第14話 出撃 第15話 突撃
生徒会室には、今や100人近い人が集まっていた。
勿論、各部の部長もしくは副部長が集まっているのだ。
各自、自分のクラブの格好をし、さながら仮装パーティーの様なにぎわいだった。
剣道着を着た、剣道部部長の沙羅。
白いコートを着た、制作部部長の斉藤もいる。
外にも、いろいろな運動部や、ほとんど危ない格好をした学芸部の連中もいた。
自分のクラブばかりに没頭する人が多く、皆有名人でお互いの名前は知っていても、
会ったことがないという人が多く、さながら雑談会と化していた。
今、演劇部の部長をやっているあの少女が、さっきの服のままで入ってきた。
青の服の上に、血糊がべったり付いていた。
「さて、皆さんお集まりのようですから、各自席に座ってください」
特技の大きな声で、榊は言った。
みんなは話をやめ、座りだした。
一分もたたないうちに、部屋は水を打ったように静かになる。
「では、会議を始めますが、事は急を要するので、各自そのことをよく覚えておいてください。いいですね。じゃあ、由岐。説明してくれ」
書記の由岐が立つ。
ブレザーの学生服を着て、手には数枚の紙を持っていた。
髪は少し短くしていて、ちょっとボーイッシュな少女だった。
背が少し低いためか、少女は姿勢よく立っていた。
「では、今までに分かっている情報から言います」
小さな体とは対照的に、ハッキリした声で話し始めた。
「今回の事件の原因は、校長とそのライバルと言われている、<喜多川一郎>両氏の喧嘩と思われます。知っている方も多いと思われますが、この二人は大学の学友で卒業後はともに起業して経済界で活躍し、世界で有数の資産家となりました。しかし、統計上から見てみますと、ほとんどこの喜多川氏は校長より勝った事がないようです。それが原因らしく、2年に一度くらいの割合で、何らかの形で喜多川氏は勝負を挑んできます。それが今回の事件の原因とみられます。次は、事件の説明に移ります」
と言うと、部屋が暗くなり、榊の後ろの壁から大きなテレビが出てきて、綾と誘拐した二人の映像が流れた。
ちょうど、正門の所にある、小さな扉の所である。
「よくは分かりませんが、炎城さんはこの二人を助けようとして逆に誘拐された模様です」そのあと、二人の顔とプロフィールが出てきた。
「プロフィールです」
そして、喜多川一郎氏の映像とプロフィールが出てきた。
「これがその喜多川氏のプロフィールです。各自後で紙を配りますので、目を通しておいてください」
そして、うっそうとした森の映像に変わる。
そして少しずつ、大きな屋敷が現れる。
「この映像は、飛行部によるSR-71〈ブラックバード〉の高空映像です。これは、今回炎城さんが誘拐され、留置されているだろうと思われる場所です」
やがて、屋敷が画面いっぱいに写った所で映像が止まった。
「ここは、喜多川氏の私兵の訓練所だった所で、最近真ん中に見えます、ドイツのゴシック式のような建物が作られました。おそらく、この中に閉じ込められているのでしょう」
今度は超低空から撮った、屋敷の側面を見る写真に代わった。
その屋敷を簡単に説明すると、ディズニーランドにある真ん中の高い屋敷を思い出してくれればいいと思う。
とげとげしい、お城という感じである。
そして部屋が明るくなった。
「以上、結果報告は終わります」
由岐は席に座った。
すると今度は副会長の中国美里が立ち上がった。
長い髪を後ろにはらい、少し笑みを浮かべ、長身の美少女が話し始めた。
「では、今度は、戦略部と情報部と生徒会による作戦会議の結果を報告します」
さて、そのころ御影達は、榊達からの連絡があり、綾の救出の方を頼むと言われ、4人で危ない作戦会議を話し合っていた。
(なにせ、あの御影と美那と菜緒である。まともなはずがない)
報告を聞きながら、榊は心の中でそうつぶやいた。
第15話 突撃
山の中。
4人は小高い丘の上にいた。
ちょうどそこからは、あの屋敷の全貌が望める。
美那はワゴンの上で、望遠鏡を使って中を調べていた。
簡単に屋敷の説明をするとこうである。
