第5話 飛行場
格納庫内にある、ある一室。
待合室らしく、いくつも長椅子が並んでいる。
ちょうど真ん中あたりで綾は寝ていた。
その周りには、この飛行場の責任者であり、フライト部の部長である一条昌也。
そして最初に出たジープの運転をしていた男、沖直也。彼はモーター部の部長である。
そして破壊部の部長の御影誠一郎。
今回、綾の子守を頼まれている、この学園の名物3人組である。
三人は、綾を囲みながら、色々話し合っていた。
「まだ起きないな」
沖である。
「御影、もうちょっと少女には優しくしないといけないぜ」
そして、一条の説教。御影に説教できる数人の中にいる二人は、御影が何かやる度にこうして説教をする。
御影は具合悪そうに頭をかいていた。
御影は一人で育ってきたので、少女を扱うのはもちろんのこと苦手。
それに説教も嫌いである。人から何か言われるのが嫌らしい。
ツナギを着た一条に睨まれる。
「自分を基準にするなよ、自分を。女の子はか弱いんだから」
御影は相変わらず沈黙。
「そういえば、お前が親しく友達づきあいしている姿を見たことがないな…………こりゃいい機会だ。炎城さんをしっかり守ってやれ。そう校長に言われたんだろ?」
兄貴肌の沖が言うと、とうとう御影は沈黙を破った。
「ああ……」
このぐらいでいいかなと思った沖は、話題を変えた。
「こんな事を話してたら、思わず御影と初めて会ったときの事思い出しちまった」
沖は笑いながら言った。
すると一条も御影も一変して笑い顔になった。
3人の出会いが思わず想像できそうな笑いであった。
2年前の8月30日。まだ汗が出るほど暑いときであった。
この日、二人の生徒が転校してきた。
一人が一条、そしてもう一人の転校生が沖だった。
12時。
太陽が昇りきり、暑い最中、沖はローランドIIでこの学園の門をくぐった。
ちょうどそのころ、一条はF-14トムキャットでこの学園の存在とローランドの存在を知った。
ローランドは西ドイツとフランスの共同による、自走対空ミサイルである。
今でも、対空に対して絶大な力を持つ戦車であった。
一方、トムキャットと言えば、有名な戦闘機である。
その性能は誰もが認めている。
普通、こんな代物には、お目にかかれない。
それ故、二人は同時に思った。
「さっそくテストか?」
二人は同じ事をつぶやき、同じように笑いを浮かべた。
「やってやるぜ!」
機動性からいくと一条の方が優っていたが、F-14は戦闘機。地上攻撃は得意ではない。
一方、沖の方は、対空の装備はしているものの、1対1では危ない。
向こうの方から攻撃を仕掛けられたら、まず勝ち目はない。
比較をすると、この場合、うまいぐらいに同等であった。
そして二人は戦闘を開始した。
一条が先手を取るため急降下を始める。
沖は照準を合わせ始める。
そのころ御影は近くの校舎の屋上にいた。
「おーお、珍しいものが……。ん? 戦闘状態に入った? いやそんなことは……」
頭では否定をしていたが体は動き出した。
そして一条と沖は同時にミサイルを発射する。
そして御影も手に握っていた物を投げた。
御影の投げたものはちょうどミサイルがすれ違うときに当たり、二つのミサイルは軌道を変えた。
どっかん。
と爆発した所には小さな山があったが、爆発後、そこはすっかり平地になっていた。
そこがいまの制作部の部室である。
そこの部室を建てるときに、御影が投げた物が何であるかが分かった。
確かに手に握っていた物であった。
そう、それは(手すり)であった。
当時3人は15才だった。
そして三人はそれぞれ運動場に出て、顔を合わせた。
これが三人の出会いである。
この時から、「一番強い」と言う言葉の好きな3人の、喧嘩三昧の日々が続く。
破壊した校舎の被害総額10億6千万。
プラス武器代をいれると大変な額になった。
そして10月30日。
御影に生徒会からの呼び出しがかかった。
もう内容は分かりきっていた。
御影は生徒会と書いてある、大きなドアを叩いた。
「入ります」
そして中に入って、すぐ出てきた。
中に沖がいたからである。
「おい御影、待て。用がある」
中から声がした。
沖の声ではない。この学園の生徒会長をやっている榊の声であった。
この時、榊は16才であったが、しっかりした口調に、思わず御影はまた中に入り直し、席に着いた。
まだ若いが、生徒による自治が行われているため、この榊が実質的な校長である。
この榊が動くことは、学園全体に関わることだけである。
それだけに、榊が動き出したということは、ただ事ではないと言う意味であった。
