第13話 綾の行き先
御影たち4人は、ワゴンに乗って出発した。
運転は美那である。
車は学園を出て、町に続く一本道を通っていた。
車の中では、情報部にあるコンピューターの<YURA>と交信はできないかという御影の注文により、菜緒がいろいろ改造していた。
ラジオを引き出し、途中の回線経路につなぎ、そのコード線を阿修伽の情報処理の回路につなぐという芸当を、菜緒は10分でやってのけた。
「よく、そんな事ができるな……」
御影は感嘆した。
御影は頭が悪い方ではない。
いやむしろ良いと言った方がよいくらいである。
一度、見聞きした事は忘れないのである。
しかし、勉強は好まず、授業でやったことのみ憶えているだけである。
それに加えて機械も好まない。
だからせっかく制作部が重装強化服などをつくっても、着ることはない。
むしろ、ナイフや剣などの方が喜ぶ。
さて、無線にのせ、阿修伽がBIG COMPUTER <YURA>に侵入し始めた。
「パスワードって聞いてますけど、どなたか知りませんか?」
阿修伽が聞いてきた。
「M・I・S・U・G・I」
御影が答える。
「解りました。コンタクトします」
阿修伽は目をつぶり、交信し始めた。
「MISUGIって……。」
菜緒が聞いた。
「そう、あいつ部長になったら、いきなり自分の名前をパスワードにしやがったんだ」
未杉君は、見かけによらず目立ちたがり屋だった。
「何の情報を引き出すのですか?」
「喜多川関係の資料。最初は綾さんの誘拐先になりそうなところを割り出して欲しい」
「解りました……」
生徒会室 ----
「ゆきちゃん。ちょっとあの男の様子を映像に出してくれないかな?」
榊はちょっとボーイッシュな格好をしている、髪の短い女の子に言った。
書記の岡田由岐である。
由岐と呼ばれたその女の子は、手前にあるコンピューターを操作し始めた。
「今出ます」
と言うと、榊の机からテレビが出てき、何やら映像が出て来た。
病院の手術室 ----
中は消毒液の独特の臭いがした。
青い部屋の中に、3人いた。
一人は脈拍などを調べる機械の前。一人は台の前。
そしてもう一人は、台の上…………
そうあの男である。
未杉は部屋が覗けるマジックミラーの後ろにいた。
台の前の男 --- 演劇部の副部長をやっている男であるが、今、やってきた男を切り開いていた。
ちょうどその時、男が起きた。
「なんだ? ここは……」
男は周りを見回したが意味が解らなかった。
てっきり拷問室にでも運ばれるもんだと思っていたのである。
部屋は青く、少し暗かった。
男は首しか動かすことができず、不自由ながら周りを見た。
そして自分を見た。
布が壁になっているため見えないが、自分の腹を何かしているのだけは解った。
男は青くなった。
「起きましたか」
台の前の男がぼそりと言った。
ひ弱そうな声であった。
男は必死に自分の腹を見ようとした。
見たくはないが、何をされているか知りたかった。
しかし体は動かない。
反抗することさえも出来なかった。
「動かないで下さいよ。内臓が出てきちゃいますよ」
台の前の男は、恐ろしいことをさらりと言った。
「自分の小腸って見た事ありますか? 今見せてあげますからね……」
男は血のついた小腸の一部を持ち上げてみせた。
男は目をつぶりたかったが、つぶれなかった。
恐いもの見たさのような物であろうか。
ただひたすらに、自分の腸を見ているしかなかった。
「先生! もうよして下さい! 血圧がどんどん下がってます!!」
機械の前に立っていた少女が言った。
青い布地の服を着、帽子とマスクをしていた。
この少女こそが、演劇部の部長である。
「かまわん。別に死んだってよかろう」
「でも、情報が……」
二人は非情な会話をした。
唯一まともな事を言ってくれた少女も、実は情報のためだと知って、男はさらに青くなった。
そして、狂った。
「狂ってる。狂ってやがる。だ、だれか助けてくれー! 何でも話すから! どうか……」
最後はすすり泣きに変わっていた。
男はだまされている事に、全く気づいていない。
腹を裂く話も、脈拍の話も全くの嘘である。いや劇と言った方がいいだろう。
未杉は鏡ごしに笑っていた。
「うまいなー。あの二人。今度の劇、見に行こっ」
ワゴン内 ----
「今情報が入りました。行き先はこの町から北20kmほど離れた所です」
阿修伽が言った。
御影はそれを聞いて驚いた。
「もう調べた奴がいるのか……」
「ということは」
御影と菜緒が顔を見合わせる。
「榊が動くな」
御影が言うと、二人は笑った。
「久しぶりに、学園が動くぞ!」