第6話 BLACKMAGIC
沖は途中でどっかに行ってしまった。
空の旅が終わったら迎えに来る、ということだそうだ。
3人は滑走路に出た。
広々とした滑走路に風が吹き抜ける。
少々寒い。
少し歩くと2、3人が整備しているヘリの前に着いた。
どうやらこれに乗るらしい。
AH-64アパッチ。全重量9.5t。30mm機関砲搭載。
ヒューイコブラと並ぶアメリカの軍用ヘリである。
全体的にスマートにできているが、両側についた武装が重々しい。
全体は黒に塗られており、★のマークが二つついている。
一条が先に歩き、整備士と何か2、3話すと帰ってきた。
「調子いいそうだから、いいよ。乗って」
と一条が言うので、三人はアパッチのドアの所に行った。
一条が高い位置にある重そうなドアを開けた。
中には、二つしかシートがない。
そう。ヘリは二人乗りだったのだ。
「それじゃ、ごゆっくり」
と言ったのは一条の方だった。
「さあ乗りましょう」
御影は綾の手を引っ張った。
綾は無言ではあるが、必死に抵抗した。
顔がひきつっている。
しかしそんな事を気にする御影ではない。
一条はちょうど後ろを向いていたので知らない。
結局、綾の抵抗もむなしく、御影と二人で乗ることになった。
御影は、一つ一つ計器を調べていく。
しだいにメーターが動きだし、ランプがいくつかつきだす。
ローターが回る音が聞こえてきた。
綾にとってこの時間は、死刑前の十三階段をのぼっている気分と同じであった。
実際その通りである。
今の綾は神に祈るよりも、あきらめの気持ちの方が大きかった。
(お父さん、お母さん。もうすぐそこに行くかも知れぬ私を、お許し下さい……)
などと綾が心の中で祈っているなど、御影はみじんも考えず、やがて無情にもヘリは上昇し始めた。
凄い勢いで上昇はしたものの、大した揺れもなく、綾が心配したほど荒い運転ではなかった。
実はちゃんと説教に従っているからなのだが、綾は寝ていたので知らない。
やがて一条が点のようになり飛行場全体が望めるようになった。
そして今度は飛行場も小さくなり、この学園が全部見えるようになると、御影は上昇を止めた。
快晴のため今日は富士山がよく見える。
学園の構成はこうだった。
北にクラブボックス、東に校舎と寮。西に飛行場、そして南が門である。
他に、周りの山と、北東にある湖も学園の範囲だそうだ。
高度からいくと、かなりの高さのはずなのに、学園全体を望むのは難しかった。
御影が一つ一つ親切に教えてくれる。
綾は段々気が楽になり、空の旅は楽しく終われそうだななどと思った。少なくとも、ピーという高い機械音が聞こえるまでは……。
最初、何か故障を知らせる音かと思ったが、そうではなかった。
御影は左腕にはめてある時計を見た。
そして左のボタンを押す。
「御影か?」
時計が聞いてきた。
「その声は、斉藤か!?」
「あたり。緊急コールだ。至急運動場に向かってくれ。安心しろ今日は単なるロボットだ。武装はしていない」
時計から聞こえてくる声には全く危機感というものがなかった。
「ごまかすな。かわりに何がついている」
「わかる?やっぱり」
「わからいでか」
御影は何はともあれ、降下を始めた。
ここらへんから綾の存在を忘れている。
「お前、(BLACKMAGIC)ってマンガ読んだことあるか?」
「?、いや……」
「じゃ、始めから話そう……。名前は<M-77>。見かけは全く人間と同じだ。腕が6本ある事を除いてな。さっき言った通り武装はなし」
高度3000m。
「かわりに動く速度がはやい。人間の約10倍だ」
高度2500m。
「装甲は<HIGHMETAL2>。今度新しく開発したやつだ。44マグナムでも撃ち抜けん」
高度2000m。
「一応弱点はつくってある。向かって左の胸だ」
高度1500m。
「爆弾は使うな。燃料に核融合を使っている」
高度1000m。
「熱や音、動くものに反応する。無抵抗の物には反応しない」
高度500m。
「一応、音ダミーをばらまいて、運動場の真ん中におびきだしてある」
高度200m。
「後は好運を祈る。GoodLuck!」
ヘリは下降を止め、水平方向に飛び始めた。
高度10m。
下の土が砂嵐のように舞う。
砂漠のような運動場に黒い点が見えた。
しだいに御影は速度を落としていった。
やがて、それが目的の物と分かった1km前で着陸する。
ローターがしだいに止まっていった。
M-77がローターの音に反応して、こちらを見た。
御影はいつもの皮手袋を確かめると、「せいっ」と言って正面の窓を正拳で叩き割る。
パキッといって、アパッチの前面の防弾ガラスがいとも簡単に割れた。
しかも局部的に割れるのではなく、全てのガラスが崩れ落ちる。
M-77はすでに敵と認め走ってきた。
距離600m。
御影は服の中から銃を取り出した。
御影愛用の<MX-4>。制作部で注文して作ってもらった物である。
部長に設計して作らせたものは、破壊力、精度とも化物じみていたが、残念ながら人間では撃てない。そこで美那と菜緒に改良させたものがこれである。
現在最高の銃と言ってもよい。
御影はカートリッジを取り出し弾を点検する。
20発しっかり入っていることを確かめると。御影は銃をマリオに向けた。
距離200m。
一発撃つ。
遥か彼方。まだ黒い点でしかない敵に対し、御影は正確に左胸に弾を当てる。
しかし、真ん中の2本の腕でブロックされ、弾は胸に当たることはなかった。
「ふむ」
などと言って。拳銃を回して遊ぶ。
距離100m。
あいかわらず、何の行動も起こさない。
50……30……20……
そして10mの所でマリオは飛んだ。
向かっている所は分かっている。ヘリではない。弾を撃った御影に向かってだった。
5…4…3…2…
そして1m。攻撃のため6本の腕が開く。左胸に隙ができる。
そして戦闘は終わった。
マリオを蹴飛ばして外に放ると、御影は弾の点検をしだした。
そして銃を元の所にしまう。
まったく完璧な動作だった。
全く無駄がない。ここまでは…………
御影は何かを忘れていたことに、はたっと気が付く。
と同時に冷汗が流れた。
「しっ、しまった」
今度は御影が顔をひきつらせる番だった。
綾の座っている席をそーっと見る。
めでたく3度目の気絶。
「また、やっちまった……」
眠り姫 --- 綾はすっかり死んだという顔をしていた。