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Campus City  作者: 京夜
不屈の学園都市
2/8

第2話 AYA & SARA  第3話 制作部


 とある学園寮の一室。時刻は午前六時。

 素晴らしい快晴で、窓から差し込む光が眩しい。

 部屋は二人部屋で、二段ベッドと机が置かれ、その脇に少しだけスペースがあった。


 その僅かなスペースで、一人の少女が木刀を振っている。

 鼠色のトレーニングウェアを上下にまとい、首には赤いタオル。重そうな木刀を、まるで細い木の枝であるかのように軽々と振り回していた。

 少し男勝りのような顔立ちではあるが、優しそうな大きな瞳が印象的な少女だった。


 さて、もう一方の同居人といえば、まだ布団の中でお休み中だ。

 昨日、四十五分もの間ずっと立たされ続け、あげくの果てに貧血で倒れてしまった綾である。

 綾は知らないが、計画では実は三時間立たせ続ける予定だったそうだ。


 やがて、綾はゆっくりと目を開けた。

 まだ現状を把握できず、目の焦点が合っていない。


「あっ、起こしちゃった?」


 木刀を振っていた少女は、綾が起きたのに気づき、済まなそうに声をかけた。


「ここは……」


 綾はゆっくりと体を起こして、辺りを見回す。

 少女は部屋の隅に木刀を立てかけると、綾の方へ近付いてきた。


「初めまして。剣道部所属の柳瀬沙羅やなせさらです。よろしく」

「あ、炎城綾です。よろしく……。ええと、ここは……」

「あら、覚えてない? えっと、昨日、式の途中で倒れて担ぎ込まれたでしょう? 保健室でもよかったんだけど、朝までゆっくりさせてあげようってことで、麻酔を打ってここに運び込まれたってわけ。分かる?」


 綾はようやく昨日の出来事を思い出した。

 (そういえば昨日、四十五分も立たされたんだっけ)

 綾が理解したのを見て、沙羅はにっこり笑うと、今度は腕立て伏せを始めた。

 綾はしばらくその姿を眺めていた。


「あのー……。ちょっと聞いてもいいですか?」

「なーに?」

「なぜ皆、自己紹介のときに自分の所属している部の名前を言うんですか?」


 沙羅は腕立て伏せを続けながら答えた。


「ここの学校はね、クラスよりもクラブ単位で行動するの。だから一年B組とか言わずに、何部所属かっていうわけ」

「そうなんですか……」


 きっかり三十回やり終えると、沙羅は立ち上がって机の方へ歩いていった。


「忘れてたわ。はいっ、プレゼント!」


 沙羅は机の上にあった山ほどの花束を綾に渡した。

 薔薇、百合、鈴蘭。赤や黄色や青の花々が、そこだけ一遍に春が来たかのように咲き誇っている。


「わあ……」


 花束の真ん中にカードが添えられていた。

 綾はそれを取り上げる。


  親愛なる綾よ。

  せっかく歓迎式典を設けたんだが、かえって悪かったようだね。

  また用事で当分会えんが、同室の柳瀬に色々聞いて、仲良くやってくれ。

  昨日はすまんかった。


    北村 啓治


 叔父からの手紙だった。

 もう少し話がしたかったなと思いつつ、綾はそのカードを元の場所に戻した。


「今日は日曜だから授業はないけど、クラスはF-2よ」

「F-2?」

「そう、F館の二番目の教室のこと。同じクラスだから、明日教えてあげる」


 沙羅はいつの間にか着替えると、ドアの方へ歩いていく。


「これからちょっと朝練に行ってきます! 今日の案内は御影君が来てくれるはずだから……じゃあ、いってきます!」


 ドアがパタンと閉められ、再び静寂が戻った。

 (元気な人だな……)

 まだ薬の効果が残っているのか、ぼんやりとした頭を振りながら、綾は着替えるために温かな布団から這い出した。




第3話 制作部


 その頃、御影はバイクで北の方にある大きな校舎に向かっていた。

 校舎の前でバイクを止めると、御影は『制作部』と書かれたドアを叩く。鍵はかかっていなかった。


 ドアを開けると、中は教室ぐらいの広さの部屋だった。

 天井の高窓から朝日が差し込み、部屋は案外明るい。

 中には所狭しと様々な機械が置かれていた。ICやLSIの入った基板。R2-D2らしきロボット、メーヴェ、果てはレーザーソードまである。ほとんど歩ける場所がない。

 御影は慎重に中へ入り、ドアを閉めた。


「あら、せーくんじゃない」


 部屋の真ん中で、少女が何やら立ったまま作業をしていた。

 清潔感のある白いコートをまとい、学者とは思えないほどまだ若い。二本の試験管を持っているところを見ると、何か薬品を調合しているようだ。


「おっ、美那か。早いな」

「徹夜よ、て・つ・や。あのアホ部長がやれっていうの。ところでせーくん、今度の編入者の子守、頼まれたんだってねぇ。結構な美人だから嬉しいんじゃない?」


 美那の揶揄うような言葉に、御影はそっぽを向く。


「別に。興味ねぇ」

「またまた、そんなこと言ってぇ。これ、欲しい?」


 美那は近くに置いてあった小瓶を取り出した。


「なんだ?」

「媚薬」

「そんなもんいるか!」

「じゃあ麻酔薬?」

「いらんちゅーとるが!」

「せっかく親切で言ってるのに……」


 美那は膨れっ面になった。


「おまえの親切は質が悪い」

「御影君が欲しいのはこれよね」


 今度は奥の方から声がした。

 美那とそっくりの少女だった。だが、髪の長さが違う。あちらは腰まで届くほどのロングヘアー、こちらはセミロング。しかし、それ以外は本当に似ている。

 それもそのはず、実はこの二人、一卵性の姉妹なのである。

 ただ、性格は少し違う。姉の美那は今ので分かるように、少し変わっている。妹の菜緒の方が、いくらかまともだ。

 しかし、さすがは姉妹。実は妹にはもっと凄い性格が隠されているのだが、それはまた次の機会に。


 菜緒は白いプラスチックらしき物でできた肘当てをちらつかせた。


「そう、それだ。投げてくれ」

「じゃあ、いくわよー…………はいっ!」


 菜緒がそのプラスチックを投げる。

 それは大きな弧を描き、御影の元へ飛んできた。

 すかさずキャッチする。


「ナイスッ!」

「サンクス。……ところで、アホ部長は?」


 御影は服の下にすかさずそれを装備しながら聞いた。

 美那は、いかにも具合悪そうな顔をして、奥の扉を指差す。


「今、会わない方がいいわよ。硫酸をかけられても文句の言えない雰囲気」

「またか……」


 御影は呟きながら、服を元に戻す。


「一応、あとで来たことは伝えておいてあげようか?」

「……そうだな、その方がいい」


 御影は具合を確かめるように腕を回すと、ドアの方へ歩いていった。


「それじゃ、後で炎城さんを連れてくるから」

「あっ、本当? それじゃあ、歓迎するから楽しみにしてて、って言っといて!」


 この時、綾と御影の背中に同時に悪寒が走ったのを、美那は知る由もなかった。


「何かしら、今の……。風邪ひいたかな……」

「できたらやめてほしいような……」


 御影は一言残して外に出た。

 そして先ほどのバイクに乗り、エンジンをふかす。

 エンジンが軽く安定すると、まだ冷たい風を切りながら、遠くにある女子寮に向かって走り出した。

 美那の「歓迎」という、一抹の不安を残して……。



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