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〈文学フリマ東京40販売作品〉無機質の恋〈お試し読み版〉

作者: 暴走紅茶

5月11日(日)に開催される「文学フリマ東京40」にて販売予定の新作小説

『無機質の恋』の冒頭を、特別に、ちょこっとだけ公開します。

もし読んで、びびっとくるものがあったら是非ブースへお越しください!

ブース位置など、詳しい情報はあとがきへ!


※掲載の本文は作成段階のものであり、実際のものとは異なる場合があります。

※作品はフィクションです。

プロローグ


 大好きな彼女の柔らかな手が、私に、触れる。

 しっとりと弾力のある白い手。確かな肉感に心がキュッと締め付けられる。彼女は私の突起に手を掛けると、ぐっと握りしめ、捻った。そのまま体重をかけて押し出されると、無情にもつれない素振りで背を向けられてしまう。

 ――ああ、行かないで。せめて、振り向いて――

 別れ際のさりげない逢瀬に期待をこめて、心の底から願った。すると、天に想いが届いたのか、彼女がくるりと踵を返してくれた。可愛らしいお顔が目の前に現れる。

 ――ああ、良かった。思いが届いた。嬉しい――

 そう思ったのも束の間。彼女はポケットに手を入れると、ニコニコしながら銀色に光るモノを取り出した。それは彼女とつながれる唯一の証だった。一歩、一歩と近づいてくる彼女は、何の躊躇いもなくそれを私のナカに突き立てた。一瞬の事だった。抵抗する暇すら与えられず、それはするりと私のナカに(はい)った。あまりにもフィットして、異物感はなく、むしろ一種の安堵さえ感じる。しかし、落ち着いている間もなく、彼女はそれを私のナカで思いっきり捻った。さらに、もう一度捻る。その衝撃に壊れてしまいそうだった。壊れてしまえればいいとさえ思った。壊れてしまえば彼女がここを去ることもない。引き留められれば一緒に居られる。

 だが、一緒に居たいなどという幻想は、呆気なく崩される。私に突き立てられていた、小さな物がゆっくりと抜き取られていった。彼女とつながれる唯一の証は、決別の証でしかなかった。ふつふつと湧き上がる(せき)(りょう)(かん)に、胸がいっぱいになる。

 ――まだ、まだ抜かないで! 行かないで! ――

 私の痛烈な叫びなど、どうしたところで彼女には届かない。それを薄情と捉える人もいるかもしれない。しかし、勘違いしないでほしい。彼女はとても魅力的で優しい人なのだ。私ばかりに構っていられるほど暇ではない。諦めることにはもう慣れていた。彼女と出会って3年以上が経過した今、私にできることはもう無いのだと、正しく、深く、知っている。

 いつか来る最後の日まで、私は私らしく彼女を見守り、静かに寄り添おう。


 それだけが、私にできる最善だから。







第一章 出会いと気づき


 1


 彼女と初めて出遭った日のことは、それほど鮮明に覚えていない。

 たしかそれは、春。よく晴れた日のことだったと思う。すっかりキレイになった私は、いつも通り事務的に、新しくここへ来る人を待っていた。見慣れた人ばかりが通り過ぎていくいつもの廊下を眺めて、ただただボーっと景色を眺め続ける。そして、太陽が高くなった時、見覚えのない人物が大荷物を抱えてフラフラと歩いてきた。ゆっくり近づいてくると、私の前で立ち止まる。

 ――あら、この子が――

 そう思っていると、彼女は私の体に手を突いた。

「今日からよろしく」

 顔を近づけ小さく呟くと部屋の中に入り、大きな安堵のため息と共に荷物を下ろす。ドスッという重たい音を立て、床に転がるスポーツバッグ。何もない部屋の、カーペットすら敷かれていないフローリングに彼女もまた転がると、満足そうにぐ~~と伸びた。


