
真夜中12時 ----
学園の正門の前で黒ずくめの2人の男が立ちすくんでいた。
「兄きー。どうやって侵入するんですか?」
長身の痩せこけた男が、隣の太った男に聞いた。
「うるせい!おまえも少しぐらい考えろ!」
男達は考える。
しかし考えても、前にそびえ立つ壁は変わらない。
結局、そのまま登ると言うことに決まった。
一応装備は一人前だった。
それぞれ4つの吸盤を手と足につけ、ぺたぺたと登って行った。
15mも登ると、二人はてっぺんに着いた。
上にはやはり鉄条網がはりめぐされており、それを取らなければ進入は不可能だった。
小太りの男が言った。
「ペンチ」
痩せこけた男が答える。
「へ?」
しばらく沈黙。
再度言う。
「ペンチ」
そして再度答える。
「へ?」
小太りの男の肩が震えているのがわかる。
「ペンチをわたせと言ってるのだ!」
「ペンチなら下です」
「取ってこい!」
「あー、ずるいですよ。一人だけらくしようとして……」
小太りの男はただ、じろりと痩せた男を見た。
「わっ、わかりましたよ。行けばいいんでしょ。いけば」
とぶつぶつ言いながらペンチを取りに行った。
これを取りに行くのだけで15分は要すると言うのに、彼らはこれを初めとして、数十回忘れ物を取りに行った。
結局、塀一つ越えるのに、3時間かかった事になる。
そして、どうにか、学園内。
ここは校舎と運動場の境にあたる所で、まわりには、すこし並木があった。
「一応ターゲットの確認をしよう。写真」
と太った男が言うと、痩せた男は胸のポケットから写真を取り出した。
胸についているライトをつける。
それは綾の写真だった。
写真の綾は普段の時のあの可愛らしい笑顔で、にっこり微笑んでいた。
情報部、部室 ----
山というテレビが置いてある、そんなに広くない部屋の中。
今日の監視として二人が残っていた。
綾と長々と話してしまい、罰としてやらされている未杉と、その後輩Aである。
「部長、どうやら侵入者のようです」
コンピューターの画面をみながら、Aは淡々と言った。
「あん?」
といって今日の出来事が書いてあるレポート用紙を読んでいた未杉が、その紙を机に置いて、Aの方に近付いて行った。
「どこだ?」
と言って未杉はコンピューターの画面を見た。
「35ブロックです」
Aは画面でている2つの点を指さした。
「いま切り替えます」
というと画面が赤外線カメラにかわった。
二人の男がくっきりとあらわれる。
「うちの学園の者でも、関係者でもないようです」
Aはとなりの画面出てくるデータを見て呟く。
「んじゃ追い出すか……」
未杉は頭をかきながら、各クラブの予定の書いてあるディスプレイの方を見た。
「いま起きているのは……。天文部と制作部か……」
Aの頬に冷汗が流れる。
「ぶ、部長。まさか……」
未杉は横にあるプッシュホンらしき物を取ると、プッシュを押した。
「もしもし、こちら情報部。あっ、斉藤?侵入者を発見したんだ。ブロックは35。数2人。適当に放り出して欲しい。以上。よろしく」
といって電話を切る。
「ちょっと、かわいそうじゃないですか?」
勿論、侵入者に対してである。
「眠たいから、きげん悪いの」
といって、未杉はひとつ大きくあくびをした。
制作部 ----
朝、御影によって壊されたマリオもすっかり再製され、部室の中で色々動き回っていた。
これは半自立型と呼ばれるもので、命令を出さなくても自分で考え行動できるのである。
ちなみに、このマリオは菜緒によって新しく命名された。
命名 --- 阿修伽---
6本の腕という所から阿修羅というのと、全く関係のないアショカ王と飛鳥をたしたものである。
さて、初登場の斉藤徹。
ちょいちょいとはでてきたが、一応登場は始めてである。
この制作部の部長。又の名を変態……とは言われないが、ともかく変わった男だ。
かなり大きいが、痩せているし、すこし背中がまがっているので、そんなに大きくみえない。
顔はべつにマッドサイエンティストのようには見えない。
ごく普通の高校生の容貌をしている。
白衣を着て、机に腰掛けて、時計と話していた。
やがて時計と話し終ると、これ以上ないというぐらいの笑みをうかべていった。
「実験台がやってきた」
誰もが背中に悪寒を感じそうな声だった。
それを聞いて、美那や菜緒も喜んだ。
「ほんとですか?」
「35ブロックに2人の侵入者。撃退せよとの命令だ。菜緒!」
「ハイッ!」
菜緒は横にずらしておいたマイクを口元にもって行き、阿修伽に指令をだした。
「コード32513F、指令。ブロック35へ移動」
というと、いままで遊んでいた阿修伽の動きがとまり、計算を始め、そして動きだした。
「行ってまいります!」
明るい声を出して阿修伽は出て行った。
1秒で、阿修伽の姿はは見えなくなる。
そこで部長が一言。
「だれだー、女言葉を教えた奴はー」
さてそのブロック35。
二人は地図で確認すると、移動しようとした。
そのとき、闇のむこうに光る二つの点があらわれた。
「兄貴、なんですか?あれ」
といって、その点を指さす。
「え?」
と言うと、二人は恐る恐る、少し近づいてみた。
制作部部室。
菜緒:「Ready…………。Go!!」
35ブロック。
「うわー、ゆ、幽霊だー」
といって、二人は逃げた。同時に阿修伽が追う。
結構二人の逃げ足は速く、阿修伽はなかなか捕まえられない。
といっても時間の問題だった。
二人は綾の誘拐が目的だったので、武器はナイフしかない。
とうとう端に追い詰められた二人は、無謀にもナイフで攻撃をしかけた。
阿修伽は結局2本の腕だけで始末が終る。
制作部部室。
「作戦完了、確認。ごみ箱にでも捨ててきて、戻ってきてらっしゃい」
菜緒はマイクを横にずらす。
一息ついて、部長にウィンクをした。
情報部部室。
「終ったようです」
Aは相変わらず画面を見ながら言う。
「連絡してから1分30秒か。けっこう速いな」
といって未杉はまたあくびをした。
秋の夜長。
学園は静かであった。