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222  作者: Nora_
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07

「莉生ーどこだー?」


 呼ばれて莉生の家にまで来たのはいいがその莉生がいなかった。

 ここにいられているのは莉生母のおかげだ、合わせてくれているからだろうが喋りやすい人だから助かっている。


「そこのお嬢さん」

「なんだよ、すぐに出てきてくれよ」


 もう何回も上がらせてもらった家とはいえ、莉生母がいる場合は気になるから遊ぶのはやめてもらいたかった。

 続けたいなら帰るから他の人間にやってもらいたい、付き合えるほどメンタルが強くないのだ。


「はは、ごめん。ちょっとお腹が痛くてトイレにこもっていたんだ」

「大丈夫なのか? 無理そうなら部屋で待っているからトイレで格闘してこい」

「あ、そういう痛みじゃないから大丈夫、ちょっと緊張していただけだよ」


 緊張……? あ、これからあたし以外にも誰かが来るのか? まあ、ここは莉生の家だから好きにしてくれればいい。


「あのね、麻世ちゃんに言いたいことがあるんだ」

「遠慮しないで吐いておけ、直せるところなら直す」


 離れたいということなら泣きついてから離れるしかない。


「じゃあ言わせてもらうけど、最近さ、なんか円ちゃんと仲良くしすぎじゃない?」

「なるほどな、ただ、あたしも円と友達になったからなぁ、一緒にいる回数を減らすってのは簡単じゃないな」


 それに寂しがり屋だし、莉生はたまに他の友達と遊びにいってしまうから仕方がない面もあるのだ。

 一つわかっていることは莉生がフリーなら円も自然と彼女のところにいくというところ、これが続けば少しの不満は溜まるかもしれないが円が来てくれたという事実でなんとかできるはずだった。


「でも、できることならすると言ったのはあたしだからな、一日に五回程度なら許してくれるか?」


 流石にそれ以上は莉生の頼みであっても聞けない。

 円が嫌なやつならともかくとして、いい存在なのに距離を置くことなんてできない。

 そうやって動くのは相手から求められた場合にだけだな、嫌だけど本人が嫌がっているのなら言うことを聞くしかないが。


「いや、回数の問題じゃなくて一回一回の親密そうな感じが気になるんだよ」

「あたしもそうだけど円は寂しがり屋なんだ、莉生がちゃんといけば相手をしてくれる」


 毎回のように莉生のことを出してくるからこちらが寂しくなってくるぐらいなのだ、気になるならいまこのときだけは他の友達を優先している場合ではない。


「あー……」

「だろ? 莉生もわかるだろ?」

「あ、いや、やっぱり勘違いをされたなーって、全部言わなければならなくなるからこのときのことを考えて緊張していたんだよ」

「え、あたしに円と仲良くしてほしくないってことだよな?」


 これ、逆の場合でも通ってしまうから紛らわしいな、話が止まらないようにはっきりとしてもらいたいところだ。


「仲良くしてほしくないというわけじゃないよ、円ちゃんだって友達なんだからね」

「つまり……」


 あたしも莉生も円のことは気にしているというところは変わらないみたいだ。

 それでも出てきてしまうものだから困っているというところ……だよな? あたしになんとかできることなのだろうか……。


「そう考えていてもどうしても気になっちゃう自分が出てくるんだよ」

「だから莉生には世話になった分、ちゃんと考えて動くよ。できていなかったら言ってくれ、流石にそれ以下にはできないけど――」

「だ、だから、麻世ちゃんに……いやこれだとどっちの意味にも聞こえちゃうか、だったら、こういうこと!」


 ぎゅっと抱きしめられたのはいいがなんでそうなるというわからなさがすごかった。

 円を取られたくないのではなかったのか、だからあたしだって彼女のために頑張って回数を減らそうとしているのに意味がわからない。


「間違えているぞ」

「間違えていないよ、私は麻世ちゃんを取られたくないの」

「なるほど。でも、過去に好きになった女子と違って可愛げがないぞ? あの女子は本当に明るくてみんなからも好かれていていい存在だったけどさ」

「確かに私は元気なあの子を好きになったけど、振られて傷ついているときに麻世ちゃんが優しくしてくれたおかげでなんとか切り替えることができたんだ。それですぐに好きになったというわけじゃないけど、うん、一緒にいる度にいいなぁって考えが強くなっていったの。だから可愛げがないとか言わないでほしい、麻世ちゃんは素敵な女の子だよ」


