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Campus City  作者: 京夜
外伝「榊と斉藤」
19/23

第2話 4人組



「また、失敗ですってね………」


 生徒会室---


 榊はいつもの席に座り、いつものように風紀委員長の中国美里の意地の悪い説教を受けていた。

 結構、美人なのだが、その背の高さと迫力は、はっきり言ってあの榊をも圧倒していた。


「今回も運よく、斉藤君は無事でしたが………こんなに失敗を重ねていたら、いつ怪我をするか解らないし、周りの人にも被害がでますし……………こら! 逃げるな!」


 いつのまにか、逃げようとしていた榊の衿を捕まえると、美里は榊を元の席まで引きずって行った。

 再び座り直した榊に、美里は真正面からにらみつける。


「いいですか! 会長。いくら校長が認可しているとは言え、屋上から飛び降りるなんて、馬鹿な真似はよして下さい!」


 一言大声で言い、美里は机を大きく“バン!”と叩いた。

 いつものパターンである。

 この机を叩くのが終了の合図を示す。

 肩で息をしている美里は、一度、深呼吸をすると、髪を後ろにはらった。

 そして、榊に一礼すると、くるりと反転し、扉の方に歩いて行き、出て行こうとした。

 榊はやっと一息つき、となりでくすくす笑っている書記の女の子に声をかけた。


「委員長、ここで欲求不満解消してるんでない?」


 書記は、思わず吹き出してしまった。

 それをめざとく聞きつけた美里は、出て行き際に叫んだ。


「もう少し、真面目になりなさい!」


 そして、いきおいよくドアは閉められた。

 一瞬だけ静かになる。

 榊は再度、安堵の息を漏らした。


「やっと、おわったー………さて」


 榊は立ち上がり、爽やかな顔で伸びをすると、机を飛び越え外に出ていこうとした。


「会長! もうすぐ、会議ですけど」


 書記が榊を呼び止めるが、榊は一言残して出て行ってしまった。


「ぱす」


「やめて! 徹君! だめよ!」


 保健室から色っぽい叫び声が聞こえた。

 おもわず、横を通っていた男二人組の足が止まる。


「いや! やめて! お願い! じっとしてて!」


 何かドタバタと騒ぐ音と共に、再び叫び声が聞こえる。

 保険室。男女二人だけ。そして、女性の叫び声。とくれば…………。

 二人組の男は共に真剣な顔で、顔を向き合わせた。

 そして、何かを合図するかのように、こっくりとうなずき合う。

 二人の意見は同じだった。

 何か怪しげな声のする保健室のドアを勢いよく開け、


「何をしている!」


 などとは、やるはずがない。

 二人とも、こっそりドアに耳をあて、後の展開を待ち望んだ。


「ちょっと! だめよ!」


 再び声がすると、二人はますます耳を近付けた。

 誰かがベッドに倒れた音がした!