「できたら、別々にしてくれないか?こんな緊張しながらじゃ話しにくい」
御影は常に沖を見ながら言った。
沖はというと、イスにドッシリ座り笑っている。
これは沖の友情の印であることは御影にも分かった。
しかし、性格上どうもこういうのは逆に逆撫でされたような気がして、いらついた。
だが一応榊の前でもあるので、御影はゆっくり座り始めた。
「用件は?」
「分かっているだろう?」
「だが一条の野郎がいない」
「彼ならもう来る」
と、うまい具合に一条が入ってきた。
そして御影と同じ行動をとった。
沖と榊は御影と同じ行動を一条が取ったので、少し笑った。
御影は逆に恥ずかしかった。
皆がなぜ笑うのかで一条が怒り、あれやこれやあったが、一応3人は席に着いた。
「さて、用件は何だと思う?」
いかにも楽しそうに榊が聞いてきた。
二人にとって、それは皮肉に聞こえた。
しかし、沖の方はそうはとらない。もう用件を知っているからである。
「被害にあった校舎の請求だろ?」
御影が面倒くさそうに言った。
「そういえば会計から伝言があったな。たしか……。『三人とも死んでまえ!』と言うことだったと思うけど…………まあそんな事はどうでもいい。今日は何の日か知っているか?」
榊の意外な質問に一時、御影も一条も悩んだが、しばらくして二人は考え出した。
しかし一向に何も見つからない。
「おいおい、自分の誕生日も忘れたのか?一条」
意外な答えに二人は目を見張った。
そして榊を見て質問した。
「それで?」
「御影は自分の誕生日を知らないな?」
知るはずがない。御影は捨て子である。
「ああ……」
御影は少し辛そうだった。
榊は言葉を続けた。
「沖の誕生日を知っているかい?」
また笑いながら言う。
そして二人は榊の言わんとすることを悟った。
「そうだ…………今日だ…………」
沖と付き合いの長い一条が、苦しそうに呟いた。
いかにも、一生の不覚といわんばかりの態度を一条はとった。
沖が笑う。そして沖は初めて口を開いた。
「お互いさまだ」
御影は榊の方へ向き直し、そして聞いた。
「さて、何が望みだ? 榊」
榊は立ち上がった。
「校長からの伝言だ。『今日を御影の誕生日とし、今日から一切の喧嘩をやめろ。そして、今日は互いの誕生日を祝え』……と、これが用件だ」
御影は、そんな用件など断りたかった。
しかし、孤児の自分を育ててくれた校長は、父以上の存在だった。
逆らうこともできず、御影は深く椅子に腰掛けた。
榊は3人の表情を見、笑顔で説明し始めた。
「実は沖が、お前らと仲直りしたいと言い出してな、僕が一計を考えたというわけだ」
二人は沖を見た。
(あの沖がねぇー。あいつの方が好んでやってなかったかなー)
などと二人は思った。
「御影は従うな?」
「ああ」
「一条は?」
「……いいだろう。だけどなあ、今すぐというわけには、いかないだろう」
しかし、御影には分かっていた。榊のことだ、先の先まで考えてるだろうと。
実際そうだった。
榊はパチッと指を鳴らした。
すると横の壁が爆発した。
そうたいした爆発ではない。
そして煙の中からいっぺんに沢山の人が出てきた。
御影と一条は反射的に身構える。
「ハッピーバースディ!」
という掛け声とともに一斉にクラッカーが鳴らされた。
唖然としながらも、構えをとっていた御影と一条の頭に紙テープがかぶさる。
そして全校生徒が部屋の中へ3人を導き、3人の誕生日を祝ってくれた。
カラオケ、ジュースのかけあい、闇鍋などがあり、そうそうたる歓迎だった。
しかし、それが御影にとっての、初めての誕生パーティーであった。
「それ以来、本当に喧嘩してないなー」
「説教はされるけどな」
御影が愚痴を言う。
3人は笑った。
「そうだな。でもよく我慢してるよ」
「まあ、言ってもしょうがない事に気づい…………」
御影が下を見て驚く。
沖と一条も下を見る。
「……。綾さん。起きてたの?」
綾の目はすでに開いていて、微笑んでいた。
「いい思い出話ですね……」
「ありゃー、いつごろから起きてたの?」
綾は体を起こした。
「たしか、榊とかいう人が出て来てからだと思うけど…………」
「へぇー。気づいた?」
御影は他の二人に聞いた。二人とも横に首を振る。
「三人もいて気づかないなんて初めてじゃないか? 綾さん、才能あるよ」
一条がいつもの軽い調子で言った。
「体の調子、大丈夫ですか?」
気の利いた事を言うのは大体、沖である。
「あっ、もう大丈夫です」
といって立ち上がった。
「よし、では案内の続きといこうか」
御影が言うと綾は少しびくついたが、一応ついていった。