 い、いや、それだけは絶対にないぞ……。

 でも、適当に言っているようには見えない。


「よし、わかったからとりあえず離れてくれ」

「受け入れてもらえるまで離さない、それかもしくは円ちゃんへの気持ちをはっきりしてからにして」

「別にそういうのじゃないけどなんか恥ずかしいだろ……」


 こちらからすればあまりにも唐突すぎてすぐに追いつけないのだから意地悪をしないでほしい。


「いまここに円を召喚するぞ」

「わかった、だけど私がやるね」


 こういうときには横からツッコミを入れてくれる存在が大事だ――と言うよりも最後まで彼女のペースにならないようになんとかしてもらいたかったのだ。


「もう、なんで告白をされたのに私を呼ぶのよ、あんた告白をされたら受け入れるって言ったじゃない」

「そうだけど……あたしは円のことを求めると思っていたから……」

「ないわよそんなの、なにをどうすればそのように考えられるのよ」


 円は莉生の頭に手を置くなり「頑張ったわね」と褒めていた。

 もう少しこちらにも優しさを分けてほしいがなんかあたしだけがわかっていなかったみたいなので黙っておいた。


「んーだけどやり方が悪かったのかもしれないわね、麻世の反応を見ればなんとなくわかるわ」

「ちょっと紛らわしい言い方をしちゃったんだよね……」

「そこはマイナス点ね、勘違いをする麻世も麻世だけど」


 おうおう、別にこちらのことを自由に言ってほしくて呼んだわけではないのだが……。

 ただ、呼んだ側としては強気に出られないことは確定しているし、なんだかんだで莉生が落ち着いてくれたから感謝を忘れてはならないか。


「円、ありがとな」

「別になにもしていないし」

「というわけで今日はずっといてくれ」

「どういうわけよ、適当すぎじゃない」


 そうは言われても自由に言われることよりも莉生に自由にやられる方が困るのだからいてほしいのだ。

 なにか今度返すから付き合ってもらいたかった。




「麻世」

「あれ、さっき送ったのにこれじゃあ意味がないな」

「一人で帰るから大丈夫よ。でも、ちょっと付き合ってくれない?」

「いいぞ、あたしだって付き合ってもらったしな」


 それなら来てもらった側として円の家の前で話すことにした。

 段差に座って適当に前を見ていると「私の相手もちゃんとしてよ?」と言われたので意識を向ける、するとやたらと不安そうな顔をしていたから手を引っ張った。


「莉生にも仲良くさせてもらうって言ったよ、自分の吐いたことで一日に五回までってことになったけど」

「え、朝と休み時間だけで終わってしまうじゃない」

「そこは上手く調節しないとな」


 どうしてもということなら――いや、それでも五回と出したのはあたしだから動くのは無理か。


「嫌よ、別に莉生から麻世を取ることができるわけじゃないんだから許してほしいわ」

「そこは莉生と話し合ってもらわないとな、莉生からしたら普通に一緒にいるだけで気になるらしいからさ」

「絶対に回数を減らさないからね? 私、もう学校ではあんたにくっついているからね?」

「はは、冬と違って暑くなりそうだな」


 一緒のクラスになってからある程度時間が経過して十日もすれば五月になるというところまできている、最近は初夏から普通に暑いからくっつかれていたら汗をかいてしまうかもしれない。

