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222  作者: Nora_
8/10

08

「休み時間になる度にすぐに出ていくわね」

「友達が他のクラスにもいるからな」


 最近はよく腹の調子が悪いと言っていたからそっちの可能性もあるかもしれない。

 とにかく、自由に行動してくれればそれでいい。


「これじゃあくっついていても莉生を煽れないじゃない」

「煽るな煽るな」

「これじゃあつまらないわよ、莉生の彼女として『ずっとあたしの側にいろよ』ぐらい言いなさいよ」


 どこの世界のあたしだよ……。

 仲間外れにしているわけではないが円からすればそのように感じてしまうというところか。

 だというのにあたし達は学校であまり一緒に過ごさないものだからもやもやしていると、だけど無理やり近くにいさせるというのは違うからこれもまたどうしようもないことだった。


「あれ、円ちゃんから睨まれている気がする……」

「あんたもっと麻世といなさいよ」

「ああ、放課後のためになるべく我慢をしているんだよ」


 放課後は確かに心配になるぐらいにはこちらのところに来ているからその場凌ぎの嘘というわけではない。

 タイミングが悪いというか空気を読んでくれているだけなのかもしれないが逆に円は◯◯があるからなどと言って来ないから合わないのだ。


「そんなの必要ない、一緒にいたいなら――」

「まあまあ、それにいまのはほとんど言い訳でやらかしちゃうからだよ」

「やらかしちゃうって甘えすぎちゃうってこと?」

「うん、だってずっとくっつきたくなっちゃうもん」


 家では菓子を食べたり本を読んだりとそこまでではないものの、少し前と変わったのは確かなことだった。

 ずっとくっつかれていて窮屈というわけではないからゆったりできていい。


「それぐらいいいじゃない、どうせ授業があるせいでずっとは無理なんだから」

「いやいや、どんどん過激になっちゃうからね?」


 抱きしめることが過激ならキスなどをしているカップルなんかはどうなってしまうのかという話だ。

 いやそれよりもなにを言っているのかとぶつけたくなる。


「二人とも落ち着け、ここは教室だぞ」

「ま、どうせ莉生が大袈裟に言っているだけだからなにも問題はないわよ」

「お、大袈裟じゃないもん、本当にすごいことをしちゃうもん」

「すごいことってキスとか?」

「キ」


 このままでは負けることはあっても勝てることはないから止めておいた。

 すぐに予鈴が鳴って自然と解散になったのも莉生からすればよかっただろう。


「はぁ、円ちゃんのせいでこの一時間、全く集中できなかったよ」

「莉生もキスとか出された程度で慌てるな」


 慌てた時点で相手の思う壺だ、円ならそこでからかうことはしないだろうが相手にによっては自由にやられてしまうだけだ。

 未経験でもできる、やれると余裕みたいな態度を装っておけばいい。


「い、いやいや、だってそれって凄く特別なことでしょ? 簡単にやるようなことじゃない……よね?」

「まあ、そうだな、だけど慌てることはないだろ?」


 言葉ぐらいでドキドキしていたらいつまで経ってもできなくなる、自分にはできないからとこちらにやることを求められたら嫌だからなんとかしておきたい。

 そもそも想像すらしたくない、莉生から一方的にならいいが自分からするとか鳥肌が止まらなくなってしまう。


「麻世ちゃんが怖いよ……」

「忙しいな」

「というわけで廊下にいこう」

「どういうわけかはわからないけどいくか」


 ちなみにすぐに出ていくと文句を言っていた円にも友達ができたことでこういうこともそれなりにあった。

 よく来てくれている分、こういうときも気にしてほしいと考えてしまう自分がいるが、そこも自由だから一生表に出ることはない気持ちだ。


「待った待った、女子同士でくっついていたら目立つだろ」

「む、早く止めてくれなかった麻世ちゃんのせいでもあるのに……」

「おいおい、勝手にあたしのせいにしてくれる――わかったから移動しよう」


 学校でこんなことをしていると部屋でやっているよりも悪いことをしている気分になる。

 たまにこちらからもしておいて言うのはあれなものの、こちらにも求めてくるから莉生は意地が悪い。

 だからこれも一方的にくっつかれているのならいいのだが……。


「なにしているのよ」

「ふふん、今度は慌てないよ」

「そ、麻世、顔が青いけど大丈夫?」

「あ、ああ」


 いやこういうのは期待していないが……。

 これもくっつかれているところを見られるのはいいが、というやつだ。

 円のやつも教室から出ようとしている時点で止めてほしい、こそこそ付いてきて急に参加してくるとか心臓に悪すぎだろ、冬ではなくて本当によかった。


「でも、なんで莉生に抱きしめられているのにそんなに顔色が悪いの?」

「あたしもしなければならないからだ」

「莉生が勇気を出せなくて寧ろあんたが積極的にやっていそうなのに意外ね」

「前の発言といい、それはどこの世界のあたしだよ」


 これから先もそこが変わることはない。

 後から来られるぐらいなら最初からいてもらった方がいいため、信じられないなら側にいていいぞと言ったら「いちゃいちゃを見せつけられるだけだからやめておくわ」とこそこそ付いてきた彼女からしたら矛盾していることを言われてしまったのだった。




