二 幕間〜霊とあの世
「なゆちゃんにとって幽霊って何なの?」
「なゆちゃんって呼ばないで。呼び捨てで良いってば」
「ハイ阿僧祇さん」
「他人行儀だなぁ」
なゆちゃんとチェスをしながら、僕は以前から持っていた素朴な(?)疑問をぶつけてみるのだった。因みにゲームは僕が劣勢であると思われる。それだから、なゆちゃんの注意を逸らすために、斯様な事を訊いている訳ではない。決して。
「隣人……と言ったら普通過ぎるかしら。兎に角、当たり前の存在よ」
「普通過ぎるかな? それはそうと、当たり前の存在かぁ」
僕は椅子に座り直し、大きく頷いてみせる。ゲームに勝つために、なゆちゃんの気を散らすために、こう言う事をしているのではない。断じて。
「そうね。私に取ってはどこもかしこも、人混みに見えるわ。それくらい、霊は当たり前にそこら中にいるものなの」
「うわあ、それは大変そう」
想像すると凄まじい。普通の人に混じって沢山の霊が常に闊歩しているなら、見える人間にとってはさぞ暑苦しいというか、窮屈な世界だろう。
なゆちゃんがこの店に『引き篭ってる』のも頷ける話である。
「今失礼な事を考えたでしょう?」
「え? そうかな? なゆちゃんは今日も可愛いなぁって思ってただけだよ」
「うそつき」
そう言ってチェックを取るなゆちゃん。あれえ? もしかして僕は僕では無く僕の生き霊なのかな? 考えてる事が筒抜けみたいだ。
「あなたの考えていることくらいわかるわ。私を誰だと思ってるの?」
「なゆちゃん」
「なゆちゃんって呼ばないで。呼び捨てして」
「阿僧祇」
「そっちじゃないわ」
「隙あり」
「あっ」
なゆちゃんが会話に気を取られている隙に状況を覆す僕。しめしめ。
「そう。今日は小狡いキャラなのね」
「キャラって何さ」
「あなたが毎日備えている違いよ」
「そんなのあるかな? 僕はいつも一緒だよ?」
「そう思っていればいいのだわ」
「僕ほど地味で普通の人間はいないよ」
「あなたが普通だったら雇ってなかったかもね」
なんだか良くわからないが、普通だったら雇っていなかったというのは心外だ。まるで僕が普通じゃないみたいに言うけど、僕なんかとりたてて特筆する所のない男である。なゆちゃんに見えている世界は相変わらず不可思議だ。
「さっきの話だけど、そんなに霊が沢山居るってなんか不思議だなぁ。皆んな成仏しないのかな? それとも出来ない?」
「どうかしらね。私はあの世のことはわからないわ。あの世には行ったことないもの」
そう言うが早いか、なゆちゃんのチェックメイト。
結局今日も僕が負けるのだった。