 怖い点はそのことが嫌ではないということだ、結局、自分の決めたことを守れずに円と仲良くしているところが容易に想像できてしまうのがなんとも言えないところだった。


「冗談じゃないから、休み時間には本気でやるからね、なんならいまくっつくから」

「なあ円、円は莉生に対してなにかはなかったのか?」

「ないわよ、つか、こうしてくっついているんだからあるとしてもあんたにでしょ」

「そこはあったのか?」

「んーあんたが告白をしてくれたら受け入れていたわね」


 これはやってくれたな。


「はは、真似をするなよ」

「はは、そう簡単に好きになったりしないわよ。でも、あんたには本当に感謝しているわ」

「いやいや、なんにも知らない初対面のあたしを助けてくれたのが円だからな」


 あのときはマジで微妙だったから助かった、円がいなかったら莉生が突撃でもしてこない限りあのままだったことだろう。

 そうしたら家にいることも莉生といることも嫌になっていたから助かった、まだそれについては半分も返せていないことも気になるところではある。


「だったら私達が付き合うべきじゃない?」

「告白をされていなかったからそれは難しいな」

「好きよ、友達としてだけど」

「はは、ありがとう」


 ただ、流石にここでやめてもらった。

 円もわかってくれて「ずっとくっついているのは暑いからね」と、少ししてから「このことは莉生に話しておくわ」と言って立ち上がった。


「じゃ、あんまり遅くならない内に帰りなさい」

「いまから莉生も呼ぶから円も泊まりに来ないか?」

「初日ぐらいちゃんと相手をしてあげなさい、大丈夫よ、明日からうざがられるぐらいにはいくから」

「ならやめておくかな、莉生も大人しく離れたということは一人の時間も欲しいということだろうからさ」


 さて、家事をするために帰るか。

 高校生になってからは史がやたらと頑張ろうとするから先にやられたくないという気持ちが強くあった。

 感謝をされたいわけではない、代わりにしてもらったときになにか返さなければならなくなるからあたしが動きたいのだ。


「はぁ、なくなるぐらいならいくわ」

「はは、最初からそうしてくれ」


 予定が少し変わってもやらなければいけないことには変わらない。

 そのため、少し急いでもらうことになったのは普通に申し訳ないところだった。




「円ちゃんはもう寝るって」

「明日も学校だからな、円が正しい」


 いつもなら寝ている時間だが眠気がこなくて困っているところだった、そういうのもあって「でも、私はまだ寝られないよ」と言ってきてくれた彼女には感謝しかない。

 だって一人で起きていても変なところをじっと見ておくぐらいしかやれることがないからだ、それはなんか廃人みたいで嫌だから避けられて嬉しい。


「あたしが誘っていなかったらどうしていたんだ?」

「その場合はやっと慣れてきた編み物をして朝まで起きていたかな」

「そうか」


 結局、どれぐらいの物を作れるのかはわからないままだ。

 地味にあるのは来年になったらクリスマスに合わせてなにかを作ってほしいということ、彼女になったからには他の人間に頑張るよりもこちらのために頑張ってほしいというそれがある。


「くっついてもいい……?」

「ああ」


 面白い点は円よりも弱い力で抱きしめてくるというところだ、緊張してできないということならとこちらからもすると「あのとき受け入れられなくてよかった」と呟くようにして吐いたがそこは止めておいた。


「真剣だっただろ、相手が悪いというわけじゃないけど莉生は付き合えるように頑張った、だから受け入れられるのが一番だったよ」

「でも、気がつけないままだったかもしれないんだよ?」

「それでもだ」


 ずっとそのときの本命に勝てないままでいい……というか、勝てないのだ。

 あのときの彼女は本当に楽しそうだった、自分が関係しているわけでもないのに話をしてくれる度にテンションが上がったものだ。

 だからこそ受け入れてもらえずに泣いているのを見たくなくて、でも、距離も置きたくなかったから近くにいたのだ。

 その間にしたことといえば食べ物を奢ったり、いまみたいにご飯を作ったりしただけ、話を聞いて偉そうに◯◯だろと語ったわけでもないから結局はなにもできていないのとほとんど同じだった。


「……なにいちゃいちゃしてんのよ」

「悪い、流石に聞こえるか」

「ま、そこベランダだしね……ふぁぁ~」


 そんなに力強く抱きしめなくたって円にそのつもりはないのに変なことをする。

 ただ、流石に苦しいから腕に触れることで弱めてもらった、単純に円の方を向けないというのも大きかった。


「莉生、なにかお菓子ってない?」

「チョコならあるよ? 眠れないときに最適だからいっぱい確保してあるんだ」

「「莉生……」」


 遅い時間にチョコは不味いだろう。

 人によるで終わってしまう話ではあるが油断をしていた史が五キロぐらい太ったところを見たことがあるから止めるしかない。

 どうしても寝られないなら少しだけ歩くとか走ってくるのが一番だ、不安で仕方がなくて、だけど寝られなかった受験生のときなんかはそうやってなんとかした。

 もちろん、そのことがバレたときには史からも莉生からも怒られたが。


「だ、大丈夫だよっ、ほら見てっ? 基本的に気持ち良く寝られるから頼ることになることが少ないからっ」

「「しー」」

「あっ」


 結局、円はチョコを貰うことはせずに彼女のベッドに寝転んだ。

 あたし達も夜更かしはできないということで頑張って寝て、朝になったら一旦別れて家へ。


「はぁ……はぁ……なんで朝からこんなに疲れないといけないのよ」

「悪いな円」


 学校で会おうと言っても聞いてくれなかったからねむねむな莉生をこの家まで連れてくることになった。

 少し急いでいるとはいえ、円に任せるのも違うから頑張らなければいけないと覚悟を決めたところで「私がやるから気にしないで」と円が言ってくれた。

 そして素直に甘えた結果がこれだ。


「別にいいけどあんたはちゃんと私の相手をして」

「だからそれは大丈夫だって」


 寧ろ莉生との時間よりも円との時間の方が多い。

 友達がいる分、そこはそこまで変わらなさそうだった。

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