「できた! はいあげる!」

「あ、ああ、ありがとう」


 最近は気温が上がっていてもう暑い暑いと吐いているぐらいなのにマフラーは――ではないよな、ちゃんと感謝しなければならない。


「って、他の人にあげようとしていた物だろ? それとは別で作ってくれたのか?」

「はあ~やっぱりそこでも勘違いされていたんだね私は……」

「ならくれればよかったのに、どんな状態でも喜んで貰ったぞ?」


 中途半端であったとしても二人でなんとかすればよかった、勘違いをされたくないのであれば莉生からすれば渡すことが一番だったのだ。

 だってそれなら円に対して特別な感情があるなどと勘違いをしなくて済んだわけで、あたしが彼女の気持ちに気がつくのも時間の問題だったわけだ。

 でも、隠されてしまえばあたしの人間性的に無理だ、あの状態でこの子は自分のことが好きなのだ! とは絶対に考えられない。


「そんなの無理だよ、それにどうせなら喜んでもらいたいもん、お世辞で嬉しいとか言われたくないもん」

「お世辞なんか言わないぞ、自分のために頑張って作ってくれたならそれだけで嬉しいだろ」

「駄目なものは駄目なの、麻世ちゃんはもう少しぐらい乙女心をわかってよ」


 なによりもダメージを受けた……。

 一人しょげていると頭を抱きしめられて意識を持っていかれる、ここで優しい言葉を投げかけられてもマッチポンプにしかならないから彼女は気をつけた方がいい。


「大丈夫、麻世ちゃんの微妙なところはそこぐらいしかないから」

「泣いていいか?」


 優しい言葉を投げかけられるどころか止めを刺されたという……。

 あたしは彼女のなんなのか、少なくとも彼女ではないことはわかりきっていることだ。


「いいよ、泣きたくなったら泣けばいいの」

「莉生のせいだけどな、傷ついたから円に慰めてもらうわ」

「駄目だよ、この前だって簡単に円ちゃんを簡単に呼んだりして」


 それでも出会ってからは三人でワンセットということで来てもらうのではなく迎えにいくことにした。

 こちらの腕を掴んで「むぅ」とか「うぅ」とか言葉を漏らしている壊れた友を連れてだ。


「あんた達って私がいないと駄目よね、これは自惚れというわけではないわよね」

「そうだ、だからいつでもいてくれ」


 もうこそこそしていても内で文句を言ったりしないからずっといてほしい、円が動く分にはあの五回も無効になるからな。


「そうしたら邪魔をするけどいいの?」

「いい――」

「はぁ、そんなことを言ってあげないの、素直になりなさい」

「いや、あたしは素直――ぎゅあ」


 それこそ過激なのはこういうところだった。

 いままでなら手を軽く引っ張るとかその程度だったのに急に側面から頭を抱かれたら困る。

 案外、なんてことはない力で骨というのは折れてしまいそうだから怖いのだ。


「まあまあ、麻世ちゃんはちょっとゆっくりしていてよ、私は円ちゃんに相談したいことがあるからね」


 だったら無理やりやる必要はなかっただろと少しだけ泣きたい気分で歩いていく彼女の背中を見送った。

 戻ってきたのは大体五分ぐらいが経過した頃、円が難しい顔で気になったがお喋り好きの円なら自分から吐いてくれるから待つ。


「ま、上手くやりなさいな、困ったらまた呼んでくれればいいから」

「え、それだけか? 堂々と存在してくれていればいいんだぞ?」

「そういうわけにもいかないわよ、今日はもう解散でいい?」

「まあ、円がそうしたいなら言うことを聞くしかないだろ……」

「うん、また明日ね」


 なんだなんだ、莉生になにを言われたのか。

 その莉生はこちらの手を掴んで「麻世ちゃんの家にいこ?」といつも通りだ、ただ、すぐに慌てるのが彼女だからいつもとは逆のことをして吐かせることにした。


「ど、どうしたらいいのかなって相談をしただけなんだよ? 別に酷いことを言ったとかそんなのじゃないからね?」