 そして、まるで見計らった様にドアがいきおい良く開いた。

 ドアにへばりついていた二人の結果は勿論、解るだろう。

 中から出てきたのは、包帯だらけの斉藤だった。


「だめよ! 徹君! まだ、治療もすんでないのよ!」


 斉藤が出て行った後、保健室の先生らしき人が飛び出した。

 先生は髪を振り乱し、片手にほどけた包帯を持っていた。


「なんの! これしき、ほっとけば治る! はっはっはっ!」


 不気味な笑い声を残しながら、斉藤は早足で廊下を通って行く。


「受け取れ!」


 ひとこと言うと、斉藤はマントを宙に投げるがごとく、包帯をほどき、宙に投げ捨てた。

 包帯の縄がほどけていき、廊下に白い壁を作る。

 その壁にまぎれる様に、斉藤は消えて行った。


「はっはっはっ、また会おう!」

「何が、また会おう、よ! 待ちなさい!」


 斉藤は、角を曲がり、消えてしまった。

 後に残ったのは、斉藤の笑い声と、ねーちゃんのじたんだを踏む声と、二つの男の死体だけだった。


 榊はさっそうと廊下を歩いている。

 時々、女子がキャッキャ言っているが、そんな事を気にする男ではない。

 榊も斉藤のように廊下を早足で通って行った。

 斉藤は、古くさい木のたて札を見ると、そのドアの中に入って行った。

 榊は5分遅れて、斉藤の高らかな笑い声のする、その同じ部屋に入った。

 その、ほとんど落ちそうな木のたて札には、こう書いてあった。


「制作部」


 いつも問題を起こしている、名物クラブ。

 そして、あの斉藤と榊が入っているクラブ。

 それが、この制作部だった。


 部員は4人。

 部長  斉藤徹。自称、世界一のマッドサイエンティスト。

 副部長 榊健司。他称、完璧生徒会長。また、このクラブに入っているのは、単なる過ちという説も………

 会計 芹沢美那。自称、濃硫酸とたわむれる女。

 書記 芹沢菜緒。自称、機械と遊ぼうピンポンパン。


 この4人によって、このクラブは成り立っていた。

 榊は“笑い声が聞こえている間、立入禁止”のたて札にも関わらず、ドアを開け中に入った。

 榊が中に入ると、急に笑い声がとまり、暗闇の中、何かがきらりと光り、榊の顔めがけて飛んできた。

 試験管だった。

 榊はそれを片手で受け止めると、またすぐに同じ物が飛んできた。

 次から次に飛んでくる試験管を受け止め、榊は机の上に置いていった。

 おそろしい反射神経である。


「おい、斉藤。おれだ、おれ。榊だ」


 榊は試験管の飛んで来た、部屋の奥に声をかけた。

 すると、ぴたっと試験管が飛んでくるのが止った。

 そして、スタンドの赤い光に照らされ、斉藤の顔が闇夜にぬっと現れた。

 はっきり言って、不気味以外の何物でもない。


「なんだ、榊か………そこら辺にでもすわっとれ………」

「おい、斉藤。すわるったって、座る場所がないぜ………」


 確かに、何か怪しげな物が散乱している上に暗闇のため、座る場所など見あたらない。


「いちいちうるさい男だな………目の前に椅子があるだろう」


 良く見ると、確かに目の前には椅子があった。が、ほとんど壊れかけ、とても座れる物ではなかった。

 榊はしばらくその椅子を眺めると、呟く様に言った。


「たっている……」

「そうか」


 斉藤はまた何かをし始めた。

 榊は何かを探すように周りを見渡した。


「美那ちゃんと菜緒ちゃんがいないみたいだけど………」

「どっかに行った……」

「おい、斉藤。ほとんどいない部員を更に少なくする気か。これ以上少なくなると、委員長が廃部を言い出すぜ」


 斉藤はしばらく黙り、ゆっくりした口調で答えた。


「あの、女か………だまらしとけ………」


 榊はやれやれと思って、ため息をつくと、また斉藤の笑い声が部屋に響き始めた。


「くっくっくっ…………」


 不気味な笑い声を聞きながら榊はため息を漏らした。


「また、集中し始めたか………」


 斉藤の病気である。

 一度、自己の世界に入ると、なかなか元に戻せない。

 戻そうと思うと、濃硫酸の入った試験管である。

 榊はあきらめて、近くにあった物をいじくりだした。

 すると、またいきおいよく、ドアが開いた。

 斉藤はさっと振り向き、すわった目のまま試験管を投げようとした。

 榊はいつものように斉藤の耳元に口を近付け、叫んだ。


「やめーーーーーい!」


 斉藤が試験管を投げるより一瞬早く、榊の言葉が斉藤の動きを止める。

 榊は斉藤の動きを止めたのを確認すると、ドアの方を見た。

 ドアを開けた人を見ると榊は気の抜けた声で言った。


「あれ、由岐ちゃん。どったの」


 ドアをあけたのは、書記の岡田由岐だった。

 由岐は髪を振り乱し、随分と焦っていた。

 由岐は頬の汗も拭わず、叫んだ。


「会長! 何してるんですか。芹沢さん達の御両親が交通事故よ!」

「なに!」

「なんだって!」

「事故よ! 美那さんと菜緒さんはもう先に病院に行ったわ。大学病院よ。付添いに行ってやって!」

「承知」


 そのまま走って出て行った由岐を追って、榊も出て行こうとした。

 その出て行こうとした榊の衿を、斉藤はむんずと掴む。

 榊の足がぴたりと止まる。


「何をする、斉藤」

「もちろん、病院にいく」

「バイクなら、あっち」

「いや、あんなもんはいらん」


 斉藤は榊を奥の部屋に連れ込んだ。

 真っ暗の奥の部屋に入ると、斉藤は電気をつけた。

 すると、部屋が明るくなり、棚の陳列してある倉庫らしき部屋の中央に何かの乗り物らしき物が現れた。

 黒くペイントされた車。

 しかしそれには、あるはずの車輪がなかった。

 暗い電灯に照らされ、車は不気味な黒光りを見せていた。

 榊は一歩あとずさる。


「まさか………」

「そのまさかだよ。榊君……これぞ、世紀の大発明!」


 斉藤は大げさに手を開いてみせた。

 顔には慢心の笑み。


「物質瞬間移動装置。その名も……」


 斉藤は出し惜しみでもするかの様に、ワンテンポおく。

 そして、叫んだ。


「テレ太君だ!」


 一瞬の沈黙。


「あんまり、ぱっとせん名前だな………」

「えーい、うるさい! さっさと乗らんか」

「俺がか?!」

「他に誰がいる」

「一つ聞きたいけど………」

「何だ?」

「実験では成功したのか?」

「なんだ、そんなことか」


 斉藤は自慢げに、自分の胸を叩いた。


「君が、その第一号となる……………おい! こら! どこに行く!」


 榊はじたばた騒ぎ、逃げようとした。


「おい、斉藤! 自分の失敗する確率を述べてみよ!」

「93.853%」

「正解。じゃあ、俺がこれに乗って生き残れる可能性は?!」

「1%も無いだろう」

「わかってるなら、乗せるな!」


 榊は出て行こうとしたが、再び、斉藤に手をつかまれる。


「安心しろ! 今回は大丈夫だ!」

「なっ、なら、自分で乗ってみろ!」


 榊が危機迫った声で言うと、斉藤の動きがぴたっと止まり、斉藤はしばらくその機械を眺めた。

 すると、急に方向をかえ、ドアの方向へ歩き出した。


「バイクで行こうか」




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