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Campus City  作者: 京夜
外伝 「柳瀬沙羅」
17/20

柳瀬沙羅 後編

 それから、二人の会う時間は剣道の時間となった。

 沙羅の剣道の上達は早く、半年もすると、小学生の大会ぐらいならどうにかなる程度の腕前となった。

 そして、ぴったり一年後、二人は桜井達3人に喧嘩を挑み、見事勝った。

 その時、沙羅もしっかり一人倒した。



 そして、現在----

 沙羅も17になり、髪も伸び、魅力的な女性となった。

 その沙羅はいま、東京の郊外に建っているあるマンションの3階にきていた。

 田舎と言うわけではないが、静かないい所だった。

 沙羅は楯の入った箱と、賞状の入った筒と、竹刀を持ってドアの前に立っていた。


 藤神 遼

 渚

 庸助


 と書いた名札を確かめると、沙羅はドアを軽く叩いた。

 すぐに中から返事がくる。


「はい!」


 2秒も待つと赤い鉄のドアが開けられ、中からエプロン姿の20ぐらいの女性が出てきた。

 沙羅は軽く頭を下げた。


「お久しぶり。渚姉さん」

「あらー、沙羅ちゃん。どうしたの。お久しぶり」


 沙羅はちょっと中をうかがった。


「お兄ちゃんいますか?」

「いるわよー。さー、入って、入って」


 渚は沙羅を中にいれ、一人先に家の奥に入って行った。


「ちょっと、あなた。沙羅ちゃんよ!」

「おっ、本当か?」


 遠くからこう聞こえると、土間に立っている沙羅の所に遼がやってきた。

 浴衣姿である。多分寝ていたのだろう。


「沙羅、久しぶりだなー。おい、そんなとこ立っていないで、中はいれ、中」

「それじゃあ、失礼します」


 沙羅は遠慮がちに靴を脱ぎ、中に入った。


「そんな、他人行儀になるなよ。血はつながってちゃあいないけど、兄妹だと言ったろ?」


 遼は中に入って行き、応接間に沙羅をよんだ。

 応接間と行ってもたいしたことはない。

 8畳ぐらいの所に低い机と、座布団と、TVがあるだけだった。

 遼は唯一、背もたれのある座布団に座った。


「まあ、好きなところに座れ」


 遼がすすめると、沙羅は横に座った。

 ちょうどその頃、渚が1才になる子供を抱いて、沙羅の向かいの席に座った。

 赤ちゃんはだーだーと言って喜んでいる。

 3人はしばらく、その赤ちゃんを見ていたが、遼が口を開いた。


「沙羅、今日はどうしたんだ。いきなり」


 沙羅は真面目な表情で遼を見た。


「ちょっと、真面目なことなんだけど……」

「ふむ」


 遼がうなずくと、沙羅は机の横のあいている所に座りなおした。

 遼もそれにならって移動し、沙羅と向かい合った。

 沙羅は、姿勢よく正座していた。

 その沙羅の長い髪は畳について、整然とした雰囲気を漂わせていた。

 横に箱と筒と竹刀が置いてある。

 遼も浴衣を閉めなおし、姿勢を正した。


「いいぞ」


 遼が言うと、沙羅は横に置いてあった箱から楯を取り出し、前におき、筒から賞状を出し、同じ様に前に出した。

 そして、最後に竹刀を出す。

 そして、指を揃え、深々とお辞儀した。


「昔、剣道を教えてもらったおかげで、今日、インターハイで優勝することができました。これが、その賞状と楯と、その時使った竹刀です。どうぞ、もらってください」


 沙羅は伏せたまま、言った。

 遼は少し間を置いて、きっぱりと言った。


「沙羅、そんな事気にしないで、持っていなさい。その賞状は、お前の努力の証であって、決して僕がもらうべきものではない」


 沙羅が顔をあげた。

 すると、そこに赤ちゃんの庸助が横から抱きついてきた。

 沙羅は庸助をだっこし、笑顔で庸助を見た。


「それだけじゃ…………ないんです」


 沙羅は視線を遼に戻した。


「この子が大きくなったら、『体の弱い女の子がいて、その子が一生懸命、剣道を習ったときに使った剣だよ』って言って、この竹刀を渡して欲しいんです。そして、賞状と楯を見て、私の事を時々でも思い出して欲しいんです。厚かましいとは、分かっているんですけど、お願いします…………」


 沙羅は再び、深くお辞儀をした。

 しばらく遼は黙っていたが、やがて笑顔になり、言った。


「そういうことなら、有難くもらおう」


 沙羅も顔をあげ、笑顔で答えた。

 沙羅は、安心したという表情を浮かべ、一呼吸した。


「それじゃあ…………、優勝できるかどうか分からなかったので、いきなり来てすみませんでした」


 沙羅は立ち上がった。


「なんだ。もう帰るのか」

「はい……友達が………………待っているので……」


 遼も立ち上がった。


「いい…………友達か?」


 遼が聞くと、沙羅は顔をほんのりと赤く染め、少し恥ずかしそうな顔をした。


「すごく……いい…………友達です」


 土間の方に4人全員行った。

 沙羅は靴をはき、ドアを開けた。


「それじゃあ」


 沙羅は軽く礼をすると、出て行こうとした。

 そこに遼が声をかけた。


「沙羅、またいつでも来いよ。ここは、お前の家なんだから」


 沙羅は立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。

 小さな頃の少女の面影を残した、今までの中で、最もいい笑顔をして…………



 陽光の差し込む、マンションの玄関先にて-----


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