 *


 それから数日経った。引っ越し業者によって運び込まれた荷物は、八割ほどが部屋に居場所を与えられ、がらんどうだった部屋は彼女の私物で満たされていた。床の所々には既に私物が散乱しており、生活臭を漂わせ始めている。そんな部屋の中で彼女はいつになく早起きをすると、せかせかと身支度を調えていた。いつもより丹精にメイクを施し、髪の毛も一本ずつセットしているのではないかというほどの念の入れよう。ああでもないこうでもないと言いながら、親の仇を睨むような目付きで鏡を覗き込んでいる。なんとか一通り終わったようで、鏡の中から抜け出すと時計を見上げて目を丸くした。

「うわっ遅刻する!」

 彼女は慌てて脇にあったリュックサックをむんずと掴み、せっかくキレイに整えた髪を振り乱しながらドタドタと玄関に向かった。その勢いのまま私は乱暴に突き飛ばされ、彼女は疾風の如くどこかへ駆けていった。

 ――あんなに慌てて、一体どうしたのかしらね――


 *


「あ~~~~づがれた……」

 夕方頃帰ってきた彼女は、化粧を落とすことなくベッドに倒れ込む。ベッドはその疲労を癒やすように彼女を優しく受け止めた。しばらくジタバタしていたかと思うと、のっそりと起き上がり、ユニットバスの扉に手を掛ける。しばらくして出てきた彼女は、朝の努力をすべて無かったことにしたような、すっかり部屋での彼女になっていた。帰り際、玄関に落としていたレジ袋の中をゴソゴソ漁る。必要な物をテキパキ冷蔵庫に仕舞い、お菓子の袋を二つほど確保すると、居間の座椅子に座り込んだ。ほっとしたのも束の間、何かを思いだした彼女は、辺りをきょろきょろ見回し始める。どうやら鞄を探していたようで、右斜め後方に見つけると、うんと手を伸ばしてひったくった。その中から、取り出したペットボトルに口をつけ、紙束を机の上に広げる。

「先ずはサークル決めて、先輩に相談して履修登録……。あ~でも、サークルが多すぎるよ~。どこにしよう。う~~ん」

 あれこれと紙を交互に眺めながら、うんうん唸っている。

「中高吹部だったからなぁ。できれば吹部以外がいいな~。あ~でも、急に運動系は無理だし……。そうなると文化系か~。文学部で文芸サークルはちょっとハードル高いよね。う~ん。バンドもいいなぁ」

 どうやら今日は大学の入学式だったようである。それで今朝はあれほど入念な手入れをして出て行ったのかと、数時間越しに得心がいった。今まで何人もこういう人を見てきた。みんな一様に迷って、思いを馳せて、後悔のない選択を模索していた。そんな人たちに私が送るエールはいつも同じ。

 ――沢山悩めば、きっと後悔はないわよ――

 初々しい彼女の一挙手一投足を、愛しく眺めた。

 

 2


 ここまで読み進めてきた聡明な読者様はもうお気づきかもしれませんが、語り部である私は、人間ではありません。かといって妖怪や精霊の類いでもないのです。そう、私はただの――



どうも! 暴走紅茶です。

お読みいただきありがとうございます!

果たして、語り部の正体は何なのでしょうね……? 気になりますね……

気になったアナタは、是非当ブースへお越しください!


【詳細情報】

イベント名:文学フリマ東京40 

販売場所:東京ビックサイト 南3・4ホール お-87

※南3・4ホール入口より左手に進んでもらうと見えてくるはずです。


【おしながき】

・新作小説『無機質の恋』(限定15部)

  購入特典:キャラシート・特別あとがき付 1冊500円

・おおきな名刺 無料配布

・その他その場で対応できることなら何でも。


※取り置きを希望される方は

X(旧Twitter)DM

こちらの感想欄

メールアドレス(bousou.tea@gmail.com)

などにご連絡ください。


次はいつイベントに参加するか分からないうえに、事後販売をするかも分かりません!

是非この機会に遊びに来てください!

紅茶さんとしましても、初めてのオフイベント参加なのでかなりドキドキしてます。

からかいに来てください(笑)

何卒よろしくお願いします。


※販売価格は予定です。実際の価格とは異なる場合があります。

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