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Campus City  作者: 京夜
不屈の学園都市
4/8

第5話 飛行場

 

 格納庫内にある、ある一室。

 待合室らしく、いくつも長椅子が並んでいる。

 ちょうど真ん中あたりで綾は寝ていた。

 その周りには、この飛行場の責任者であり、フライト部の部長である一条昌也いちじょうまさや

 そして最初に出たジープの運転をしていた男、沖直也おきなおや。彼はモーター部の部長である。

 そして破壊部の部長の御影誠一郎。

 今回、綾の子守を頼まれている、この学園の名物3人組である。

 

 三人は、綾を囲みながら、色々話し合っていた。


「まだ起きないな」


 沖である。


「御影、もうちょっと少女には優しくしないといけないぜ」


 そして、一条の説教。御影に説教できる数人の中にいる二人は、御影が何かやる度にこうして説教をする。

 御影は具合悪そうに頭をかいていた。

 御影は一人で育ってきたので、少女を扱うのはもちろんのこと苦手。

 それに説教も嫌いである。人から何か言われるのが嫌らしい。

 ツナギを着た一条に睨まれる。


「自分を基準にするなよ、自分を。女の子はか弱いんだから」


 御影は相変わらず沈黙。


「そういえば、お前が親しく友達づきあいしている姿を見たことがないな…………こりゃいい機会だ。炎城さんをしっかり守ってやれ。そう校長に言われたんだろ?」


 兄貴肌の沖が言うと、とうとう御影は沈黙を破った。


「ああ……」


 このぐらいでいいかなと思った沖は、話題を変えた。


「こんな事を話してたら、思わず御影と初めて会ったときの事思い出しちまった」


 沖は笑いながら言った。

 すると一条も御影も一変して笑い顔になった。

 3人の出会いが思わず想像できそうな笑いであった。

 


 

 2年前の8月30日。まだ汗が出るほど暑いときであった。

 この日、二人の生徒が転校してきた。

 一人が一条、そしてもう一人の転校生が沖だった。

 12時。

 太陽が昇りきり、暑い最中、沖はローランドIIでこの学園の門をくぐった。

 ちょうどそのころ、一条はF-14トムキャットでこの学園の存在とローランドの存在を知った。

 ローランドは西ドイツとフランスの共同による、自走対空ミサイルである。

 今でも、対空に対して絶大な力を持つ戦車であった。

 一方、トムキャットと言えば、有名な戦闘機である。

 その性能は誰もが認めている。

 普通、こんな代物には、お目にかかれない。

 それ故、二人は同時に思った。


「さっそくテストか?」


 二人は同じ事をつぶやき、同じように笑いを浮かべた。


「やってやるぜ!」


 機動性からいくと一条の方が優っていたが、F-14は戦闘機。地上攻撃は得意ではない。

 一方、沖の方は、対空の装備はしているものの、1対1では危ない。

 向こうの方から攻撃を仕掛けられたら、まず勝ち目はない。

 比較をすると、この場合、うまいぐらいに同等であった。

 そして二人は戦闘を開始した。

 一条が先手を取るため急降下を始める。

 沖は照準を合わせ始める。

 そのころ御影は近くの校舎の屋上にいた。


「おーお、珍しいものが……。ん? 戦闘状態に入った? いやそんなことは……」


 頭では否定をしていたが体は動き出した。

 そして一条と沖は同時にミサイルを発射する。

 そして御影も手に握っていた物を投げた。

 御影の投げたものはちょうどミサイルがすれ違うときに当たり、二つのミサイルは軌道を変えた。

 どっかん。

 と爆発した所には小さな山があったが、爆発後、そこはすっかり平地になっていた。

 そこがいまの制作部の部室である。

 そこの部室を建てるときに、御影が投げた物が何であるかが分かった。

 確かに手に握っていた物であった。

 そう、それは(手すり)であった。

 当時3人は15才だった。

 そして三人はそれぞれ運動場に出て、顔を合わせた。

 これが三人の出会いである。

  

