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Campus City  作者: 京夜
外伝「榊と斉藤」
23/31

第6話 突撃

 

 

 ---榊邸

 

 広大な庭にはサーチライトが光り、そのずっと先に建物がある。

 3階建ての豪邸の2階の一室には、まだ光がともっていた。

 榊の自室。

 少し広めの部屋は、結構きちんと整理され、清潔な感じがした。

 本が横の壁いっぱいに広がり、榊は反対側のベッドの近くにいた。

 

「まさか、これを着る羽目になるとは」

 

 榊はぶつぶつ言いながら、自室で着替えをしていた。

 肌に密着する黒皮の服を着、黒の皮手袋をはめる。

 黒のブーツを履き、布を頭に巻く。

 どれもこれも格闘技の練習のときに使う代物である。

 動きやすく、ショックを和らげ、防弾にもなっている。

 榊はぶつぶつ言いながらも服を着終えると、窓を開け、二階の部屋から飛び降りた。

 そのまま、かなり大きい庭を駆け抜けると、車庫に行き自分で作った750ccバイクにまたがると、始めから付いているキーを回した。

 すぐ、バイクは吹き上がり、目の前のシャッターも上がった。

 

「いくぜ!」

 

 一声残して、榊はエンジンの音も高らかに、闇の中に消えていった。

 

 ---学校

 

「いつのまに、こんな物を作ったのかしら」

「それよりも、サイズよ。サイズ。ぴったりよ」

 

 美那と菜緒は、斉藤がいつの間にかに作っておいたパワードスーツを着ながらぶつぶつ言っていた。

 美那が赤。菜緒がピンクである。

 ちょっと可愛らしいその服は、とても斉藤が作ったとは思えないものだった。

 しかし、さすが斉藤と言うか、厚さは3cmほど。しかも関節部をうまく作ってあって、着ていて全く不自由がなかった。

 しかも、筋力は数十倍になるという。

 倒れそうになって手を付いた机が、まっぷたつに割れて初めてそのスーツの威力に二人は驚いた。

 そして、改めて斉藤の凄さを感じた。

 

「天才どころじゃないわね」

「うん。天才を通り越した馬鹿の部類だと思う」

 

 隣の部屋で、斉藤はおもいっきり、くしゃみをしていた。

 

「だれか、噂してやがんな。まあいいか」

 

 斉藤は理科の先生等がよく着ている白衣をまとっていた。

 そして、嬉しそうに何等かの試験管を取り出し、胸にしまっていった。

 試験管の中の液がその度に揺れ、音を立てる。

 斉藤はその液を見ながら、満面の笑みを浮かべ、こう言った。

 

「いやー、こんな機会に実験ができるとは」

 



 

 辺りは闇に包まれ、何一つ物音はしなかった。

 昼間の喧騒が嘘みたいに静かな学校の正門。

 校名の彫ってある石が、冷たそうな黒い反射光を放つ。

 静かな住宅街に、エンジンのアイドリングの心地よい振動音が響いた。

 やがて、そのエンジン音も消え、また、静寂に包まれる。

 榊は足を振り上げ、バイクから降りた。

 バイクは軽くバウンドし、また元の状態に戻る。

 闇の中の黒装束の榊は、ヘルメットを取った。

 軽く頭を振ると、闇に汗が飛び散った。

 榊はヘルメットをバイクのハンドルに掛けると、正門の中に入って行った。

 街灯の明かりも遠くなり、中心街を通る自動車の音も、ますます小さくなる。

 暗さを増した運動場を、榊は歩いて行った。

 一路、制作部へ。

 

「用意はできたかー!?」

 

 榊は明かりの漏れているドアを開け、大きい声で言った。

 ピンクと赤のスーツをまとった美那と菜緒がこちらを見た。

 ヘルメットは取ってあり、驚きの表情が見える。

 榊は美那達の驚きの表情の意味が解らないまま、聞いた。

 

「斉藤は?」

 

 美那と菜緒はそのままの表情で、いま榊が開けたドアを指さした。

 

「え?」

 

 榊はおもむろにドアの反対側を覗いた。

 突然、ぬっと斉藤が現れる。

 明らかに額には傷があり、怒りの表情を浮かべていた。

 

「てめーは……」

 

 榊はおもわず後ずさりながら、斉藤をなだめた。

 

「ちょっと、ブレイク! たんま! 謝る!」

「今日という今日は……。榊、これで何回目だ!」

 

 榊は人差し指を立ててみせる。

 

「めでたく100回」

 

 斉藤は怒りに笑いを込め、指をパキポキと折りながらにじり寄った。

 

「正解。ご褒美に拳骨をやろう」

「と言うわけで、斉藤のバイクに菜緒。俺のバイクに美那が乗って、研究所に向かう。いいか?」

 

 榊が頭のこぶをさすりながら言うと、一応みんな、うなずいた。

 

「ちょっと、さっきのは痛かったな…………まあいい……。よし! じゃあ行くか」

 

 榊は先にドアから出て行くと、みんなも後からついて行った。

 正門前で、もう一度集合し、それぞれバイクに跨った。

 美那と菜緒はスーツのヘルメットを、榊は元していたヘルメットを被った。

 榊と斉藤はそれぞれ鍵を回し、エンジンをかけた。

 軽い振動と共に吹き上がる。

 榊は用意が済むと、斉藤の方を向いた。

 

