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Campus City  作者: 京夜
不屈の学園都市
7/8

第8話 特に意味のない結婚式


 沙羅が一番始めに連れて行かれたところは、教会だった。


 そんなに大きくないが、なんとなく、こんな所で結婚式をあげてみたいなという感じの教会だった。

 なんでも沙羅の友達が、ここで結婚式をあげるらしく、ちょっとつき合って欲しいと言うことで付いて来たのである。


 今ちょうど教会から新郎と新婦が出てきたところである。

 新郎も新婦も幸せそうな顔をしてまん中の道を歩いている。

 両側からクラッカーやテープが投げ込まれた。

 そして白い鳥。

 彼女の所属していた生物部からの贈物らしい。

 沙羅も器用にクラッカーを4つぐらい持って、順番に鳴らした。

 そして新郎新婦は用意された車に乗り、飛行場に向かった。


 沙羅と綾の二人は新郎新婦を見送ると近くにあるちょっとした木の下で休んだ。

 まわりは、緑色の芝生でうめられていた。


「きれいだったねー」

「幸せにやって行ってくれるといいなー」


 沙羅はさっき飛行機が飛んで行った方向を見た。


「私もあんな結婚式やりたーい」


 綾は自分の結婚式を、もうすでに予想でもしているような顔で言った。


「よかった。無理やり付き合わしたみたいで悪いかなと思ったけど、結構楽しんだみたいね」


 綾は微笑んで、沙羅と同じ方向を見た。

 しばらく、二人は沈黙し、青空と涼しい風に体をゆだねた。


「御影君はね、捨子だったんだって」


 今朝の事は、悪気はないという事が言いたかったらしく、いきなり沙羅が御影の事を話し始めた。


「物心ついたときには、もう孤児院にいたらしくて、両親の記憶が全くないらしいの。孤児院の頃からケンカばっかりやっていたらしくてね、そのころから孤独だったのね」


 沙羅は思い出すように、言った。


「よく知ってるなー。柳瀬ぇ」


 綾の声ではない。その声は木の上から聞こえた。

 沙羅と綾はサッと上を見た。


「やっぱり……。もう、あんた心臓に悪いんだから……」


 その男は木の枝にぶら下がっていた。

 その男は、ぱっと足を外し、高い枝から飛び降りた。

 軽やかに地上の草地に降り立ち、すっくと立ち上がる。

 軽くくせ毛のある髪と、端正な顔立ちが目を引く男だった。


「始めまして炎城さん。情報部の未杉というものです」

「あっ、どうも」

「なんかようか。未杉」


 沙羅はいかにも、怨念かなにか有りそうな顔で言った。


「いや、今日は炎城さんの方。御心配なく」


 未杉と呼ばれた男は綾の方を向いた。


「えーと、いきなりで悪いんですが、一応規則なもんだから、ちゃんと答えて下さい」


 と言うと未杉という男は綾に色々な質問をしてきた。

 そして、結局綾は、質問数321。時間約1時間半もインタビューされてしまった。

 が、綾は何の苦痛もなかった。

 つまり、未杉の話し方やテンポが非常にうまく、聞かれているのに、面白くなって色々話してしまい、1時間半もなんのその、そのまま話し続けてしまったのであった。

 これがこの男の特技である。

 一番の特技は誘導尋問らしく、けっこうの人が秘密を思わず話してしまうという、恐ろしい男である。

 沙羅もその手に引っかかった女性の一人であった。

 やがて、そのテンポのまま、御影の昔話となった。


「昔は何も喋らない奴だったんだよな。俺が入ってきた時も、ケンカばかりしていて、話などした事なかったし、聞いても何も答えてくれなかった」


 未杉は座って続きを話した。


「結局きっかけは榊なんだ」


 いきなり榊の名前が出る。

 綾は寝ながら聞いたあの話を思いだした。


「あいつは、2番目の転校生でね、いわゆる優等生だったんだ。御影もそれを見てむかついたのかな?やっぱりケンカをふっかけたんだよね」


 未杉は服の内側からタバコを取り出し吸い始めた。


「勝ったのはどちらだと思う?」


 綾は絶対御影だと思ったが、答えは否だった。


「榊なんだ」

「御影君が負けたの?」


 沙羅も少なからず驚いた。


「俺も知ったときは驚いたよ。ともかく榊は強いっていう印象がなかったからね。でも榊が勝ったんだ」


 未杉はタバコの灰を落とす。


「御影、よほど悔しかったらしくて、それから毎日勝負を挑んだんだけど、全戦全敗。それでとうとう30回目に、御影が榊に言ったんだ。『どうやったら勝てるか、教えてくれ』って」


 綾も沙羅も沈黙してしまった。


「そうしたら、榊はなに教えたと思う? 人に接し、話し、自然をいつくしめ。という、まあ一般に言う、(心、技、体)の(心)を教えたんだよ」


 未杉の話はさらに続く。


「最初やっぱり御影、抵抗したけど、何があったか知らないんだけど、そのまま続いてね、一年後、御影が勝ったんだ。それから結構明るくなったんだけど、同時に無茶苦茶になったね」


 これには沙羅も呼応した。


「裏山のクレーター、御影君でしょ? つくったの」

「よく知ってるね。確かあの時は……」


 と言って内ポケットから何か機械を取り出し、なにやら打ち始めた。


「沖とケンカやったときに使った自作の時限爆弾だったな。使った火薬はTNT火薬10Kgか。生物部から色々文句言われてたな」


 そう言って、機械をポケットにしまった。


「色々調べたが、あいつは秘密が多いな。特に目」


 未杉は自分の目をさしながら言う。


「あー!思いだした!」


 いきなり綾が叫んだ。

 沙羅と未杉はビックリして少し後ずさりする。


「目が青……。じゃなくて茶!えっ青?……」


 などとわけの解らないことを言い始めた。

 未杉は笑った。


「そうなんだ、あいつの目の色、変わるんだ。生物部の人体科の奴らが調べたがっていたけど。断わり続けてるなあいつ」


 (思いだした。今日何か辺だと思ったら、目の色が茶色だったんだ……)


「ちなみに、普通は茶色。真剣なときは青。怒ったとき赤。悲しいとき緑。と今んとこ、4つわかってる」

「なんで瞳の色が変わるんですか?」


 綾は素朴な疑問を抱いた。


「解らんが、御影自身は気にしていないようだから、みんなとやかく言わないんだ。一説には両親を探す手がかりにしたいらしいな」


 その時ちょうど未杉の時計からコールがかかり、それじゃまた今度といって未杉は走っていった。

 情報部だけあって、忍者のように足が速い。あっというまに見えなくなった。

 長話が終ったこのとき、もうすでに5時だった。

 結婚式は2時に終ったので、3時間話したことになる。


「よし、じゃ帰ろう」


 と沙羅が言うと、綾もついて行って帰った。

 帰りは沙羅の運転によるバイクだった。

 その運転の凄さ。御影など安全運転としか思えないものだった。

 この後、綾は一人でバイクに乗るために練習しようと心に誓ったそうだ。



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