 この時から、「一番強い」と言う言葉の好きな3人の、喧嘩三昧の日々が続く。

 破壊した校舎の被害総額10億6千万。

 プラス武器代をいれると大変な額になった。

 そして10月30日。

 御影に生徒会からの呼び出しがかかった。

 もう内容は分かりきっていた。

 御影は生徒会と書いてある、大きなドアを叩いた。


「入ります」


 そして中に入って、すぐ出てきた。

 中に沖がいたからである。


「おい御影、待て。用がある」


 中から声がした。

 沖の声ではない。この学園の生徒会長をやっている榊の声であった。

 この時、榊は16才であったが、しっかりした口調に、思わず御影はまた中に入り直し、席に着いた。

 まだ若いが、生徒による自治が行われているため、この榊が実質的な校長である。

 この榊が動くことは、学園全体に関わることだけである。

 それだけに、榊が動き出したということは、ただ事ではないと言う意味であった。


「できたら、別々にしてくれないか?こんな緊張しながらじゃ話しにくい」


 御影は常に沖を見ながら言った。

 沖はというと、イスにドッシリ座り笑っている。

 これは沖の友情の印であることは御影にも分かった。

 しかし、性格上どうもこういうのは逆に逆撫でされたような気がして、いらついた。

 だが一応榊の前でもあるので、御影はゆっくり座り始めた。


「用件は?」

「分かっているだろう?」

「だが一条の野郎がいない」

「彼ならもう来る」


 と、うまい具合に一条が入ってきた。

 そして御影と同じ行動をとった。

 沖と榊は御影と同じ行動を一条が取ったので、少し笑った。

 御影は逆に恥ずかしかった。

 皆がなぜ笑うのかで一条が怒り、あれやこれやあったが、一応3人は席に着いた。


「さて、用件は何だと思う?」


 いかにも楽しそうに榊が聞いてきた。

 二人にとって、それは皮肉に聞こえた。

 しかし、沖の方はそうはとらない。もう用件を知っているからである。


「被害にあった校舎の請求だろ?」


 御影が面倒くさそうに言った。


「そういえば会計から伝言があったな。たしか……。『三人とも死んでまえ!』と言うことだったと思うけど…………まあそんな事はどうでもいい。今日は何の日か知っているか?」


 榊の意外な質問に一時、御影も一条も悩んだが、しばらくして二人は考え出した。

 しかし一向に何も見つからない。


「おいおい、自分の誕生日も忘れたのか?一条」


 意外な答えに二人は目を見張った。

 そして榊を見て質問した。


「それで?」

「御影は自分の誕生日を知らないな?」


 知るはずがない。御影は捨て子である。


「ああ……」


 御影は少し辛そうだった。

 榊は言葉を続けた。


「沖の誕生日を知っているかい?」


 また笑いながら言う。

 そして二人は榊の言わんとすることを悟った。


「そうだ…………今日だ…………」


 沖と付き合いの長い一条が、苦しそうに呟いた。

 いかにも、一生の不覚といわんばかりの態度を一条はとった。

 沖が笑う。そして沖は初めて口を開いた。


「お互いさまだ」


 御影は榊の方へ向き直し、そして聞いた。


「さて、何が望みだ? 榊」


 榊は立ち上がった。

 

「校長からの伝言だ。『今日を御影の誕生日とし、今日から一切の喧嘩をやめろ。そして、今日は互いの誕生日を祝え』……と、これが用件だ」


 御影は、そんな用件など断りたかった。

 しかし、孤児の自分を育ててくれた校長は、父以上の存在だった。

 逆らうこともできず、御影は深く椅子に腰掛けた。

 榊は3人の表情を見、笑顔で説明し始めた。


「実は沖が、お前らと仲直りしたいと言い出してな、僕が一計を考えたというわけだ」


 二人は沖を見た。


(あの沖がねぇー。あいつの方が好んでやってなかったかなー)


 などと二人は思った。


「御影は従うな?」

「ああ」

「一条は?」

「……いいだろう。だけどなあ、今すぐというわけには、いかないだろう」


 しかし、御影には分かっていた。榊のことだ、先の先まで考えてるだろうと。

 実際そうだった。

 榊はパチッと指を鳴らした。

 すると横の壁が爆発した。

 そうたいした爆発ではない。

 そして煙の中からいっぺんに沢山の人が出てきた。

 御影と一条は反射的に身構える。


「ハッピーバースディ!」


 という掛け声とともに一斉にクラッカーが鳴らされた。

 唖然としながらも、構えをとっていた御影と一条の頭に紙テープがかぶさる。

 そして全校生徒が部屋の中へ3人を導き、3人の誕生日を祝ってくれた。

 カラオケ、ジュースのかけあい、闇鍋などがあり、そうそうたる歓迎だった。

 しかし、それが御影にとっての、初めての誕生パーティーであった。


 

「それ以来、本当に喧嘩してないなー」

「説教はされるけどな」


 御影が愚痴を言う。

 3人は笑った。


「そうだな。でもよく我慢してるよ」

「まあ、言ってもしょうがない事に気づい…………」


 御影が下を見て驚く。

 沖と一条も下を見る。


「……。綾さん。起きてたの?」


 綾の目はすでに開いていて、微笑んでいた。


「いい思い出話ですね……」

「ありゃー、いつごろから起きてたの?」


 綾は体を起こした。


「たしか、榊とかいう人が出て来てからだと思うけど…………」

「へぇー。気づいた?」


 御影は他の二人に聞いた。二人とも横に首を振る。


「三人もいて気づかないなんて初めてじゃないか? 綾さん、才能あるよ」


 一条がいつもの軽い調子で言った。


「体の調子、大丈夫ですか?」


 気の利いた事を言うのは大体、沖である。


「あっ、もう大丈夫です」


 といって立ち上がった。


「よし、では案内の続きといこうか」


 御影が言うと綾は少しびくついたが、一応ついていった。



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