「それじゃあ、出発するが……。斉藤」

「? なんだ?」

 

 斉藤が榊に聞き直すと、榊はピンクのパワードスーツに身を固めた菜緒を指さした。

 

「後ろに菜緒ちゃん乗っけている事、忘れるなよ」

 

 斉藤は笑って答えた。

 

「大丈夫だ、まかせろ」

 

 榊は何かしらの不安が残っていたが、なにはともあれ、ヘルメットのガラスを降ろし、エンジンをふかした。

 榊は少し動き、斉藤に向かって叫んだ。

 

「行くぜ!」

 

 4人は、静かな住宅街を抜け、一路、研究所に向かった。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

 山の道にはいると、途端に車の通りは無くなり、少しずつ速度が増していった。

 斉藤は初め不気味な笑いを浮かべているだけだったが、榊が気付く前に、大きな声で笑いだした。

 

「しまった!」

 

 榊が思ったときには既に遅く、斉藤は速度を上げ、カーブの続く山道をことごとく抜けて行った。

 とうとう出てしまった。斉藤の病気が。

 もうこうなると、止めることはできない。

 小回りが多い道をまるで無視するかのように斉藤はエンジンをふかして行った。

 注意し、止めようとするが、斉藤は更に速度を上げていって、とどまる事を知らない。

 榊が追いかけることは、まるで逆効果のように、斉藤の速度は増していった。

 榊の必死の追跡にも関わらず、斉藤は逃げる様に走って行く。

 既に、恐がりの菜緒を乗っけている事は、すっかり忘れている。

 速度は100kmを越え、風はぶつかって来る様に吹いてくる。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

 夜の山に、不気味な斉藤の笑い声が響く。

 街道をそれた林の中。

 菜緒が両の手を顔にあて、泣いて立っている。

 その横で、腕組をした榊と美那に見すえられ、小じんまりと斉藤は立っている。

 しばらく続くこの状態の中、近くでふくろうが鳴いていた。

 

「ホー、ホー」

「まあ、しょうがない。作戦に移るぞ」

 

 榊が暗い林の中で座ると、みんなもその場に座った。

 それを確認すると、榊は地図を胸から取り出し、みんなの前に広げた。

 バイクのライトに照らされ、地図の内容が解るようになる。

 

「最終目標は、ここの責任者に文字通り責任を取ってもらう事。おそらくここの部屋にいるが、行動中の間にこちらに逃げるだろうから、最終的にここにたどり着く道を取る」

「榊ぃー。質問」

「なんだ」

「なんで、そんなことが解る。どこ移動するかなんて、その場の気持ちだろ」

 

 榊は斉藤の目の前で指を振ってみせる。

 

「チッ、チッ、チッ。甘い。作戦の真髄は、相手がどう行動するか先を読むことにある。この場合、こちらの方が安全だし、緊急の場合、そこに行くことになっているらしい。確率は9割以上だ。俺を信用しろ。いいか? それじゃあ、作戦の説明をする」

 

 榊は地図の端を指さし、斉藤の顔を見た。

 

「斉藤はここから侵入しろ。厚さ5cmのコンクリートの壁だが……。侵入できるだろ? その後、この道を、こう通って、こちらの方に行ってくれ。最終的な場所はさっき言ったように、ここ。歩くよりちょっと遅い程度で、3時50分頃着くはずだ。3時50分という時間を気にして、ペースを考えてくれ」

 

 今度は美那と菜緒の方を向く。

 

「美那と菜緒は一緒に行動してくれ。侵入場所はここ。斉藤と逆だ。こちらは金網だそうだが、問題はないな。そして、侵入経路はこう…………そして、ここにたどり着く。時間も同じ3時50分。解った?」

 

 美那と菜緒がうなずくのを見て、榊は言葉を続けた。

 

「STARTは3時35分…………一応、陽動作戦だからおもいっきり暴れてくれ。そして、俺は敵が陽動作戦と気付かないうちに、手薄になった正面から侵入して、証拠を盗んで行く。同じ頃、そちらに行けると思うから…………それと、菜緒、美那」

 

 菜緒と美那が地図から目を離し、榊の方を見ると、榊は真剣な顔で言った。

 

「行くまでの間に、責任者をどうしたいか決めといてくれ。殺したかったら…………殺してもいいぞ。後の処置は何とかする」

 

 榊の最後の「殺してもいいぞ」の所で、美那は思わず息を飲んだ。

 本気だと言うことは声で解る。

 

「作戦の説明は以上だ。何か質問は?…………。ないな。それじゃあ、各自、配置に着け」

「りょーかい」

「解りました」

「行ってきまーす☆」

 

 各自、一言残して、暗黒の森へ走って行った。

 残った榊は、みんなが見えなくなるのを確認するとその場に寝ころび、しばらく空の星を眺めた。

 星はいつもと変わらずに輝いている。

 榊達が何をやっていようと。

 

「………いつも、変わらないな………」

 

 榊はしばらく現実を忘れた。




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