09
「あ、史君が来たみたいよ」
「本当だな、発言通りよく来てくれる弟だ」
教室には入りづらいだろうからこちらから近づくと「今日も来たよ」と柔らかい笑みを浮かべながら言ってきた。
「史君はお姉ちゃんが好きなのね」
「好きですよ」
「はは、あんたよかったじゃない」
いや、かなり恥ずかしくなるからやめてもらいたい。
そりゃもちろん、嫌われているよりはいいが……。
「でも、心配にならないか?」
「ならないわよ、史君ならちゃんと友達とも過ごしたうえで来ているんだから」
「なんかやたらと史のことを評価しているな」
いまからなにかを始めてくれてもいい。
「当たり前よ、莉生と私しかいないあんたとは違うのよ」
「つ、冷たいな」
「姉さんなら大丈夫だよ」
「史君に気を使わせるなんて駄目なお姉ちゃんね」
ちくちくと言葉で刺してこないでほしい。
最近はマシになったとはいえ、いまでもメンタルが強い方ではないのだ。
繰り返されれば駄目になる、友達に言われた分、余計に影響を受けるということだ。
「お、今日は史くんもいるーいえーい」
「こんにちは、莉生さんは制服を着ているとまた違う感じがします」
「お、どっちが好き?」
「僕らの家でゆっくりしている莉生さんの方が好きですね」
こ、こいつは本当にあたしの弟か? 簡単に好きとか言ってしまうところとかが合わなさすぎる。
莉生の弟だと言われた方が納得できるレベルだ、円だって驚いているに違いないと考えつつ意識を向けたら「何回も家にいっているからそりゃ私服の方が慣れているわよね」と全く違うことを吐いていた。
何故そこに違和感を抱かないのか、同じようにするからこそ普通という感覚なのだろうか。
「え、ぐうたらしているからそこを好きだと言われても喜べないよ?」
「大丈夫です」
あと、なにかを言われたら大丈夫で躱そうとする癖もなんかチャラ男みたいで微妙だ。
「ねえ麻世、史君って女子の相手をするの慣れているわよね、やっぱり何回も付き合ったりしているの?」
「それはないぞ、ないんだけど……」
言動だけで見れば慣れているプロにしか見えない。
これまで学年にいた格好いい系の男子でも好きなどとは簡単に言っていなかった、見られていなかっただけという見方もできるが、教室でやるような人間は全くいないということなのだ。
「自然と出てしまうのね」
「まあ、それだけ莉生と円が魅力的だってことなんだろうけど、正直、まあ……」
「全部とまではいかなくてもあんたも見習った方がいいわね、その方が莉生は安心できるでしょ」
何度も言うがそんなあたしは一生出てこない。
出てきたら困るからそうなる前に止めてほしいところだった。