第11話 出発
白百合館、3階。
312号室 芹沢美那、芹沢菜緒
御影はドアを叩いた。
「ハイ」
ドアが開く。
「あら、せーくん。おはよ」
紺のブレザーを着た美那が出て来た。
中では菜緒がコートを羽織っている。
「御影君、おはよー。なかなか愉快な格好してるね」
愉快と呼べるかどうか知らないが、御影はいつもとは違う格好をしていた。
都市迷彩の服に、胸に手榴弾を3つ、腰にMX-4とナイフ。M-16ライフルを背中に回してある。
いつもの皮手袋をはめて御影は立っていた。
いつもより顔が厳しい。赤くなりかけた青い瞳が不気味に光る。
「部室……。開けてくれないか?」
「いいけど……」
美那はなにはともあれ、靴をはいた。
「何か、いる物でもあるの?」
御影は先に歩き出した。
「MX-4用の麻酔弾を1000発ほど欲しい」
「あら、またどっかに殴り込みに行くの?」
あとから追ってきた菜緒が言った。
しばらく沈黙が続いたが、重々しく御影は言った。
「綾さんが…………誘拐された」
「は?」
またしばらく沈黙が続く。
「綾さんが喜多川の奴らに誘拐された」
御影は綾を誘拐した二人組を思い出した。
一度、御影はあの二人に会ったことがある。
校長のライバルである喜多川の私兵である。
美那と菜緒は理解した。
「それで、その<喜多川>とか言う人の所に殴り込みに行くわけね」
御影はうなずいた。
部室前。
菜緒が鍵を差し込み、ドアを開けた。
御影はそれを見て、不思議な顔をした。
「たしか、ドアの鍵って、指紋照合だって聞いたけど……」
「ノブを触ったときに指紋照合。それがあって初めて鍵が開く仕組み!」
「私のアイデアなの」
菜緒はドアをカチャリと開けると、3人は中に入った。
中では割烹着姿の阿修伽が掃除をしていた。
6本の腕を巧みに使って掃除をしている。
「あっ、master。おはようございます」
「掃除できた?」
菜緒は阿修伽の方に行き、美那と御影は端にある小さなドアに向かった。
ドアを開けると御影が先に中に入った。
美那は壁にあるスイッチを押し、明かりをつける。
その部屋は、隣の研究室の3倍の広さがあった。
見渡す限り棚やラックがあり、制作部で作った物が置かれていた。
天井は高く、棚はそれぞれ3m近くあった。
例えれば、少し暗めの体育館と言った所だろう。
端の方には、10m近くあるロボットがひっそりと立っていた。
御影と美那は大体真ん中にある通路に入り、15mほど行って止まった。
左側には武器類が、右側には弾薬類が山と言うほど置いてある。
右側の棚のガラス戸を開け、緑色の箱を2つほど取り出す。
「はいっ。これね」
「ありがとう」
御影は受け取ると、さっそくベルトやポケットに入れ始めた。
「それ速攻性だから……。1秒ほどで普通の人は寝てしまうわ……。効き目は大体3時間程度」
御影は残りの20発をMX-4のマガジンに詰め始めた。
「17、18、19、20。よし、用意完了」
御影はマガジンをMX-4に入れると、腰に着けた。
美那はその隣にある、服が陳列してあるところに行き、実験のときに先生が着るような白いコートを取り出し、着た。
「何をしてる」
御影はおおよそ見当はついていたが、聞いてみた。
「人体実験の課外講習に行く用意」
「平たく言うと」
「手伝わして!」
美那がにじり寄ってきた。
予想した通りの答えが返って来る。
「お前が、こういうこと好きなのはよく知っている」
こいつのせいで何度呼び出され、何個傷を作ったか……
御影は苦い経験を思い出していた。
しかし、御影は諦めていた。
こいつには何を言っても無駄であることはよく知っているからだ。
何があろうとも、暴れることならすぐ顔を出したがる。
御影は諦めて、歩き出しながら後ろの美那に言った。
「好きなようにしろ。だけど、人は殺すような真似はするなよ」
それを聞くと、美那は喜んでどっかに行ってしまった。
やれやれと思いながら御影は上着を着た。
「あっ、植物人間っていう手もだめだぞ、」
御影は付け加えた。
その時、美那は、上着に入れようとしていた2本の試験管を名残惜しそうに元の棚に戻した。
その棚には、1~5と書いてあり、それぞれ試験管やら、箱が詰まっていた。
上には“ドラッグ”と書いた板があり、それぞれ、
1には“廃人もしくは、地獄行き。”
2には“植物人間もしくは、意識不明行き。”
3には“細菌関係。”
4には“麻痺関係。”
5には“その他。”
と書いてあった。
美那は1と2はやめといて色々な物を取り出し、上着の中にしまった。
その時、ドアから出ようとしていた御影から神の声が放たれた。
「おい、美那。細菌類もだめだぞ」
こうして、世界が救われたことを誰も知らない。
さて、美那が行くと言えば絶対に菜緒もついてくる。
こいつら、仲がいいのか悪いのか知らないけれど、ともかくいつも一緒なのである。
そして菜緒がついて行くとなれば当の阿修伽がついてくる。
こうして、4人になり、その4人は一路、綾救出に向かった。