「そうなのか、ならいいけどさ」

「あと、これから麻世ちゃんの家にいくけど今日も食べさせてもらっても……いい?」

「いいぞ」

「やったっ、じゃあいこうっ」


 あたしの分から半分、ということになるがそれで満足できるなら食べていけばいい。

 家に着いたらすぐに調理を始めてそうかからない内に終わらせた、ただ、史が下りてこないから部屋までいくことになった。


「史ー」

「あ、姉さん帰ってきていたんだ、おかえり」


 勉強か、こういうところは小中学生時代と変わらない。


「ああ、ご飯を作ったから食べよう」

「いつもありがとう、ただ、流石に明日からはやることにするよ」

「駄目だ」

「まあまあ、交代交代でやろうよ」


 交代交代でやろうというそれを受け入れた結果、一週間連続で史がやっていたという過去があるから駄目なのだ。

 まあ、寄り道をしてくるなよという話ではあるし、莉生達との時間も家事もやることも求めているあたしがわがままなのだとしてもだ、これまでやってきたから続けたいのだ。


「あれ、莉生さん来ていたんですね」

「うん、麻世ちゃん作の美味しいご飯が食べたくてね、まあ……一番の理由は自分で作りたくないというそれからだったんだけど……とにかくっ、今度史くんも食べさせてねっ」


 今日も遅いというわけではなくて待っていると腹が減ってしまうとかそういうところだろう。

 最近まで腹の調子が悪かったのに治ってからはすぐに「お腹が空いた!」と言うから心配になる、極端な行動はなるべく避けるべきだと思う。

 

「任せてください、姉さんには負けますけど美味しいと言ってもらえるように頑張ります」

「うんっ」


 まあいいや、ささっと食べて洗い物でもしよう。

 着替えなんかも持ってきていないということは送らなければならないからそうゆっくりしている場合ではないのだ、家が隣同士とかだったらよかったのにな。

 流石に連日泊まるというのは現実的ではないが隣同士ならそこら辺りのこともなんてことはなくなる、急に帰りたくなっても距離がないというのは大きい。


「莉生さんオレンジジュースを飲みませんか? 今日、買ってきたんです」

「え、それって史くんのお小遣いで買った物だよね?」

「気にしないでください、莉生さんがよく来るので大きい物を買ってきたんですよ」

「え、あ、じゃあ貰おう……かなー?」

「はい、姉さんの分も注いでおくね」


 効率的か、弟が自然に上手くやりすぎていて気になる。

 その内、自然と誘うようになって莉生も史の魅力に気がついてどこかにいってしまいそうだ。


「んー冷たくて美味しい!」

「美味しいですよね、ここのメーカーのオレンジジュース、お気に入りなんです」

「史くんはよくわかっていそうだね、私なんて値段で選んで後悔することも多いから羨ましいよ」

「いえ、姉さんが買ってきてくれたからわかっただけですよ」

「むむ、麻世ちゃんはやっぱりすごいなぁ」


 や、やめてくれ、適当にいいかもしれないという考えで選んでいるだけだから褒められても鳥肌が立つだけだ。

 だが、ここでも意地が悪い莉生は無駄に重ねてきて初めて帰ってほしいと思った。

 我慢ができなくなって荷物を持たせて玄関まで連れていったものの、「今日は泊まってもいい?」と言われて足が止まったが。


「もうやめるなら泊めてやる」

「嘘とかお世辞じゃないけど麻世ちゃんが嫌ならやめるよ」

「……わかった、それなら風呂に入ってこい」


 両親が帰宅したらすぐに入らせてやりたいから動くなら早い方がいい。


「一緒に入りたい」

「……だったら史が入った後に、だな」

「うんっ」


 はぁ、このままでいいのかと考えるときはある。

 ただ、彼女にごちゃごちゃ言ってもあれだからと毎回諦めるまでがワンセットだった。

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