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Campus City  作者: 京夜
不屈の学園都市
11/33

第12話 榊




 情報部部室 ----


「あれ、御影さんじゃ……」


 第二校舎 廊下 ---


「御影が?」


 生徒会室 ----


「暴走したか」

「目、真っ赤にしてたって」


 男はいかにも楽しそうな顔で、時計と話していた。

 顔が異様に整っている。

 と言っても、女のような顔でもない。

 まして、いかつい顔でもない。

 もしこの男に合ったのなら、男であろうと、ついて行きたくなるような、そんな顔をしていた。

 この男が、この学園の生徒会長の榊健司さかきけんじである。


 この男が動き出すことは、学園が動き出すことを意味する。


「そうさせた男に同情するよ……」

「まったく」

「さて、なぜそうなったか調べてくれないか? 未杉」

「よっしゃ。と言いたいところだが、もう解っている」

「ほー、相変わらず速いな」

「というか、証拠が転がり込んで来たらしい。いまから連れて行く」


 と言って通信は切れた。


「証拠?」


 榊はふかふかの大きな椅子に、どっしりと座り、未杉の言った意味を考えた。

 1分で未杉はやってきた。


「これが、その証拠です」


 未杉の言うその証拠は引きずられていた。


「ほら立て」


 未杉は黒ずくめの男を無理やり立たせた。

 可哀想に、手を握られたまま、未杉に走られたのだろう。

 100mを9秒で走る未杉である。男は半死半生であった。


「疲れてらっしゃるようだから、椅子にでも腰掛けさせてやって」


 榊は冗談半分に言った。


「……お前……、人間か?」


 息も途切れ途切れに言った。

 榊は未杉を見る。

 未杉は舌を出して、しらんぷりをした。


「さて、未杉。証拠ってどういう意味だ?」


 榊は未杉に言ったが、未杉が答えるより速く男が言い出した。


「校長は……。いないのか?」

「今は、ニューヨークだ。用件は僕が代わりに聞こう」


 榊がそう言うと、男は立ち上がり、にやっと笑った。


「おまえの姪の炎城綾はあずかった。取り返せるもんなら、3日以内に、取り返してみろ」


 男は憎らしげに言った。

 榊は顎に手をあて、じっと男を見た。


「お前…………喜多川の所の者だろう」


 男は少なからず驚いた。

 なぜなら、一度もこの男には会ったこともない。

 それに、第一、名前がばれないように新人を差し向けたのに、あっさり見破られてしまったのである。


「そうだ」


 男は結構あっさりと白状した。


「つまり、またか……」


 未杉と男は、榊が今言った意味が解らなかった。


「どういう意味だい? またって」


 榊は手を額に当て、落ち込んでいた。


「しょーこりもなく、あのおっさんは」


 榊はぶつぶつ文句を言い始めた。


「その喜多川って言うおっさんな、うちの校長のライバルらしくって、何かにつけそのおっさん勝負しかけてくるらしい。校長が毎日のように愚痴を言っていた」


 未杉と男は理解した。


「おれも一度そのおっさんにお世話になったことがある」


 榊は落ち込んだ様子を見せた。

 何か過去に嫌なことがあったのだろう。


「それで、期限は3日か……」


 榊は再び考え出したが、やがて迫力のある低い声で言った。


「よし、受けて立とう」


 男はにやっと笑った。

 勝算があるのだろう。


「さてと、何はともあれ、どこに綾さんが連れられたかだな。未杉」


 榊は因縁、疑惑付きというような目で未杉に合図した。

 男の背中に悪寒が走り、逃げようとした時にはもう遅かった。

 未杉はウィンクし返すと、男の後頭部をこんと叩き、気絶させた。


「せっかくの<証拠>ですから。しっかり絞ってきます」

「演劇部にでも手伝ってもらえ」


 榊は男を引きずって出ていく未杉に言った。


「さて……では、忙しくなるぞ。美里!」

「何でしょうか」


 榊は、女生徒会長のような、髪の長い、気の強そうな女性を呼んだ。

 この学園の副会長をやっている、中国美里なかぐにみさとである。

 背が高く、榊と並んだら、なかなか似合いそうな美少女である。


「放送部とつないで、このマイクを、学園全域に放送が伝えられるようにしてくれ」


 美里は全ての人と交信し、全ての人に命令をするのが役目である。


「やるんですか…………。解りました」


 美里は手元のコンソールを叩き始めた。

 この部屋の状況を話し忘れていたが、大きさ少し広めの会議室と言ったところか。

 中には、机が円形に並べられてあり、そのちょうど一番奥に当たるところに榊が座っている。

 そしてその左に副会長が。

 その右に会計、書記の順に座っていた。

 会計は勿論お金関係。

 書記は、情報の出し入れと言ったところを仕事としている。


「会長、張り切るのはいいんですけど……」


 大きな丸い眼鏡を掛けた少し小さめのかわいい女の子が榊に紙を出した。

 会計の中条裕美なかじょうゆみである。


「なんだ、今月の支出の分じゃないか」


 榊は紙を取って見た。


「よく見て下さい。これでまだ、半月なんです」


 裕美は眼鏡を外しながら言った。


「そういえば…………何でだ?」

「その炎城さんの歓迎式典です。会長」

「そう言えば、そうだな」

「今回はあまり大きくやれませんよ」


 裕美は榊に釘を打ち込んだつもりだったが、逆に榊はかすかに笑った。


「これがいつもならな。だが、今回誘拐された人は誰だ? 校長のたった一人の血のつながりのある子だぞ。どれだけお金をかけても、校長から金をもらうことが出来る」


 会計の裕美はクスッと笑うと、眼鏡を掛け直し、席に戻った。


「では、どうぞ、ご自由に」


 榊は満足げに微笑んだ。


「会長。用意できました」


 美里がマイクを差しだした。


「よしっ」


 というと榊はマイクのスイッチを入れた。

 息を大きく吸い、そして叫んだ。


「全校生徒の諸君!」


 第一校舎 -----


「我々に一通の挑戦状が届いた」


 白百合館 -----


「あの校長の姪の炎城綾嬢を誘拐し、今かくまっているという」


 第二校舎 トイレ ----


「それを3日以内に奪回してみろと言うものだ」


 運動場 -----


「幾人か知っている者もいるだろう。『喜多川一郎』と言う男がこの挑戦状をたたきつけてきた」


 剣道場 -----


「我々はこの挑戦に受けて立つことにした」


 情報部部室 ----


「各部の部長は至急、生徒会室に。他の生徒は各自待機していてくれ。以上報告終わり」


 放送が終ると、一瞬の沈黙が広がる。

 その後、Aは他人事のように呟いた。


「えらい張り切っとるなー。会長はん」


 生徒会室 -----


 榊はマイクのスイッチを切った。


「よく、響いたか?」


 榊は美里に聞いた。

 美里は耳をふさいで、倒れていた。


「どうした?」


 美里は体を起こして言った。


「この……。そんな大声で放送するな!!」




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