周りが山に囲まれた盆地で、広さは野球場よりちょっと大きいぐらいであろうか。
城のような屋敷を中心として、平地、森、塀の順とした円形を取っている。
他には、ここから向かって屋敷の右と左に、兵舎があり、その前に訓練場らしきフィールドがある。
そしてその後ろに空港。
そして、ここを一言で言うと、要塞のような感じがした。
「すっごい数……」
美那は呆れたように言った。
「5000人くらいはいるみたいね…………」
御影も同じように上に登ってきた。
「ちょっと貸して」
「ん」
御影も望遠鏡を覗いた。
「すごい人でしょう」
「…………」
御影は答えない。
望遠鏡が左から右へ、少しずつ動く。
そして、止まる。
「よし」
御影は望遠鏡を美那に渡し、腰につけていた手榴弾を一個取った。
「菜緒。俺が車の中に入ったらすぐ、あの屋敷の裏に回ってくれ」
「了解」
下から菜緒の声が聞こえると、御影は立ち上がった。
「なにすんの?」
美那は不思議そうに聞いた。
「まあ、見てな」
御影は手榴弾のレバーを握り、安全ピンを口に加えて、抜いた。
そして、大きく振りかぶり、投げた。
風を切る、ブンという音がする。
手榴弾の行方はスピードが早すぎて分からなかった。
ただ投げたときのすさまじい風を切る音からすると、かなり遠いことは確かである。
「ふぁー、なんちゅう強肩……」
「さて、行くぜ」
御影は降りて車の中に入った。
その時、屋敷の左の塀で大爆発が起こった。
勿論御影の投げた物のせいであるが、ここからそこまで、軽く2kmはあった。
「きゃっ!」
車が突然動きだしたため、美那は体勢を崩して、屋根から落ちそうになった。
「降りる時間くらい頂戴よー……」
美那は風で舞う髪をはらいながら、滑り込むように車の中に入った。
学園内 飛行場 -----
「おーい、動かせる奴全部出してまえー!」
一条がかなり広いドッグの中で、飛行機のジェット音に負けないぐらい大きな声で指示を出していた。
「ぶっちょー。ガンシップや零戦みたいな骨董品とか、試験機種のFZ-11Rはどうしますかぁー?」
「目的地に行けりゃ充分だ。ところで今何機ぐらい出せる?」
「えーと、62機です」
「定員は?」
「245人が限界です」
「よし上等。すべてAll Green状態にしとけ」
「りょーかい」
運動場 ----
ここでは、沖が指揮を取っていた。
「部長ぉー、戦車も出すんですかー?」
「何か不都合でもあるのか?」
「いや、それで町を走ると、戦争と勘違いする人がいるんじゃないかと……」
「そりゃ、そうだ」
「じゃあ、止めますか?」
「とんでもない、新聞部に行って、街に知らせるよう言ってくれ」
「はあ…………」
沖に遠慮という言葉はなかった。
調理室 ---
体育館より広い調理場も戦場と化していた。
この学園の食料はすべてここで作られる。
しかも、おばちゃんの味も素っ気もない物ではない。
料理の作れる人が、一人一個ずつ作る、愛のこもったものである。
しかし、今は大変な騒ぎであった。
ともかく料理の出来る女子、全てを使って、2000人分の弁当を作っていた。
「こりゃー! そこ! 怠けるんじゃない!」
今日も、部長の情け容赦のない声が場内に響く。
生徒会室 ----
「それじゃ、美里。後頼む」
「それは、いいけど……」
「……? 何だ?」
「ドアから出て行かないの? ここ3階よ」
榊は、窓の縁に足をかけ、今にも飛び降りそうな格好をしていた。
「めんどくさい。じゃあな」
榊は飛び降りた。
運動場 正門前 先頭集団 ----
「おっ、榊。遅かったな」
先頭の情報部用の装甲車に乗った榊に、未杉が声をかけた。
榊は、頭をおさえていた。
「……? どうした?」
「着地に失敗した…………」
その時、前から、少しかん高い少女の声がした。
「準備、全て整いました!」
未杉は持っていたマイクを、榊に渡した。
榊は、頭を抑えるのを止め、マイクのスイッチを入れ、号令をかけた。
「出発!」
車・戦車 385台 バイク 263台 トラック・トレーラー類 32台
航空機 61機 その他 5
その光景を、街の連中がどう取ったか、知るはずもない。